勇者カリナ/未来戦線クロスロード ―魔王を倒した少女は、AI戦争の未来世界で、聖剣精霊と豪剣人機とともに人類を救う― 作:美風慶伍
予想外の事態にカリナが不安を抱くと同時に、鉄の獣は残る脚を駆使して立ち上がり這いずるようにカリナに迫ってくる。まるで命を持つ者全てを敵視するかのようにだ。
『おそらくはここは、私達が今まで過ごしてきた〝ソルスター〟とは別な時空間なのでしょう。ソルスター世界とのつながりを発見しないと英霊召喚は不可能です』
「なんてこと――」
自らの最大の力が使えない。エリュシオのその言葉にカリナは背筋が凍る思いだった。だが、彼女とて大軍を率いて魔王軍勢に立ち向かった誇りある勇者だ。
「そう言えば――あの子たちは?」
この危機的状況でも、手を貸してくれたあの小さな飛行体たち、その姿を探したがどこにもない。逃げたのか、身を隠したのか――
「あの子たちは?」
『激しい戦闘の行われている方向へと向かいました。もしかすると支援を呼んだのかもしれません』
それが好機なのか、危機なのか、まだ判斷はできない。だが、あれだけコミュニケーションができた存在だ。逃げたとは思いたくない。
「あの子が逃げたとは思わない。信じよう!」
だからこそだ、カリナは敵を見えて剣を構えながら、対策を思案して行動指針を示した。
「身の安全を確保します! 英霊が居なくともレギオンブレイドの固有能力で現状を切り抜けます!」
『了解、遠隔視で安全な領域を探索します。またレギオンブレイドの刀身を防御結界の力場で強化しますので、敵攻撃を防いでください!』
「遠距離攻撃は?」
『遠隔視と防御結界の同時執行は負担がかかります。マスター本人の
「では、遠隔視が終わり次第、防御結界を変形応用させて遠距離斬撃を行います!」
『了解です、防御結界変形展開・刀身部強度強化、遠隔視開始、周囲状況探知開始します!』
エリュシオはレギオンブレイドに宿る人工精霊だ。この世に生まれ落ちてから1500年の時を経ている。その戦闘経験は人知を超えた領域に達している。そして、それを行使しうるのが、深い絆で結ばれたカリナであり、勇者として資格を持つ者であるあゆえだ。
二人は共に寄り添いあってこそ、最大限に力を発揮することができるのである。
「行きます!」
エリュシオがレギオンブレイドの機能の一つである防御結界の力場を発生させる。これは敵を排除する防御陣の役割を果たしたり、鉄壁の防壁を形成したり、鋭利な形状でフィールド形成することでブレイドの斬撃範囲を広げることもできる。当然、刀身そのもの強度も上昇可能だ。
『刀身強化完了、遠隔視開始します』
――フゥィィイイイインッ――
レギオンブレイドの刀身がかすかに光を放つ。カリナのマナを消耗しながら行われる防御結界展開だ。この場合、防御結界をレギオンブレイド自身に施すことで刀身の強度を引き上げるのだ。
「数日前はこれで敵を斬れた。今度も通じるはず!」
その間にも眼前の鋼の獣は這いずりながらカリナに迫ってきた。遠距離攻撃手段は持たないのか、その前腕の爪や頭部の
「接近戦重視! 野獣戦闘の使い手か! ならば!」
カリナはレギオンブレイドを構えて敵との間合いを計った。絶妙な距離感を維持しつつ、あえて敵の懐に迫る。そして――
――グガァアアアアッ!――
凶悪な顎を開いて、白銀の牙をむき出しにする。その牙にはすでに他の何者かを襲ったかのように赤い汚れがついていた。それが何を意味するのかカリナには即座にわかった。
「命を奪う鋼の獣! 来い!」
あえて敵を誘うようにその懐に飛び込むと、敵が前足を振り上げるのを待った。獅子か豹のごとしその前足には鋭い爪が生えている。それでカリナを引き裂こうと振り下ろしてくる。
「勝機!」
巨大なハンマーを振り下ろすかのように、鋼の獣は右前腕をカリナめがけて振り下ろした。
――ゴォオオンッ!――
その鋼の爪が大地を引き裂いた。だが、カリナは華麗にその攻撃をすり抜けると、軽やかに跳躍して鋼の獣の身体を駆け上げっていく。
――カンッカンッカンッカンッカンッ!――
ブーツのヒールが敵の金属の体の上で音を立てる。瞬く間に肩まで駆け上がると、その勢いのままレギオンブレイドの刀身を右肩上の方へと振り上げた。そして――
「覚悟!」
――ブオッ!――
肩から敵の頭部へと跳躍しつつ、レギオンブレイドを右側から前方へと横薙ぎに振り抜ける。その鋭利な刃は鋼の獣の赤い1つ目を真横から切り裂いた。
――ザッギィイイインッ!――
半分ほど斬れてレギオンブレイドの刀身は途中で止まった。完全に切断できなかったのだ。そのあまりの硬さに反動でカリナの両手に強い衝撃が跳ね返ってきた。
「か! 堅い! なにこれ? 鋼より堅い! オリハルコンやアダマンタイトでも使っているの?」
あまりの硬さに切断は失敗したのだ。