アルカンフェル転生   作:ぶーく・ぶくぶく

119 / 121
何一つ隠さない独裁者

/*/ 文句があるなら戦おう /*/

 

 

 

 統一市民管理制度を巡る公開討論会で、人権団体の代表は最後まで食い下がった。

 

「たとえ多数派が支持していても、少数派には管理を拒む権利があります」

 

 村上征樹が答える。

 

「登録を拒否する選択そのものは禁止されていません。ただし、保険給付や行政扶助を受けるには、本人確認と制度参加が必要です」

 

「それは事実上の強制です」

 

「社会制度には参加条件があります」

 

「クロノスは、医療と福祉を餌にして、市民を服従させているだけだ!」

 

 会場がざわめいた。

 

 その時、それまで黙っていたアルカンフェルが口を開いた。

 

「服従したくないのか」

 

 代表は、一瞬だけ怯んだ。

 

 それでも答える。

 

「当然です。人間は、あなたの所有物ではない」

 

「そうか」

 

 アルカンフェルは席から立った。

 

「文句があるなら戦おう」

 

 会場が静まり返った。

 

「……何を?」

 

「私と戦え」

 

 代表は言葉を失った。

 

 アルカンフェルは、何の冗談も含まない声で続けた。

 

「私の支配を認めぬのだろう」

 

「それは強者の理論だ!」

 

「そうだ」

 

 即答だった。

 

「あなたは力を持っている。人間があなたに勝てるはずがない!」

 

「勝てとは言っていない」

 

 アルカンフェルは代表を見下ろした。

 

「戦えと言っている」

 

「同じことだ!」

 

「違う」

 

 声は静かだった。

 

「勝敗は力によって決まる。戦うか否かは、意志によって決まる」

 

 代表の顔が引きつる。

 

「暴力でしか物事を決められないのか」

 

「制度に対する異議なら、制度の中で争えばよい」

 

 アルカンフェルは言った。

 

「投票を求めた。認めた」

 

「討論を求めた。認めた」

 

「市民に選ばせろと言った。選ばせた」

 

「そして、お前たちは負けた」

 

 会場の空気が重くなる。

 

「それでも結果を認めず、私の支配そのものを否定するというなら、残るのは戦いだ」

 

「だから、それが強者の理論だと言っている!」

 

「戦う気概も持てない者の文句を、私が聞く必要はない」

 

 誰も声を出せなかった。

 

 

 

/*/

 

 

 

 人権団体の代表は、震える声で言った。

 

「一般市民に、獣神将であるあなたと戦えと言うのか」

 

「一般市民として異議を述べるなら、請願書を出せ」

 

「議員として争うなら、議会で票を集めろ」

 

「制度を変えたいなら、市民を説得しろ」

 

 アルカンフェルは、一つずつ指を折るように言った。

 

「それらをすべて拒み、ただ私に退けと言うなら、お前自身が私を退けろ」

 

「そんなことができるわけがない!」

 

「ならば、なぜ私が退くと思った」

 

 代表は答えられなかった。

 

「言葉を発する自由はある」

 

 アルカンフェルは続けた。

 

「だが、言葉を発すれば、世界が従うという道理はない」

 

「少数派の声を聞くのが政治だ!」

 

「聞いた」

 

「ならば――」

 

「聞くことと、従うことは違う」

 

 その一言で、会場は完全に沈黙した。

 

 

 

/*/

 

 

 

 控室へ戻った後、村上は深く息を吐いた。

 

「総帥」

 

「何だ」

 

「公開討論の最中に、民間人へ決闘を申し込まないでください」

 

「支配を否定された」

 

「だからといって戦闘へ話を持っていく必要はありません」

 

「制度による決着を相手が認めなかった」

 

「それでもです」

 

 ヴァルキュリアは、すでに問題の発言を整理していた。

 

 

> ……備考:既に生放送済み。修正不能。

 

 

 アプトムが笑った。

 

「今回は手遅れか」

 

「はい」

 

「しかも最後のやつも流れた?」

 

「すべて流れました」

 

 

> 総帥発言原文:戦う気概も持てない者の文句を、私が聞く必要はない。

> 備考:原文拡散中。

 

 

 村上は額を押さえた。

 

「意味は近いですが、印象がまるで違う」

 

「総帥は印象を考慮していません」

 

「分かっています」

 

 アルカンフェルは不思議そうに言った。

 

「私は、制度の中で争う道を示した」

 

「はい」

 

「それを拒むなら、戦えと言った」

 

「はい」

 

「何が問題だ」

 

 村上は少し考えた。

 

「現代人は、政治的異議を表明した結果として、最高権力者から直接決闘を申し込まれることを想定していません」

 

「覚悟が足りない」

 

「そういう問題ではありません」

 

 

 

/*/

 

 

 

 当然、掲示板は燃えた。

 

 

【速報】アルカンフェル総帥、人権団体代表へ「文句があるなら戦おう」

 

1:名無しの市民

駄目だろ。

 

2:名無しの市民

何一つ隠さない独裁者。

 

3:名無しの反クロノス

強者の理論だ!

