期末テストやら何やらが終わって、三者面談……は親の都合が着かずメッセージのやり取りを見せながらの二者面談になった。
具体的にこんな仕事をしたいとかはまだはっきりしてないけど、自分の得意分野的にも理系を選んでおいた。今の成績ならどこの大学も行けると言われたし。
高校初の夏休みは皆ウキウキで迎えていた。噂によれば諫山さんと酒寄さんはそれぞれヤチヨとブラックオニキスのコラボ配信観戦に当選したとか。こっちはそれどころじゃないんですけどね。
7月中に殆どの課題を終え、残っているのはやりたい人がやるような読書感想文みたいなもんばかりになったタイミングで幸紀がやってきた。たくさんの宿題を抱えて来たことは明らかに押し付ける目的があったと見える。
宿泊した翌日には綾紬さんらのメンバー4人で遊びに行ってくるとか。マジでビジネスホテルとしか思ってないだろ。1個前のスマコン持ってきてくれたことには助かるが。
残った7月は大きめの図書館に通いながら月人対策を模索し、【ツクヨミ】にある科学ツールを使ってシミュレーションしてーーやってること大学の研究者かよ。
「よっと」
「邪魔するなら帰れ」
「はいよ~……って、酷くない?!」
声だけでヤチヨと判断し、ため息と一緒に頭を抱える。分身も出来るとか知らないけど、勝手にプライベートに来るの止めてくれませんかね。
「アオハルの夏休みにぼっちで過ごす君に会いに来たよ」
「来なくていい……おい、勝手に触るな」
自作した剣と盾を構え遊び始めるヤチヨ。こいつ本当にいい加減にして欲しい。
「【KASSEN】で実装するには遊び心がないね」
「そんなつもりはない。あとこれはこうするの」
剣先から盾をスライドさせ刀身と合体、ポケットに入れていた鍵を柄にある鍵穴にロックさせると、剣先が扇状に広がり盾が固定される。
「おお!」
「普段は剣と盾で堅実な立ち回り、チャンス時には合体させて斧モードで豪快にって感じ。盾には改造した感知モーターを内蔵してあって衝撃を受ける度にエネルギーを貯めて、剣を研ぐと威力なり切れ味が上がって、斧状態は衝撃と一緒に爆発を起こせたり出来る」
「格好いいけどやりすぎじゃない?」
「未知の相手にはやり過ぎてなんぼだろ。問題は重すぎて斧モードがろくに機能しないことなんだけど……筋トレするか、補助装置作るか」
「筋トレなんていらないでしょ」
「【ツクヨミ】で振り回すんじゃないんだぞ」
「え?」
「は?」
「「…………」」
え?どういうこと?現実世界でどうのこうのするんじゃないの?侵略じゃないとかは言ってたが、一応そうなった時ように色々考えてますけど。
「ほ、補助装置っていうのは?」
明らかに話を剃らしたな。いや、現実世界じゃない方が自分的には大助かりなんだが。
「簡単に言えばブースト装置だ。武器に取り付けて威力や取り回しを上げたり、脚に着けて機動力上げたり。丁度良い、試してみるか」
【KASSEN】練習モードのステージにて、ヤチヨと自分を転送させる。武器のハンマーを担ぎ脚にブースト装置を取り付けてギアを回す。
「これで機動力と跳躍力向上だ……っと!」
試しにジャンプしてみると想像より高く飛んでしまった。まだ調整が必要か。
素早く装置を取り外し今度はハンマーに取り付ける。より速く、推進力が増したハンマーを一直線に叩きつけ巨大なクレーターが出来上がる。
「じ、地面揺れた~!」
「慣れる前に体がいくかな。あと単純に被害がでかそう」
肩を回しながら使用した感触をメモしていく。短剣とかならエネルギー派でリーチ延長か、あとはーー
「本気でやるつもりなの?」
「いざとなったらな」
「ーーこうなったら全部言うけど、月人は死なないの!そもそも肉体がないから現実に来てもその環境に合わせて体作るし、なんだったら電子の思念体だから【ツクヨミ】のアバターだって乗っ取れる!君が乗っ取られたらそもそも終わりなんだよ!」
「それは良いことを聞いた。まずは乗っ取られないようにプロテクターから作らないとな」
「ーー人は、死ぬんだよ?」
予想にしていなかった返事に思わず振り返った。いつものハイテンションな様子もなく、神妙な顔だった。
分かってる、なんて簡単に言えない状況に戸惑った。でも【ツクヨミ】内で戦えるなら死ぬ状況はまずない。
「分かったよ。無理はしない」
作業の手を止めて後片付けを始める。また夜中に見てないところで始めよう。
「明日、よろしくね」
「はいはい」
そういや明日、コラボ配信か。それもついでに来たのか。
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翌日。
現実時間にして20時。ヤチヨとユキ、そしてブラックオニキスの面々は顔を揃えていた。【KASSEN】のギャラリーはここ最近では珍しいまでに満席を獲得し、応援席も互いのファンが真っ二つに分かれている。
「芦花って応募してたっけ?」
「行けなくなった友達が譲ってくれたんだ」
本当は4人で遊びに行った時に幸紀ちゃんから招待券で貰った。2人は知らないが、出るのも彼女と富士であることも。
当のユキちゃんはーー【スノー】という男性アバター。身バレ防止か何かだろうか。そして……肝心の富士が見当たらない。
「ヤチヨのコラボに遅刻とはええ覚悟してますなぁ」
「彩葉、京都弁出てる」
会場からもブーイングが出始めている。あいつ本当に何してるの?
