勇者カリナ/未来戦線クロスロード ―魔王を倒した少女は、AI戦争の未来世界で、聖剣精霊と豪剣人機とともに人類を救う― 作:美風慶伍
教習工程の前半をクリアしてその日の夜は落ち着いた雰囲気になった。
そして、お目付け役のルーカスも顔を出し、さらにはジェイの上司である隊長のレオンも姿を現したのだ。いずれもカリナが訓練が順調であることを聞きつけての様子見だった。
ルーカスは土産に旧イタリアブランドの高級ジェラートアイスを用意していた。
「わっ! ジェラートアイス! 本物ですか」
「ああ、空輸で取り寄せたんだ。本来2週間でクリアするはずの工程を5日でクリアしたと聞いてね。そのご褒美だよ」
「ありがとうございます!」
嬉しそうな表情でカリナが受け取れば居合わせるレオンが意外な言葉を口にした。
「よく製造メーカーが残ってたな。イタリアはとっくにアイアンオーダーの支配域だろう?」
「ジェラートアイスの製造職人が北欧のフィンランドに複数で移住していたんです。それで技術継承を途絶えさせないようにと現在も活動を続けているそうです」
その言葉の裏の意味をカリナは即座に理解した。
「それじゃこのアイスはこの世界では最後のジェラートアイス」
レオンが真剣な表情で頷いた。
「そうなるな。もっともこの世界ではそういうのは決して珍しくない。あらゆるものがオリジナルの姿をなくしていく――失われてしまった文化や伝統も数多い」
「そうだったんですか」
カリナは手元に持ったアイスの重みを噛みしめていた。だがそんな時でも励ましの言葉をくれるのはジェイだった。
「そう深刻に考える必要はないさ。アイアンオーダーを打ち倒し世界に平和を取り戻せば失われた文化を復刻させることは決して不可能じゃない。だからこそ俺たちは戦うんだ」
その言葉に居合わせた全員が頷いていた。
「そうだな」とルーカス、
「俺たち傭兵が、この戦場に向かう際に誰もが胸に置いている。世界を取り戻したいと言う切なる願いをな」
そうつぶやきながらレオンは紙巻きタバコをくゆらせた。
そこにエレナが彼らに問いかける。
「それで、残り後半の教習工程、中1日休みを入れてから再開しようと思う」
「ああ、それなんだが――」
そこでレオンが言葉を挟んだ。
「少し先送りしてくれないか」
「どういうことだい?」
カリナも思わず声を向ける。
「どうしてですか?」
「難しい問題じゃない。都市外部のいくつかの防衛拠点で人手が足りなくてな。2週間ほどジェイを連れて行きたいんだ」
「ああ、そういうことかい。なら仕方ないね」
「そういうことだジェイ、明日の午前中ここを出発する。そのまま絶対隔壁の外に向かう」
「了解です。明日の出発を準備します」
無駄のない落ち着いた口調でレオンの言葉を復唱するジェイのその姿は軍人そのものだった。
「そう危険度のない守備任務だから2週間で順調にこっちに戻ってくれるだろう」
そのやり取りの中にカリナはこの世界の現実を知った。
「慢性的な人員不足なのですね」
「そうだ、どのエリアでも100パーセントの充足率になったことは一度もない。ギリギリカツカツの状態で今までもずっとやってきたんだ」
ため息交じりに語られるその言葉の重さはカリナには痛いほど分かっていた。
「分かりました2週間お待ちしてます」
「すまないな」
「いえ、戦時中であるからこそ全てにおいて戦うことは最優先ですから」
だがそこに言葉を挟む者がいた。ルーカスだ。
「だったら俺が手を貸します」
「お前がカリナの教習を続けるか?」とレオン、
「はい、アーセナルコマンドとしての登録は継続してますし、インストラクターの資格も持っているので」
「ならば問題ないな」
カリナもそれを拒否しなかった。
「分かりました。残り後半の教習工程よろしくお願いします!」
その傍らでジェイがルーカスに告げた。
「それじゃ、頼むぜ、お姫様のお守り」
「任せろ、俺なりのやり方で教えとくよ」
その言葉にジェイは苦笑する。
「お前のやり方か――泣き出さなきゃ良いがな」
「え?」
ジェイの不意の言葉にカリナが声を漏らした。
「おい、彼女が怖がるだろう!」
「分かってるって! ジョークだ!」
「まったく――」
しかし、根は繊細なカリナだ。ジェイの言葉にすっかり固まっていた。そんなカリナにエレナは言った。
「大丈夫だよ。なにもとって喰おうってわけじゃないんだからさ」
「は、はい――」
普段からあまり言葉をかわさないルーカス。カリナが彼に対していた抱いていた、不安と恐れがにじみ出た瞬間だった。
『マスター、怖がり過ぎと思いますが?』
エリュシオの声にカリナはすまなそうにする。ルーカスはそんなカリナに憮然としていたのだった。