アルカンフェル転生   作:ぶーく・ぶくぶく

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17:00以外の投稿は後から差し込んだものなので、なんか表記ずれがあるかも。読み返してはいるんだけど、自分の脳内チェックが信用できない!



核融合炉実用化してる

/*/ クロノス統治一年目 日本列島核融合炉建設計画 /*/

 

 

 

 クロノス統治一年目。

 

 日本列島におけるエネルギー政策は、最初から極端だった。

 

 旧国家時代の原子力発電所立地。

 

 すなわち、冷却水の確保が容易で、送電幹線が既に通り、地盤調査と防災計画が積み重ねられ、周辺地域に発電所関連の技術者と保守産業が存在していた場所。

 

 クロノスはそれらを、核融合炉建設地として再利用した。

 

 最初に建設が始まったのは、五ギガワット級大型核融合炉である。

 

 現実の原子力発電所一基分を一ギガワット級と見れば、その五倍。

 

 クロノスはそれを、日本列島各地の旧原発立地に三十基前後、同時並行で建設し始めた。

 

 これは即時稼働ではない。

 

 統治一年目に建設を開始し、各地で建設、炉心保持試験、送電試験、冷却試験、緊急遮断試験、出力上昇試験を重ねる。

 

 そして2001年代初頭に、営業稼働へ移行する予定であった。

 

 日本だけではない。

 

 同じ計画は、世界規模で進んでいた。

 

 北米。

 

 欧州。

 

 ロシア。

 

 中国。

 

 インド。

 

 中東。

 

 南米。

 

 アフリカ沿岸部。

 

 オーストラリア。

 

 旧大国、旧資源国、旧工業国、旧植民地圏の区別なく、クロノスは地球全域に核融合炉網を敷こうとしていた。

 

 目的は明確だった。

 

 人類を、電力不足から解放する。

 

 燃料輸入に左右される経済を終わらせる。

 

 火力発電による大気汚染と二酸化炭素排出を止める。

 

 産業、医療、通信、交通、淡水化、調整体施設、災害復旧、宇宙開発を、すべて電力で支える。

 

 クロノスは、核融合炉の営業稼働と同時に、全火力発電所の段階的停止を宣言していた。

 

 石炭火力。

 

 石油火力。

 

 天然ガス火力。

 

 旧来の燃焼式発電設備は、非常用予備、歴史的保存、特殊産業用の一部を除き、稼働停止対象となる。

 

 火力発電所の煙突は、二十一世紀初頭のうちに次々と沈黙する予定だった。

 

 太陽光、風力、地熱、小水力などは廃止されなかった。

 

 だが、主力電源としての位置づけは消える。

 

 それらは、非常用、僻地用、宇宙用、独立施設用、災害時分散電源として研究が続けられる。

 

 特に宇宙開発においては、太陽光発電と蓄電技術は依然として重要だった。

 

 だが、地球上の基幹電力は、核融合炉と世界送電網が担う。

 

 それがクロノスの方針だった。

 

 

 

/*/ 日本列島配置案 /*/

 

 

 

 日本列島には、最終的に二層構造の核融合炉網が置かれることになった。

 

 第一層は、十ギガワット級基幹炉。

 

 日本列島の大消費地、太平洋ベルト、関東、中京、関西、瀬戸内、北九州、北海道、東北沿岸、日本海側の要所に、十八基を配置する。

 

 これは日本列島の主電源であり、平時の大部分の電力を担う。

 

 第二層は、五ギガワット級補助炉。

 

 統治一年目から建設が始まった三十基前後の大型炉を中心に、地方工業地帯、北海道、九州、日本海側、災害時孤立地域、軍事・医療・調整体施設の近傍へ分散配置する。

 

 基幹炉十八基だけでも、日本列島の現行電力需要は十分に賄える。

 

 だが、クロノスはそこで止めなかった。

 

 日本は災害列島である。

 

 地震。

 

 津波。

 

 台風。

 

 豪雪。

 

 火山。

 

 送電幹線の寸断。

 

 沿岸部の被災。

 

 旧国家時代の日本は、電力網の脆さを何度も露呈していた。

 

 だからクロノスは、効率だけでなく冗長性を優先した。

 

 平時には余剰電力を世界電力網へ送る。

 

 非常時には、世界電力網から切り離されても、日本列島単独で数か月以上、社会機能を維持できる。

 

 大都市が停止しても、地方炉が病院、浄水場、通信、輸送、避難施設を動かし続ける。

 

