綾紬芦花はどのタイミングで特別な感情を抱いたのか!
この感情がどういった特別なのかははっきりと明言されていませんが、もし皆さんが想像されているものだった場合それはいつ芽生えたのか?自分はある程度時間が経って無理しながら頑張る色葉を近くで見ていてー、なんていうベッタベタな展開でも好きですけどね、はい。
GWに入った。土日を含めその後月~水の3日間日程なのでヤチヨライブは水曜日に行われる。
連休に入るまでの学校生活は変わらずーーと、言いたいところだが。
「ここのパンケーキ、気になってたんだよね~」
土曜日のバイトが終わり日曜日。部品探しのついでに街の散策に出掛けると一人の女子と出会ってしまった。出会ったというより行列に並んでいた彼女が気付いて手を振ってきた。
彼女の名前は諌山真実さん。【ツクヨミ】ではグルメインフルエンサーとして活動しているようで界隈では有名らしい。あとは同じクラスメイト。
GW前に酒寄さんをライブに誘ったのを聞いていたらしく、チケットが当たった自分の豪運にあやかろうとしたのがきっかけ。【ブラックオニキス】のファンミーティングの抽選が当たらず悩んでいたところに勝手にやってきた。急に目の前で祈り始めた時は恐怖を感じた。
「富士君は甘いの得意?」
「どっちでもないけど……なんで呼び止められたの?」
「カップル割があるらしくて~。酒寄さん狙ってるのは知ってるけど、ここは人助けだと思って」
なるほど、そういうことね。
「狙ってる?」
「だってこの時期にもうデートのお誘いなんてそうそうしないよ。しかも学年2位の優等生!まぁ、1位の君だから出来るんだろうけど」
「デート……」
「もしかして自覚症状なし?」
「じゃあ今の状況は?」
「偽装カップル作戦!」
スパイの真似事をするように拳銃を顔の横で構える諌山さん。彼女の雰囲気から言ってスパイは無理じゃないかな……
「正直な話、富士君はイケメンだけどタイプじゃないからね~」
そんなことを言われながら注文したパンケーキが届いた。三段重ねにチョコレートソースにホイップクリームがたっぷり載っている。見てるだけで普通に胃に来る感じがして、先に来ていたホットコーヒーを啜って誤魔化す。
「おぉ~……私的にはこっちの方がビジュは良いねぇ」
様々な角度で写真を撮っていく。【ツクヨミ】だけじゃなくてもその他のSNSで載せればそれを通じてファンになることだってある。
今から動画編集して、とか何とかやってたら連休に間に合うか分からないだろうし。
「富士君は男女の友情は成立する派閥なんだね」
一通りの写真を撮り終え、いよいよナイフとフォークに持ち替える前にそんなことを聞かれた。
「私もすると思ってるけど、どこかで変わっちゃう出来事があるんじゃないかなーって。だから成り立たないって人もいると思うんだよね」
一口サイズに切ったパンケーキを食べ、ふわふわの食感に笑みを溢す。変わる出来事、か……
「例えば、帝、だっけ?その人が告白してきたらどうする?」
「んぐふっ」
むせる諌山さんに紙ナプキンを差し出し落ち着くまで待つ。変な質問しちゃったか。
「帝様ーー推しと付き合うは違うよ。憧れは憧れ、恋は恋。知らないところがあるから好きでいられる……的な?」
今の関係を変えないために敢えて追求しないってことか?性格的に踏み出したら止まらなくなるかも。踏むのに時間かかるけど。
「そもそも酒寄さんと恋仲になりたいとかじゃないし」
「じゃあなんで誘ったの?」
「友達になりたいから」
正確には罪滅ぼしの側面が大きいけど、これを機になれたらいいなぐらいには思ってる。
「距離の詰め方が早いよ。それならもっと段階踏まなきゃ」
フォークでパンケーキを上から数えるように触っていく。段階を踏むか。モノづくりはトライ&エラーの繰り返しだけど、人間関係はそうはいかない。一回間違えれば修正が効かない時もある。
「ならこの作戦をしてる自分達の間柄は?」
「ビジネスパートナーかな?」
カップル割を使うために名前くらいしか知らないクラスメイトを招く。ビジネスパートナーってそんな関係だったっけ?
「そもそもこうやって一緒にカフェに来てるから友達かな」
最後の一口を食べ終え手を合わせ、ジュースを飲み干し一息つく。
「急に付き合わせちゃってごめんね」
「別に気にしないでくれ」
会計先のレジに向かうと店員さんにカップル割の証明を求められた。3つの内の条件に当てはまる恋人繋ぎを見せつけ、そのまま自分のふじゅ~ペイで支払った。
「やっぱりこういうの慣れてるんだね」
「何が?」
「何でもな~い……お金、ふじゅ~で返してもいい?」
返してもらう気などさらさらなかったが、本人がそういうなら貰っておこう。
パタパタと駆けていく真実さんの背中を見送りながら彼女に言われたデートの言葉を思い出し考えるも、まともな回答なんて出てこなかった。
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GW最終日の夜。
待ち合わせの場所に向かうと既に酒寄さんがファングッズを持って待っていた。真実さんに指摘されて少し悩んだが、向こうはそんなこと思ってないみたいだ。
和装を基調にしたパーカーにキツネ耳のスキン。少ししか知らないけれど、普段とは違った印象を受けた。
「ごめん、待たせて」
「こっちが速かっただけ」
そそくさと足を速めて行ってしまうのを追いかける。やっぱり唐突過ぎたか?
