"汁物屋マジ旨し"~魔法少女の裏側でこっそり怪異狩っちゃいます~ 作:ティファールは邪道
魔法少女とは、怪異退治業務を行う、企業所属団体の総称である……
怪異とは、突如発生する自然災害の一種で、これらの鎮静と救助活動が、魔法少女企業の主要業務であり、年々増加傾向にある怪異現象と共に、魔法少女企業も増え、大手、中小含め総数が500社以上存在している……
そんな世界にある、日本のオフィス街と繁華街の境目にある小さなスープ屋、"汁物マジ旨し"……
名前とは裏腹にポトフ、ミネストローネが看板メニューのそのスープ屋で、店主は一人、鍋の前で腕を組んでいた……
「う~ん……あと二人分か……」
時は夕暮れ時……
朝の残りも含めて作っていた分のスープが残り二人分となり、ちょうどピークも終わった時間である……
ースープもこれだけだし、今夜と明日の朝ごはんにして閉めるか……
そう思い、店を閉めようとしたときだった
ーカランカラン♪
来客を示すドアベルが鳴る…
それを聞いた店主は、「あ、Closeにするの忘れてた……」
っと思い立ち、そのまま客の方に向き伝える
「いらっしゃい……すみません、もうスープ切らしちゃって...」
「へ?マジで?……参ったなぁ……」
腹減ってるのに……
そう言いながら困った顔をするお客さん……
見れば二人組で、ライダースーツ……外にバイクを停めてる事からツーリングしていたのだろうか?
残念そう顔で、店を出ようとするのを見て、店主は気が変わった
「……ミネストローネがSサイズで二人分しか出せないけど、大丈夫です?」
それを聞いた二人は、驚いた顔になりながらも嬉しそうだ
「へ!?良いの!?」
「大丈夫です、それでお願いします!!」
「解りました、じゃあ今お出ししますから席でお待ちください」
そう言うと、ドアの札をCloseにしてからミネストローネを温める店主であった……
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「へぇ、怪異退治に巻き込まれたんですか……災難でしたねぇ……」
「いや、災難何てもんじゃねぇよ!?ホントにやばかったよなぁ、あれ!?」
「ほんとそれな!?死ぬかと思ったぞ!?」
温めたミネストローネを出す際に、二人が先ほど経験したという話を聞き、同情すると気分が乗ったのか詳しく話を聞くことに……
聞けば、魔法少女がホーキを怪異に喰われたらしく落下してきたところに偶々自分たちが走らせているバイクに着地して、そのまま手伝う形になったのだという……
「うん、色々突っ込みたいんですけど…大変でしたね……よかったらどうぞ、サービスです」
そう言いながら、売れ残りのロールパンと、コーヒーを出す…
「あ、すみません……」
「ありがとうございます」
その言葉を聞きながら、明日の準備に取りかかるためにカウンター兼厨房に入る店主……
興奮覚めやまぬ状態だった二人は、冷めてしまう前に食べちゃうか、っとミネストローネを食べ始めた途端、無言になった
ー何これウッマ!?
目を合わせ、頷く二人……
そこから、二人は、取り憑かれたようにスプーンを動かし始めた……
先ほどまでの興奮したお喋りが嘘のように、店内にはスープをすする音だけが響く……
トマトの鮮烈な酸味と、じっくり煮込まれた玉ねぎの暴力的なまでの甘み……
それらがケンカすることなく、お互いを引き立て合いながら、ドロリとした濃厚な旨味となって口いっぱいに広がる……
ニンジンやジャガイモ、ひよこ豆をはじめとした何種類もの野菜が殆ど形をなくして溶け込んでいるスープは、飲むというより、まるで上質なソースを味わっているかのようだった……
その中に辛うじて残ってますよ、って感じになってる鶏肉が逆に食感のアクセントにもなっている
「……なぁ、これ、美味すぎるだろ」
「ああ、喉を通った瞬間、胃袋がカッと熱くなる。生き返るわ……」
限界まで張り詰めていた緊張と、死にかけた恐怖……
冷や汗で冷え切っていた二人の身体に、ミネストローネの温かさが五臓六腑へ染み渡るように広がっていく……
不思議な感覚だった
ただ温かいだけじゃない。スープを一口すするごとに、肩の重荷がフッと軽くなり、怪異に遭遇して毛羽立っていた心が、目に見えて穏やかに凪いでいくのが自分でも分かった……
まるで、身体の中に溜まっていた「ドス黒い疲れ」が、この店のリラックスした空気にすうっと吸い取られていくような――そんな奇妙な心地よさ……
「このパンもヤバい。スープにつけて食うと無限にいける」
「コーヒーもめちゃくちゃ合うな……。はぁ、なんか、さっきまで死にかけてたのが夢みたいだ」
紙の器に入ったスープは、最後まで全く冷めることなく、熱々のまま二人の冷えた体と心を芯から温めきった……
気づけば、器の中は一滴のスープもパンで拭って食べてしまい、残らず空っぽになっていた……
「……ふぅ。ごちそうさまでした。いや、本当に助かりました、また食べたいって思っちゃいましたよ」
一人が満足げに息を吐き、カウンターの向こうで明日の仕込みをしていた店主へ声をかける
「はい、お粗末様でした……
災難のあとのご飯ですから、少しでも元気が出たなら良かったです」
店主は、少し首を傾げながら、人当たりのいい笑顔を浮かべた
「いや、少しどころじゃないですよ。マジで美味かったです。……よし、じゃあ俺たち、そろそろ行きますね……えっとお金は」
「あ、Sサイズで一人500円になってます」
「「やっす!?」」
「因みにMなら600、Lなら700ですね」
「それ、儲け出るの?」
「この旨さでその安さならこんな早くなくなるのも納得だわ……」
驚きながら一人は五百円玉をカウンターに置き、もう一人はバーコード決済で払ってからすっかり軽くなった足取りで店を出て行った
―カランカラン♪
ドアベルが鳴り、二人のバイクが遠ざかっていく音が聞こえる……
静かになった店内で、店主はふぅ、と息を吐いた
「怪異退治業務を手伝ったバイク乗り二人組、ねぇ……」
ーあの二人、一話に出てた二人組かぁ……
そうつぶやくと、二人が座っていたカウンターの、絶妙にウッドバーニングが施された木目に目をやる……
「……よし。あの二人から貰った『余剰オーラ』で、店の分は十分。コンロも明かりも、今日の客数考えるとあと三日は持つな」
店主は嬉しそうに呟くと、窓のブラインドを閉め、テーブルを軽く拭き、エプロンを外す……
「スープも綺麗に売り切れたし……。具材切りもやったし……ちょっと出かけますか」
次の瞬間、店主の気配は完全に消え失せた
ただの一般人としてそこに佇む店主は、店の鍵を閉めると、夜の空へと静かに溶け込んでいった
店主の名前は、五月雨 公平(さみだれ こうへい)……
株式会社マジルミエの世界に転生してきた、念能力者である……