アルカンフェル転生   作:ぶーく・ぶくぶく

123 / 123
武神

/*/ 獣化兵ファイトではなく、武神の稽古 /*/

 

 

 

 試合開始から十分。

 

 世界中の視聴者が、ようやく異常さを理解し始めていた。

 

 リングに上がっているのは、グレゴール、ガーゴイル、ラモチスといった筋力増幅型獣化兵。

 

 通常の人間なら、一発でもまともに受ければ終わる。

 

 鉄板を曲げ、車両を持ち上げ、コンクリート壁を破砕する肉体を持つ格闘家たちである。

 

 だから大会発表当初、視聴者の多くは思っていた。

 

 これは獣化兵同士の超重量級格闘大会になる、と。

 

 アルカンフェルも獣神将形態になる。

 

 重力制御で巨体を投げ飛ばす。

 

 空中を飛び、衝撃波を放ち、人間には知覚できない速度で戦う。

 

 そういう光景を想像していた。

 

 実際は違った。

 

 アルカンフェルは、人間形態のままだった。

 

 重力制御を使わない。

 

 念動力も使わない。

 

 空間を歪めない。

 

 獣神将としての特殊能力を、何一つ見せない。

 

 ただ立ち、歩き、避け、受け流し、崩す。

 

 それだけで、獣化兵格闘家たちを圧倒していた。

 

 

 

/*/

 

 

 

【実況】総帥だけ人間形態なんだが

 

1:名無しの格闘ファン

獣化兵ファイトになると思ってた。

 

2:名無しの市民

総帥だけ人間形態で草。

 

3:名無しの格闘ファン

草と言うか、重力制御も何も使わず技術だけで獣化兵を圧倒してるんだけど、あの人。

 

4:名無しの市民

今の投げ、何をした?

 

5:名無しの柔道経験者

分からん。

 

6:名無しの柔道指導員

原理は分かる。

できるとは言ってない。

 

7:名無しの市民

どういうこと?

 

8:名無しの柔道指導員

相手の踏み込みに合わせて、重心の移動先を消した。

そのまま肩と肘を制して落とした。

 

9:名無しの市民

ガーゴイル型を?

 

10:名無しの柔道指導員

ガーゴイル型を。

 

11:名無しの市民

体重差は?

 

12:名無しの柔道指導員

考えたくない。

 

13:名無しの格闘ファン

中継を見てたうちのおじいちゃん師範が泡吹いてる。

 

14:名無しの市民

救急車呼べ。

 

15:名無しの格闘ファン

物理的にじゃない。

興奮してる。

 

16:名無しの市民

紛らわしい。

 

17:名無しの格闘ファン

「今の足捌きをもう一度映せ」って画面に食いついてる。

 

18:名無しの映像局

超高速映像を再生します。

 

19:名無しの市民

映像局来た。

 

20:名無しの格闘ファン

爺ちゃんが止めろって言ってる。

 

21:名無しの市民

なんで?

 

22:名無しの格闘ファン

「遅くしても分からんものは分からん。かえって己の未熟さが分かる」って。

 

23:名無しの市民

重い。

 

24:名無しの師範

足裏の接地が異常だ。

 

25:名無しの市民

別の師範来た。

 

26:名無しの師範

相手が押した瞬間だけ床を踏ませている。

それ以外は相手の力を床へ逃がさない。

 

27:名無しの市民

何言ってるか分からない。

 

28:名無しの師範

私も見えているだけで、再現できるとは言っていない。

 

29:名無しの格闘ファン

またそれか。

 

30:名無しの市民

総帥、武道家としてどのくらい強いの?