「連絡取れたー?」
「いや、あの、すいません。寝坊らしいです。5分以内に来ると言ってますので、本当すいません」
「俺達も暇じゃないし、ヤチヨもどう責任取るつもり?」
「乃依、相手は素人だ。多少は眼を瞑れ」
男性アバターで可愛らしい女子服を着こなす乃依を宥める兄の雷。気遣いとかそういうの無しで、完全にこちらの失態なので頭が上がらない。
【ほへとがログインしました】
上空に表示される文字と一緒に現れた【ほへと】。黄色と黒を基調にした和装に左腕に装備された砥石小手。淡い銀色のロブヘアー。背中には武器の太刀を背負い、右耳には髪に隠れるようにイヤリングを着けている。
「夜更かしするんじゃなかった」
「「なにしてんだよ」」
両サイドから蹴の蹴りは反論できないのでそのまま受け止めたーーなんか急に静かになったな。もっと罵倒されるかと思ってたけど。
「ヤチヨ、こいつ本物なのか?」
「んー、どうだろうね」
ヤチヨの一言にざわめきながら、観客の殆どが一斉に【ほへと】のプロフィール画面を見始める。
『【英雄極まる】ほへと』
本物だと、観客の誰かが叫んだ時、また会場のボルテージが跳ね上がった。派閥とか関係なく、【KASSEN】プレイヤー全員が盛り上がる。それは彩葉達も例外ではなかった。
「変えてないんだ、【二つ名】」
「時間なかった。恥ずかしいから見ないでくれ……」
【極まる】の二つ名は【KASSEN】の3つのモードにてどれかを1000勝すると貰えるもの。これは古参やガチ勢なら持ってる者も多い。
問題は前称号の【英雄】。彼にしか持たない称号ーー及び、通り名だった。
以前に起こった【KASSEN】においてのチーター問題。攻撃力・防御力ともに無限。今では仕様として実装されているが、【武器破壊】という概念もチートとして最初は存在していた。
攻撃も防御も不能という蹂躙が襲いかかり、公式も早々に問題解決に手を打つもほぼ組織規模によるものーーいわば数を使ってふじゅ~を稼ぐ犯罪行為。このゲーム、勝てば僅かでもふじゅ~が手に入るし。
一向に足取りが掴めないまま被害が大きくなっていくなかで一般プレイヤーも取り戻そうと躍起になったが、簡易ウイルスのばら撒きもあって一時はサービスが終わろうとしていた。
そこに現れたのが彼女だった。
チーター成敗とともに駆けつけた公式がようやく嗅ぎ付けたチャンス。無様な敗北に暴言を吐くチーターに対し彼女の言葉はーー
「処分は公式に任せる。住所や顔がバレても誹謗中傷はなしだ」
あらゆる面で勝ち目がなかった。【英雄】の称号も1プレイヤーを待遇しないように運営が与えたネームプレートみたいなものだ。
「あのログ、未だに見返すことあるよ。攻撃全回避、ノーダメ制裁、人智を逸した反射神経……ああいう人がプロになるんだって本気で思った」
彩葉の瞳がヤチヨを見るそれと同じになっていた。それ程までに【KASSEN】においては彩葉を夢中にさせる存在だと芦花は思う。
あれ、ほぼ毎日学校で顔会わせてる奴なんだけどね。しかし驚いた。超のつく有名人じゃん。
「遅れてきたのに俺達より目立つのズルすぎない?」
「目立つのは分かるが……どうする帝。【ツクヨミ】の救世主だ。生半可な相手じゃない」
「ヤチヨコラボで俺達を呼んだのも、ここで再始動宣言ってか。踏み台扱いは気に入らねぇな」
とは言いつつもやりあえる嬉しさが顔から滲み出ているのを見て雷はため息を漏らす。乃依の方も明らかにテンションが下がっている。目立つよりも帝を笑わせている事に不機嫌なようだ。
「今宵も元気にわんわんお!実況の忠犬ヲタ公です!なんと!遅れてやってきた選手はまさかの英雄【ほへと】!SNSでは更に大バズりし同接も未だ上昇中!2年ぶりのログインに勢い止まらず!」
熱い実況と連投され続けるスパチャに慌てながらも呼吸を整え意識を集中させる。
「で、どうする大将?」
「大将……ヤッチョが?お助け役だよ?」
「指示出しは得意じゃないからな。やれと言われたことはやる。幸紀も大丈夫だろ?」
「俺はなんでもいいよ。皆見たいのはほへとだろうし」
「じゃあ、【ガンガン行こうぜ】作戦で!」
もっと具体的な内容にして貰ってもいいですかね。
「そっちが差し支えなければ、【SENGOKU】じゃなくて勝ち抜け方式の【SETSUNA】にしないか?」
帝の提案に顔を合わせる自分達。幸紀に眼で合図すると無言で頷いた。
「いいよ。2人とも、やれるよね」
「「寧ろ助かる」」
「じゃあ1番手、【ほへと】!」
瞬間的に用意されたステージに上がり相手を待つ。向こう側のチームは相談もなく【乃依】が上がった。
「英雄とか知らないけど、2年もブランクあれば環境も変わるっての!」
【SENGOKU 】よりかは狭いステージだが木や岩が配置されていくなか、【START 】の文字が空中に展開される。それと同時に射出される乃依の矢がほへとに飛んでいくーーが、それは1歩も動かぬほへとの顔を掠る。
「びびって動けないの?」
煽りを入れる乃依。しかし、本人の高い命中精度を含め射出した矢は当たらぬように放っていた。それを見切っての静観か……
ほへとがようやく向けてきた視線とかち合う。同時に太刀の剣先が喉元に突きつけられた感覚に陥り、乃依は後退した。
「まだ抜いてすらいないが?」
「……上等!」