 北海道が孤立しても、北海道内で電力を賄う。

 

 九州が大規模災害を受けても、九州内の補助炉と本州側の基幹炉で相互支援する。

 

 日本海側が太平洋側の被災を支え、太平洋側が日本海側の豪雪災害を支える。

 

 電力網は、国家の血管ではなく、クロノス統治の神経網として再構築された。

 

 

 

/*/

 

 

 

 日本列島核融合炉配置図を見ながら、村上征樹は眉をひそめた。

 

 会議室には、アルカンフェル、バルカス、村上、そして人間形態のアプトムがいた。

 

 アプトムは椅子の背にもたれ、腕を組みながら、壁面いっぱいに投影された日本列島の地図を眺めている。

 

 関東。

 

 中京。

 

 関西。

 

 九州北部。

 

 北海道。

 

 東北沿岸。

 

 瀬戸内。

 

 日本海側。

 

 赤い光点が、列島の上に並んでいた。

 

「総帥。これは、かなり過剰配置ではありませんか」

 

 村上が言った。

 

「十ギガワット級基幹炉十八基。五ギガワット級補助炉三十基前後。平時供給量だけで見れば、日本の需要を大幅に超えます」

 

 アルカンフェルは地図を見ていた。

 

 少年のような姿のまま、しかしその視線は列島全体を掌の上に置く支配者のものだった。

 

「日本程度なら、大型炉十数基で足りる」

 

 アルカンフェルは静かに言った。

 

「だが、災害列島だ。余裕を持って置け」

 

 村上は資料をめくった。

 

「余剰電力は世界電力網へ送る前提ですね」

 

「そうだ」

 

「非常時は国内で使う」

 

「そうだ」

 

 村上は黙った。

 

 それは正しい。

 

 過剰に見える炉数も、災害列島を前提にすれば、意味が変わる。

 

 一基の巨大炉に依存すれば危険だ。

 

 だが、多数の大型炉を相互接続し、地域ごとに自立可能な電力圏を作るなら、災害時の強さは桁違いになる。

 

 バルカスが、地図を見ながら楽しげに笑った。

 

「フォッフォッフォ。旧原発立地を使うのは合理的じゃ。送電幹線、冷却水、警備区域、地盤資料、技術者集積。使えるものは多い。新規立地よりも遥かに早い」

 

「住民感情は?」

 

 村上が問う。

 

 バルカスは肩をすくめた。

 

「征服直後なら反発はあるじゃろうな。だが、火力停止、電気料金の安定、医療施設への優先供給、災害時電力保証を組み合わせれば、十年もすれば評価は変わる」

 

 アプトムが口を挟んだ。

 

「停電しねぇ、空気が綺麗になる、燃料代も上がらねぇ。そりゃ文句言いにくいな」

 

 村上は苦い顔をした。

 

「統治の正当性を電気で殴るわけですね」

 

 アルカンフェルは振り返った。

 

「電気は必要だろう」

 

「必要です」

 

「ならば与えろ」

 

 あまりにも単純な答えだった。

 

 だが、クロノスの統治はしばしばそうだった。

 

 思想で説得する前に、道路を直す。

 

 忠誠を求める前に、病院を動かす。

 

 演説をする前に、電気を通す。

 

 村上はため息をついた。

 

「火力発電所の停止宣言は、もう少し段階的にした方がよいです。雇用、地域経済、燃料輸入業者、港湾、保守産業が一気に崩れます」

 

「転用しろ」

 

「言うと思いました」

 

「火力発電所の技術者は、核融合炉、送電網、熱供給、港湾電化、非常用発電設備の管理に回せ。燃料輸入港は水素、希少資源、宇宙開発資材の受け入れ港に変えろ」

 

 村上は黙った。

 

 乱暴だが、筋は通っている。

 

 アプトムが鼻で笑う。

 

「雑だな。けど、旧体制のまま燃料港を腐らせるよりはマシか」

 

「雑ですが、放置するよりはましです」

 

 村上は認めざるを得なかった。

 

 バルカスが言った。

 

「太陽光と風力はどうするのじゃ?」

 

 アルカンフェルは即答した。

 

「非常用、僻地用、宇宙用として残せ」

 

「主力電源からは外すのじゃな」

 

「外す。核融合炉と世界電力網がある以上、主力にする必要はない」

 

 アプトムが笑った。

 

「夢の再生可能エネルギー、僻地と宇宙担当に左遷か」

 

