幸紀と綾紬さんが並んで店に向かうなか、現在のならび順はというと、先陣2人の後ろに自分と酒寄さんと、画面の中にヤチヨの3人。
更に後ろに諫山さんを筆頭にグループに固まる他のメンバー。なんかカーストみたいになっててこの感じ嫌だな。でも今のところヤチヨが黙ってるし、とりあえず店に到着するまでこのままでもいいか。個人的に話したいこともあるし。
「…………」
「…………」
話したいこともある。しかしそれはそれとして凄く気まずい。初手の一言を誤ったら余計に拗れることを予感して何も言えずにいる。
「あそこまでの雰囲気になるって、何やらかしたの?仲直り作戦は聞いたけど難しいよ」
「とりあえずお店の席順は彼らを正面に座らせようか。男子組もサポートお願い」
「イ、イエッサー?」
いやに真剣になる真実に女子側も困惑している。確かにギスギスしたままなのは居づらいことは分かるけど、こういうのって本人達の問題だと思う。
結局道中には何もないままお店に到着してしまう。 割烹料理【光】。大通りより少し外れたところにあった。
「【光】?!」
「知ってるの?」
「知ってるも何も、一見さんお断りの高級和食だよ!有名グルメインフルエンサーなら一回は入りたいって噂の!」
「昼営業だから値段設定は高くないよ。無理ならアユにツケさせるし」
らしいです。はい。
「ただいまー」
「やっと帰って……あら?」
「お久し振りです」
出迎えてきた女将さんに一礼する。相変わらず年齢が分からないくらいの美貌をしている。遺伝的には幸紀も中性的よりもこっちよりになるはずだが。
「アユ君!お久し振りなんて他人行儀なこと言わないの!皆、貴方が居なくなって困ってたんだから!制服も様になっちゃって……どうして制服なの?」
「……ママ。奥の座敷空いてる?」
「えっ?……ああ、空いてるわよ。後で行くから案内してあげて。それよりアユ君。頼みがあって」
「また冷蔵庫ですか?そろそろ寿命だから買い換えてって言ったじゃないですか」
「今、夫と相談してて。最後の決め手が欲しかったのよね」
奥の厨房に連れられて行く様を見せながら幸紀にアイコンタクトをし、それに幸紀も頷き返した。
「いいの?」
「大丈夫。この辺でアユの事知らない人はいないから。Wi-Fi やテレビ、エアコンの設置。各種電化製品の修理や携帯電話の契約相談、その他諸々年寄りには疎い方面でお世話になってる人多いよ」
奥の座敷に案内される最中には綺麗に整ったカウンター席に個室、如何にも高級店のような装飾に全員が場違い感を感じていた。
座敷席には地元民と思われる集団が既に飲み始めており、観光客も舌鼓を打っている。
「6対6でいいかな」
「じゃあ男子と女子で分かれよっか!彩葉、一番奥詰めて!」
「う、うん」
憧れの店に入れて感銘を受けていた真実だったが、芦花に肘を小突かれ作戦を思い出すと叫ぶように言った。
「このままで申し訳ないけど簡単に説明するね。おすすめは定番の海鮮丼から。桜えびはかき揚げが好評だよ。アレルギーとかはメニューに書いてあるから。おしぼり持ってくるね」
壁に立て掛けられたメニュー表を取り、彩葉は恐る恐る開く。
岩焼き牡蠣1000円。地元にしては安い……のかな?東京では調理前でもっとするはずだし。でも1000円あればヤチヨのストラップ買えるし……
「こういうところでこの値段は安いの?」
「コースだと1万超えは当たり前だからね。学生の私達にはきつい」
真実を含めて皆が難しい顔をしている。推されるがままに入ったが判断を誤ったかもしれない。
「お待たせしました。おしぼりと先付けの蛤の甘辛煮。無料だからぜひ」
順番に置かれていく先付け。コースじゃないけど来たのはきっとサービスだと信じたい。
「いただきます」
皆の躊躇いにお構い無く口に運ぶ真実。全員の視線が降り掛かる。
「美味しい!肉厚だし柔らかいし……でもちょっと濃いかも?」
「学生のガキは分からんだろ」
酔っぱらいのヤジが飛んできた。幸紀が睨み返すもまるで効いていない。
「出汁で洗い流して、終わりに混ざったこれを飲むんだよ」
ようやく戻ってきた歩人が順番に出汁を渡していく。
「で、人様の生徒にヤジを飛ばすのはどこのどいつだ」
酒飲み全員が血の気が引いたように姿勢を正す。
「漁船メンテナンスと修理費まだ貰ってないけど?」
「「「…………」」」
黙りこくる大人達。そういうのって勝手にやっていいのかとか、国の認可や資格が必要なんじゃとか今言うのは野暮なので黙っておこう。
「今日の昼飯はこの人達が奢ってくれるらしいから好きなもの頼んでいいって!幸紀、俺はいつもので」
「「「えっ」」」
「じゃあ私は海鮮丼セットとアジフライ!」
続けて真実が注文する。こういう時に容赦なく続いてくれると本当に助かる。
「シラス丼と蛤焼きかな。彩葉は?」
「えっ、えっと……」
「好きなもの頼んでいいよ。大人達に任せておけばいいから」
幸紀の一言に背中を押され、日替わり定食を注文する。
「新茶を使った抹茶パフェ、おすすめだよ」
全部を見透かすような幸紀に彩葉は小さく頷いた。
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「ご馳走さまでした」
