アルカンフェル転生   作:ぶーく・ぶくぶく

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遺跡宇宙船のナビゲーション・メタルは取ってないよ。
あとでウラヌスの聖櫃の方のナビゲーション・メタルを使う予定です。




鬼札なら切っちまえ

/*/ クロノス日本支部 地下封鎖区画 第一会議室 /*/

 

 

 

 会議室には三人だけだった。

 

 私。

 

 バルカス。

 

 シン。

 

 それ以外は、扉の外にも置いていない。警備はさらに外周区画まで下げてある。盗聴装置の類も、バルカス自身の手で潰させた。

 

 長机の中央には、二つのユニットが置かれていた。

 

 そして、その横にリムーバー。

 

 三つあったユニットのうち、一つはすでに私が殖装している。

 

 残り二つ。

 

 これが、今後のクロノスの運命を変える。

 

「この二つのユニットは、降臨者――ウラヌスたちの正式装備だ」

 

 私は言った。

 

 バルカスは黙って聞いている。

 

 シンも同じだ。

 

 二人とも、この場で聞く内容がクロノスの根幹を揺るがすものだと理解していた。

 

「三つあった。そのうち一つは私が殖装した」

 

 私は自分の胸元へ手を当てた。

 

 今は通常の姿に戻っている。

 

 だが、ユニットは私から失われたわけではない。

 

 必要ならば、いつでも殖装できる。

 

「殖装した時点で、遺跡宇宙船は私を正規搭乗員として認めた」

 

 バルカスの目が鋭くなった。

 

「正規搭乗員、でございますか」

 

「ああ。ここが重要だ。遺跡宇宙船は、アルカンフェルである私を認めたのではない。ゾアロードである私を認めたのでもない。ガイバーとなった者を、正規搭乗員として認識する」

 

 シンが静かに口を開いた。

 

「つまり、ユニットを殖装した者であれば、遺跡宇宙船内部への侵入が可能になる、ということでございますか」

 

「そうだ」

 

 私は頷いた。

 

「少なくとも、外殻に侵入者として排除されることはなくなる。船内の通路も開く。ナビゲーションルームへの到達も可能になる」

 

「では、このバルカスも……」

 

 バルカスの声が低く震えた。

 

「必要ならば、船内へ入れる」

 

 私は言った。

 

「お前が殖装すれば、遺跡宇宙船はお前を正規搭乗員として扱う。ナビゲーションメタルへの接続や、船内設備の調査も可能になるはずだ」

 

 バルカスは一瞬、言葉を失った。

 

 研究者としての顔。

 

 畏怖する信奉者としての顔。

 

 その二つが、老人の中でせめぎ合っていた。

 

「閣下。それは、このバルカスにとって、あまりにも過分な」

 

「過分ではない。必要だ」

 

 私は即答した。

 

「私一人で遺跡宇宙船の解析も、ユニットの管理も、リムーバーの運用も、ギガンティックの製作も、全部やれると思うか?」

 

「閣下ならば」

 

「やれない」

 

 バルカスの言葉を遮った。

 

「私は技術者ではない。知っていることはある。だが、それは知識であって技術ではない。実際に形にするには、お前が必要だ」

 

「……」

 

「だから、お前にはユニットを渡す。必要があれば殖装し、遺跡宇宙船へ入れ。ナビゲーションルームにも行け。船の情報を読み、解析しろ」

 

 バルカスは深く頭を垂れた。

 

「この命に代えましても」

 

「代えるな」

 

 即答した。

 

「生きて解析しろ。死んだら意味がない」

 

「……承知いたしました」

 

 本当に承知したかは怪しい。

 

 この老人は、放っておくと命でも睡眠でも何でも研究に突っ込む。

 

 だから、後でシンに監視させる必要がある。

 

「話を戻す」

 

 私は机上の二つのユニットを見た。

 

「ユニットの能力は様々だ。重力制御、各種センサー、攻撃器官、強殖装甲による防御。細かく挙げればきりがない。だが、今重要なのは二つだ」

 

 バルカスが顔を上げる。

 

 シンもわずかに姿勢を正した。

 

「一つ目は、身体能力の増幅だ。装着者の基礎体力を大幅に引き上げ、傷ついた肉体を瞬時に回復させる自己再生能力を持つ」

 

 私は自分の胸に手を当てた。

 

 そこにはもう、長い休眠を必要としていた不調の気配がない。

 

 アルカンフェルの肉体は強大だった。

 

 だが完全ではなかった。

 

 降臨者に造られ、地球を守るために小惑星を破壊し、その代償として長い不調と休眠を抱え続けてきた。

 

