富士歩人の成長記録   作:伝狼@旧しゃちほこ

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知ったのがGW中でしたので周りのテンションについていけてないです、はい。
今時のライブ映画にしては伏線やらしっかりしていて、只盛り上がるだけではないなというのが素直な感想です。


高校1年生4月中旬~5月①

 幼少期から天才と呼ばれていた。

 

 自分では差程まで感じていなかった。ただ、両親が驚いていたりテレビなどのメディアにも取り上げられたから世間一般的にはそれに該当したんだろう。

 

 自分的には勉強よりモノを作ることが楽しかった。初めての組み立てブロックに興味を持ち、幼稚園の年長になる頃には機械の仕組みの大体を理解し、簡単な回路すら組み立てていた。

 

 自分が楽しければそれでいいの精神で作っていた。それが将来的に誰かの役に立つならそれがいい。

 

 しかし順風満帆に見えてもそう上手くはいかないものだ。

 

 小学校低学年の時に両親が離婚した。

 

 メディア出演がいけなかったのか、母親は息子より商売道具という見方の側面が強まってしまった。

 

 父親も才能を潰す訳にはいかないとの意見はあったが、そのような扱いは断固否定の姿勢だった。

 

 俺は自分の意思で父親についていくことを望み、母親は家を出ていった。

 

 もし自分が周りと同じような人間であればこんなことにはならなかったんだろうか。

 

 今でも3人で笑いあっていたんだろうか。自分のせいで家族の絆が失くなってしまったんだと思うようになり、子供ながらに後悔した事を覚えている。

 

 やがて自分の事を隠すようになった。人付き合いが淡白になり、基本的には家で一人ぼっちで好きなことをしている。たまに誘われれば遊びに行くぐらいだ。

 

 中学3年生になり、父親から東京の学校に行ってみないかと薦められた。貧乏寄りの家庭だった自分にとって予想してなかった提案だった。

 

 どうやら過去にメディア出演していて残っていたお金は手につけずそのまま保管していてくれたらしい。それに加えて日々の貯金から出すと言ってくれたのだ。

 

 父親は全部を出してやれなくてすまないと謝っていたが、そんなにとやかく言える立場じゃないことは分かっている。

 

 このまま地元で過ごしていくものと考えていたけれど、それが親孝行に繋がり恩返しできるならと東京の学校に進学した。

 

 今の時代勉強が出来るだけじゃ意味はない。それでもいい会社に入るにはそれなりの学歴が必要になる。自分の場合はコミュニケーションだけど。

 

 高校は主席で入学し、授業料の完全免除が行われた。特に何でもない気持ちだったが、2位の女生徒は悔しがってるというか落ち込んでいる様子だった。

 

 父親から託されたお金もなるべく手を付けず、可能な限り自分でやっていくつもりでアルバイトも始めた。電気街にある小さな部品屋で、店番をしながらモノづくりが出来る環境。

 

 修理したり、売り払われたモノを分解して別のモノを作ったり。殆どやり尽くしたことばかりだったがそれなりに充実していた。

 

 「すいませーん……」

 

 店先から聞こえる女性の声。普段は店長の同世代か機械趣味の男性ばかりなので新鮮味を感じた。

 

 修理の手を止め顔を上げる。同い年ぐらいの女子だった。

 

 「げ」

 

 人の顔を見るなりこの反応。煤がつくような作業はしてないはずだがと思い手元の鏡で確認する。

 

 「同級生が来ていきなり顔チェックですか。自分の容姿によっぽど自信があるご様子で」

 

 同級生ーー学校が始まってまだ半月も経っていないが、初めて見る顔だ。向こうは自分のこと知ってるようだし、もしかしてクラスメイトかも?それなら流石にマズいが、当てずっぽうで名前を間違えるのもマズい。

 

 回避方法を考えるがそもそもここは店で自分は従業員。変に勘ぐらなくてもいい。

 

 「修理か売却ならこちらで承ります。部品に関しては」

 

 「売却です」

 

 鞄からスマコンを取り出し叩きつけるように差し出す。なぜこんなに怒られる理由が分からないが、とりあえずスマコンを手に取る。

 

 「データ消去や支払いとかは?」

 

 「データ消去もして、一括で買いました」

 

 ケースを開けて中身を取り出す。この世代だと今の物より2世代ぐらい前か。となると1世代前のが出る手前の在庫処分で格安購入したって感じか。

 

 今の時代スマコンは短いスパンで最新機種が出てるが、差程変化ないものでも最新で出すから詳しく知らない人は言われるがままに買い換えるのも多い。スマートフォンでいうならカメラ機能がアップしたぐらいで次世代を名乗るようなものだ。

 

 「まだしっかり見てないのでいくらとははっきり言えませんが、表面に傷がついてるのであまり高く買い取れませんね。どれくらい使ってます?」

 

 「2年くらいです」

 

 「それくらいならバッテリー消耗もまだ大丈夫しょうし、気にならないなら買い換えよりも修理がいいですね」

 

 「……お金があらへん」  

 

 「え?」

 

 「主席合格して学費免除の予定やったのに、2位で80%免除。アルバイトもまだ研修中さかいに時給より低いし諸々込みで足りへんし」

 

 途端に京言葉で恨み言をつらつらと述べていく。その姿に一種の恐怖を覚えつつも限りある記憶を辿る。入試2位の女学生だろ。確か、さ、さけ……?

