/*/ 2057年10月4日 宇宙歴採用発表後 ロシア圏 /*/
2057年10月4日。
スプートニク一号が地球周回軌道へ投入されてから、ちょうど100年。
その日、クロノス中央評議会は、新たな共通紀年法の採用を正式に発表した。
人類宇宙歴を制定する。
宇宙歴元年――西暦1957年。
人類初の人工衛星スプートニク一号が地球周回軌道へ到達した年をもって、人類宇宙時代の始まりと定める。
本年、西暦2057年は、遡及換算により宇宙歴101年に相当する。
クロノスによる世界統一の日ではない。
最初の月面都市建設でもない。
火星入植でもない。
人類がまだ東西に分かれ、地球上で激しく対立していた時代。
その只中で、一つの国家の技術者たちが小さな銀色の球体を空へ打ち上げた年。
そこが、人類宇宙史の元年とされた。
2057年10月4日は、平年の年初から数えて第277日目にあたる。
太陽系標準時を用いる通信網では、この日の日付は、
ES101 / Day 277
と表記された。
発表から数分後。
旧ロシア行政区の通信網は、しばらく機能不全に近い状態へ陥った。
障害ではない。
単純に、喜んだ人間が多すぎたのである。
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【速報】宇宙歴制定 元年は1957年 スプートニク一号打ち上げ年
1:名無しの旧モスクワ市民 ES101 / Day 277 / 09:03 SST
我々の時代が来た。
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2:名無しの宇宙技師 ES101 / Day 277 / 09:03 SST
ハラショー!
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3:名無しの統一市民 ES101 / Day 277 / 09:04 SST
今日スプートニク100周年だぞ。
その日に発表したのか。
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4:名無しの旧レニングラード市民 ES101 / Day 277 / 09:04 SST
当然だ!
100年前の今日だ!
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5:名無しの統一市民 ES101 / Day 277 / 09:05 SST
同志アルカンフェル!
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6:名無しの歴史教師 ES101 / Day 277 / 09:05 SST
待て。
総帥閣下を同志呼びしてよいのか。
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7:名無しの旧モスクワ市民 ES101 / Day 277 / 09:06 SST
100周年の日に、スプートニクを人類宇宙歴元年としてくださったのだぞ。
今日くらい同志だ。
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8:名無しの法務職員 ES101 / Day 277 / 09:06 SST
公式呼称ではない。
公文書には絶対に書くな。
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9:名無しの宇宙技師 ES101 / Day 277 / 09:07 SST
同志アルカンフェル総帥閣下!
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10:名無しの法務職員 ES101 / Day 277 / 09:07 SST
混ぜれば解決する問題ではない。
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11:名無しの旧レニングラード市民 ES101 / Day 277 / 09:08 SST
世界統一後に制定された新しい紀年法が、我々のスプートニクから始まる!
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12:名無しの歴史研究員 ES101 / Day 277 / 09:09 SST
正確には、人類全体の宇宙史の起点として採用された。
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13:名無しの旧レニングラード市民 ES101 / Day 277 / 09:09 SST
つまり、我々の功績が人類全体の歴史になった。
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14:名無しの歴史研究員 ES101 / Day 277 / 09:10 SST
その表現なら、まあよい。
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15:名無しの統一市民 ES101 / Day 277 / 09:11 SST
ところで2057年なのに宇宙歴101年なのか?
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16:名無しの暦法担当 ES101 / Day 277 / 09:12 SST
1957年が元年だからそうなる。
1957=1。
1958=2。
2057=101。
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17:名無しの旧モスクワ市民 ES101 / Day 277 / 09:13 SST
100周年に宇宙歴101年。
良いではないか。
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18:名無しの宇宙技師 ES101 / Day 277 / 09:14 SST
100年間飛び続けて、次の100年へ入った年という感じがする。
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赤の広場では、誰が公式に呼びかけたわけでもないのに、人々が集まり始めた。
もともとスプートニク100周年の記念行事は予定されていた。
そこへ、
《宇宙歴制定》
という巨大な燃料が投げ込まれた。
旧ソビエト時代の宇宙開発を記念する旗。
スプートニク一号を描いた横断幕。
100周年記念章。
宇宙服姿の犬を模したぬいぐるみ。
銀色の球体に四本のアンテナを取り付けた、手製のスプートニク模型。
そして。
午後には早くも、誰かが作った巨大な看板が出現していた。
旧ソビエト式の宇宙開発宣伝画。
朝日を背負ったアルカンフェルが片手を宇宙へ掲げている。
その先を、
スプートニク一号。
初期の有人宇宙船。
月面都市。
火星居住区。
小惑星帯の採掘施設。
木星へ向かう大型船団。
そして外惑星航路へ進む宇宙船が飛んでいた。
看板の下には、ロシア語と統一公用語で大きく書かれている。
同志アルカンフェルとともに、全太陽系へ!