 それが、消えた。

 

「これにより、私の不調は修繕された。休眠期を無くすことができた」

 

 バルカスが息を呑んだ。

 

「閣下の……休眠期が」

 

「ああ。今の私は、眠って力を回復する必要がない」

 

「それは……」

 

 バルカスの声が震えた。

 

 老人にとって、それは長年の悲願だったのだろう。

 

 アルカンフェルの不調。

 

 休眠。

 

 クロノスの最大の不安定要素。

 

 それが消えた。

 

 だが、私はそこで言葉を止めなかった。

 

「そして、もう一つ」

 

 シンが静かに私を見る。

 

「ユニットは、思念波による支配を受け付けなくなる」

 

 室内の空気が凍った。

 

 バルカスの表情が変わる。

 

 シンの目が、わずかに見開かれる。

 

「それは……」

 

 バルカスが声を漏らした。

 

 その先は言わなくても分かる。

 

 獣化兵はゾアロードの思念波によって制御される。

 

 クロノスの支配体系は、それを前提としている。

 

 獣神将は支配する側だ。

 

 私、アルカンフェルはその頂点にいる。

 

 だがユニットを殖装した者は、その支配を受け付けない。

 

 つまり、ゾアロードの命令体系から外れる。

 

 それは、クロノスにとって最悪の反逆装置にもなり得る。

 

「だから、これは伏せる」

 

 私は言った。

 

「伏せたまま札を切る」

 

 バルカスもシンも黙っている。

 

「ギュオーに知られれば、必ず欲しがる。ハイヤーンも解析しようとする。プルクシュタールは信用できるが、今はまだ知らせない。情報が重すぎる」

 

「では、この二つは封印を?」

 

 シンが問う。

 

「違う」

 

 私は即答した。

 

 二人の視線がこちらへ向く。

 

「バルカス、シン。お前たちが殖装せよ」

 

 沈黙。

 

 長い沈黙が落ちた。

 

 バルカスが目を見開いている。

 

 シンでさえ、わずかに表情を崩した。

 

「閣下。それは」

 

「命令だ」

 

 私は言った。

 

「この二つを、私が最も信用できる者に渡す。バルカス、お前には技術がある。シン、お前には統率がある。これから先、私一人では手が足りない」

 

「しかし、殖装すれば、我らは閣下の思念波による支配を受けぬ存在となります」

 

 シンが静かに言った。

 

「分かっている」

 

「それでも、でございますか」

 

「ああ」

 

 私は二人を見た。

 

「お前たちを思念波で縛る必要があるなら、そもそもこの計画は失敗している」

 

 バルカスが息を詰めた。

 

 シンは黙っていた。

 

 私は少しだけ視線を逸らした。

 

 こういう言い方は、私には似合わない。

 

 私は聖人ではない。

 

 原作知識を持ったオタクが、アルカンフェルの身体で悪の組織を運営しているだけだ。

 

 それでも、ここだけは言わなければならない。

 

「安心せよ。どのみちリムーバーを使えば、殖装は解除できる」

 

 私は机上のリムーバーを指した。

 

「万が一、ユニットが合わない。制御に問題が出る。あるいは殖装を解除する必要が出る。その時はこれを使う。だから、お前たちにはまず殖装してもらう」

 

「閣下」

 

 バルカスが、かすれた声で言った。

 

「このバルカスに、そのようなものを」

 

「お前だからだ」

 

 私は即答した。

 

「お前以外に、誰がこの技術を理解する。誰が遺跡宇宙船に入り、ナビゲーションメタルと接続し、船の情報を読み解く。誰がユニットの危険性を正しく扱う。誰が私の隣で、リムーバーとユニットを管理する」

 

「……」

 

「それに、お前が老衰や無理な徹夜で倒れると困る。殖装して身体を補強しろ」

 

「閣下、その理由は」

 

「大真面目だ」

 

 バルカスは言葉を失った。

 

 シンが横でわずかに目を伏せる。

 

 笑ったのかもしれない。

 

「シン」

 

「はっ」

 

「お前もだ。これからクロノスは荒れる。地球統一を急ぐ必要がある。その時、私の命令を最も正確に実行できるのはお前だ。だから、お前にもユニットを渡す」

 

「承知いたしました」

 

 シンは迷わなかった。

 

 そういうところが、本当にシンだった。

 

 バルカスはまだ、ユニットを見つめている。

 

 私は続けた。

 

「それよりも問題なのは、ウラヌスの計画だ」

 

 二人の顔から、別の意味で表情が消えた。

 

「ナビゲーションメタルから読み込んだ情報の中に、地球以外の計画があった」

 