 

31:名無しの師範

比較対象がいない。

 

32:名無しの市民

もう武神じゃん。

 

 

 

/*/

 

 

 

 実況席には、世界各地から集められた武術家、格闘技指導者、運動生理学者が座っていた。

 

 だが、解説は次第に少なくなっていた。

 

 説明できないからではない。

 

 原理そのものは、彼らにも理解できる。

 

 重心。

 

 力の方向。

 

 骨格。

 

 関節。

 

 呼吸。

 

 視線。

 

 間合い。

 

 相手の無意識の反射。

 

 どれも人間が古くから研究してきたものだった。

 

 問題は、それらすべてを同時に、寸分の狂いもなく実行していることだった。

 

『今の動きについて、解説をお願いします』

 

 実況に促され、老齢の拳法家がしばらく沈黙した。

 

『……相手は右拳を囮にして、左肩から組みに入りました』

 

『はい』

 

『総帥閣下は、右拳を避けていません』

 

『避けていない?』

 

『拳が当たらない位置へ、あらかじめ相手の身体を動かしたのです』

 

 実況が黙った。

 

『相手の攻撃を見てから避けたのではありません。攻撃を出す際に必要となる踏み込みを利用して、攻撃の軌道そのものを変えた』

 

『それは可能なのですか』

 

『理屈では』

 

『実際には?』

 

『私には無理です』

 

 拳法家は、少し悔しそうに笑った。

 

『おそらく、この場にいる誰にも』

 

 

 

/*/

 

 

 

 四人目の挑戦者が、リングへ上がった。

 

 グレゴール型を基礎に、下半身の瞬発力と関節可動域を重点強化したキックボクサーだった。

 

 獣化した身体は、二メートルを大きく超える。

 

 胸郭は厚く、脚は人間の胴ほどもある。

 

 だが、そのステップは軽い。

 

 前足で小さく間合いを刻み、フェイントを入れる。

 

 巨大な身体が、ほとんど音を立てずに左右へ揺れる。

 

 アルカンフェルは、静かに構えていた。

 

 挑戦者が踏み込む。

 

 下段。

 

 中段。

 

 同じ軌道から、直前で角度を変えた上段回し蹴り。

 

 アルカンフェルは、最初の二発を足捌きだけで外した。

 

 三発目。

 

 腕で受ければ、獣化兵の蹴りをまともに受けることになる。

 

 アルカンフェルは、わずかに前へ出た。

 

 蹴りの威力が最大になる前。

 

 膝が伸び切る前。

 

 足首ではなく、相手の腰へ手を添える。

 

 次の瞬間、巨大な獣化兵の身体が空中で横を向いた。

 

「なっ――」

 

 蹴りの回転力を殺さず、方向だけを変えた。

 

 挑戦者は自らの勢いで一回転し、床へ落ちる。

 

 しかし、即座に受け身を取った。

 

 起き上がった顔には、恐怖ではなく笑みが浮かんでいた。

 

「今の、俺の蹴りを使ったな」

 

「そうだ」

 

「力を止めずに、向きだけ変えた」

 

「止める必要がない」

 

 アルカンフェルは静かに答えた。

 

「力は、すでにお前が用意していた」

 

 挑戦者の笑みが大きくなった。

 

「最高だ」

 

 観客席から歓声が上がる。

 

「もう一度だ!」

 

 獣化兵は再び踏み込んだ。

 

 

 

/*/

 

 

 

【疑問】負けてる獣化兵が全員楽しそうなんだが

 

1:名無しの市民

獣化兵なのに顔が楽しそうに見える。

 

2:名無しの格闘ファン

見えるんじゃない。

楽しんでる。

 

3:名無しの市民

技術でボコボコにされてるのに?

 

4:名無しの格闘家

だからだよ。

 

5:名無しの市民

分からない。

 

6:名無しの格闘家

自分より強い奴と戦える。

自分の技を全部出せる。

出した技を、もっと上の技術で返してもらえる。

 

7:名無しの市民

授業みたいなもの?

 

8:名無しの格闘家

そんな生ぬるいものじゃない。

 

9:名無しの市民

稽古?

