勇者カリナ/未来戦線クロスロード ―魔王を倒した少女は、AI戦争の未来世界で、聖剣精霊と豪剣人機とともに人類を救う― 作:美風慶伍
その高さは15mを超えるだろうか。
人間形のシルエットとしては非常に端正な、バランスの良いシルエットをしていた。ただしその手に銃機は持っていない。グリーンドワーフやサイファーブレイクのように戦闘における歩兵のような銃や砲やミサイルなどで攻撃するような思想では作られていないのが明らかだった。その腰の後ろにその機体専用の武器が固定されている。
折りたたみ式の大型の両手剣である。
機体の表面は下地の塗装だけであり最終仕上げはされていない。作業途中で放棄されたのだ。
その未完の機体をカリナは思案げな顔で見上げていたのだ。
「ここにいたんですか、エレナさん」
声をかけられてようやく振り向いた。
「ジェイか、まだいたのかい」
「ええ、隊長たちのところから、帰りに部品を頼むメールが来ましてね。発注書類書いてたんです」
「分かった、後でチェックして発注しとくよ」
「お願いします」
ジェイはエレナと並んで佇んでその未完成の機体を見上げた。
「エレナさんだったら、カリナと出会った後、ここに来ると思ってましたよ」
「当然だろ? あの子だったら、もしかしたらと思ってね」
そう語るエレナの視線はその未完成の機体を熱心に見つめていた。
「〝スティールウォーリアー〟――まだここに残ってたんですね」
「ああ、解体してしまうにはどうしても惜しくてね」
「製作費用はもうすでにもらったんでしょ? 倉庫を1つ潰したままにしておく必要もないじゃないですか」
彼のその言葉にエレナは視線を向ける。
「本気でそう言ってるのかい?」
「思ってますよ、こいつに乗れる人間が現れないという前提で――」
つまりそれは逆を言えば乗れる人間が現れるなら廃棄すべきでないという言葉でもある。
「この機体ほど万人向けじゃないヴァンガードもありませんよ」
「ああ、白兵格闘戦のエキスパート――、近接武器戦闘で戦場を制した100年に1人の天才――、あいつが最高の相棒が欲しいと全財産を吐き出して依頼してきたんだ。この私に」
「半年前でしたね」
「ああ、8割方完成したところで、ブレイブハーツアライアンスから連絡が入った。あいつが死んだとね――」
エレナはポケットから紙巻きタバコを取り出すと、ライターで火をつけて吸い始めた。口から紫煙を吐き出しながら言った。
「自分の愛機に乗る前に傭兵が死んでどうするんだよ――ったく」
ジェイも、似たような思いを、この機体とそれに乗るはずだった傭兵に抱いていた。
「乗り手を限定しすぎるヴァンガードは傭兵に嫌われますからね。パイロットである傭兵に先に死なれた機体は本当に不運です」
「ああ」
つまりこの機体は主に先立たれた機体なのだ。
「それにしてもなんでこの機体のところに?」
「決まってるだろ」
エレナはタバコの煙を一息吸い込むと言葉を吐いた。
「あの娘がこれを乗りこなせるか考えてたのさ」
ジェイはエレナの顔を思わず見ていた。
「あの子が腰に下げていた、あの金色の剣――、使い込み具合から見てもあれで相当、戦闘をこなしているはずだ。それこそ体になじむほどね」
「でもそれが意味を持ってくるのは、あの子がヴァンガードに乗れるかどうかです。ヴァンガード乗り込ませなかったら今の私は夢物語ですよ」
「じゃあ言い方を変えようか」
エレナは真剣な表情でジェイを見つめて問いかけてくる。
「あんたから見てあの子はこれに乗れると思うかい?」
ジェイは落ち着いた表情のまま静かに答えた。
「愚問ですよ。あなたがそれを望んでいるというなら、それが叶うように、あいつを鍛え上げるのが俺の役目です」
「やってくれるかい? ジェイ」
「当たり前ですよ。あいつは子ウサギみたいに臆病で繊細なんです。でも覚悟を決めるとものすごい勢いで駆け抜ける。その爆発力、それがあいつにはある」
「少しは期待できそうだね」
エレナは静かに笑った。
「頼んだよ」
「はい」
2人はこの機体とカリナを引き合わせると決意したのだ。
2人が頷きあったその時だった。
ジェイの通信端末が音を鳴らした。着信である。
「はいこちらジャミーユ」
相手は傭兵たちの総元締めであるブレイブハーツアライアンスからだった。
「――何ですって? 小数個体が当時に近づいてきている? 偵察任務の補助ですね? 分かりました、ただちに向かいます」
「どうしたんだい?」
「都市近郊で高速でうろついている独立個体の目的通報があったそうです。今人間を集めて偵察部隊を編成するそうです」
「気をつけて行っておいで」
「はい!」
そう答えるとジェイは足早にそこから去っていった。後に残されたの不遇の機体とエレナだけだった。
「この子に光が当たればいいんだけど――」
乗り手に見放された不運の機体――、エレナはそれをいつまでも見つめていたのである。