チケットを見せてライブ会場に入るが、こういうのは行かないからどこがいい場所なのか分からない。
「今回のセトリを参照するにあっちの方が見ごたえあるかな」
こっちを見ることなくさっさと移動する酒寄さんの後に着いていくのに必死だった。
「こういうのよく行くの?」
「抽選は毎回してる。当たるかどうかは別として」
なら任せた方がいいな。
キョロキョロと辺りを見渡しここだと確信した様子でうちわやらのグッズを取り出す。どうやら楽しむ事に集中するみたいだ。
自分も黙って隣で始まるのを待つ。開演まで10分は切っている。
意識するな意識するな意識するな意識するな意識するな意識するな意識するな!
アルバイト先でも散々ネタに擦られてしまったけれど、これはデートとかじゃ決してない。普段は持ってこないグッズまで持ち込んだし、悪いけど隣はいないものとして全力で楽しむ!
ヤチヨの曲を脳内でひたすらリピートする。だいたい同級生の女子と出掛けるのにツナギの作業服スキンで来るような奴と何がある。ただ経験値が少ないからこうなってるだけ。
やがてライブ会場の灯りが消え、鳥居型のステージに立つ人影が見える。月見ヤチヨのライブが始まった。
「ヤオヨロー!連休最終日でも最後まで全力で過ごす為に、今宵も皆をいざなっちゃうよー!」
水面がライトに照らされ、キラキラと七色に彩っていく。ヤチヨの歌声とともにホログラムの魚群が空中へ舞っていく。様々な演出の圧巻に私の頬は紅潮していた。
1曲目が終わり呆けていると隣の視線に気付き思わず振り向いてしまう。
「なに?」
「いや、連れてきて正解だったと思って」
初心者の自分でも分かるライブ構成。VR空間とはいえ、光彩技術の使い方からあらゆる面で人を感動させるエンターテイメントととして出来上がっている。本人の歌声が殆どだろうが、魅せ方一つで何もかもが変わる。
でも自分的にはこういった技術とかで感動が芽生える瞬間が一番いいなって思う。実際、彼女のライブに釘付けになっていた酒寄さんに一瞬見惚れていた。
続けて2曲目が始まりライブも更に盛り上がっていく。やっぱりこういう空気には慣れない自分がいた。
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いつも通りにライブ進行している様に見せているけど、内心はパニックになっていた。
FUSHIの報告によるとどうやら彩葉がこのライブに来ているようだ。
登録が消え抽選も取り消しになったから現れないと油断していた。2人1組のペアチケットで入ってくるとは考えてなかったから。
誰と一緒に来たんだろ?帝……な訳ないし、真実や芦花とか?
気になってFUSHI に入場リストを調べて貰ったところ、【アユト】なるユーザーと一緒に来たことが1曲目終了後に分かった。
「(誰ぇ?!)」
私も全然知らない人物の登場が更にパニックを加速させる。誰とでも繋がれる今の時代だからこそ、同じ推し同士が集まるのは分かるけどーー彩葉が男と来るのが想像できない。
初ログインした時にはようやくここまで来たと泣き崩れ、退会した時は生きてきた8000年で一番慌てふためき、また姿を見せた時は……後半に関しては仕方ないことなんだけど。
今度は男と来てるときたもんだ。ちょろいのは私だけにしてほしいもんだね全く。ま、私のライブという特大の餌に釣られるのは仕方ないか。
全てのセトリを終え、残るは握手会のみになった。本当なら分身体に任せるけど、色葉と来てる奴がどんな人間なのか見てみたい。クズ野郎だったら意味もなく垢バンしてやる。
本物のヤチヨがアユトの元へと到着する。オオカミスキンは良しにしても、仮にも女の子と来てるのにツナギの作業服は舐めてんのか。
ま、様子を見るに行けないはずだったライブに行けるチャンスが来たから反射的にOKしたってところかな。
「はい、特典の握手」
「俺じゃなくて酒寄さんにーー」
「まぁまぁ、ほら」
両手を手に取り少し力を加えて握りしめる。彩葉に悪いこと吹き込んだら許さんからな?
にこやかな笑顔と裏腹な握力に戸惑いながら握手を受け入れる。もうちょっと弱めて貰ってもいいんじゃーー?
一瞬、ヤチヨの顔にノイズがはしった。違和感を感じる前にもう一度ノイズが現れ、やがてそれはヤチヨ全体を包み込む。
衣服はピンクの着物を基調にしたものに変化し、髪も金髪になり表情は笑いながらも別人に変わってしまった。
『どうして助けてくれなかったの?』
聞いたことのある声だった。確かーーいつかのバイト帰りに遭遇した社畜の幽霊だ。
『私がいたことを知っていたのに』
笑いながら涙を流す彼女に心が苦しくなる。
『この孤独が貴方に分かる?』
違う。ーー何が?何が違うんだ?どうして違うと思ってしまったんだ?
「……違う」
「へ?」
「違うんだ、かぐや!」
思わず叫んでしまい、酒寄さんもヤチヨも目を丸くしてしまう。 かぐやってーー誰だ?
自分でも訳が分からず、ヤチヨの手を無理やりほどき逃げるようにログアウトした。
討論終わりました?
一旦、サブタイトル考え直したいと思います。