終末世界の何でも屋転生者、崇められたり恐れられたり逃げられたり 作:じょーーんどぅーー
終末世界。
ポストアポカリプス。
何らかの理由で滅び、荒廃した世界。
しかし多くの場合人類はしぶとく生き残っているものだ。
そして種籾をヒャッハーに蹂躙されたり、超絶犯罪が横行する都市を築き上げたり、コンピューターに管理されるディストピアを築き上げたりする。
俺が転生した世界には、全部あった。
なんてこったこれが終末世界、地獄に生まれ変わったほうがまだマシだったぜ。
とはいえ、転生してしまったものは仕方がない。
幸いにもこの世界には崩壊前の文明の遺産やら、荒廃した世界に適応した人類の進化やらで、個人でもなんとか不条理な世界に立ち向かう力を得る手段はある。
俺はそういったものを駆使して、日々の糧を得るために「何でも屋」を始めることにした。
自身の名前をとって、「何でも屋ジョン・スミス」。
依頼とあらば、迷い猫の創作から悪の組織の壊滅まで、なんでも請け負うことにしている。
ただし、罪なき人々を害する依頼だけはお受けしかねるのであしからず。
さて、今日も発注された依頼をこなすべく、仕事に邁進するとしようかな。
■
――そこは終末世界の一角に建設された、ある研究施設だった。
非合法なこと――といってもこの世界に法なんてものはとっくの昔にチンピラが鼻で笑うものになってしまったけど――なら何でもやらかす犯罪組織の拠点の一つ。
特に、ヤバいドラッグや、それを用いて改造されたミュータント――この世界では人間以外の終末五に発生した変異生物全般を指す――の研究を行うための場所だ。
人間を実験材料にしていないことだけが唯一の美点。
しかしそれは単純に繁殖能力でミュータントに劣るため材料としては適していないのと、実験に使うより顧客としてドラッグを売りさばいたほうが小売的だからである。
徹頭徹尾、腐ったことしかしない連中だ。
「さて、残るはこいつだけかな」
俺が現在いるのは、研究施設のメインコンピューター前。
あたりには少し前まで研究員達がこの場にいたのであろう、乱雑に色んなものを持ち出した後が残されている。
ただ、流石に施設と直結したこいつだけは、持ち出せなかったようだ。
そもそもこの研究施設は終末以前の設備を犯罪組織が乗っ取って使っている場所。
このコンピューターも彼らの目的通りに使えているから使っているだけで、その仕組やらなんやらを彼らが完全に理解しているわけではない。
「”解析”」
俺は自身の能力を起動して、このコンピューターの使い方を調べる。
能力、この世界において一部の人類だけが使える特殊な力。
使える人間は場所によって新人類だの怪物だの呼ばれるが、まぁ便利なことに違いはない。
特に俺の解析は、この世界のあらゆる機械の”使い方”がわかるという非常に便利なものだった。
「だいぶガタが来てるなぁ、経年劣化と犯罪組織による無茶な運用のダブルパンチか。……ん?」
俺はそれを使って情報を集めていると、あることに気づいた。
それはこのコンピューターの中に――あるものが眠っているということだ。
「こいつ……中に”コア”があるのか」
旧時代の遺物には時折見受けられる構造だ。
中にマシンを動かすための核となる部品が眠っており、それが機能の大部分を担っている。
だからコアさえ取り出せば、このメインコンピューターのほぼすべてを持ち出すことが可能なのだ。
まぁ俺みたいに旧時代の遺物を自由にいじくり回せる人間じゃないと気付けないだろう。
何にせよ、犯罪組織の連中はみすみすこの拠点で一番価値のあるものを置いていってしまったらしい。
「そりゃいいな」
俺は早速、解析のサポートを受けながらコアを中から取り出す。
一体どんなものがコアに使われているのか興味があったし、そろそろ研究所も保たないからさっさと回収しないと行けない。
すると、中から出てきたのは――
「……女の子?」
一人の少女だった。
透き通るような青白い長髪の少女。
青を基調としたロボアニメのパイスーみたいなぴっちりした服を纏っている。
そんな少女に、俺の解析が反応した。
どうやらこいつは――
「――アンドロイドか」
こりゃまた、けったいなものが中に詰められていたものだ。
そして俺が詳しい解析をかけるよりも早く、少女が目を覚ます。
「――――ここ、は」
「起きたか?」
「貴方……は。……何者、ですか?」
流暢な声音で、問いかけてくる。
さすが旧時代のアンドロイド、解析がなければほとんど人間とわからないくらい話し方が流暢だ。
終末世界でこれを再現しようとすると、だいぶロボっぽい喋り方になるからな。
「俺はジョン・スミス。君がどこまで状況を把握しているかはわからないが、ある理由からこの施設を訪れてメインコンピューターを調査していたんだ」
「……記録を、確認いたしました。私は個体名Sj-001”Janne Da Arc”。ジャンヌと及びください、ミスター・ジョン」
「了解。どこまで把握している? あまり説明している時間がないから、できれば大体のことは把握していてくれると助かるんだが」
Sj-001、型番が001ってことははじめに開発されたSjシリーズの機体なんだろうが、そもそもSjってのが初耳だな。
