勇者カリナ/未来戦線クロスロード ―魔王を倒した少女は、AI戦争の未来世界で、聖剣精霊と豪剣人機とともに人類を救う― 作:美風慶伍
ヴァンガード・グリーンドワーフの機体はコックピットが上半身にある。グリーンドワーフを左右から支えるように立つハンガーデッキ。その附属階段を上り3階フロアとほぼ同じ高さに上り詰める。コックピットの両サイドまでステップが伸びていて、機体外部の側面についたコックピットハッチを開閉する操作スイッチを押す。
ジェイが右手に持つ機体イグニッションカード、それを機体にタッチしてセキュリティを解除してから機械式のボタンのようなものを親指で強く押し込む。
「コクピットの開け方は機体によって違う。グリーンドワーフはエンジン始動時に使うイグニッションカードをタッチして鍵を開けてこの押しボタンを押し込んで開閉するんだ」
「イグニッションカード? IDカードみたいなものですか」
「そうだ、人間1人1人にIDカードが割り振られているように、機体ひとつひとつに識別のイグニッションカードがある。ヴァンガードを操縦する際にはこうしたカードの管理も必要だから忘れるなよ」
「はい」
「この押しボタンはかなり硬く作られてる。被弾して開かなくなるのを防ぐためだ。素手で押すと爪を割ったり指をくじいたりするから手袋を使うか握りこぶしで指の関節で押すんだ」
――ガキッ――
かなり硬い音とともに開閉ボタンを押し込むと機体上半身を上側がまるで棺桶が開くように機械作動音とエアシリンダーの作動音を鳴らして上と跳ね上がるように開く。
――プシュッ――
――ウィイイイン――
ハッチが開いたコクピットの中は想像以上に広い。人間1人が足を伸ばして楽に座れるスペースがある。シートの位置を調整すれば2人で入ることもできるかもしれない。
「まず最初は俺がやってみせる」
「はい」
ジェイは言葉であれこれ説明することもするが、基本は〝見て覚えさせる〟主義のようだ。慣れた動きでコクピットの中に潜り込む。シートに座りながら説明を続ける。
「いいかスイッチやメーターやランプがたくさん並んでるんで最初はパニックになるが、だいたい何があるかはどんな機体でも共通だ」
ジェイの言葉を一句たりとも忘れないようにカリナは真剣に聞いていた。2人とも気づかなかったが、精霊のエリュシオも2人の言葉のやり取りに耳を傾けているのがクリスタル部分の明滅で見て取れた。
「座って右側、右腕の届く範囲が機体を動かし始める時の基礎部分。左側は細かい調整や予備機能、普段あまり使わない部分だ」
「よく使う部分が効き手の方に集まってるわけですね?」
「そうだ。左利きの人間にはかなり慣れが必要なんで不評だがな。そして正面は操縦の本体――機体の状態を示すメーターや攻撃対象の存在を認識するレーダーやセンサー、機体外部の状態を示すスクリーンディスプレイがある」
それらの言葉をカリナは頷きながら真剣に聞いていた。
「そして操縦のメイン、両手両足のすぐそばの部分だ。両足が基本的な歩行や走行、ジャンプや飛行と言った下半身の動きを制御する。そして両手のすぐそばのレバーやスイッチやトリガーが――」
「腕や上半身の動きですね?」
「そうだ! 今言ったことはとりあえず丸暗記して頭に叩き込め。回数を重ねるうちにどこに何があるかが体に染み込んでわかるようになる。そうすれば最初の壁を乗り越えられる。頭で理屈で考えているうちは失敗を繰り返すが――」
ジェイはそこで言葉を区切った。
「失敗は気にするな。機体をお釈迦にしない限りは何度でも繰り返せ。それが操縦をマスターする最短ルートになる」
そこでジェイはカリナの目を見ながら昔話を始めた。
「お前自分が今までこういう機械を触ったことがないことを負い目に感じているだろう?」
「は、はい――」
ジェイの言葉にカリナはおっかなびっくりに答える。図星だからだ。
「お前と同じような状況のやつは吐いて捨てるほどいる。山の中や砂漠で暮らしていて馬やラクダにしか乗ったことがない――、そんなガキが毎日のように防衛都市にやってくる。アイアンオーダーとの戦いの中で故郷を守るために命を張ろうとする奴が次々とやってくる。自然の中ののどかな暮らしから、機械のノイズとオイルの焦げる臭いにまみれた戦場へと足を踏み入れるんだ。そういう奴らがどういう思いでここに初めて座るか――お前ならわかるな?」
そう語りながらカリナを見つめてくるジェイの目に、嘘偽りはなかった。
「わかります――、戦う武器は違っても仲間を守り故郷を守る。そのために慣れない武器を手にして新兵達は訓練場に立つんです。勇者として軍団を率いている時も若い彼らのやる気と不安の入り混じったあの表情は今でもよく覚えています」
「そうか――、どの世界も戦場も同じだな」
「はい、まさか自分がそうなるとは思っても見ませんでしたが」
「人生なんて、やり直しの連続だ。自分が成長したと思っても、それ以上のことをイチから覚え直しするなんてことはいくらでもあるさ。大切なのは歩みを止めないことだ。諦めなければ明日は開ける」
「はい! よろしくお願いします」
「よし、機体立ち上げのファーストシークエンス、まずはここから覚えろ。やってみせるぞ」
「はい」