「地球以外、でございますか」

 

 バルカスが問う。

 

「ああ。ウラヌスは地球だけで生体兵器を開発していたわけではない。別の星系でも、別系統の生体兵器を作っていた」

 

「獣化兵とは異なるものですか」

 

 シンが問う。

 

「異なる」

 

 私は言った。

 

「獣化兵は惑星制圧生物兵器だ。地上に展開し、都市を制圧し、軍を潰し、文明を掌握する。そのための兵器体系だ」

 

 私は一度、言葉を切った。

 

「だが、別星系で作られていたものは、星系制圧兵器だ」

 

 バルカスの顔が硬直する。

 

 シンの目が細くなった。

 

「宇宙空間で活動し、増殖し、艦隊を食い、惑星防衛網を破壊し、生命圏を資源へ変換する生物兵器群。制御は失われている。もはやウラヌスの命令下にはない」

 

「それが、どこに」

 

 シンが静かに聞いた。

 

「太陽系に向かってきている」

 

 会議室が静まり返った。

 

 空調の音すら遠ざかった気がした。

 

「時間が少ない」

 

 私は言った。

 

「すぐ明日来るわけではない。だが、来る。確実に来る」

 

「名称は」

 

 シンが問う。

 

 私は少しだけ考えた。

 

 頭の中には、元の世界で知っている名前がある。

 

 正式なウラヌス側の分類名は、長くて面倒だった。

 

 それに、こちらの方が分かりやすい。

 

「宇宙怪獣とでも呼ぼうか」

 

 バルカスが眉を動かした。

 

「宇宙怪獣……」

 

「雑な名前だが、性質は分かるだろう」

 

「はい。極めて分かりやすうございます」

 

「奴らが来る前に、地球を統一して迎撃態勢を取らねば地球は滅ぶ」

 

 私ははっきり言った。

 

 クロノスの地球支配。

 

 世界征服。

 

 悪の秘密結社の大願。

 

 それは、もう単なる支配欲では済まなくなった。

 

 統一しなければならない。

 

 各国が争い、軍備を分散し、情報を秘匿し、足を引っ張り合っている時間はない。

 

 地球という惑星を、一つの戦争機械として組み直す必要がある。

 

 そのためには、クロノスが勝つしかない。

 

 とんでもない話だ。

 

 悪の組織が世界を征服しなければ、人類が滅ぶ。

 

 漫画の悪役の言い訳みたいだ。

 

 だが、今はそれが事実だった。

 

「閣下」

 

 シンが言った。

 

「方針を確認いたします。従来のクロノスによる世界掌握計画は継続。ただし目的は、ウラヌス由来の星系制圧生物兵器への迎撃態勢構築へ変更する。ユニットとリムーバーの存在は、現時点ではこの三名のみの最高機密。残る二つのユニットは、バルカスと私が殖装する。バルカスは必要に応じて遺跡宇宙船へ侵入し、ナビゲーションメタルおよび船内設備の解析を行う。そういう理解でよろしいでしょうか」

 

「その通りだ」

 

「ギュオー、ハイヤーンへの対応は」

 

「監視を強めろ。特にギュオーは、ユニットの存在を知れば必ず動く。ハイヤーンは探る。どちらにも触らせるな」

 

「承知いたしました」

 

 バルカスが深く頭を垂れた。

 

「閣下。このバルカス、必ずやユニットとリムーバーの解析、そして遺跡宇宙船の復元計画を進めてみせます」

 

「進めろ。ただし寝ろ」

 

「閣下」

 

「寝ろ。殖装しても寝ろ。お前が不眠で研究する未来が見える」

 

「……承知いたしました」

 

 本当に承知したかは怪しい。

 

 だが、今はいい。

 

 私は二つのユニットを見た。

 

 この二つを渡す。

 

 バルカスとシンに。

 

 思念波で縛れない存在にする。

 

 危険だ。

 

 理屈では分かっている。

 

 だが、ギュオーやハイヤーンに隠したまま、地球を統一し、宇宙怪獣を迎え撃つには、私一人では足りない。

 

 信用できる者を、自由なまま強くする。

 

 その方が、まだ勝ち目がある。

 

「では、始めるぞ」

 

 私は言った。

 

「バルカス、シン。殖装準備に入れ」

 

 二人は同時に頭を垂れた。

 

 机上のユニットが、まるでこちらの決断を聞いていたかのように、静かに脈動していた。

 






需要があれば続ける。
なければ、書いた分だけ好きなだけ書いてアップする。

うるぇせぇ!

ボクちん、読みたいものを自家発電してるだけなんだよぉ!
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