 

4:名無しの市民

本人も「そうだ」って認めてるぞ。

 

5:名無しの市民

そこ否定しないの怖すぎる。

 

6:名無しの元兵士

でも話の流れを見ると、いきなり殴ろうとしたわけではない。

 

7:名無しの市民

投票で負けた。

討論でも説得できなかった。

でも制度を廃止しろ。

と言われたから、じゃあ実力で退けろ、と。

 

8:名無しの市民

理屈は分かる。

言い方が完全に獣神将。

 

9:名無しの市民

完全に獣神将というか、獣神将本人だよ。

 

10:名無しの反クロノス

弱者の意見には価値がないと言っている!

 

11:名無しの市民

いや、弱くても戦う気があるなら相手するって言ってる。

 

12:名無しの市民

余計に怖い。

 

13:名無しの元兵士

勝てとは言っていない。戦えと言っている。

ここは総帥の価値観が出すぎている。

 

14:名無しの市民

市民運動に武人の倫理を持ち込むな。

 

15:名無しの市民

でも「聞くことと従うことは違う」は正論。

 

16:名無しの反クロノス

多数派に負けた少数派を切り捨てている!

 

17:名無しの市民

だから閲覧制限や訂正制度の話は聞いてるだろ。

制度自体を廃止しろ、だけ通らなかった。

 

18:名無しの市民

少数意見を聞く義務はある。

少数意見に従う義務はない。

 

19:名無しの市民

これ。

 

20:名無しの市民

それを総帥が言うと全部脅迫になる。

 

21:名無しの保安局

脅迫ではありません。

 

22:名無しの市民

保安局来た。

 

23:名無しの保安局

総帥閣下は、正式な決闘手続きについて言及されただけです。

 

24:名無しの市民

正式な決闘手続きがあるの!?

 

25:名無しの市民

そこが一番怖い。

 

26:名無しの旧政治家

統治の正統性を、最終的には実力に置いているわけだ。

 

27:名無しの市民

そりゃクロノスは武力で世界征服した組織だからな。

 

28:名無しの市民

民主的承認も取る。

行政手続きも守る。

でも最後の最後は「俺を退けてみろ」。

 

29:名無しの市民

隠さないだけ旧政治家より誠実なのか?

 

30:名無しの市民

比較対象が悪い。

 

 

 

/*/

 

 

 

 翌日、人権団体は声明を出した。

 

 

> 最高権力者が市民へ実力闘争を要求することは、政治的言論に対する明白な威圧である。

>

> 弱者には、強者へ異議を申し立てる権利がある。

>

> 戦う力を持たない者の声こそ、政治は聞かなければならない。

 

 それに対し、統治局は正式な回答を公表した。

 

> 市民には、請願、陳情、議会活動、公開討論、住民投票および行政訴訟を通じて、統治制度へ異議を申し立てる権利があります。

>

> これらの制度を利用したことを理由に、市民が処罰されることはありません。

>

> 一方、民主的手続きによる決定を受け入れず、統治権そのものの放棄を一方的に要求する行為は、通常の政策論争とは異なります。

>

> 意見を聞くことは、要求への服従を意味しません。

 

 

 最後に、アルカンフェル本人の追記が一行だけ付いていた。

 

 

> なお、私への挑戦は拒まない。

 

 

 村上はその一文を見た。

 

「これは誰が追加したのですか」

 

 ヴァルキュリアが答える。

 

「総帥閣下です」

 

「削除してください」

 

「既に公開済みです」

 

 アプトムが吹き出した。

 

 

 

/*/

 

 

 

 アルカンフェルにとって、統治とは契約ではなかった。

 

 彼は、人間から王権を委ねられたわけではない。

 

 選挙に勝って世界を得たのでもない。

 

 戦い、勝ち、支配した。

 

 その後に制度を整え、市民を養い、医療を与え、教育を与え、仕事を作った。

 

 だから市民が制度の改善を求めるなら、彼は聞いた。

 

 多数が別の仕組みを選ぶなら、それも認めた。

 

 だが、あらゆる手続きを拒んだ上で、ただ王に退けと言う者に対しては、答えは一つしかなかった。

 

「文句があるなら戦おう」

 

 それは民主主義の言葉ではなかった。

 

 だが、アルカンフェルは民主主義者ではない。

 

 人間を守る王であり。

 

 人間を支配する征服者であり。

 

 そして最後には、己の力によって玉座に座っている者だった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。