GWが終わった。
突然の出来事に塞ぎ込むようにベットに潜り込み、忘れるように目を瞑り眠りに落ちたが、逆効果だった。
時間にして8時間以上の睡眠をしたのに、頭に鈍痛が響く。
夢の中で見た光景。理解させる時間も与えないまま、映像だけが流れ続けた。
「月人……」
夢の情報を鵜呑みにするなら、月には住人がいるらしい。しかも、この間に見た宇宙侵略のB級映画の夢に出てきたやつらそっくりだ。
近い内に惑星戦争でも起こるのか?何とかして太刀打ちしろってことを伝えたいのか?俺一人で?無茶苦茶な話だ。
それにかぐやという少女に関して。もしかして自分が忘れているだけで出会ったことがあって、何かの事故に巻き込まれたのに見捨ててしまったとか?
仮にそうだとして、どうしてそれを思い出すきっかけが月見ヤチヨなんだ?
「……学校行くか」
重い体を何とかして動かし準備をし始める。これから待ち受けるのは中間テスト。とは言っても殆ど中学内容の応用がメインになってくるから問題はない。
休み明けの学校は現状の自分とは違い以前よりも賑やかになっていた。
一緒に近場に遊びに行ったりして交流を深めたり、もう完全に各グループが出来上がっていた。
ひっそりと自席に座りながら、夢に出てきた事をノートに書き記していく。情景を箇条書きにしーー後に出てきた謎の数式も。
謎とはいうけれど恐らく量子力学とかの類いだ。全く分からん。なんてことはないが、参考書片手にしないとやってられん。
一番手っ取り早いのはヤチヨに直接聞くことなんだが、大スターがいちユーザーの為に時間を取ってくれるはずもなくーー
「あ」
勢いよく立ち上がり教室を出て、向かうのは酒寄さんのいる教室。始業までまだ多少の時間はある。
外から酒寄さんを見つけるが、向こうもこっちがギリギリ視界に入ったのかあからさまな様子でそっぽを向かれてしまった。そりゃいきなりおいてけぼりにされれば誰でも怒る。
「作戦失敗?」
「……諫山さん」
「飛び出してくの見えたから、どうしたのかなーって」
諫山さんを教室へ方向転換させ背中を押して戻っていく。詳しく話すにしてもどこから話そうか分からない。
「話したくないならそれでもいいけど、そう気を落とさずに。テストが終われば校外学習もあるし、それとなく合流してチャンスを伺えばいいよ」
校外学習ーーそうだ。校外学習の行く先は静岡県。自分の地元だし案内も多少はできる。
今回のことは経験として、今度はちゃんと段階を踏んでーー
その時、自分と諫山さんのスマートフォンが同時に鳴った。それ以外のスマートフォンも遅れて鳴り響く。メールを開いた差出人は【ツクヨミ】公式からだった。
【みんなの為にわんわんお!忠犬オタ公で~す!
緊急連絡の為にメールで失礼するよ!
なんと!昨日のヤチヨライブに引き続き、ヤチヨがコラボ
動画を出すことを決定しました!お相手は~このメールを見
てるそこの貴方!以下の暗号文を解き、正解したユーザー先
着1名とコラボしちゃいま~す!】
相変わらず賑やかな文体だ。けどメールで出すってことは本当に突然の決定なんだろう。
「コラボ動画企画だって!……う~ん。これ、分かる?」
「暗号文は基本的に法則があるんだ。それを読み取れれば簡単だ」
同じように画面を見て、一瞬硬直した。時間を確認して画面を消した。
「……もうすぐ予鈴だ。後からにしよう」
諫山さんを宥めながら、自分達は自室へと戻っていった。
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時は過ぎ、放課後。
酒寄さんの件もあったが、それよりも気になる点があった。
【ツクヨミ】から送られてきた暗号文。それを読み解き問題文と回答を送ると、リンクのURLが届いた。
【ツクヨミ】にログインしてURL を開いたその先に辿り着いたのはーー
「関係者以外をここに呼ぶことがあるなんてね……人と呼ぶのが正解かは分からないけど」
目の前に座るヤチヨ。恐らくここはヤチヨ城の最上階に位置する場所だ。
いつもの様子とは明らかに違う雰囲気に、直感でただ事ではないと判断する。どうやら相手も自分に関して知りたいことがあるようだ。
「【かぐやについて知りたいか?】……だったな。回りくどいことしなくてもアカウント特定ぐらい出来るはずだろ」
「形式上やっとかないとね。街中で触れ合う程度ならまだしも、個室に呼んでなんてことがバレたらそっちも後から面倒になるよ?」
ハメられたというかなんというか、改めての確認か。
「まずは君の質問に答えようか。お互い順番にね」
「自分はかぐやに会ったことあるのか?あるとして何で忘れた?どうしてーー」
「順番に、だよ。でも会ったことはないと思うから安心して」
回答を聞いて一先ず安心する。聞きたいことはまだあるけれど、とりあえず今度は向こうの番だ。
「今度は私だね。君は誰?」
誰ーーこの聞き方に違和感を感じる。最低限のプロフィールならアカウントから見れるはずだ。つまり、自分じゃない、別の誰かに聞いている。
「ユーザー名は【アユト】。実名だ」
「……そっか」
納得する答えではなかったみたいだが要件は満たしている。実際、自分のことは何も思い出していない。
「月人は何をしようとしてる」
「…………」
「夢で出てきた。最初はなんかの映画のワンシーンかと思ってたけど「来るんだよ」ーー?」
「2030年に来る。でも侵略じゃない。自分達の仕事を全うするだけ」
じゃああれは予知夢?仕事を全うするってどういうことだ?
