/*/ 転売屋死すべし /*/
クラウドゲートの定例会議で、アルカンフェルは開口一番に命じた。
「転売対策をせよ」
行政担当者たちが一斉に端末を開く。
「統一市民番号で購入数を制限しろ。古物商免許を持たぬ者が、購入直後の商品を反復して販売した場合は、営利転売とみなし厳罰に処せ」
アプトムが眉を上げた。
「転売ごときに、随分と鼻息が荒いな」
「市場対策としては以前から検討されていましたが」
村上が慎重に尋ねる。
「何かありましたか」
アルカンフェルは、自分の端末を机へ置いた。
画面には、限定商品の販売終了を知らせる表示と、その直後に出品された高額商品が並んでいた。
「限定アイテムが転売屋に買い占められた」
「あー……」
村上とアプトムの声が重なる。
「販売開始から四十二秒で完売した。直後に十二倍の価格で出品されている」
「閣下も購入できなかったのですか」
「統治者権限を使って購入枠を確保するのは公平ではない」
「そこは律儀なんだな」
アプトムが笑う。
「それで制度ごと潰すのか」
「以前から市民が被害を受けていた。私の件は、問題を認識する契機にすぎない」
「それで、具体的にはどこまでお考えですか」
村上が尋ねる。
アルカンフェルは冷然と言った。
「転売屋死すべし。慈悲はない」
「ダメです」
村上は即答した。
「なぜだ」
「転売は死刑にするような犯罪ではありません」
「市民の購入機会を奪い、何も生産せず価格だけをつり上げている」
「それでもダメです」
「では終身強制労働」
「ダメです」
「財産没収」
「違法転売による利益と在庫の没収までです」
アルカンフェルは不満そうに黙った。
ヴァルキュリアが、議論を現実的な範囲へ戻す。
「統一市民番号による本人確認と購入上限を導入します。地域をまたいだ購入、軌道居住圏や月面都市を経由した購入も、同一人物の履歴として照合可能です」
「複数の名義を使えば?」
「購入者と決済口座、配送先、端末情報を照合します」
「家族名義は?」
「家庭内の購入まで一律に禁止すると、正当な需要を阻害します。短期間の大量購入と再販売を基準に判定します」
村上が補足する。
「個人が不要品を売ることまで処罰してはいけません。未使用品の反復出品、販売直後の高額出品、継続的な利益目的などを条件にしましょう」
「古物商免許があれば許すのか」
「免許があっても、購入制限を組織的に回避した場合は処罰対象です」
「よい」
アルカンフェルは頷いた。
「罰金は利益を上回らせろ。在庫も没収し、定価で再販売せよ」
「妥当です」
「違反者の購入権を十年間停止」
「長すぎます」
「五年」
「悪質性に応じて段階制にします」
「マサキは転売屋に甘い」
「閣下が厳しすぎるのです」
アプトムが机へ頬杖をついた。
「で、何を買い逃したんだ?」
アルカンフェルは答えなかった。
会議室に、触れてはならない沈黙が落ちた。
/*/ 統一市民掲示板 /*/
【速報】無免許転売、厳罰化へ
1:名無しの統一市民
転売屋終了。
5:名無しの統一市民
統一市民番号で購入制限とか逃げ道ないだろ。
9:名無しの統一市民
地球の別地域から買っても、月から買っても、同一人物扱いだってよ。
14:名無しの統一市民
世界統一政府の本人確認を限定グッズで実感するとは思わなかった。
21:名無しの統一市民
総帥も転売屋に負けて買えなかったらしい。
23:名無しの統一市民
世界の支配者でも先着販売には勝てない。
28:名無しの統一市民
権力で一個確保せず、制度ごと是正するのは偉い。
30:名無しの統一市民
なお発言は「転売屋死すべし。慈悲はない」
31:名無しの統一市民
村上「ダメです」
32:名無しの統一市民
良心回路が即答してる。
46:名無しの統一市民
何の限定品だったんだ。
49:名無しの統一市民
ゲーム説。
50:名無しの統一市民
模型説。
53:名無しの統一市民
限定衣装付き携行ゲーム機説。
61:名無しの統一市民
総帥広報、商品名だけは絶対に発表しなくて草。
/*/
数日後、没収された転売在庫の抽選販売が行われた。
アルカンフェルも一般市民と同じ条件で応募した。
結果は落選だった。
「抽選制度にも問題があるのではないか」
「ありません」
ヴァルキュリアは即答した。
「転売屋死すべし」
「抽選に外れただけです」
「慈悲はない」
「今回は転売屋が関係ありません」