勇者カリナ/未来戦線クロスロード ―魔王を倒した少女は、AI戦争の未来世界で、聖剣精霊と豪剣人機とともに人類を救う― 作:美風慶伍
やがて装甲オフロード車両はすっかり日も沈んだ夜8時過ぎに目的地に着いた。防衛都市から離れること60キロの地点にある外部駐屯基地だ。
圧倒されるような数のヴァンガードが整然と並びその操縦士のアーセナルコマンド達が行き来している。カリナはその光景を感慨深げに眺めている。
駐屯基地の中を走り基地建物の中央棟、その一角にある管理区画に出頭すれば、レオン隊長が2人を待っていて大声で叫んだ。
「こっちだ! 急げ!」
「はい!」
レオンに招かれて駆けつけた先は〝救急医療室〟
「まさか――」
カリナが思わずつぶやいた言葉にレオンは反応した。
「ジェイに会ってやってくれ」
基地の医療スタッフが救急医療室のドアを開ける。中を歩き、複数ある医療ベッドの一番奥が白いスクリーンカーテンに覆い隠されていた。その中に足を踏み入れればそこにいたのはジェイだった。
「ジェイさん――」
そう呟くのがカリナにもやっとだった。目の前にあったのは瀕死のジェイの姿だった。現在状況をレオンが語った。
「右腕と右足をなくし内臓も損傷しており瀕死状態。敵の直撃を喰らい擱坐した。敵集団は何とか撃退し防衛には勝利したが、助かる見込みは無い」
そしてレオンはカリナに言った。
「最後の言葉を言ってやってくれ」
カリナは恐る恐る歩み寄るとジェイに語りかけた。
「ジェイさん――」
「カリナ――、来てくれたのか」
「はい、お別れをお伝えに参りました」
「そうか――、すまない――、教習中途半端になっちまったな、でもあとはルーカスが教えてくれる。あいつも悪いやつじゃない」
「はい、分かってます。それより――」
カリナはジェイの残された左手を握りしめた。
「お勤めご苦労様でした。ゆっくり――おやすみ――ください――」
そこが限界だった。気丈にふるまってはいたが、溢れる涙を抑えられなかった。
「っ――、ひっ――」
「泣き虫のところは変わんねえなぁ――、でもお前らしくていいよ」
そしてジェイはルーカスを呼んだ。
「ルーカス、そこに
「ああ」
「彼女のこと、頼むぜ。お前ならやってくれるよな?」
ルーカスもジェイの手を握った。
「もちろんだ全力で支えよう」
「任せたぜ」
それが彼の最後の言葉だった。左手からすっと力が抜ける。ルーカスとカリナの手の中からジェイの手が滑り落ちた。臨終の瞬間だった。
「ジェイさん?」
そこにレオンは語りかける。
「超遠距離の敵の攻撃をまともに食らった。本来だったら即死だったんだ。それがどういうわけか死なずに済んだ。その間に仲間や家族とも別れの言葉を送ることができた」
そしてひと呼吸する。
「カリナ、お守りをくれたのお前だな?」
「はい」
「そうか――」
戦死者は別れの言葉すら残せないのが大半だ。信頼している相手にサヨナラを言えるだけでもとてつもない幸運なのだ。
「ありがとう」
そう言いながらレオンは彼らの肩を叩いて救急医療室から出て行った。カリナはルーカスに向けてそっと言葉を漏らした。
「確かに私は勇者として戦い抜きました。でも――」
カリナの頬を涙が伝う。喉の奥から嗚咽が漏れる。
「戦場では人が死ぬ。当たり前に死んでいく。それが嫌だから世界を救ったんです。でも――、別な世界に生まれ変わってまでなんでこんな思いをしなければならないんだろう――」
そう言い終えるとカリナは泣き崩れるだけだった。かなり長い時間ジェイにすがりながら泣いていた。そのそばでルーカスは彼女の肩をそっと支え続けたのだった。