 

 「さけより?」

 

 「酒寄(さかより)です」

 

 そう。酒寄さん。別のクラスだし分からなくてもーー言いわけじゃないみたいだ。

 

 だからって恨みを買われるのは違うと思うし、こればっかりはどうしようもない。

 

 「まだ査定がありますけど、もし売るのであれば親御さんなどの許可の為に免許等の証明書が必要ですが」

 

 一瞬の硬直と視線が泳ぐのが目に見えて分かった。金欠で頭いっぱいになって忘れていたみたいだ。

 

 さっとスマコンを取って何も言わないままそそくさと店を出ていってしまった。

 

 これが後に重大な出来事へ繋がるーー富士 歩人(ふじ あゆと)と酒寄色葉の初対面だった。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 就業を終えて帰りの準備をしている最中、酒寄さんの事を思い出す。

 

 発言を汲み取ると必需品とも言えるスマコンすら売却しないといけないのが引っ掛かる。メール機能もあるから実質連絡手段の側面もある。

 

 俺と同じで家が貧乏とか、親が病気で支えないといけないとかか?それだと途中で出てきた京言葉が納得できない。前者は俺と同じだが、後者は病人を置いて出ていくなんてのは考えにくい。

 

 色々と憶測してしまうが結局何も分からない。諦めるようにロッカーを閉め裏口から店を出る。電気街にあるとはいえ、裏通りに店を構えているので灯りは少ない。

 

 『ここは、どこ?』

 

 「ん?」

 

 声が聞こえたような気がして周りを見渡す。まだ他店は営業中でも人の影は見えない。何かの聞き間違いか?

 

 『いつもと違う場所』

 

 『まるで、私がいるのと同じ場所』 

 

 聞き間違いではないと悟る。もう一度周りを見渡すが、やはり誰もいない。

 

 『でも、ここよりずっと楽しい場所なんだろうなぁ』

 

 幽霊を信じるかと言われたら信じない方だ。科学がどうとかじゃなくて単純に出会ったことのないものを信じろという方が難しい。言葉にするより行動で示した方が早い。

 

 もし今聞こえた声が本当に幽霊なら信じるしかないし聞いてみたいこともわんさかある。心霊現象の起こし方とか興味しかない。

 

 そそくさと明るい電気街に向かって歩いていく。一旦、一旦ね。心の準備してからもう一度突入するから。

 

 広場に出て一呼吸置き、再度突入する。さぁ、来るなら来い!

 

 『仕事やらなきゃ……』

 

 報告。どうやら社畜の幽霊みたいです。なんか一気にやる気が失せた。明日も学校だしさっさと帰って早めに寝よう。

 

 とぼとぼと帰路に着くなか、一件のメッセージが送られてきた。地元の友人だ。

 

 『今日【ツクヨミ】来れるか?』

 

 『用事あって無理。ログインだけする』

 

 『おけ。ところで抽選当たった?』

 

 抽選……そういえばゴールデンウィークにやる月見ヤチヨのライブ抽選の発表があったっけ。どっちでも良かったけど友人が行きたいからって応募したやつ。

 

 一緒に登録してあるメールアドレスからメッセージを開くと、そこには【当選】の報せがあった。

 

 『当たった』

 

 『マジで?!今回めちゃくちゃ倍率高かったのに?!』

 

 今回っていうよりいつもじゃない?一応トップライバー兼運営者だし。

 

 詳細を見るとライブ席に加えて握手券と一緒に写真撮影券も付いてくるらしい。世界にもファンがいるのに時差をどう合わせるんだろうとかどうでもいい疑問を抱く辺り本当に興味がないんだと感じる。

 

 『さっき緊急の配信があって、今回のライブの握手と写真撮影、いつもなら分身がやるけど1体だけ本物が混ざるって発表されたんだよ!』

 

 返事が遅いなと思ったら長文が来た。当たらねーよ普通に考えて。

 

 チケットは1枚で本人含む2人までOKの招待制なのでいよいよ男2人で行くことになる。

 

 アホらしいとも言えないし、本当に行きたい奴が落ちてっていうのも気分悪いし。行くしかないか。

 

 GW最終日の夜に開催されるイベント。周りのテンションについていけるだろうか……そういうの得意じゃないんだよな。

 

 頭を項垂れながら再び帰路に着く脚を動かし始めた。




ごめん、やっぱ俺ボーイミーツガールの必死に頑張る男の子が好きだわ
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