TS双子姫と乙女ゲーム世界   作:熱湯キチ郎

33 / 33
今回は少し短め



見えない犯人

「……あの子たちと無理に話す必要はない。何かあれば、すぐに私を呼ぶんだ」

 

マリアの私室の前で、アルフォンスは深刻な面持ちでそう念を押した。しかしマリアは「大丈夫ですわ、殿下」と儚げに微笑み、双子との面会に応じた。

原作に存在しない二人の王女。味方に引き入れられれば強力な駒となるが、敵に回れば恐ろしい不確定要素。判断するためには、まず直接見極める必要があった。

通された部屋で待っていたのは、最高に可憐なお姫様たちだった。

 

「改めて、あの時はありがとうございました。マリア様のおかげで、私の傷は消えましたわ」

 

エリシアが透き通るような微笑みで頭を下げ、フィリアも愛らしく手を取り追従する。

 

「お兄様も、私たちも、本当に感謝しているのです」

 

さらに二人は、学園内で広まっている噂について、どこまでも申し訳なさそうに眉を下げた。

 

「私たちがクラウディア様と親しくしていたため、マリア様に敵意があると周囲に誤解させてしまいました。誤解をすぐに解消しないままにしてしまい、嫌な思いをさせて申し訳ありませんでした」

 

王女である二人が、自ら非を認めて頭を下げる。マリアは一瞬目を見張ったが、すぐに感極まったような表情を作り上げた。

 

「そんな、滅相もございません! 私の方こそ、勝手に怯えてしまって……」

 

表面上は完璧な和解。双子の立場は「クラウディア側」から「中立」へと上書きされた。

双子が去った後、マリアは一人で冷たく口元を歪めた。

 

(敵意は見せなかった。けれど……原作にない存在を安易に信じるわけにはいかないわ。利用できるか排除すべきか、もう少し見極めましょう)

 

マリアは双子の扱いを「保留」とした。

 

翌日。心配して集まったアルフォンス、ガイアス、セレスたちに対し、マリアは和やかに報告した。

 

「王女殿方とは無事に誤解が解けました。とてもお優しくしていただいて……私たちは、もう大丈夫です」

 

ガイアスは安堵の息を吐き、セレスも胸を撫で下ろした。アルフォンスだけが、どこか腑に落ちない硬い表情を浮かべていたが、マリア本人が納得している以上、それ以上は追求できなかった。

 

 

だが、事件はその数日後に起きた。

校舎の奥深く、普段は人通りの少ない階段から、痛々しい悲鳴と落下が響いた。

駆けつけた生徒たちが目撃したのは、階段の下で力なく倒れ、痛みに耐えるように体を丸めるマリアの姿だった。駆けつけた攻略対象たちが騒然とする中、ガイアスが怒りを爆発させる。

 

「誰にやられたんだ! 誰が突き落としたんだ!?」

 

セレスも眼鏡の奥の瞳を鋭く光らせる。

 

「……犯人の顔は見えましたか?」

 

マリアは涙をぽろぽろと零し、怯えたように肩を震わせながら首を振った。

 

「ううん……分からないの。誰かがいたような気もするけれど、見ていなくて……私の不注意だったのかもしれません。だから、誰も疑わないでください……」

 

健気に周囲を庇う被害者。しかし、これによって事件は完全な迷宮入りとなった。目撃者はゼロ。現場に不審な痕跡もなく、犯人を特定する証拠は何一つ出ない。

それでも攻略対象たちは「誰かがマリアを狙った」と断定し、独自に動き始めた。

 

「証拠がない? そんなの決まってるだろう! エヴァンス嬢を憎んでいて、こんなことをする奴なんて一人しかいない!」

 

ガイアスの怒りの矛先は、真っ直ぐにクラウディアとその周辺へ向けられた。

クラウディア本人が日常的にマリアへ注意を与えていたこと、取り巻きたちが嫌がらせを繰り返していたこと。それらの「動機」だけを根拠に、彼らは見えない犯人をクラウディアのグループだと決めつけていった。

 

セレスも冷静を装いつつ、クラウディア側の関与を疑う思考から抜け出せず、カイルもまた動機の強さから静観を決め込んだ。アルフォンスの頭には一瞬、妹たちの顔が浮かんだ。あの双子なら、気付かれずにこれくらいの芸当はやってのける。

しかし、双子は数日前にマリアと和解したばかりだ。何より証拠が全くない。

 

(……まさか、本当にクラウディアが隠れて命じたというのか……?)

