勇者カリナ/未来戦線クロスロード ―魔王を倒した少女は、AI戦争の未来世界で、聖剣精霊と豪剣人機とともに人類を救う― 作:美風慶伍
深夜に単独で荒野を走行するのは危険だ――として、宿舎の空き部屋を狩りてカリナは一晩過ごした。服を脱いで下着姿でベッドに横たわる。基地の外では、夜の間も、戦闘の爆音が遥か遠くで響いていた。
「――戦いだ」
そうだ、ここは戦場だ。戦いが繰り広げられているのだ。
「ここは戦場なんだ」
そして、ジェイは戦場で死んだのだ。それがこの世界の〝あたりまえ〟だったのだ。心の何処かで、今までとは違う世界であってほしいと言う淡い期待があったのだろう。
「今までと同じなんだ」
それでも――、カリナは願っていた。今までとは違う世界であってくれと――、そんな時だ。
『マスター』
「エリュシオ?」
カリナにエリュシオが語りかけてくる。まるでたしなめるように。
『今の貴方のお姿を、かつてのエルリック様方が、ご覧になられたらなんと思われるか』
「――!」
忘れていた一言だった。
『お気持はわかります。ですが〝盟友〟たる仲間たちが傷つき、命を落とした時――、貴方の振る舞いはどうだったでしょうか? 思い出してください』
カリナはベッドから身を起こすと窓際に立つ。
「そうだ――、そうだよね」
カリナは懐かしい仲間たちのことを思い出していた。彼らとともに戦っていた日々のことを。そして、自分が何者であるかも思い出していた。
「自分が何をすべきか、忘れるところだった――ありがとう、エリュシオ」
『重畳です。マスター』
「うん――もう一度、始めるよ。ジェイに呆れられないように」
まだまだ失意は晴れていない。ジェイがいなくなったその現実をどう受け入れていけばいいか飲み込みきれない部分もある。
だがそれでももう二度と歩けないということはないだろう。
着衣を身につけると左腰にレギオンブレイドを下げて宿舎のゲストルームから外に出る。
岩砂漠の夜は思ったよりも気温が下がる。吐く息が白くなり気持ちがどこまでも澄み渡っていく。
「星空が綺麗――」
頭上を仰げば雲ひとつないがゆえに星の瞬きはでも綺麗だった。
天上に満天の星がちりばめられたように輝いている。これほどの星空はソルスターでもなかなかお目にかかれないだろう。
その星を見ているうちに胸に去来するものがある。
「あの星1つ1つに、天に召された魂が暮らしているんだわ」
エリュシオがレギオンブレイドの中から答えた。
『そうですね、ソルスター世界では戦場で死んだ人々を弔うためによく英霊召喚を行っていました』
「英霊たちはみんな言っていたよね、天上の世界から私たちを見守ってくれているって」
『そうです。この世界にも戦い傷つき命を落とした人々が星の数のほどいるのであれば、あの星の輝きの向こうにそうした魂があるのだと私は信じます』
「そうね、私もよ」
夜空の寒さを肌で感じながらカリナは頭上を見上げていた。
するとその時だった――
「君は確か。カリナ君か?」
「えっ?」
突然かけられた声に振り向けば、カーゴパンツ姿に襟なしシャツという姿で立たずの青年だった。白人系の風貌のその姿に彼ならピンとくるものがあった。
「あなたは確か、以前この基地でお会いした」
「覚えといてくれたか」
「はい」
カリナにしてみればあまり楽しい思い出ではない。きつい一言を聞かされてしまったからだ。
「あの時はすまなかったな。〝つもりじゃ困る〟なんて無作法な言葉をぶつけてしまって」
「いいえお気になさらず。当時はまだ本当にものになるのか自分でも分かりませんでしたから」
彼はマイクに連れられてカリナが初めてこの基地に来た時に、ヴァンガードに乗って戦う覚悟を問いただした問いただした人物だった。そしてレオン率いるサイファーブレイクスの隊員の1人でもある。