時間は世話しなく過ぎ、校外学習からいつの間にか早くも期末テスト直前になっていた。ちなみにレポートは今日までなのだが、まだ終わっていない。
一人残ってせっせとレポートを書いていると視線を感じる。ふと顔を上げてみると、そこには別クラスの綾紬さんがこっちを見ていた。
「まだレポートやってるの?」
「もうあとちょっと」
「期末テスト前なのに大変だね」
「あっちは別に勉強しなくても90は取れる」
「それ、真実に言ったら怒るよ。そういえばさ、幸紀ちゃんに関して聞きたいんだけど」
「へ?」
思わぬ話題に気の抜けた声が出てしまった。綾紬さんが幸紀になんの話を?
「幸紀ちゃんはどうして男の子っぽい服装をしてるの?」
「好きだからじゃないか?それは本人の自由だろ」
何を聞かれるかと思えばと、適当に答える。今時どんな人が何の格好をしようと構わないはずだ。
「いつから知り合いなの?」
「小学校からーーそれ、知ってどうすんの?」
「別に。何となく」
なんだか様子がおかしい綾紬さん。幸紀も確か一視聴者みたいだったし、オフ会でもやるのか?
おっと、そんなことを考えてる暇があるなら早くレポートを終わらせなければ。下校完了まで30分を切っている。
「彩葉達待たせてるから行くね」
「うん」
さっさと教室を出ていく綾紬さん。……え、今の報告する必要ある?
ふと思ったが、学校で一番会話が多いのが諫山さん、綾紬さんと女子が多い気がする。男友達もいない訳じゃーー今さらだけど友達ってどっからだっけ?
今もそうだが自分は友達は多くなくてもいい派だし……でも酒寄さんはあわよくば友達になりたいと……あ、これ幸紀から言われたやつだ。
もしかして自分、何も行動を起こしてない?言われたからやってるって感じか?
「あ……」
一瞬ヤチヨの顔が浮かんだがあれはノーカン。途端に冷静になり、レポートを再開しーーもう書くスペースねぇや。ま、高校生が書くレポートなんてこんなもんだろ。
トライ&エラーなんて言いながら自分から動かないなんて矛盾ばかりのいい笑い者だ。
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期末テスト期間中もアルバイトをしながら勉強をしていた。ここ最近出費も多いからしっかり稼いどかないとな。
テストが終われば後は三者面談やって夏休み……三者面談か。親父の仕事の都合つくかな。
「将来、か……」
自分から行動を起こすとしても、やりたいことがあるかどうかだ。良いところに就職して稼いで、なんてのは当たり前だろう。
今、自分が対面している問題は月人関係なんだけどな……誰も信じないだろうし、何をしたらいいのかも分からない。
その時、スマートフォンに連絡が入った。幸紀からだ。
『夏休みにヤチヨのコラボ配信の観戦チケット抽選、頼めるか?』
「コラボ配信…………あっ」
すっかり忘れていた案件に思わず声を上げる。相手自分じゃん。観戦チケットってなに?戦うってこと?
ネット検索して調べてみると、8月初旬に生配信の連絡が告知されていた。内容は……【KASSEN VSブラックオニキス】。
ブラックオニキス。確か諫山さんが推してるグループで上位の人気グループだったはず。
普通、人のコラボ配信に他所のグループ巻き込むか?絶対目立つじゃん。やりたくねぇ。任せるって言った以上取り消しは出来ないか……
「あいつと自分。相手は帝と……あとなんだっけ。……乃依と雷って2人で3人か。」
この様子だと【SENGOKU】でやるよな。ルールちゃんと把握してないんだよな。そもそもこっち1人足りないし。
『そのコラボ配信、自分がやるんだけど空きの枠に入ってくれないか?』
『は?』
『多分【SENGOKU 】だろうし、こっち人数足りないから。ルール把握してるか?』
返事がない。
『【ツクヨミ】に来てください』
丁寧語になったってことは内心ブチ切れてる証拠だ。多少の覚悟はしてたが仕方ない。
『バイト終わり次第向かいます』
ーー【ツクヨミ】にて。
指定された場所に向かうと、腕を組んだ状態の幸紀ーー【スノー】が待っていた。
「今日はマジシャン風のファッションで。お似合いですよ?」
「まず、事の経緯を説明しろ」