「おい」
一人の男が看板を見上げた。
「総帥閣下を勝手に同志にしてよいのか」
「まだ止められていない」
「許可もされていないだろう」
「スプートニク100周年の日に宇宙歴を制定してくださった。それで十分だ」
「総帥閣下は共産党員ではないぞ」
「政治的な同志ではない」
「では何だ」
男は胸を張った。
「宇宙へ向かう人類の同志だ」
「便利な解釈を思いついたな」
「今日思いついた」
「やはり後付けではないか」
/*/
/*/ 旧ロシア行政区公共放送 /*/
予定されていた100周年記念番組は、大幅に内容を変更して放送された。
画面にはスプートニク一号。
その背後には、
1957―2057
スプートニク一号100周年
人類宇宙歴制定
という文字が並んでいる。
そして、当時の発信音を再現した単純な電子音。
司会者は、普段より明らかに興奮していた。
「本日、2057年10月4日」
「太陽系標準暦表記では、ES101 / Day 277」
「スプートニク一号打ち上げ100周年のこの日に、クロノス中央評議会は1957年を人類宇宙歴元年と正式に定めました」
「本年は宇宙歴101年にあたります」
宇宙史研究者が大きく頷いた。
「重要なのは、旧ソビエト連邦という国家体制そのものが顕彰されたわけではないという点です」
「では、何が?」
「人類が初めて人工衛星を地球周回軌道へ投入した、その事実です」
「国家ではなく?」
「人類史上の到達点です」
研究者は続けた。
「もちろん、実際にスプートニク一号を設計し、製造し、打ち上げたのは当時のソビエト連邦の技術者、研究者、軍人、労働者たちです」
「その功績まで薄めるわけではない」
「むしろ逆でしょう」
「彼らが達成した出来事を、特定国家だけの記念から、人類全体の宇宙史の起点へ位置づけた」
「なるほど」
司会者は真面目な顔で頷いた。
「では、街頭で叫ばれている『世界の暦をロシアが制した』という表現については?」
「かなり誇張されています」
「『暦法でも宇宙開発競争に勝利』は?」
「競争ではありません」
「『100年越しの完全勝利』」
「何と戦っているのですか」
「『同志アルカンフェル』は?」
研究者は数秒黙った。
「公式には推奨できません」
「個人的には?」
さらに数秒。
「……気持ちは非常によく分かります」
/*/
モスクワ宇宙開発記念館では、来館者数が一日で過去最高を記録した。
100周年記念日に加えて、宇宙歴制定。
人が来ない理由がなかった。
子供たちはスプートニク一号の模型を囲み、年配者たちは静かに展示を見上げていた。
「おじいちゃん」
「何だ」
「これが宇宙歴1年?」
「元年だな」
「小さいね」
老人は笑った。
「最初の一歩というものは、大きさでは決まらん」
銀色の球体。
四本のアンテナ。
今の惑星間宇宙船とは比較にもならない。
「当時はな、人工物を地球の周りへ回すだけでも、とんでもないことだった」
「今は月にも火星にも町があるよ」
「ああ」
「木星にも行ける」
「ああ」
「それはクロノスが作ったんでしょう?」
「多くはな」
老人は孫の頭へ手を置いた。
「だが総帥は、自分たちが宇宙時代を始めたとは言わなかった」
「どうして?」
「先にやった者がいたからだ」
老人は展示ケースへ視線を戻した。
「世界を統一した者が、自分の統一の日を元年にしなかった」
「うん」
「月へ大都市を作っても、火星へ人を住ませても、それを元年にしなかった」
「うん」
「その代わり、100年前の技術者たちが打ち上げた、この小さな衛星を選んだ」
子供は模型を見上げた。
「総帥って、昔の人のことも覚えてるんだね」
「本人が昔からいるからな」
「それはずるくない?」
「そこは別の話だ」
老人は少し笑った。
「だが今日は、少しくらい騒いでも許されるだろう」
その直後。
館外からものすごい声が響いた。
「ハラショー!」
「スプートニク100周年!」
「宇宙歴元年!」
「同志アルカンフェル!」
老人は眉を寄せた。
「……少し騒ぎすぎだ」
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【宇宙歴】アルカンフェル総帥、実質ソ連宇宙開発の最大理解者では?
