勇者カリナ/未来戦線クロスロード ―魔王を倒した少女は、AI戦争の未来世界で、聖剣精霊と豪剣人機とともに人類を救う― 作:美風慶伍
静かな笑みを浮かべていたが、冷静な面持ちでカリナに問いかけてきた。
「ジェイのやつを看取りに来てくれたのか」
「はい、連絡をいただいたので急いで駆けつけました」
「―――最後には間に合ったか?」
「はい、お別れの言葉を送ることができました」
彼は静かに歩み寄ってくるとカリナの左肩をそっと叩いた。
「ありがとう。あいつが最後まで君のことをずっと気にかけててね『全部教えてないんだ』ってうわ言のように言ってたんだ」
「ジェイさんが――」
「ああ、あいつ俺たちの部隊の中で一番面倒見が良かったんだ。ムードメーカーでよ、どんなに逆境の状況でも、あいつの口を開くとささくれ立った空気が一気にほぐれた。それで今まで何度も助けられた」
それだけ彼がジェイを信頼していたことが心から伝わってくる。
「でももう聞けないんですよね」
「ああ、仕方がない。戦場は人が死ぬ。それは絶対に変わらない現実だ」
その語り口からカリナは分かった。彼もまた戦友の死という事実を受け入れきれていないのだ。ならば今彼に伝えるべきことがある。
「あの――、一つだけお話ししたいことが」
「なんだい?」
彼が振り向いてカリナの目を見てくる。その目に向かい合いはっきりと伝えた。
「私、ヴァンガード育成過程のカリキュラムの前半完了しました。後半も今順調に進めています。もう少しでこの世界の戦場で戦うために必要なものを身につけることができます」
一呼吸おいてはっきりと告げる。
「ジェイさんに教えてもらったおかげです」
その言葉は目の前の青年にとって何よりもの癒しだったに違いない。
「よく頑張ったな」
「はい」
2人は向かい合いながら静かに頷きあう。
「お名前を教えてくださいませんか?」
「あーそういえばまだ名乗っていなかったな――」
彼は傭兵としてのIDライセンスプレート提示しながら冷静に答えた。
「サイファーブレイクス隊員、カルロ・アルベルトだ」
「カリナ・ウイングスです」
2人は初めてお互いの名前を名乗りあう。
「カリキュラムの全工程こなした暁には教えてくれ。仕事をぶち込んで行くからよ」
「お手柔らかにお願いします」
軽く笑みを浮かべてお互いに笑い合う。そして彼は手を振りながら静かにそこから去って行った。その背中を見送りながら、エリュシオはカリナに語りかけた。
『よかったですね言葉を交わせて』
「ええ、それにあの人も悪い人じゃなかったみたい」
エリュシオの言葉にカリナは安堵の声を漏らした。
『それでは部屋に戻りましょう、ここは寒すぎますから』
「ええ」
そう呟いてカリナは部屋の中へと戻った。明日からまた始まる日々にカリナはすでにその気持ちを向けていたのである。
§
翌朝、カリナはスッキリとした気持ちで朝を迎えていた。
ベッドから降りてすぐに身支度を整える。すぐにでも出発しなければならないだろうから。
部屋を出てルーカスに合流する。そして、レオン隊長たちに見送られて、駐屯基地を出立した。
「ご苦労だった。ジェイも浮かばれるだろう」
レオン隊長の寂しそうな笑顔がカリナの胸に残った。
そして駐屯基地の片隅にある小さな慰霊塔の前に、酒保で買い求めたウイスキーの小さなボトルを封を開けた上でそっと置いておく。
「ジェイさん。それじゃあ私〝前に進みます〟ね」
そして慰霊塔に手を合わせて静かに立ち上がると、ルーカスの待っている移動車両へと戻った。車の中ではルーカスが心配そうに声かけてきた。
「もういいのか?」
「ええ、別れの言葉は残してきましたから」
「それじゃ戻るぞ。残りの育成カリキュラムしっかりとこなすぞ」
「ええ、敵は待ってくれないので」
そしてルーカスは車を走らせた。
そしてエレナの待つガレージと走り去って言ったのである。