「左遷ではありません」

 

 村上が言った。

 

「宇宙ではむしろ重要です」

 

「便利な言葉だな」

 

「実際に重要です」

 

 アルカンフェルは地図上の日本列島を見下ろした。

 

「火力を止め、空を澄ませる。電力を余らせ、産業を止めない。災害時にも都市を死なせない」

 

 その声は淡々としていた。

 

「それができるなら、やれ」

 

 村上はしばらく黙ってから、静かに言った。

 

「総帥。これが成功すれば、二十一世紀初頭の人類は本当に電力不足から解放されます」

 

「そうだ」

 

「同時に、クロノスへの依存も決定的になります」

 

「問題ない」

 

「問題はあります」

 

「だが必要だ」

 

 アルカンフェルは、短く言った。

 

「暗い都市は反乱する。寒い家も反乱する。病院が止まれば、民は支配者を呪う。ならば、灯せ」

 

 村上は反論しなかった。

 

 電力は統治である。

 

 クロノスはそれを、あまりにも早く、あまりにも大規模に実行しようとしていた。

 

 日本列島の旧原発立地で、核融合炉の建設が始まる。

 

 世界各地でも、同じ光が立ち上がる。

 

 二十一世紀に入る頃、人類は電力不足から解放される。

 

 同時に、その光を握る者が誰であるかを、誰も忘れられなくなる。

 

 アプトムは地図を見上げたまま、ぼそりと言った。

 

「ま、暗闇よりはマシか」

 

 村上は小さく頷いた。

 

「ええ。問題は、それを誰が管理するかです」

 

 アルカンフェルは地図に並ぶ炉心予定地を見ながら、静かに命じた。

 

「余裕を持って置け。災害で民を暗闇に戻すな」

 

 村上は、その言葉を聞いてから、もう一枚資料をめくった。

 

「総帥。では、地元の反対はどうしますか」

 

 会議室の空気が、わずかに変わった。

 

 反対。

 

 それは、技術でも予算でもない。

 

 人間の問題だった。

 

 旧原発立地を再利用する以上、そこには必ず住民がいる。

 

 かつて原子力発電所を受け入れた地域。

 

 事故を恐れていた地域。

 

 補助金に依存していた地域。

 

 反対運動を続けていた地域。

 

 廃炉を願っていた地域。

 

 そして、クロノスの世界征服そのものに反感を持つ人々。

 

 五ギガワット級核融合炉を建てると発表すれば、歓迎する者ばかりではない。

 

 村上は言った。

 

「統治一年目です。征服直後で、まだ不安も反発も強い。旧原発立地を使う合理性はありますが、地元説明なしに進めれば、火種になります」

 

 アルカンフェルは、迷わなかった。

 

「統治に必要な設備だ。聞く必要はない」

 

 村上の表情が固まる。

 

 アルカンフェルは続けた。

 

「工事を邪魔する者は排除せよ」

 

 その言葉は、あまりにも短く、あまりにもクロノスらしかった。

 

 アプトムが椅子の背にもたれたまま、低く笑った。

 

「出たな。総帥の最短距離」

 

 村上は即座に言った。

 

「総帥。その言い方は駄目です」

 

「なぜだ」

 

「人間の統治だからです」

 

 アルカンフェルは村上を見た。

 

 少年の姿をした支配者の瞳には、悪意はない。

 

 ただ、疑問があるだけだった。

 

「必要な設備を作る。邪魔をする者を退ける。当然だろう」

 

「当然ではあります。ただし、順序があります」

 

 村上は資料を机に置いた。

 

「説明。補償。移転支援。雇用の転換。医療保証。防災計画の公開。地元インフラ整備。まず、それをやるべきです」

 

「それで反対が消えるのか」

 

「消えません」

 

「ならば無駄ではないか」

 

「無駄ではありません」

 

 村上は、はっきりと言った。

 

「反対する人間が残っても、周囲の人々が納得します。少なくとも、納得する理由を持てます。クロノスは説明した。補償した。仕事を用意した。病院も道路も学校も整備した。それでも妨害する者は、公共の利益を害している。そういう形にしなければなりません」

 

 アルカンフェルは少し考えた。

 

「つまり、排除する前に、排除してよい形を整えろということか」

 

「言い方が最悪ですが、政治的にはそうです」

 

 アプトムが笑った。

 

「村上もだいぶクロノスに染まってきたな」

 

「染まっていません。被害を減らすためです」

 

