TS双子姫と乙女ゲーム世界   作:熱湯キチ郎

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友誼の時間

やがてお昼休みのチャイムが響き渡ると、いつの間にかこの五人の少年たちは、誰が先導するでもなく自然と同じテーブルに集まり、賑やかに食事を摂るのが完全に日課となっていた。学園の誇る巨大な中央食堂は、最高級の上流貴族たちの利用を前提としているため、まるで一流ホテルのメインダイニングのように広々としており、運ばれてくる料理の質も宮廷料理人と遜色ないほど十分に上等なものだった。――しかし、そんな洗練された空間において、騎士の息子であるガイアスの目の前のテーブルだけは、毎回のように目を疑うほどド派手な「肉の山」が築き上げられていた。肉汁が滴る巨大なステーキが三枚、大皿に山盛りにされた白パン、大量の温野菜、さらに追加の濃厚なスープが何種類もズラリと並び、彼は凄まじい勢いでそれらを当然のように、凄まじい咀嚼音と共に胃袋へと収めていく。

 

「……ガイアス。毎回思うが、君のその細い体のどこに、それだけの質量の物体が収まるスペースがあるのか、本当に感心せざるを得ないな」

 

アルフォンスが、自分の上品な日替わりランチプレートと比較しながら本気で呆れ返ると、ガイアスは口元を豪快にナプキンで拭いながら、ガハハと豪快に笑った。

 

「殿下! 男が身体を極限まで鍛え上げるににゃあ、まずはそれ以上の『肉』を体内にぶち込まねえと話になりませんからね! 殿下も王子としての線の細さを気にするなら、ほら、俺のこの特大ローストビーフをあと三枚は食べた方がいいですよ!」

 

「丁重にお断りするよ。僕は君ほど、毎日朝から晩まで四六時中、狂ったように重い鉄剣を振り回してはいないからね」

 

そんな男たちの熱苦しいやり取りの真向かいでは、銀髪の天才魔術師セレスが、やはり今日も今日とて、左手に分厚い古代語の魔術書を開いて完全に自分の世界に没頭したまま、右手フォークだけで器用に片手でサラダを口へと運んでいた。よく本の上にドレッシングを零さないものだと、周りで見ていて毎回ハラハラさせられるが、当の本人は周囲の喧騒など一ミリも鼓膜に届いていないかのように、まったく気にする様子はない。

 

「セレス。君、せめて食事の間くらいは、その小難しい本を一度机に置いて、料理の味を噛み締めて食べたらどうだい?」

 

「……この章の、術式の還元に関する記述だけ……キリがいいところまで、今すぐ読み進めたい」

「ははは、君のその『この章だけ』っていう言葉、僕たちのこれまでの短い付き合いの経験上、ただの一度も信用できた試しがないんだよねえ、セレスくん?」

 

レオンハルトの鋭い、けれどお兄ちゃんのような優しい指摘を受けると、セレスは本からほんの一瞬だけ蒼い目を動かし、気まずそうにわずかに視線を右斜め下へと逸らした。どうやら自覚はあったらしい。カイルはそんな男たちの騒がしいやり取りを完璧にBGMとして聞き流しながら、お冷やのグラスを傾け、冷徹な翡翠の瞳で食堂全体の上流貴族たちの動きをじっと観察していた。

 

「……それにしても、この中央食堂。どう計算しても、経営学的な『利益率』が異常なほどに低く設定されていますね。提供されている食材の鮮度や仕入れ値の質が極めて高い割に、私たち学生から徴収されている一食あたりの費用が、不自然なほどに安く抑えられている。おそらく、王家からの直轄の補助金か、あるいは学園側の運営母体から、莫大な額の経済的補填(サブシディ)が裏で出ているのでしょうね」

 

「……カイル。頼むから、神聖な昼食の時間の最中にまで、食堂の裏のドロドロした利益率や国家の経済規模をソロバンで計算するのはやめてくれないか」

 

「おや、殿下。気になるものは商人として仕方がありませんよ。これは職業病のようなものです」

 

生まれも、育ちも、その身に宿る才能の方向性も、何もかもが違いすぎるほどに違いすぎている五人。入学当初は、レオンハルトの無理矢理な仲介によって結成されたこの特殊な輪が、果たして学園生活の中で上手く噛み合うのか、アルフォンスとしても少なからず内心では不安を抱いていた。だが、数週間を共に過ごした今となっては、その「圧倒的な違い」こそが、むしろお互いの欠損を埋め合うパズルのピースのように、たまらなく面白く、心地良いものであると思えるようになっていた。

ガイアスのどこまでも真っ直ぐで嘘のない直情さ。

セレスの徹底的に冷徹で知的な、けれどどこか抜けている無愛想さ。

カイルの冷酷なまでに現実的な、けれど誰よりも頼りになる徹底した実利主義。

そして、それらすべての劇薬のような個性を、柔らかな微笑みと卓越した対人スキルで見事に調和させてコントロールする、調整役としてのレオンハルトの手腕。

そこに、全体を穏やかに見守る第一王子であるアルフォンス自身が加わることで、五人の少年たちは不思議な化学反応を起こし、気付けば完全に、誰の目から見ても強固な一つの「美しい輪」へと昇華されていた。ほんの少し前までは、お互いにただの名前しか知らない「他人」でしかなかったはずの五人は、この春の光の中で、いつの間にか――生涯を共にするに足る、かけがえのない本物の『友人』へと、静かに変わりつつあったのだ。

 

 

