勇者カリナ/未来戦線クロスロード ―魔王を倒した少女は、AI戦争の未来世界で、聖剣精霊と豪剣人機とともに人類を救う― 作:美風慶伍
足音も立てずにいつの間に入ってきたのか、カリナの背後にエレナが佇んでいた。カリナは振り向いて視線を向けた。
「それはね――、この機体の依頼人が途中で死んじまったからさ」
「エレナさん?」
「よく見つけたね。まぁ、いずれ見せてやろうと思ってたんだけどさ」
エレナはカリナが無断侵入したことは咎めなかった。
「この機体の持ち主はヴァーストライクアリーナって言う見世物競技の選手だったんだ。傭兵家業もしていて、アリーナじゃ人気があった」
「ヴァンガードを使った模擬試合ですか?」
「そうだ。そして、戦場とアリーナを行き来していた。アリーナで腕試しもできるし、傭兵家業用のヴァンガードの強化資金も稼げる。それなりに戦績を重ねて、アリーナ用のヴァンガードを新調するって話になった。そして、資金をもらってヴァンガードを作り始めて完成まであと少し――って時にコイツの持ち主の訃報が届いた。その瞬間から、この子は誰にも乗ってもらえない不憫な子になっちまったのさ」
「不憫? こんなに素晴らしい仕上がりなのに?」
「確かに仕上がりには自身があるさ。でも、アイアンオーダーとの実戦では、白兵戦闘より銃砲撃が重視される。遠距離でドンパチやるのが常道の世界で、完全近接重視のこんな機体に乗りたがるやつは居なかった。結局、乗りこなせるやつが居なくなり、この子はここでずっと眠っているのさ」
エレナの言葉を噛み締めながら、カリナは未完成の機体を見上げた。
「白兵格闘だけで戦場に出れる技量の人が居ないのか――」
「そう言うことさ。よほどの達人でもなきゃ、近接白兵戦重視の専用設計ではどこかで不利を生じてしまうからね」
だが、エレナは続ける。
「でも、カリナ、アンタだったらどうだろうね?」
その言葉にカリナはぐっと両手を握りしめた。
「エレナさん、この子はどうやって動かしますか? グリーンドワーフと同じですか?」
その問いにエレナが答えようとしたときだった。
「エレナさん、カリナ――、ここに居たのか」
「ルーカスさん?」
「俺の所属するピースセーファーから情報が入った。イスタンボールの南側の海――、マルマラ湾より接近する不審船があるそうだ」
「本当かい?」とエレナ、いつになく真剣だ。表情が張り詰めている。
「ブレイブハーツアライアンスの動きは?」
そこでルーカスの表情が曇った。
「ジェイが命を落とすきっかけとなった一戦、その後続本隊が襲ってきて交戦中、それも複数の戦闘ユニットが接近しつつあり、とてもそちらの不審船に回せる状態じゃないそうだ」
「海上警戒の洋上部隊は何をやってるんだい、まったく!」
エレナが苛立つのはもっともだった。だが、ルーカスは続けた。
「かろうじてイスタンボールに残っているアーセナルコマンドをかき集めて、偵察部隊を編成するそうだ。俺も招集がかかった」
――と、ルーカスが呟いたときだ。カリナがなにやらブツブツと呟いている。
「イスタンボールは巨大な防壁に守られたいわば典型的な〝城塞都市〟――、城塞都市の撃破と戦略の常道は〝内部侵入〟――、つまり外壁の外でレオンたちが戦っている相手は敵の主力ではあるが、それ自体が陽動じゃないかしら?」
「カリナ?」
ルーカスの声に気づかず、カリナは完全に入り込んでいた。カリナの指揮官として、勇者としての才能が今こそ復活しようとしていたのだ。