81:名無しの統一市民 ES101 / Day 277 / 13:41 SST
理解者ではある。
最大功労者ではない。
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82:名無しの旧レニングラード市民 ES101 / Day 277 / 13:42 SST
分かっている。
打ち上げたのは当時の人間だ。
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83:名無しの歴史研究員 ES101 / Day 277 / 13:42 SST
そこ大事。
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84:名無しの旧レニングラード市民 ES101 / Day 277 / 13:43 SST
だからこそ偉大なのだ。
自分の功績を元年にせず、先人の功績を選んだ。
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85:名無しの統一市民 ES101 / Day 277 / 13:44 SST
それなら分かる。
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86:名無しの旧レニングラード市民 ES101 / Day 277 / 13:44 SST
つまり功績を正当に評価した偉大な同志。
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87:名無しの歴史研究員 ES101 / Day 277 / 13:45 SST
同志から離れろ。
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88:名無しの火星居住者 ES101 / Day 277 / 13:46 SST
火星ではもう制定記念酒が売り切れたぞ。
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89:名無しの旧モスクワ市民 ES101 / Day 277 / 13:46 SST
100周年記念ウォッカか?
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90:名無しの火星居住者 ES101 / Day 277 / 13:47 SST
商品名は《スプートニク・ワン》。
銀色の瓶。
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91:名無しの旧モスクワ市民 ES101 / Day 277 / 13:47 SST
アンテナは?
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92:名無しの火星居住者 ES101 / Day 277 / 13:48 SST
四本ついてる。
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93:名無しの工業規格職員 ES101 / Day 277 / 13:48 SST
瓶に突起をつけるな。
輸送ケースに入らない。
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94:名無しの旧モスクワ市民 ES101 / Day 277 / 13:49 SST
浪漫の分からん奴め。
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95:名無しの工業規格職員 ES101 / Day 277 / 13:49 SST
太陽系物流は浪漫では動かない。
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96:名無しの月面都市居住者 ES101 / Day 277 / 13:50 SST
月では総帥のソ連宇宙開発ポスター風イラストが売られてる。
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97:名無しの文化史研究員 ES101 / Day 277 / 13:51 SST
公式商品?
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98:名無しの月面都市居住者 ES101 / Day 277 / 13:51 SST
市民制作。
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99:名無しの旧モスクワ市民 ES101 / Day 277 / 13:52 SST
ハラショー!
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/*/ 同日午後 クラウド・ゲート /*/
アルカンフェルの執務室。
大型表示面には、旧ロシア行政区から送られてきた映像が並んでいた。
赤の広場。
スプートニク一号の模型。
宇宙服を着た子供たち。
100年前の宇宙開発関係者の写真を掲げる老人たち。
そして。
同志アルカンフェル、ハラショー!