放課後の鐘が学園中に鳴り響くと、アルフォンスは友人たちと別れ、一人で学園の奥深くに広がる、色彩豊かな庭園へと歩みを進めた。春の可憐な花々が咲き乱れ、甘い香りが優しく漂う舗装された小道の先。お気に入りの静かな東屋(ガゼボ)では、最愛の婚約者であるクラウディア・フォン・ローゼンベルクが、いつも通り彼よりも一足早く到着し、静かに主を待っていた。

本日の彼女は、王城で会っていた頃の豪華なドレス姿ではなく、学園の女子生徒用に美しく、かつ清楚に仕立てられた、気品溢れる『白い制服』にその身を包んでいた。その白亜の布地は、彼女の透き通るような白い肌や、濃紺の美しい髪の色彩をより一層際立たせ、王城のサロンで会っていた頃よりも、どこか少しだけ大人びた淑女の美しさを醸し出している。それでも、近づいてくるアルフォンスの足音に気づき、本から顔を上げてパッとパステルカラーのように微笑むその表情には、幼い頃から何一つ変わらない、彼に向けられた無条件の柔らかさと深い慈愛が宿っていた。

 

「――お疲れ様です、アルフォンス様。お待ちしておりましたわ」

 

「クラウディア。ごめん、また僕の方から誘っておきながら、待たせてしまったね」

 

「いいえ、とんでもございません。私も、今ちょうど到着して、お茶の準備を整えたところですのよ?」

 

彼女はそう言って、慣れた手付きでティーポットを持ち上げ、透き通った琥珀色の最高級の紅茶を、二つの磁器のカップへと優雅に注ぎ込んだ。学園での過酷な授業や新しい生活が始まってからも、二人はこうして放課後のわずかな時間を見つけては、このお気に入りの東屋に集まり、静かに二人だけの会話を楽しむことを何よりも大切にしていた。それは、公爵家と王家という、国家の頂点に立つ二人の「婚約者としての格式高い定期交流」という建前であり、同時に、お互いにとっては、周囲のドロドロとした政治や仮面から完全に解放され、むき出しの心を許し合える、一日の中で最も貴重な、極上の聖域でもあったのだ。

 

「クラウディア、今日……いよいよ、最初の小試験の結果が中央回廊に掲示されたんだ」

 

アルフォンスが紅茶に口をつけ、少しだけ照れくさそうに切り出すと、クラウディアはすでに知っていたようで、紫水晶の瞳をいたずらっぽく輝かせてクスクスと笑った。

 

「ええ、もちろん存じておりますわ、アルフォンス様。おめでとうございます、堂々の『総合第一位』。クラスの令嬢たちの間でも、殿下の文武両道の完璧なお姿の話題でもちきりですのよ?」

 

「ありがとう。……けれど、分野ごとに細かく見ていけば、僕は僕の友人たちに負けてばかりなんだよ。筆記では君のお兄さんに完敗したし、剣ではガイアスに叩きのめされ、魔法ではセレスに手も足も出ない。算術ではカイルに器用貧乏とまで笑われてしまった」

 

「あら、まあ……!」

 

アルフォンスが少しだけ肩をすくめながら、お昼休みの食堂での友人たちのあまりにも強烈で愉快な様子――ガイアスの驚異的な大食漢ムーブや、セレスの命懸けのながら読書、カイルの恐るべき利益率の分析、そしてレオンハルトの絶妙なからかいのステップ――を一つずつ楽しげに語って聞かせると、クラウディアは真っ白なハンカチで上品に口元を覆いながら、楽しそうに何度も声を立てて笑った。彼女とこうして話しているだけで、アルフォンスの唇からは、自分でも驚くほど自然に、温かな笑みが次から次へと零れ落ちていく。

 

「ふふふ、殿下のご友人方は、本当に皆様、お兄様を含めて個性的で魅力的な方ばかりなんですのね」

 

「本当にね。王城の、大人の顔色ばかりを伺うような堅苦しい貴族社会では、逆立ちしても出会うことの出来なかった、本当に最高のやつらだよ」

 

「……アルフォンス様が、そのように楽しそうに、心から少年らしく笑われるお姿を拝見できて、私は……本当に、心の底から嬉しく、幸せに思いますわ」

 

クラウディアの薄紫の瞳に宿るその声には、一切の偽りのない、深く穏やかな喜びが満ち満ちていた。彼女自身もまた、最上流貴族の令嬢たちの派閥や輪の中で、持ち前の生真面目さと高潔な誠実さを駆使して、少しずつではあるが確実に自分の居心地の良い居場所を構築し始めているらしく、女子寮での楽しげな夜のお喋りの話や、淑女教育の授業での苦労話を、楽しげにアルフォンスへと聞かせてくれた。彼女は時に真面目すぎて融通が利かない不器用なところがあるが、その一点の曇りもない徹底した誠実さと優しさを、心の底から好ましく思い、慕う生徒は、この学園内において男女問わず非常に多かったのだ。どこまでも穏やかで、優しく、泥の混じっていない時間。あの王城に残してきた恐るべき「双子」の存在も、王子として背負わされた国家の重苦しい重圧も、そしてこの婚姻が持つ冷酷な政治的意味すらも――この美しい春の東屋の瞬間だけは、まるで遠い世界の幻のように、アルフォンスの意識から綺麗に遠ざかっていた。

アルフォンスは、目の前で優雅にカップを傾けるクラウディアの美しい横顔をじっと見つめながら、自らの胸の奥底で、静かに、けれど鋼のように固い決意を固めていた。

 

(ああ……僕は、何があっても。たとえ二年後にあの悪魔たちがやってこようとも、このクラウディアとの穏やかな時間だけは、僕の命に代えてでも……絶対に守り抜いてみせる)

 

そんな、美しい平穏な日々の真っ只中にあっても――ほんの、わずかな「気がかり」の種は、静かに、けれど確実に芽吹き始めていた。

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