 

アルフォンスの疑念は迷走し、結果として双子は真っ先に犯人候補から外れることとなった。

 

 

その日の夕暮れ。罪悪感と焦燥感に苛まれたアルフォンスは、マリアを静かな中庭へ呼び出した。

 

「マリア……もう、曖昧にはできない」

 

アルフォンスは彼女の細い肩を抱き寄せ、真摯な瞳で見つめつめた。

 

「君が傷つくのは、私が婚約者を曖昧にしているせいだ。私は卒業パーティーで、クラウディアとの婚約破棄を正式に宣言する。……その後、私と正式に婚約してくれないだろうか」

 

マリアは瞳を潤ませ、感極まったように頷いた。

 

「はい……喜んで! ですが、正式なお返事は卒業パーティーの後にさせてください。殿下がすべてを終えられてから、きちんとお答えしたいのです」

 

王太子の告白。シナリオ通りの展開に、マリアは胸の中で歓喜の叫びを上げていた。

そしてその夜、アルフォンスが他のメンバーへ「卒業パーティーでクラウディアと婚約破棄し、マリアに求婚する」と宣言したことで、事態はさらに加速した。

焦ったガイアスとセレスが、相次いでマリアのもとへ駆けつけ、自らの想いを激しく告白したのだ。マリアは二人の告白に対し、「皆様大切で選べません……卒業パーティーまでに答えを出します」と可憐に言葉を濁した。王太子、最精鋭の騎士、天才魔導師。三つのルートが同時に開かれた完璧な状況に、マリアはほくそ笑んだ。

——だが。

その様子を、はるか遠くの校舎の陰から見つめる影があった。

エリシアとフィリアだ。

エリシアが耳元に添えた集音の魔術陣をすっと消し、フィリアが口元を手で覆う。

 

(お兄様が告白した。他の方々も続いて……マリア様は回答を卒業パーティーまで保留)

 

二人は言葉を交わさなかった。ただ、暗がりの中で顔を見合わせ、心底可笑しそうに、可憐な笑みを深め合った。アルフォンスが自ら一歩を踏み出し、最高の決定的瞬間を作ってくれた。

マリアもまた、その絶心に有頂天になっている。

 

『期限、または告白の直後』。

 

契約履行のためのすべての条件が、今、完璧に整った。

誰にも気付かれない暗闇の中で、双子姫は静かに、深々と笑っていた。




所謂乙女ゲーヒロインざまぁのテンプレってやつ
あと、誤字報告大変助かりました。修正してあります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

ダンジョンにはTSがつきもの 〜TS転生した怪物は自分への愛が強すぎる〜(作者:炭水化物は飲み物)(オリジナル現代/冒険・バトル)

倫理観が地獄産のディストピア世界からのやってきた天然無知戦闘狂美少女がめっちゃ優しい現代ダンジョン配信世界でバズっていく話。


総合評価:851/評価:8.07/連載:13話/更新日時:2026年06月29日(月) 13:58 小説情報

推しの魔法少女を助けたいTS転生魔法少女(作者:きし川)(オリジナル現代/冒険・バトル)

生前、途中で視聴をやめてしまった魔法少女作品の世界に女の子として転生した男は視聴をやめる原因となった推しを助けるべく魔法少女となって戦う。


総合評価:732/評価:7.62/連載:7話/更新日時:2026年08月12日(水) 07:12 小説情報

居場所をなくしたTS聖女は魔法少女と出会う(作者:綺羅星瑠奈)(オリジナル現代/冒険・バトル)

世界統治の為、象徴として利用されたTS転生聖女のルナ。▼かつての仲間だった魔法使いによって前世の現代日本に転移する。▼しかしそこは魔法少女がいる世界だった。▼前世の妹にも信じてもらえず、死んだ方が楽なのではないか思っていたところで、死にかけの魔法少女に出会う。▼異世界でも現代でも居場所をなくしたサポート特化のTS聖女と困っている人を見捨てられない近接特化魔法…


総合評価:1343/評価:8.77/連載:18話/更新日時:2026年09月03日(木) 21:15 小説情報

ニチアサ系で禁断の『主人公勢洗脳闇堕ち全滅エンド』を目指したい(作者:匿名希望)(オリジナルファンタジー/冒険・バトル)

ニチアサ系変身ヒロインアニメの世界に、主人公の双子の姉としてTS転生した朝霧夕陽(あさぎりゆうひ)。原作主人公勢の活躍を特等席で見ることができる! と喜んでいたのだが――悪の組織に勧誘(洗脳)されて、理性のブレーキがぶっ壊されてしまう(なお、洗脳自体はすぐに自力で解除した模様)。▼「見守りたい」という純粋な想いは歪んでいった。▼これは禁忌とされるバッドエンド…


総合評価:2244/評価:8.33/連載:15話/更新日時:2026年09月03日(木) 00:33 小説情報

女体化して母親になったよ!天使な子供たちとファンタジー世界で幸せになります(作者:きさまち)(オリジナルファンタジー/日常)

ファンタジー世界で真っ当に暮らしていた主人公は罠にハメられ意図せず女体化させられてしまう。▼待っているのは最悪のバッドエンド!そのピンチを救ったのは翼を持つ異種族の男(イケメン)だった。▼割と早い段階で女であることを受け入れイケメン旦那と結ばれた主人公は子宝にも恵まれて幸福の絶頂に…しかしそうは問屋がおろさない!?▼我が子との幸せのんびり生活のためお母さんは…


総合評価:1189/評価:8.36/連載:20話/更新日時:2026年08月29日(土) 18:15 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>