まぁ、今は気にしてる場合じゃないか。
「――そうです、ミスター・ジョン。今すぐこの施設からの退避を進言いたします。現在この施設は研究に使用されたミュータントが脱走し、徘徊しています」
「お、状況は把握してるのか」
「……はい、私がメインコンピューターとしてこの施設で稼働している際の内容は、破損こそありますが概ね。ここ最近、倫理違反に該当する組織の人間に利用されてしまっていたことも」
「倫理違反ね」
まだ文明が維持されていた頃なら必要そうなセーフティの名前だ。
そして、そのことを口にするジャンヌの雰囲気はどこか自分を責めているような感じだった。
まさか罪悪感を感じているのだろうか、だとしたらかなり高性能なアンドロイドである。
「幸いにも、該当組織の人間は撤退済み。貴方がこの施設から脱出すれば、危険はございません」
「ああ、だろうね。一応脱出ルートはすでに確保してある。君も連れて行こうか」
「……よろしいのですか?」
「流石にもったいないだろう、旧時代の、これほど高性能なアンドロイドは貴重だ」
「賢明な判断かと」
よかった、自分はこの施設の備品だから勝手に持ち場を離れることはできない、とか言われたらどうしようかと思っていた。
かなり柔軟な判断ができるのだろう、本当にすごいな、ジャンヌは。
「ですが一つ、質問をよろしいでしょうか」
「なにかな?」
「……なぜ、実験体のミュータントは脱走してしまったのでしょう。私の記録は完全ではありません。ミスター・ジョンはなにかご存知ですか?」
「ああ――」
俺は、早速脱出の準備を進めながら、言った。
「俺が開放した。その方が都合がよかったからな」
その言葉に、思わずといった様子でジャンヌが絶句する。
「な――何をしているのですか!?」
「何をって……ここを壊滅させるのに研究員が邪魔だったから、排除するための最善の行動だけど?」
「は……」
いくら俺が、悪の組織の壊滅も請け負う何でも屋だからって、流石に一人でこの組織を全部なんとかするのは難しいからな。
うまい具合にスニーキングして中に入り、ミュータントを全部開放して研究員を追っ払ったのだ。
「な、なぜそんなことをしたのですか!? それでは、人命に危険が及びます!」
「と言われてもなぁ、警備はロボットだけだったし、逃げるだけならあいつらもそこまで問題はないだろう。最低限、配慮はしたと思うが。それとも、アイツラがここで違法な研究をして、その被害が拡大した方がよかったか?」
「そ、それは……」
むしろ、俺のやり方は終末世界ではかなり穏当な方だ。
本当の意味で被害を根絶したいなら、ここの研究者は全員殺すべきだった。
逃げた先で、別の研究をするのが目に見えているから。
しかし今回はあくまで施設の壊滅が依頼内容。
そこまで俺が気にする必要はない。
「そ、それに……
「なんだ、俺のことを気にかけてくれるのか?」
なんというかこのジャンヌという子の思考回路は、本当に善良さが詰め込まれているらしい。
でも、俺に関しては問題ない。
「ただ、別にそこは気にする必要はないよ。――俺は何でも屋なんだ」
脱出の準備を終えてから、俺はジャンヌに振り返って、いう。
「俺は自分が何でもすると決めたら、本当に何でもすることにしてるから」
――その言葉に、ジャンヌがどこか息を呑んだような気がするのは、果たして気のせいだろうか。
何にしても、急いで脱出するべく、俺は行動を開始するのだった。
■
――ジャンヌは恐怖した。
何でもすると言葉にした、眼の前の男。
ジョン・スミス。
一見すると、特徴の薄い凡庸な男に見える。
しかし、なぜだろう。
何でもすると口にした彼の雰囲気は、決してそれが冗談でないことを強くアリスに訴えかけてきた。
何より――
「……もう一つだけ、聞いてもよいでしょうか」
「何かな?」
「なぜ、研究員達は逃げ出したのでしょう。ただミュータントが脱出しただけであれば、その対処は十分彼らには可能なはずです。それだけの警備体制を彼らは敷いていました」
「ああ、それか」
その言葉に、何気なくジョンは語る。
「ミュータントが脱出したタイミングで、別の情報を彼らに流したんだ」
「別の情報?」
「
その言葉の意味を、ジャンヌは即座に理解した。
眼の前の男は、それだけ犯罪組織に警戒されている。
加えて、それとは別に、誰かが施設内に侵入してミュータントを解き放った。
二つの勢力に狙われては彼らも施設を放棄せざるを得ないと判断したのだろう。
このことからわかるのは、本当に目の前の男が、目的のためならばどんな手段でも取るということと――この男の恐ろしさ。
破損混じりのデータの中に、組織の研究員達が逃げ出す様子が記録されていた。
その顔は、恐怖と絶望に歪み、生きていることを後悔するかのようだったのだ。
――これが、眼の前の男、ジョン・スミスたった一人によって引き起こされたのだから、恐ろしい。
それと同時に、思ってしまう。
自分はとんでもない存在に拾われてしまったのではないか、と。
だが、ジャンヌはまだわかっていなかった。
ジョン・スミス――彼の恐ろしさは、こんなものではないのだということを。
いずれ自分が、ジョンに拾われてしまったことを、後悔する時が来るということを――