勇者カリナ/未来戦線クロスロード ―魔王を倒した少女は、AI戦争の未来世界で、聖剣精霊と豪剣人機とともに人類を救う― 作:美風慶伍
彼の問いかけは続いた。
『例えば?』
「そうですね――、使われているお金が金貨でも紙幣でもなく、実態のない数字だけの存在なんです」
カリナは自分がこの世界で一番戸惑った電子マネーについて語っている。だがレイモンドには理解の外のようだ。
『は? 実態のない金? ……言ってる意味がわからんぞ』
レイモンドが戸惑うのは当然だった。なのでカリナは外出用の鞄の中から、電子マネーカードを取り出した。
「これがこの世界でのお金なんです。目に見えない〝情報〟としてのみお金の数字が存在して、それをやり取りすることで経済が回る――そう言う世界なんです」
『嘘だろう? 信じられん――』
「レイモンドさんがそうおっしゃるのも当然です。私も受け入れるのに本当に苦労しましたから」
レイモンドが呆気にとられているのが解る。だが、彼が非凡な人物であるのはその直後にはっきりとなった。
『なるほど――、こちらの世界じゃ実態として目に見える物よりも、〝目に見えない情報〟が重要な意味を持つ――そして、それが可能なほどに文明が発達しているってわけか』
そもそもレイモンドは軍師だ、作戦参謀だ。レイモンドは早くもネクシスドメイン世界の価値観の本質について理解していた。恐るべき洞察力である。
「その通りです。戦争における戦う手段も、人間が武器を持って戦うよりも、ソルスター世界での大型のドラゴンやトロールや巨人種族と同サイズの〝戦闘機械〟を使います」
『ドラゴンに跨って魔獣と戦う――それに近いか?』
「はい――、ただまたがるのではなく中に乗り込むわけですが」
『ふぅむ――』
そこでレイモンドは沈黙した。彼特有の思案する状態だ。やがて口元に笑みが浮かび、彼はカリナに言葉をもたらした。
『カリナ、今から語る言葉は俺の置き土産と思え』
「はい――」
レイモンドの言葉にカリナは居住まいを正す。レイモンドはカリナに真正面から向き合うとしっかりとした口調で語った。
『たとえどんなに文明が違っても、戦いの本質は決して変わらない――それが戦争における第一義だ』
「本質が変わらない? つまり、ソルスター世界での戦いも、このネクシスドメイン世界の戦いも――、同じ価値観や概念が通用すると言うことですか?」
『そうだ。それこそ、原初の人間が石をぶつけ合う頃から、鉄を生み出して武器を作り上げた太古から、馬をそろえ大草原で騎馬隊を駆使する時から、大砲の業火が空を焼く時でも、未知なる文明が大地を埋め尽くす時代でも――戦いの根底の根本と言うは絶対に変わらない。それが〝戦争の本質〟と言うものなんだ』
「戦争の本質――」
レイモンドはしっかりと頷いた。
『軍学校で教えている作戦や軍略が千年以上前の物――なんてのは珍しくない。太古の英雄の教えが時を超えて通じるなんてのは常識だ』
「よくわかります。いろいろなところで戦争について学んだ時に痛感しました」
『うむ――、ただし、そこには〝双方が対等な力で戦う〟と言う鉄則もついてくる。ソルスター世界では魔族が魔法を使うからこそ、俺たち人間も魔法を発達させた。こちらの世界でも敵がこの世界の文明に基づいた戦いを仕掛けてくるなら、それに応じた戦いの切り札を、こちらの世界の人間たち持っている。そうだろう?』
「おっしゃるとおりです。こちらの世界では〝シャドウ・スティール・ヴァンガード〟と呼ぶそうです」
戦闘機械の名称を耳にしたとき、レイモンドははっきりと頷いた。
『やはりな――、だからこそだ、お前が今まで身につけた〝戦争の戦術〟〝戦争の戦略〟〝戦場における戦力の運用〟――様々なお前のすべてが、これからもお前を支えてくれるはずだ』
「はい!」
『忘れるな。お前が背負い続けたものは決して軽くない。どんな場所にあってもお前を支えてくれる』
力強くレイモンドは語りかけた。その時、エリュシオが2人に告げた。
『もう少しで召喚限界となります』
その言葉にレイモンドは立ち上がる。
『どうやら、そろそろ時間のようだな』
「お名残惜しいですが」
『そう言ってもらえると嬉しいぜ』
レイモンドはカリナに微笑みを向けた。そして、自分が通ってきたあの光の扉へと歩き出す。
『カリナ――、くじけるなよ。お前なら〝できる〟!』
「はい! これからも戦い続けます」
『頑張れよ』
そう言葉を残して、レイモンドは光の扉をくぐる。
「お帰り、お気をつけて――」
レイモンドはその言葉に手を振りながら、閉じていく光の扉の向こうへと姿を消した。
そして、光の扉が霧散してあとには何も残らなかったのだ。
「エリュシオ」
『はい、マスター』
カリナはベッドの上に置いたレギオンブレイドにそっと手を触れる。
「英霊召喚を成功させてくれてありがとう」
『マスターのお心が回復したのなら何よりです』
「これで少し、気持ちが軽くなったわ」
カリナはいつになく笑顔をとり戻した。この時カリナは、自分の故郷との繋がりの糸がまだしっかりと繋がっていることを心の底から実感した。だからこそだ。
「今日の訓練をなんとしても乗り越えないとね」
『できますよ。マスター――、貴方は勇者なのですから』
エリュシオの言葉が何よりも心にしみるカリナだった。