 バルカスが、地図を眺めながら愉快そうに言った。

 

「フォッフォッフォ。住民感情か。面倒じゃが、長期運用には避けて通れんのう。炉を守るのは壁だけではない。周辺住民の生活も、立派な防壁じゃ」

 

「博士がまともなことを言っている」

 

「失礼な」

 

 村上はアルカンフェルへ向き直った。

 

「総帥。反対運動そのものを敵と見なすのは危険です。住民の不安は、必ずしも反乱ではありません」

 

「だが、工事を止めれば民が困る」

 

「はい。だから止めさせてはいけません」

 

 村上は認めた。

 

「ですが、住民を踏み潰して進めれば、その地域は百年単位でクロノスを恨みます。核融合炉が安全でも、感情は残る。子や孫に語られる。あの時、クロノスは話も聞かずに奪った、と」

 

 アルカンフェルは沈黙した。

 

 村上は続ける。

 

「逆に、最初に道路を直し、病院を建て、雇用を保証し、地元の若者を技術者として採用し、電気料金を下げ、災害時の優先供給を約束すれば、十年後には評価が変わります」

 

 アプトムが口を挟む。

 

「反対してた爺さんの孫が、核融合炉の技師になってたりするわけか」

 

「そうです」

 

「えげつねぇな」

 

「えげつなくありません。統治です」

 

「便利な言葉だな」

 

 アルカンフェルは、再び地図を見た。

 

 旧原発立地。

 

 沿岸の町。

 

 漁港。

 

 工業地帯。

 

 山間の送電線。

 

 そのすべてが、クロノスの新しい電力網に組み込まれようとしている。

 

「ならば、こうしろ」

 

 アルカンフェルは言った。

 

「地元には説明を行え。補償も行え。移転が必要ならば、より安全で豊かな場所を与えろ。雇用が失われるならば、核融合炉、送電網、港湾、医療、警備へ転用しろ。病院、学校、道路、避難施設を先に整備せよ」

 

 村上は小さく息を吐いた。

 

 最低限、歯止めは入った。

 

 だが、アルカンフェルはそこで終わらなかった。

 

「その上で、工事を妨害する者は排除せよ」

 

 村上は目を閉じた。

 

「そこは残るんですね」

 

「必要な設備だ」

 

「排除の定義を明文化します」

 

「好きにしろ」

 

「非暴力の反対表明は排除対象外。施設破壊、作業員への暴行、送電網妨害、爆破予告、外部勢力による武装介入は治安部隊対応。住民への過剰制圧は禁止」

 

 アルカンフェルは淡々と答えた。

 

「よい」

 

 アプトムが呆れたように言った。

 

「総帥の一言を、村上が人間社会でギリギリ運用できる形に翻訳してるな」

 

「誰かがやらないと、本当にそのまま実行されます」

 

 村上は疲れた声で言った。

 

 バルカスは笑っている。

 

「フォッフォッフォ。クロノス統治の辞書には、村上注釈が必要じゃな」

 

「笑い事ではありません」

 

 アルカンフェルは、地図上の赤い光点を見つめた。

 

「暗い都市は反乱する。寒い家も反乱する。病院が止まれば、民は支配者を呪う」

 

 そこで一度、言葉を切った。

 

「ならば、灯せ。だが、灯りを与える前に憎まれるのが愚かだと言うなら、先に道を作れ。病院を建てろ。仕事を与えろ」

 

 村上は静かに頷いた。

 

「それなら、統治になります」

 

「そして、なお邪魔をする者は排除する」

 

「……はい。法と手続きの範囲で」

 

「範囲はお前が作れ」

 

 村上は深くため息をついた。

 

「結局、僕の仕事が増えるんですね」

 

 アプトムが笑った。

 

「よかったな。電力網の次は、住民説明会だ」

 

「やめてください」

 

 日本列島の旧原発立地で、核融合炉の建設が始まる。

 

 そこには反対もある。

 

 不安もある。

 

 怒りもある。

 

 だが、クロノスは止まらない。

 

 ただ踏み潰すのではなく、補償し、転用し、整備し、生活を変え、それでも妨げる者を排除する。

 

 それは優しさではない。

 

 合意でもない。

 

 だが、旧時代の政治よりも速く、確実に、灯りをもたらす統治だった。

 

 アルカンフェルは最後に、地図上の日本列島を見下ろして命じた。

 

「余裕を持って置け。災害で民を暗闇に戻すな」

 

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