「はい。そのですね……とりあえず信じてもらえないでしょうけど正直に話しますね。仮に信じたとして他言しないようにお願いします」
長くなるので割愛。
「……その、なに?ヤチヨが実は宇宙人でもうすぐ仲間が地球に来る?で、あの暗号メールはアユにしか分からないもので、自身も知るために解き明かしたと」
「はい」
「なるほど。分かったよ。それでアユの要求は一緒に配信に出てくれってことだな。それは構わないけど」
「信じてくれるんすか!」
「言ってることがバカバカし過ぎてそこまでのラインに立ててないだけだからな?実際、当日になれば分かることだし」
そうですよね。分かりきった結果に納得していると、当の本人であるヤチヨから連絡が入った。よくいけしゃあしゃあとまぁ……
「今から打ち合わせだとさ」
「なんの?」
「コラボ配信の」
「はぁ……は?」
幸紀の手を取りメールのリンクを触れる。その場から姿を消し到着したのはいつかのヤチヨ御殿。呼びつけた本人は背中を向けたまま何か準備をしている。
「こっちで決めていいって言ったのはそっちだから文句は言わせないよ。相手と約束取り付けるのも大変だったし」
「配信まであと1時間もないからこのまま続けるよ。分かってると思うけど、3人目はそっちで連れてきてね。それから今ログインしてる【アユト】の方じゃなくて【ほへと】の方でやること……聞いてる?」
振り返り目が合う自分と幸紀。ここでようやく幸紀の存在を認知したヤチヨは一瞬硬直しーー
「ヤ、ヤオヨロー!」
「切り替えが凄いな」
「配信終わったら安酒飲んで愚痴言ってそうな態度だ」
「初対面なのにすごい毒吐くね?!」
俺もびっくり。ライブ抽選とかしてるしファンじゃないのかよ。
「まぁ、3人目だ。お前の内情も説明してある」
「内情?」
「宇宙人から全部」
「なにしてんの……いやほんとになにしてんの?」
「これから仲間になるのに隠し事はダメかなって……」
「ヒロインみたいなこと言って誤魔化せると思うなよ」
実際のところあんまり信じてないし、8000歳を生きてる設定もどうだかと思うが。
「でもヒロインで言ったら君の前アカウントはバ美肉だし、間違いではないか」
ばっちり把握されてるし。東京の高校行くからって受験勉強の為に【KASSEN】止めて、そのまま動かしてなかっただけだが。
「今さらなんだけどなんでこんなに馴染んでんの?」
「個人情報を人質にされてるだけで馴染んでる訳じゃない」
「えぇ……」
「んで、もう終わりでいい?」
「細かいことはまた連絡するから帰ってどうぞ~」
お前から呼んどいてその態度はなんか腹立つな。
「ユキ、肩慣らし付き合ってくれ」
「俺がやろうって誘った時ははぐらかすくせに」
「今回だけだ。仕方ない」
ユキと一緒に【KASSEN】のプライベートルームーーいわば練習場に赴く。
「武器種は?」
「なんでもいい」
「はいはい。ヤチヨはユーザーと距離近いってのは知ってるけど、アユは違うな」
「と、いうと?」
「なんか……身内?みたいな。姉と逆らえない弟みたいな。事情がどうこうあるとはいえ」
弟の校外学習に無遠慮に付いてくる姉貴なんて嫌だね。
「んじゃ、やりますか」
「おっけー」
幸紀は3本の矢を弓に構える。一番めんどくさい武器で来るのかよ。
「容赦はなしだ」
鬱憤を晴らすように放たれた矢を打ち落とし、明らかに肩慣らしではない練習が始まった。
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「夏休み入ったらそっち行ってもいい?」
「そっちって、東京に?何もないぞ」
「そっちに何もなかったらこっちなんてもっとないじゃん」
【KASSEN】の練習を終えて満足した様子で肩を叩かれた。自分がこれを辞めた理由は話したし納得はしてくれたけど、本人はつまらない思いをしていたのだろう。
「どうせホテル代浮くからとかだろ」
「せいかーい。ま、いいだろ?」
「後で住所送っとく。決して、誰にも言うなよ」
「敏感になりすぎだろ……」
携帯電話乗っ取られた挙げ句、休みに意味のないモーニングコールされて叩き起こされる自分の気持ち考えたことあるか?ないだろ?面白半分でやってくるんだぜ?
どうしようもならない夏はもうすぐそこだ。