もう何発撃ったか分からなくなってきた。
放ち続けた矢が切れ、リロードする。その間僅か1秒ーーそれでも間合いを詰めるには充分なのに相手は2歩程進んで終わる。
余裕を見せつけられ苛立つ。英雄とか話は聞いてる。俺もその時は被害者の1人になったし、チーターを成敗した試合はぶっちゃけ格好いいとかも思ってしまった。
周りは感化され一斉に太刀を使い始め、1ヶ月もせずに止めていく。出された結論は『次元が違うから使い方の参考にするな』だ。末恐ろしさも覚えた。
俺はそんな奴らと違って流されなかった。
周りからも下手だと揶揄された。でも好きだったから突き詰めた。そんな姿勢を帝は認めてくれて、必要だと言ってくれた。
日々の練習も怠っていない。命中率100%の日も続いていた。でも今日はーー1回も当たっていない。
自分を認めてくれた帝の役に立ちたい。そう思っていたのに今はこの様だ。現実がどれだけ厳しいことか思いしらされる。
「くそっ……」
漏らした心の声をはぐらかす。とにかく間合いに入らない様に立ち回るしかない。どっかで必ずボロが出るはずだ。人間相手なら完璧はない。
「どう見る、帝」
「どうもこうも、【居合切り】を見極めれるかで変わってくる。瞬間最高火力にして、一撃で相手を葬る能力だ。華麗に決まれば沸くだろうな」
名前の通り太刀は日本刀をモチーフにした武器。時代劇じゃバッサバッサとなぎ倒しているが、実際は少しでも血が付着すればそこから錆び付き切れなくなっていく。
そこを反映してか、振り回す度に切れ味が落ちていく仕様が実装されている。とにかく攻撃を振れば言い訳でもなく。近接武器では最長を誇るが、生半可では振り抜きが遅くまともに当たらない。
加えて決して軽くないとなると、遅延がほぼない【KASSEN 】では手数武器に負ける。帝でも金棒の重さをカバーする為にミサイルを仕込んでいる。
「避けてばっかりだけど本当に勝てるの?」
「分からない。『勝ってくる』って約束してないからね」
約束していない。逆に取れば勝ってくると言ったら必ず勝ってきたということだ。
「まぁ、もう2分経つし敗けはないんじゃないかな」
幸紀の言葉を信じ、ヤチヨも歩人を見守る。避けてばっかりでも、被弾ゼロは普通に常軌を逸している。
「…………」
乃依は緊張を解かぬまま次の弓を構える。最初に味わったあの感覚が、今度いつ来るか分からない。今度は本当に来るかもしれないとフラッシュバックする。
変化玉を仕掛けるか?持っているのは場所変えに使用する煙幕矢と一定時間矢の雨を降らせる拡散矢。前者は使えるか分からないし後者は威力の関係で止めは無理だ。
どうするーー思考している時、ほへとの視線が動いた。だが、明らかに誘導だ。甘すぎる。
弓の弦を引き始め狙いを定める。視線方向はないと判断出来れば当たる確率は跳ね上が……る?
瞬間、乃依は弦を離し、あさっての方向に矢は飛んでいく。突然のことに幸紀を除いた観客はどよめき始める。
1回も当たっていないーー
最初から?
矢の速さ、どこに飛んでくるかも、どのタイミングで放たれるかも分からないのに?
分かっていても見てから反応するのは無理だ。やれて武器で防御するのが限界。しかもそれは急所ーー頭とかを狙った場合。いわば数を減らす為の行動、団体戦で主に使う。3対3から3対2になれば攻めやすくなる。
今回の【SETHUNA】は1対1の2本先取。制限時間があるとはいえ、相手の行動を制約し、確実に止めをさせれる状況が一番好ましい。
だから初手で頭を狙い怖じけつかせ、後はじっくりと追い詰めていけばと、そう考えていた。全く効かなかったけど。
だが、1回も当たっていないとなれば話は変わる。
硬直した試合の中、時間だけが過ぎていく。残り時間は1/4を切っている。
「戦いの中で成長するっていうじゃん」
「バトル漫画とかでよくあるやつ?」
「そう。ほへとはね、それを相手に強要してくるんだ。今回で言うなら、矢の軌道や速度を構えた瞬間に割り出して放つ前に避ける姿勢に入っている」
「でもそれって、癖読みとかと一緒なんじゃ?」
幸紀は静かに首を振る。
「記憶してるんだよ」
記憶ーーその言い方だとまるで、打つフォームを見ただけでどこに来るか分かってるみたいだけど。
「ま、私が弓使ってるのもあるけどね」
笑いながら答える幸紀に対し、ヤチヨは青ざめた表情で試合に目を戻す。弓に矢を構えて弦を引き、放つまで最短で5秒程。その間にどこに飛んでくるか割り出し、狙いを定めている時には回避行動をしていることになる。
「そんなこと、出来るの?」
「やれてるから出来るんじゃない?だからさーー遠距離で挑むなら数撃ちゃ当たる戦法の方がまだ軍杯が上がるよ」
幸紀の言葉とともにほへとは歩き始める。時間も押してきているから決めに行くんだ。
ーーどうする?
