勇者カリナ/未来戦線クロスロード ―魔王を倒した少女は、AI戦争の未来世界で、聖剣精霊と豪剣人機とともに人類を救う― 作:美風慶伍
帰り道、マイクは大きく北へと迂回するルートを取った。土地が高度を増し高台へと移動する。そしてそこからマイクは慎重にトラックを動かしていく。
「ちょっと待ってて」
手慣れた手付けでコンソールを操作する。
「立体映像の偽装モードを動かすから」
「立体映像?」
「幻みたいなもんだよ。遠くからは見つかりにくくなる。今の時代の荷物運びにはこういうものも必要なんだ」
【3D Holography SYSTEM ON】
そこから音を潜めるように慎重にトラックを走らせると広い戦場を眼下に見下ろす位置にたどり着いた。
「ここだよ。でも外に出ないでね。人間の体温だけでもアイアンオーダーの連中は敏感に見つけるから」
敵との距離はどう考えても10キロ以上はあるだろう。
「こんなに離れていても?」
「うん。だから厄介なんだ。敵がいなくてもアーセナルコマンドの人たちは定期的に巡回を繰り返している。そうでないと城塞都市の外に住んでいる人たちはたちまち危険にさらされるんだ」
その事実を耳にしながら戦場を眺めているがことさらに背筋に冷たいものが走る。
「壁の外にも人が住んでるの?」
「居るよ。資源採集や食料生産のためさ。防衛都市だけでは人間は生きていくことはできないよ」
「そうか――でも、下手な魔族より厄介ね」
そう呟いた時、マイクはカリナにあるものを手渡した。
「これ使って、ロングレンジの双眼鏡だよ」
「ありがとう」
渡された電子式の超望遠双眼鏡で戦場を見渡した。
戦場の向こう側から散開して鈍い金属色に輝く機体が迫ってくる。それはまるでから迫ってくる魔王軍のモンスターの群れのようだ。
「ずいぶん横に広がって進軍してくるわね」
「おそらくあれは敵の強行偵察部隊さ、少しでも多くの情報を得るために犠牲上等で駒を進めてくるんだ。何しろ命を持たない機械だろ? ほとんど破壊されてバラされても、いくらでも再生産が効くからね」
「捨て駒の偵察部隊?」
「そうだよ。それに奴らは機械だ。それぞれが見聞きした情報はたちどころに共有される。どれが1つでも生き残れば十分に元は取れる。だから奴らの偵察行動を失敗させるには全滅させるしかないんだ」
「それって、厳しいわね」
「やっぱりそうおもう? 実際、偵察部隊の背後に増援部隊が隠れてて二段構えなんてのもあるからね、気は抜けないよ」
でもカリナには疑問があった。
「でも、この世界にはどんなに遠くても情報を伝えられる〝ネットワーク〟ってのがあるんでしょ? なんでいちいち偵察をするのかしら?」
「そりゃ簡単だよ。アイアンオーダーのネットワークと、人間のネットワーク、お互いを排除しあっているからさ」
「え? 2つの違うネットワークがあるの?」
「そうだよ。アイアンオーダーの支配域に広がっているネットワークには人間は触れる事はできない。だから、アイアンオーダーの支配地域の内部の事は俺たち人間には分からない。でも、それはアイアンも同じだよ。人間が維持している世界規模のネットワークって【ユニコア】って言うんだけどユニコアネットワークが広がっているところには、アイアンオーダーの連中は自分たちのネットワークを広げられないのさ」
そして一区切りしてマイクは語る。
「そう、人間の居住地域を破壊しない限りね」
「あっ、だから人間の住んでいる所を攻撃して破壊する!」
「正解! 都市インフラを破壊してネットワークが機能しないようにすれば、そこに自分たちの側のネットワークを作り上げられるのさ。現在の世界におけるネットワークの勢力比率は人間とアイアンオーダーとで4対6って所かな、面積比率は人間のほうが圧倒的に大きいんだけど、アイアンオーダーのネットワークの方が高機能だから勢力の強さで負けてるんだよ」
「ネットワークの広がりが、それぞれの支配領土の強さにつながるんだね」
「そう言うこと」
その時のマイクの頷きを見てカリナはこの世界の現実を一つ知った。
その時、人間側のヴァンガードの部隊が攻撃を開始した。
「撃ち始まった!」
「砲撃戦だ、あっ! 反撃だ!」
敵の強行偵察部隊のユニットの1つが最前列に飛び出して多数のマイクロミサイルを一斉発射する。その間に他の偵察ユニットが後方に下がろうとする。それを許すまいと遠距離攻撃型のヴァンガードが精密射撃を敢行する。
「敵があんなに火柱を上げているのに、こちら側の攻撃が通るの?」
「通るさ! あいつら全員アーセナルコマンドだぜ? 人間が生き残るために命をかけてる連中だよ」
敵の攻撃をかわしながらヴァンガードのそれぞれが確実に敵の個体を叩いていく。敵があらゆる方法で視界を遮ろうとも、それを上回る方法で確実に仕留めていくのもまた戦場で生きる者の技であり意地だった。
またたく間に砲撃は止み勝敗は決した。
「よしっ! 勝ったぞ」
思わず喜ぶマイクとは反対に、カリナは真剣な表情で戦場の光景を見つめていた。
「1体、ヴァンガードが動かないわ」
「えっ?」
「脚を吹っ飛ばされている。あれでは帰還するのは無理ね」
「さっきのミサイルの流れ弾を食らったんだ。乗っているコマンドは――」
「あっ!」
カリナの視界の中、気を失った傭兵が操縦席から引きずり出された、
「生きてるのかしら?」
「たぶんね。機体内部での連鎖爆発でもあったんだろう。こればかりは運次第さ」
双眼鏡をマイクへと返す。
「これがこの世界の戦い――」
無論これが全てではないのは分かっている。ほんの一部だろう。でも戦いの実際を片鱗だけでも見れたのは事実だ。
「行こう」
「ああ、長居して敵に見つかるのはごめんだからね」
マイクはトラックを慎重に動かしてそこから去っていく。
その後には無人の戦場が広がっているだけだった。