ヤチヨは一瞬目を伏せ立ち上がると、自分の横を通って目前に広がる【ツクヨミ】の城下町を見下ろす。
「太陽と月は決まった時間に回る。それは誰にも変えられない。これから起こる未来もそう」
自分が知らない神妙な顔つきをするヤチヨ。配信は見ないし、たまのメディアでしか見かけないので新鮮な感覚を覚えた。
それと同時にどこか悲しそうな様子もありーーむず痒くなる。
「未来を諦めろってことか?それは無理な話だな」
立ち上がりヤチヨの隣で柵にもたれかかる。正直な話、現状も彼女が言ってることもまともに分からない。
「自分のせいで両親が別れちゃってさ。もし自分がいなければ二人はまだ一緒に過ごしていたのかなって未だ思うよ。ま、俺ももうちょっと物分かり良くなったら3人で話し合おうとか考えてるけど」
「失った過去は未来で取り戻す。相手の目的がなんであろうと、最後まで抗う。そんでーーちゃんとかぐやに謝る。会ったことはないけど、ひとりぼっちにして悪かったって」
ヤチヨと目が合って、自分の言ってることの意味不明さが際立つ。苦笑いしながら視線を泳がした。
「……変な奴」
「よく言われるよ。じゃ、早速やりますか!」
結局なーんも分かんなかったけど、月人とやらの好きなようにはさせない。それだけを抱えてログアウトした。
「…………」
本当に変な奴だ。自分の知りたいことろくに分からなかった癖に勝手に納得して、何も知らないのにかぐやを救えるつもりでいる。
「ヤチヨ」
「FUSHI 。彼のことなにか分かった?予想だと何かの事情で記憶を失くした月人だと思うけど」
「えっと……まずは、普通の人間であることは確かだよ。ただその、事態はもっと深刻みたいで」
いつもと比べて歯切れの悪いFUSHI 。小さなその体を持ち上げ目線を合わせる。
「実はーー「ヤチヨー!」」
「もうそろそろ配信準備し始めるから来てー!」
呼びに来た忠犬オタ公に向かって頷くヤチヨ。
「話は後からでもいい?」
「……うん」
その場からヤチヨは姿を消し、誰もいなくなった部屋にオタ公は確認するように中に入った。
「輪廻が崩れ始める。後はーー外側からの介入がなければいいけど」
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中間テスト期間中は図書室に籠りきり宇宙に関して調べ尽くしていた。
寝る間も勉強する間も惜しみ、とにかく今の人類が持つ叡智を読み込み、名のある教授が公開している動画も読み漁った。
結論から言おう。何にも分からん。そもそも文明とかあんの?誰か住んでるなら衛星とかが観測してるはずだ。正体不明なら宇宙基地が秘匿にしてるとか考えられるけど。
映画作品を参考にするなら妥当にラ○トセーバーでも作るか。作れるかあんなもん。
一人で【ツクヨミ】廃止運動するか?2030年って2年後だろ、間に合わんし信じる奴なんていやしない。
「仕事を全うする、か……」
解き終わったテスト用紙を裏返し小声で呟く。侵略行為を本当にしないとするなら調査とかしに来るってことか?でも最初の夢じゃ調査じゃなくて抗争っていった方がしっくりくる。
「(月、かぐや……竹取物語?)」
各所には昔話の舞台になった名所や伝説もあるし、それが本当だとするならかぐやってかぐや姫のことか?じゃあ仕事って地球から月へ連れ帰ること?
でもそれだとヤチヨは?事情を知ってるってことは月人なんだし、原作通りの展開なら登場人物としてはどこにも当てはまらない。存在意義がない。
頭の中がこんがらがる。監督教師の机を叩く音で我に返り、初めてのテスト週間はある意味無事とは言えないまま終わった。
結局のところ月人とは?という部分も二次創作特有の特性を活かして触れていこうと思ってます。深く掘られてないから設定盛りやすいしね!