勇者カリナ/未来戦線クロスロード ―魔王を倒した少女は、AI戦争の未来世界で、聖剣精霊と豪剣人機とともに人類を救う―   作:美風慶伍

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戦慄、魔王心酔派の女魔族 ―暴走魔法陣は異界への扉を開く―

「くっ!」

 

 その力は凄まじく、カリナもかなりの力を消費して結界を維持していた。爆発音の残響が響いて、静寂が戻った時、ようやくカリナは封印を解く。

 

「処理完了、もう大丈夫です」

 

 カリナがそう答えた時、市民から歓声の声が上がった。この平和な朝に訪れた騒動。それもカリナの適切な判断で速やかに対処が成された。

 

「勇者様! ありがとうございます!」

「カリナ様! 助かりました!」

 

 市民たちが感謝の声をあげ、人々はカリナを称賛する。さすがは勇者たるカリナだと――

 その一方で捕らえられた3人の魔族残党兵は悲惨だった。アルカナヴァンガード隊員に捕縛され縛り上げられた。この後は正規軍の軍警察に引き渡されるだろう。

 

「お前たちには厳しい尋問が待っている」

「そのあと速やかに魔族専用の収容所へと送られる」

「一切の容赦も慈悲もない。罪状の判断に寄っては死が与えられる。覚悟しろ」

 

 警備兵がそう威圧しているが、魔族残党兵はニヤニヤ笑うだけだ。その表情にカリナはピンとくるものがあった。

 

「――まだ、残りが居る! 爆発物もまだ一つ有るわ!」

 

 一発で見抜いたカリナに魔族残党兵はぎょっとした表情を浮かべ、それが決め手となった。

 

「やっぱり! 手分けして探しましょう!」

「はっ!」

 

 魔族たちは連行されたが、このことは隊員たちに共有され、さらなる増援が駆けつける。急を要する事態の勃発にカリナたちは一斉に動いた。

 

「私はここから東側を探します! エルリックたちは他の地域を」

「心得た!」

 

 ミリアも加わり複数に手分けして探索を開始する、

 そして――すぐに新たな不審者は見つかる。ボロ布で全身をすっぽりと覆い、あきらかに怪しい動きをしている。体格からして、男性ではなく女性のようだ。

 

「そこのあなた」

 

 カリナが声をかけると女性魔族はビクリとしてそこから駆け出した。

 

「待ちなさい!」

 

 両手でなにか荷物を抱えている。それが残る一つの爆発物である可能性は高い。ならば逃がしてはならない。カリナも全速力で駆け出す。1対1の追いかけっこが始まる。市場のある広場を離れて、市街地を走り出す。表通りから裏通りへ、裏通りから脇路地へ……、人のいないところへと次々に移動していく。

 

「なんて早い足!」

 

 あと少し、もう少し、というところまで追いすがった。

 

「悪いようにはしない! 投降しなさい!」

 

 そう叫んだ時、女性魔族はさらなる路地に入り込む。右手に曲がって視界から消えた彼女を追って、カリナも右に曲がった。だが――

 

「えっ!」

 

 瞬間――、女性魔族の姿はなかった。日陰の広がる袋小路があるだけだ。

 

「どこに消えたの?」

 

 疑問に思いつつ、袋小路に足を踏み入れて歩き出す。だが、不意に周囲は暗がりに堕ちたかのように暗くなる。

 

「え?」

『これは? 結界魔法?』

 

 完全に視界と退路を奪われた形になった。対策を必死に考えるカリナだったが、カリナの背後の方向にぼんやりと浮かぶのは先程の女性魔族のシルエットだった。

 

「お生憎――、まんまと引っかかったようだねぇ」

「何者だ! 姿を見せろ!」

「知る必要はない、お前はこのままこの世界から姿を消すのだから!」

「なに?!」

 

 強い口調で問いただすが、相手のほうが心理的には優勢だ。

 

「勇者であるあんたは、あんたの理屈で魔王を倒し魔王軍を滅ぼした。それがあんたたちの正義だ! でも、魔王の言葉を正義にしているやつも居るんだ!」

「戯言を!」

「戯言でもいい! 勝った方が正義さ! あんたが消えれば、ソルスター自由連合軍は柱を失う! 戦後処理のカリスマをなくしたこの世界は、人間同士で争い合う! 新たな戦争が勃発する! そうすればまた元の世界に逆戻りさ!」

「くっ!」

 

 たしかにその不安は有る。あまりにもカリナの威厳と功績に人々が頼りすぎるのだ。だが、エリュシオが言う。

 

『気を確かに! カリナ――貴方が歩んだ道は貴方だけのものではありません! たとえ貴方が倒れようとも、貴方の後ろを歩む者たちが、貴方の理想を継承します! 今はここからの脱出を!』

「わかった!」

 

 エリュシオはカリナの重要な相棒だった。そして、その心の支えでも有る。女性魔族は、エリュシオの言葉にカリナが瞬時に立ち上がったのをみて、その精神性の強さに思わず奥歯を噛み締めた。

 

「面倒な! こうなったら精霊ごと、ふっとばしてやる!」

「エリュシオ! 空間位相探査! 退路を!」

『すでに見つけました! これは光学結界魔法! 一定領域に〝虚像の幻〟を発生させて、対象者を囲い込み、正しい状況認識ができなようにする撹乱と幻惑の魔法罠です!』 

「そうか!」

 

 カリナは脱出法に気づいた。

 

「視覚に惑わされなければ!」

『空間位相を探知しました! 正しい退路を誘導します!』

「お願い!」

 

 あの女性魔族は驚愕していた。僅かなやり取りの間に罠を突破する術を見つけたのだ。

 