と大書された横断幕。
アルカンフェルは、しばらく無言でそれを見た。
「……なぜ私は同志と呼ばれている」
隣にいたバルカスが白い髭を撫でた。
「本日の宇宙歴制定が、旧ロシア圏では非常に好意的に受け止められているようでございます」
「それは見れば分かる」
「特に、スプートニク一号打ち上げ100周年の日に発表されたことが、大きかったのでしょうな」
「日付を合わせたのは当然だ」
「市民には、かなり強い意味を持ったようでございます」
アルカンフェルは横断幕を見た。
「喜ぶのは構わぬ」
「あちらも、まさにその状態でございます」
「だが私は共産党員になった覚えはない。そもそも共産党はもうないではないか」
「市民も政治的意味で申しているわけではないそうで」
「ならば、どういう意味だ」
バルカスが端末を見る。
「『宇宙へ向かう人類の同志』とのことですな」
「誰が言った」
「赤の広場で取材された市民でございます」
「後から考えたのではないか」
「おそらく」
アルカンフェルは少し黙った。
映像の中では、スプートニク100周年を祝う群衆が歓声を上げている。
「私は旧ソビエト連邦を称揚するために、1957年を選んだのではない」
「承知しております」
「人類が初めて人工物を地球周回軌道へ載せた年だからだ」
「その御意図も、正式声明へ明記されております」
「では、なぜ『世界の暦をロシアが制した』などという話になる」
「祝い事における市民の発言は、公文書ほど厳密ではございませんからな」
「訂正させるべきか」
バルカスは画面を見る。
年老いた男が、涙を拭いながらスプートニクの模型を掲げていた。
その隣では、まだ幼い子供が宇宙服を模した服で跳ねている。
「本日くらいは、よろしいのではございませんかな」
アルカンフェルも老人を見た。
「……そうだな」
/*/
映像が切り替わる。
次に出たのは、あの巨大な宣伝画だった。
朝日。
アルカンフェル。
掲げられた右手。
宇宙へ伸びる航路。
そして巨大な標語。
同志アルカンフェルとともに、全太陽系へ!
アルカンフェルは長いこと見た。
「私は、このような姿勢で宇宙を指差したことはない」
「市民の創作でございますからな」
「肩部の形状も違う」
「写実画ではございません」
「ゾア・クリスタルが実物より大きい」
「目立つ方が絵になるのでございましょう」
「勝手に大きくするな」
バルカスが少し笑った。
「文化記録院から、非公式作品である旨を告知いたしましょうか」
「必要ない」
即答だった。
「よろしいのでございますか」
「市民が自分で描いたのだろう」
「そのようですな」
「ならば好きにさせよ」
「『同志アルカンフェル』も?」
「公文書でなければ構わぬ」
「肖像の使用は?」
「侮辱する意図ではないのであろう」
「むしろ、旧ロシア圏なりの最大級の敬意と親愛かと」
「ならば止める理由はない」
アルカンフェルは再び画面を見る。
「私が手を入れれば、クロノス公式宣伝になる」
「左様でございます」
「これは市民が100周年と宇宙歴制定を祝って作った物だ」
「はい」
「市民の祝祭は、市民のものだ」
バルカスが静かに頭を下げた。
「では、介入はいたしません」
「そうしろ」
映像の中では、若者たちがポスターの前で肩を組んでいた。
「ハラショー!」
「スプートニク!」
「宇宙歴101年!」
「同志アルカンフェル!」
アルカンフェルは少し眉を寄せた。
だが、画面を消そうとはしなかった。
---
【朗報】同志アルカンフェル・ポスター、黙認される
201:名無しの統一市民 ES101 / Day 277 / 16:22 SST
文化記録院から回収命令は?
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202:名無しの旧モスクワ市民 ES101 / Day 277 / 16:22 SST
なし。
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203:名無しの統一市民 ES101 / Day 277 / 16:23 SST
肖像使用について警告は?
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204:名無しの文化記録院職員 ES101 / Day 277 / 16:23 SST
現在まで出ていません。
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205:名無しの旧レニングラード市民 ES101 / Day 277 / 16:24 SST
つまり公認。
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206:名無しの法務職員 ES101 / Day 277 / 16:24 SST
黙認と公認は違う。
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207:名無しの旧モスクワ市民 ES101 / Day 277 / 16:25 SST
禁止されていないなら祝える!
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208:名無しの法務職員 ES101 / Day 277 / 16:25 SST
祝うことは最初から禁止されていない。
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209:名無しの宇宙技師 ES101 / Day 277 / 16:26 SST
増刷だ!