 

10:名無しの格闘家

命が沸く。

 

11:名無しの市民

なんなの、この人たち怖い。

 

12:名無しの格闘ファン

人権団体と同じ感想になってて草。

 

13:名無しの獣化兵選手

総帥閣下が人間形態で相手してくださる意味を考えろ。

 

14:名無しの市民

本人来た。

 

15:名無しの獣化兵選手

獣神将の力で吹き飛ばすのは簡単だ。

だが、それでは我々の技術を測れない。

 

16:名無しの格闘ファン

だから同じ土俵に降りてきた?

 

17:名無しの獣化兵選手

違う。

 

18:名無しの市民

違うの?

 

19:名無しの獣化兵選手

同じ土俵だと思っていたら、その土俵が山頂にあった。

 

20:名無しの市民

格好いいこと言うな。

 

21:名無しの格闘家

俺も次の大会に出る。

 

22:名無しの医療局

まず検査を受けてください。

 

23:名無しの市民

医療局来た。

 

24:名無しの格闘家

筋力増強型への再調整を希望する。

 

25:名無しの医療局

競技目的のみの再調整は、適性審査の対象です。

 

26:名無しの格闘家

適性はある。

 

27:名無しの医療局

自己申告は審査結果ではありません。

 

28:名無しの市民

格闘家を止められるの医療局だけだな。

 

 

 

/*/

 

 

 

 控え席のハンマー・ジョーは、試合を重ねるたびに笑みを深くしていた。

 

「三十万年か」

 

 隣のレスラーが言う。

 

「そのうち数千年、武術を研鑽したらしい」

 

「総帥からすれば、ちょっとした暇潰しだったんだろうな」

 

「暇潰しでこれかよ」

 

 リングでは、アルカンフェルがグレゴール型選手の突進を半歩で外し、その腕を取って膝から崩していた。

 

 筋力ではなく、姿勢を壊す。

 

 速さではなく、相手が動く前提を奪う。

 

 獣化兵の巨体が床へ触れる直前、アルカンフェルは腕を緩めた。

 

 落下の衝撃まで調整している。

 

 相手を壊すためではなく、技術を示すための投げだった。

 

 ジョーは低く笑った。

 

「暇潰しじゃねえよ」

 

「何?」

 

「あの人、本気で覚えたんだ」

 

 レスラーがリングを見る。

 

「何のために?」

 

「知らねえ」

 

 ジョーは肩を回した。

 

「敵が来るまでの暇潰しかもしれねえ。人間を理解するためかもしれねえ。自分の身体をどこまで使えるか試したかっただけかもしれねえ」

 

 そして、獰猛に歯を見せる。

 

「理由なんか、どうでもいい」

 

 アルカンフェルは、何千年も一人で積み上げてきた。

 

 その時代ごとに現れた戦士と戦い。

 

 技を見て。

 

 原理を理解し。

 

 己の身体で試し。

 

 失われた流派の技すら、自身の中へ残した。

 

 人間が師から弟子へ、親から子へ受け継いできた武術の歴史を。

 

 アルカンフェルは、一人の肉体の中で途切れさせず、積み重ね続けてきた。

 

「三十万年生きた獣神将が、数千年だけ武術家をやってた」

 

 ジョーは言った。

 

「それで武神ができ上がった」

 

 レスラーが苦笑する。

 

「笑えねえな」

 

「俺は笑える」

 

「なんでだよ」

 

「そんな相手と、これから戦える」

 

 ジョーの目は輝いていた。

 

「笑わずにいられるかよ」

 

 

 

/*/

 

 

 

 そして、ついにハンマー・ジョーの名が呼ばれた。

 

 観客席が大きく揺れる。

 

 ジョーは立ち上がり、リングへ向かった。

 

 すれ違いざま、先ほど敗れた獣化兵格闘家が声をかける。

 

「気をつけろ」

 

「何にだ」

 

「強さじゃない」

 

 獣化兵は、まだ楽しそうに笑っていた。

 

「技を返されるぞ」

 

「望むところだ」

 

 ジョーはリングへ上がった。

 

 アルカンフェルは、人間形態のまま待っている。

 

「待たせたな、総帥」

 

「待ってはいない」

 

「そうかい」

 