「これが、勇者カリナ――、こうなったら!」

 

 その女性魔族は何かを詠唱した。魔導呪文である。

 

――ジッ! ジジッ!――

 

 不気味なノイズと共に、カリナの眼前に青黒い光がほとばしった。歪んだ円が幾重にも重なっている。ノイズのような火花を発して不気味に動いている。それは魔法陣に見えた。だが、普通の魔法陣ではない。

 

「あれは――〝暴走魔法陣〟!」

 

 それは〝歪みきった不正なる魔法陣〟――

 見る者の魂を引き込むような冷たさ、

 吐き気を催すようなノイズ、

 なにより、見ているだけでも自分の身体までねじれるかのような、底なしの気持ち悪さが有る。

 臓腑を掴まれたような悪寒がカリナの体を走った。

 

「なんて気持ち悪い――」

『カリナ! 気持ちをしっかり!』

 

 魔法陣はあくまでも理論と法則に則った魔法理論の具現化の一つとして考えられた〝回路呪像〟の一つだ。正しく稼働していればきれいな円や幾何学模様を描くのだ。だが、未調整で理論構造に欠陥がある魔法陣は暴走する。そうなれば形は歪み、まともな形をなさないのだ。

 

「巻き込まれたら大変なことになる!」

 

 そう言いながら左腰の愛用の聖剣をしっかりと握り直した。そして、一刻も早くそこから離れようとする。

 

「本当ならお前だけを時の彼方に永劫に飛ばすつもりだった! そのためのこの魔法陣は調整未完了で不完全だが、この世界からお前を弾き飛ばす事はできる!」

 

 だが、カリナは叫ぶ。

 

「馬鹿な! お前も吹き飛ぶぞ!」

「望むところだ! もとより刺し違える覚悟さ!」

 

 そしてカリナは思い知る。

 

「これが――絶対の敵意を持つと言うこと――」

 

 話し合いは不可能、どちらかが倒れるまで殺し合おうとする者の姿だった。

 こうしている間にも暴走魔法陣は迫ってくる。途中背後を振り返るが暴走魔法陣はカリナから離れなかった。

 

「やっぱり! 狙いは私だ!」

 

 エリュシオが叫んだ。

 

『カリナ様! 防御結界を張ります!』

「お願い!」

 

 そして、回避策を講じようとしたその瞬間だった。

 

「消え失せろ! カリナ・ウィングス! 時空の狭間に飲み込まれろ!」

 

 その叫びとともに、別空間から一条の落雷が落ちた。暴走魔法陣が発動させたのは間違いなかった。

 

――ドオオン!――

 

 落雷がカリナの全身を貫く。衝撃に吹き飛ばされる。意識が飛び、認識が吹き飛んだ。カリナは意識を手放した。

 

 ――――――

 ―――――

 ――――

 ―――

 ――

 ―

 

 それからどれだけ時間が過ぎただろう。意識を失っていたカリナの脳裏に誰かの言葉が響いた。

 

【――目を覚ませ! カリナ・ウィングス!――】

「ん――? 誰?」

【――すまない、私は失敗した――】

「何? どういう意味?」

【――今は長くは話せ――】

 

 そこで謎の声はぷっつり途切れた。

 

「なに? 何があったの? 確か落雷が」

 

 そうつぶやきながら顔を上げて立ち上がろうとする。先ほどまで朝日が登る状況だったのに周囲は暗がりが包んでいた。

 

「え? 夜? 私、どれだけ眠っていたの?」

 

 見回したが、周囲の光景にカリナは度肝を抜かれた。

 

「ここはどこ?」

 

 そこは戦場だった。血煙と炎が舞う戦場だ。だがカリナが見慣れたいつもの戦場ではない。

 それにここには奇妙な既視感がある。どうにも見覚えがあるのだ。

 

「何これ? どこかで見たような気が――」

 

 確かに炎と煙と死の匂いが飛び交う戦場に間違いはない。だがどこか微妙に違うのだ。

 

「あれ何!?」

 

 それを兵士の隊列と見るには違和感があった。

 夕闇の大地を、向こう側から進軍してくる巨人たち――

 

「巨人? ギガンテス? 違う――まるでゴーレム――」

 

 否、巨人と呼ぶには生物のようなしなやかさに欠けていた。

 だが、それが歩むたびに大地がひしぎ、瓦礫を砕き、地響きがカリナのところにまで響いてくる。

 呼吸のような躍動感はなく、重く低く響くような唸り声ともつかない響きが、闇夜に広がっている。

 何より、それは銃砲兵士の軍勢のように銃器のごとき〝武器〟を所持していた。

 その巨躯と武器は、夕暮れの赤い光と月光に、重たい金属のような輝きを放っている。

 

「鋼のゴーレム?」

 

 思わずつぶやくと同時に巨人たちの〝武器〟が轟音とともに閃光を放つ。

 

――ヴォオオッ!――

 

 そして、カリナの頭上を一条の光線が飛び交った。

 

「なに? 雷光魔法? 収束火炎魔法?」

 

 光線が飛んでいったその先で爆発が起きた。鋼鉄の塊のようなシルエットが吹き飛んだのだ。

 

「え? 砲撃戦? 陸上で? 海の艦隊戦並みの砲撃じゃない! あんな兵器見たこと無い!」

 

 状況は彼女の認識の力を遥かに超えていた。

 見知らぬ戦場の真っ只中で、カリナは呆然とするよりほかはなかった。

 




戦場の影が、少しずつカリナたちへ迫ってきました。
剣と魔法の戦いとは異なる、機械と銃火の世界。
カリナがこの現実をどう受け止めるのか、引き続き見守っていただけましたら嬉しいです。
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