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210:名無しの工業規格職員 ES101 / Day 277 / 16:27 SST
せめて標準規格寸法に合わせろ。
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211:名無しの旧モスクワ市民 ES101 / Day 277 / 16:27 SST
特大版こそ浪漫だ。
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212:名無しの火星居住者 ES101 / Day 277 / 16:28 SST
火星版は背景を赤い大地に変更してよいか?
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213:名無しの統一市民 ES101 / Day 277 / 16:28 SST
もう派生版が出るのか。
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214:名無しの月面居住者 ES101 / Day 277 / 16:29 SST
月面版も制作中。
地球を背景にする。
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215:名無しの小惑星帯労働者 ES101 / Day 277 / 16:30 SST
こっちは採掘基地版。
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216:名無しの統一市民 ES101 / Day 277 / 16:30 SST
何が違う。
---
217:名無しの小惑星帯労働者 ES101 / Day 277 / 16:31 SST
総帥の横に作業員がいる。
---
218:名無しの統一市民 ES101 / Day 277 / 16:32 SST
総帥が労働者階級の同志になっていく。
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219:名無しの法務職員 ES101 / Day 277 / 16:33 SST
公式章だけは勝手に使用するな。
---
220:名無しの旧モスクワ市民 ES101 / Day 277 / 16:33 SST
では大きく《市民制作》と入れる。
---
221:名無しの文化史研究員 ES101 / Day 277 / 16:34 SST
それなら後世の資料としても助かる。
---
222:名無しの宇宙技師 ES101 / Day 277 / 16:35 SST
同志アルカンフェルとともに、全太陽系へ!
---
/*/ ES101 / Day 277 夜 /*/
その夜。
地球。
月。
火星。
小惑星帯。
木星圏。
人類が居住する各地の公共放送と宇宙港で、短い電子音が流された。
ビー。
ビー。
ビー。
100年前。
人類初の人工衛星スプートニク一号が、地球周回軌道から送り続けた単純な信号。
今の惑星間通信と比べれば、あまりにも小さい。
画像もない。
言葉もない。
ただ、自分がそこにいると知らせるだけの音。
だが2057年10月4日。
太陽系標準暦、
ES101 / Day 277
その音には、新しい意味が一つ加わった。
宇宙歴元年。
人類がまだ一つの政府を持たず。
地球上で争い。
核兵器を向け合い。
相手より先へ進むことを競っていた時代。
それでも、その競争の中から宇宙への道は開かれた。
旧ロシア行政区の人々は胸を張った。
「最初の人工衛星を飛ばしたのは、我々の先人だった」
それに対して、ほかの地域の人々も答えた。
「そして、その最初の一歩を、今では人類全体が受け継いでいる」
赤の広場には、例の巨大なポスターがまだ掲げられていた。
月面都市では、背景を青い地球へ置き換えた版。
火星では、赤い大地から宇宙船団を送り出す版。
小惑星帯では、作業用外骨格を着た労働者たちがアルカンフェルの横へ並ぶ版。
木星圏では、巨大なガス惑星を背景に外宇宙へ手を伸ばす版。
どれも公式作品ではない。
構図も。
装甲も。
歴史的細部も。
必ずしも正確ではない。
だが、アルカンフェルは修正も回収も命じなかった。
市民が、自分たちの宇宙時代を祝っている。
100年前の人々が始めた道を、自分たちの歴史として受け取っている。
そして、その先にある未来を勝手に描いている。
それならば。
好きにさせておけばよい。
その夜。
赤の広場では、遅くまで声が途切れなかった。
「ハラショー!」
「スプートニク100周年!」
「宇宙歴101年!」
「同志アルカンフェル!」
アルカンフェル本人は、最後まで自分がなぜ同志なのか完全には納得していなかった。
だが、訂正もしなかった。
そのため後年。
旧ロシア圏では、
西暦2057年10月4日。
ES101 / Day 277。
スプートニク一号打ち上げ100周年。
人類宇宙歴採用発表の日。
この四つが重なった記念すべき一日を、市民たちは非公式にこう呼ぶようになった。
《総帥が同志になった日》
なお、クロノスの公式文書でこの名称が使用された例は、一件もない。