 ジョーは構えた。

 

 筋力増幅型獣化兵の巨体が沈む。

 

 床がわずかに軋んだ。

 

 だが、その姿勢に無駄はない。

 

 何百、何千時間と反復された構えだった。

 

 アルカンフェルはそれを見て、ほんの少し目を細めた。

 

「よい構えだ」

 

 ジョーの口元が吊り上がる。

 

「そいつはどうも」

 

「来い」

 

「ああ」

 

 ジョーの全身から、歓喜に似た闘気が立ち昇った。

 

「武神に、人間の拳を教えてやるよ」

 

 ゴングが鳴った。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

トローラ・ロージン転生(作者:ぶーく・ぶくぶく)(原作:ファイブスター物語)

※本作は作者が読みたい原作改変を自給自足する趣味作です。感想や考察はありがたく拝見しますが、展開は作者の予定と趣味を優先して進めます。▼星団暦2988年、アドラー。▼ユーバー・バラダに雇われた傭兵騎士トローラ・ロージンは、目覚めた瞬間に自分が「もう詰んでいる」ことを悟る。▼視界いっぱいに迫る黄金の電気騎士、K.O.G.。▼本来ならここでトローラは、MHバルン…


総合評価:2823/評価:8.81/連載:63話/更新日時:2026年08月20日(木) 18:00 小説情報

ちゃんと軍人教育受けてるジィッドくん(作者:ぶーく・ぶくぶく)(原作:ファイブスター物語)

ニナリスのA-B1-B1-B2-B2:VVS1・L型って見てさ。クリアランスVVS1が嫁いでくるのにジィッドくん残念過ぎないと思って妄想を形にしてみます。これミースを誘拐したり、エンジン爆破しそうにないから、死なないで済むかしら?▼ラストまで投稿したぜ。2026年6月18日完結。▼トローラ・ロージン転生「https://syosetu.org/novel/4…


総合評価:845/評価:8.47/完結:161話/更新日時:2026年06月18日(木) 00:00 小説情報

転生バドは勝利を夢見る(作者:ぶーく・ぶくぶく)(原作:機動警察パトレイバー)

※本作は作者が読みたい原作改変を自給自足する趣味作です。感想や考察はありがたく拝見しますが、展開は作者の予定と趣味を優先して進めます。▼オタクの夢見る転生もの。▼リアルっぽい世界でインドで人買いに攫われて外れかと思ったら、ボク、バドリナード・ハルチャンドやん!▼グリフォン乗れるやん!▼ならアルフォンスに勝たなあかん。▼原作通りなんてつまらない。▼性能は勝って…


総合評価:1036/評価:7.04/完結:64話/更新日時:2026年08月18日(火) 05:00 小説情報

転生したら聖園ミカだったけど、どう考えてもここはキヴォトスではない。(作者:Othuyeg)(原作:強殖装甲ガイバー)

どこをどう見てもキヴォトスではない場所に聖園ミカの姿で転生した元(・)一般人の話。▼※なんかしら反応があったら続く。▼※予想外に反応が多かったので連載に切り替えました。君らガイバー二次に飢えすぎだろ。▼※pixivにもマルチ投稿を始めました。(2026/07/26)


総合評価:2987/評価:8.44/連載:11話/更新日時:2026年08月13日(木) 17:00 小説情報

愛と勇気と正義にかけて、市民をお守りいたします!(作者:イングラマン)(原作:機動警察パトレイバー)

某巡査の娘が特車二課第二小隊に配属される、原作再構成二次小説です。▼自分が読みたいがために投稿しました。▼・TVアニメ版を軸にOVA、漫画版や小説版をミックスしています。▼・転生オリ主最強です。▼・一部キャラクターの生年と経歴を変更しています。▼・作者は警察組織や軍事関係、コンピュータについてはネットで調べた程度の知識しかありません。▼以上の点を踏まえて、本…


総合評価:3701/評価:9.03/連載:23話/更新日時:2026年08月21日(金) 18:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>