「お粗末様。会計は本当に気にしなくていいからね」
幸紀の言葉に彩葉は未だ申し訳なさそうにしていた。
「それよりさ……余計なお世話で悪いんだけど、アユと何かあった?」
「えっ?」
「いや、対面同士で座ってたけどなんかギクシャクしてーー?」
真実に腕を引っ張られて引き込まれる。訳も分からず首を傾げていると、2人の間を耳打ちされる。
「あー……喧嘩って訳じゃないけどってところか。だとしても置いて帰るアユが悪いね」
「でも彩葉も色々考えてるし、何かいい方法ない?」
「任せといて」
幸紀はスマホを取り出し何処かへ連絡し始める。丁度打ち終わったタイミングで歩人のスマホが鳴った。
内容を確認すると、歩人は真っ直ぐ彩葉の元へ向かい腕を掴んだ。
「話がある。場所、変えないか」
「う、うん」
そのまま人混みに消えていくのを見届ける連中。幸紀は呆れ気味なため息をついた。
「なにしたの?」
「背中を押しただけだよ。動き出したら止まらないけど、それまでが長いからね」
特に人間関係だと余計に。お得意のトライ&エラーなんて効かないし。
「お土産なら顔見知りの店があるから案内するよ。休みも貰ったしね」
先頭を歩く幸紀。それを横目に芦花はほんの少し怪訝な表情をしていた。
『(そんな強く彩葉の腕を掴むな!痕が残ったらどうする!)』
自分のキャラも忘れ、叫びたい欲を必死に抑えながらヤチヨは2人の動向を見守っていた。
端から見れば青春の1ページに見えなくもないが、彼女からすれば発狂手前だった。
歩人がやって来たのは周りとは違ったクラシック調の純喫茶店。重厚な赴きが如何にもな雰囲気を漂わせている。
入店の鈴が鳴り、顔見知りのマスターがこちらを確認する。反応的に一目で自分だと分かったようだが、後ろにいる酒寄さんに気がつき軽く会釈だけして奥の席へと案内してくれた。
名産のお茶所にも関わらずコーヒー派閥になったのはこの店に来るようになってからだった。休みの日曜日には必ず来ていた。
酒寄さんを上座に座らせ改めて対面する。幸紀に発破をかけられて来たがやはり緊張する。謝るだけなのになぜかは分からない。
「「…………」」
「「あの……」」
一旦の静寂の後、同時に声が出る。お互いが思わず譲り合いになり、更に微妙な空気が流れる。
『え、ヤッチョは何を見せられてるの?』
イヤホンから聞こえてくる声が耳障りに感じケースにしまう。なんでお前が苛ついてるんだよ。
でも、俺から言わなきゃ意味がない。
「この間のライブはごめん。急用っていうか……とにかく、勝手に置いて帰ったこと謝らないといけないのに、ずっと引き延ばして」
「えっ、そのこと?ここ最近避けられがちだったのって」
「えっ」
「いや、正直誘われた側からすればあーだこーだ言える立場じゃないし。それにほら」
酒寄さんの携帯電話の待ち受けにはヤチヨとツーショットで写っていた。
「あのあと残ったツーショット権利が私に移ってさ。初めてだったから凄い緊張してさ。棚からぼたもちってやつ」
「それに……私の方こそごめんなさい。バイト先で会ったとき、富士は悪くないのに虫の居所が悪かったのを理由に悪態ついて」
「いや、気にしてないから大丈夫ーー『彩葉ー!』」
「今ヤチヨの声聞こえなかった?」
「してないよ?」
「今のはヤチヨの声だった!私が聞き間違えるはずがないもん」
「げ、幻聴だよ」
「幻聴……確かに最近3時間ぐらいしか寝てないけど」
それはもっと寝ろよ。
誤魔化しが効かないと悟るなか、喫茶店のマスターがアイスコーヒーとホットミルクを持ってきた。
「いつものアイスコーヒーと、そちらのお客様にはこちらを。若いからといってあまり無茶はダメですよ」
「は、はい……」
紳士的な注意に少し萎縮しながら席に座り、酒寄さんはホットミルクを飲み始めた。よし、このまま何事もなかったように過ごそう。
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色々あった課外学習も終わり、学校に到着して帰路に着くなかでまたヤチヨから連絡があった。もう充電が20%切ってるので止めて欲しい。
『家に帰るまで遠足って言うじゃん?』
「さっきのこと忘れてないからな」
マスターのホットミルク効果と謝罪できた安心感もあってか、綾紬さんによればバスに乗った後すぐに眠ってしまったらしい。また問い詰められる前にそそくさと逃げて来た。
自分もなんだかんだ疲れたので問い詰めることをしないが、酒寄さんを下の名前で呼んだことに引っ掛かった。何か接点があるのかとバスの中で考えたけどそれも止めて今度にしよう。
「もうすぐ着くから切るぞ」
『OK……待って、このマンションに住んでるの?』
「高校生が住むには家賃高いけどな。ま、将来の為に貧乏暮らししてきたんだしこれぐらいいいだろ」
『ちなみに何階?』
「7階だけど。自宅バレは勘弁してくれよ」
『……分かってる』
ヤチヨは通話を切り、側にいたFUSHI を掌に乗せる。その表情は焦りがあった。
「あいつ、私と彩葉が住む予定のマンションで暮らしてる!階も同じだ!」
約束の刻まで、あと2年と2ヶ月ーー