そんな馬鹿げた事があってたまるかと思うが、そう考えないと辻褄が合わない。癖読みとか、ピンチになった時にする行動は人によって違う。
そこを読まれて敗北するならまだ分かる。甘えた行動だったとか、反省点も見つかる。
土俵にすら上がらせて貰えない、一種の未来予知に近いことをされて何が出来る。
「何してんだ乃依!」
帝の声が聞こえ、真っ白になっていた頭が覚醒する。気付けば心臓部に太刀の剣先が突きつけられている。
ぶつっ、と嫌な音が響き、刺されたところからポリゴンが吹き出し、乃依は膝から崩れ落ちた。
砥石の小手で剣先を研ぎ、腰部の鞘に納めてから翻すようにしてまた背負い直す。
【ほへと win】
静かすぎる決着。観客全員が期待していた白熱の試合とは違う結末に誰も声を出せずにいた。
スタート位置に戻ると同時に乃依が復元され、第二ラウンドの鐘が鳴り響くーー
『チートか?』
一つのコメントが流れる。それに乗じて一斉に批判コメが上空を覆い尽くし炎上が始まっていた。
端から見れば乃依が動かなくなったどころか、全部の攻撃を避けきっている。疑われてもおかしくない状況だった。
特に乃依ファンからのコメは荒く流れている。ほへと側を擁護するコメもあるが物量には勝てない。
会場のブーイングもままならず、ヤチヨと帝が動き出したその時。
「うるさい!」
普段の乃依からは想像できない怒号に二人ともが引っ込んだ。
乃依は弓を輪刀へ変化させ構える。遠距離がダメならこっちを試すしかない。それでもダメならーーまた別の方法を考える。
今はキャラとか作画とかどうでもいい。ただ、闘志はまだ燃えている。一矢報いたい。それしかなかった。
その覚悟に感化されたのか、ほへとはまた腰部に納刀された太刀を構えると、腰を低く落とし前傾姿勢を取った。
「それやっちゃダメだって!」
幸紀の言葉など聞かず、二人の足音が強く地面に響いた。乃依が2歩目を踏むことはなく、上半身が吹っ飛んでいた。
「ビジュ良すぎでしょ……」
背後で刀を振り抜くほへとの姿を見て、悔し紛れに呟いた。
前試合とは違う数秒の戦い。正に【刹那】を体現した試合に先程のブーイングはどこへやら、異常な盛り上りを見せていた。
「今の、普通の【居合切り】だったよな」
「だと思うが、あまりにも速すぎる。何か仕掛けがあるはずだ」
動きとしては一歩目が大股で力強さのあるものだったが、2歩目、3歩目が分からなかった。一体どんな仕組みがーーそんな事を考えていると、敗北を喫した乃依がステージから降りてきた。
「大丈夫か?」
「何が?もしかして負けて凹んでるとか思ってる?負けなんて、やってたら何回かあるでしょ」
帝の心配を他所にいつもの調子で答える乃依。
「……帝。悪いが次の試合出てくれないか。お前的には最後に花道を飾りたいと思うが、頼む」
さっきまで俺が最後だと取り決めていたのに、雷からの意見変更に違和感を感じながら了承する帝。実際、雷はすんなり言うことを聞く。俺的にはもっと対抗してきて欲しい気持ちもあるが。
雷の頼みを聞き入れ、ステージへと踏み入れる。2戦目ってことはほへとも出ないしーーあの助っ人か、ヤチヨか。どっちにしろ厄介なのは変わらなそうだ。
「壁はいつも高いな」
「…………」
どこまでも続く空を乃依は見上げる。すぐに視界は滲み、瞳から溢れる。俺は強いってずっと思ってたーーけど、それは違って。ただ今は、久しぶりの本気の悔しさだけがあった。
「心まで折ってないよね?」
「心ならお前と同じくらい強いと思ったからあれをやった。それだけ」
「ふーん……ま、一応勝ってくれたので気兼ねなくやれるのは楽なんだけど。万が一負けた時のこと、考えといて」
了承の合図で手を振り、空席にどかっと座る。勢いそのまま緊張が抜けていく。
「ゲームする時、性格変わる性質?」
「そんなつもりはないけど、言われるかな。自分の仕事は全うする。当たり前だろ」
「それはそうだけど。ていうか、あんな奥義みたいなのあるなら最初からやってよ」
「終盤で出すから奥義なんだろうが。それにそんな大層なもんじゃない」
相手の動き、呼吸、歩幅ーーその他諸々を把握し、終盤の有利状況、対面の距離を合わせないと出来ないけど、やってることはテクニックも何もない。
「君の友達、帝に勝てると思う?」
「知らん」
二人して同じ返答に思わずずっこける。信頼してるのかしてないのか分かんないな。
「何とかすんじゃねぇかな。自分、あいつに勝ったことないし」
「……ほえ?」
第2回戦 【スノー】VS【帝】のコングが鳴り響いた。