アルカンフェル転生   作:ぶーく・ぶくぶく

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ファイナル・ブラスター・テンペスト

 

/*/ 地球圏防衛司令部 北極天頂防衛線 /*/

 

 

 

 警報は、地球全域で鳴っていた。

 

 木星圏では第二波を撃滅した。

 

 村上征樹が疑似ブラックホールを蒸発させ、周辺宙域ごと焼き払うような大爆発で、宇宙怪獣第二波を消し飛ばした。

 

 だが、その勝利は地球を救っていなかった。

 

 黄道面の主力防衛線を迂回し、天頂方向から別働隊が降ってきている。

 

 太陽重力井戸の底へ。

 

 生命反応が最も濃い青い星へ。

 

 地球へ。

 

 地球防衛司令部の巨大スクリーンには、北極天頂方向から落下してくる無数の赤い光点が表示されていた。

 

 兵隊怪獣バボラー。

 

 上陸艇型。

 

 高速型。

 

 数は数百万規模。

 

 混合型は確認されていない。

 

 だが、それは慰めにもならなかった。

 

 数百万の宇宙怪獣が、地球の頭上から落ちてくる。

 

 木星圏から箱舟一番艦は間に合わない。

 

 二番艦も後詰め位置から動けない。

 

 月面砲台は射角を無理やり上げている。

 

 ラグランジュ防衛群は再配置中。

 

 軌道都市の作業艇まで迎撃用の誘導弾を抱えて出されている。

 

 それでも、足りない。

 

「北極軌道砲台群、全基射角修正!」

 

 地球防衛司令エドワード・カールレオンは、葉脈のような意匠を施された装備に身を包み、巨大戦況図の前で指示を飛ばしていた。

 

 細く走る緑金色の紋様が、装甲の表面を脈打つように光っている。

 

 その姿は、軍人というより植物の神経を鎧に刻んだ異形の王だった。

 

 ゾアロード。

 

 エドワード・カールレオン。

 

 自らの身体を異次元空間、虚数空間へ隠すことで、敵の攻撃を無効化しながら、一方的に相手を攻撃する。

 

 まともな戦闘なら、反則としか言いようがない能力だった。

 

 相手の攻撃は届かない。

 

 こちらの攻撃だけが届く。

 

 普通の敵ならば、それだけで終わる。

 

 だが、今、空から降ってくるものは普通ではなかった。

 

 宇宙怪獣。

 

 知性もなく、交渉もなく、ただ質量と数で押し寄せてくる外宇宙の生体兵器群。

 

 虚数空間に身を隠せば、個々の攻撃は避けられる。

 

 だが、地球そのものへ落ちてくる数百万の怪物を、カールレオン一人の反則能力で止め切ることはできない。

 

 相性が悪かった。

 

 あまりにも悪かった。

 

「月面基地へ通達。第三投射群は天頂方向へ回せ。南半球側の迎撃は一時捨てる。まず北極上空の侵入角を潰せ!」

 

 管制官が叫ぶ。

 

「北米防衛網、迎撃準備完了!」

 

「シベリア方面、獣化兵部隊展開中!」

 

「北極圏避難完了率、七一パーセント!」

 

「足りん! 地下施設へ押し込め! 輸送車両を待たせるな!」

 

 カールレオンの声は荒い。

 

 だが、乱れてはいなかった。

 

 彼自身が前線へ出れば、局地的には無敵に近い。

 

 だが、地球防衛司令として、今は全体を動かさなければならない。

 

 自分一人で敵を斬るより、軌道砲台を動かし、月面基地を動かし、獣化兵部隊を配置し、都市を地下へ逃がす方が重要だった。

 

 画面の赤い光点は増え続けている。

 

 まるで、宇宙そのものに穴が空き、そこから怪物が流れ込んでいるようだった。

 

 その時、司令部後方の扉が開いた。

 

 入ってきたのは、アプトムだった。

 

 人間形態。

 

 平凡な男の顔。

 

 だが、その気配はもうロストナンバーズの失敗作ではない。

 

 超獣化兵五人衆のマトリクス。

 

 アルカンフェルの血から得たマトリクス。

 

 数々の再調整。

 

 そして、自分で選び取った忠誠。

 

 アプトムは、スクリーンを見上げて笑った。

 

「先陣は俺が切る」

 

 カールレオンが振り返った。

 

「アプトム」

 

「宇宙空間で太陽光を収束し、ファイナル・ブラスター・テンペストを放てば、多少は勢いを減らせるはずだ」

 

 管制室が一瞬だけ静まった。

 

 カールレオンの葉脈状の装甲紋様が、低く明滅した。

 

「それではお前が自壊してしまうぞ!」

 

「だろうな」

 

 アプトムは、軽く肩をすくめた。

 

「だが、多少は持つ。持たせる」

 

「多少で済む相手ではない!」

 

「だから最初に撃つんだろ」

 

「帰還経路は」

 

「ないな」

 

「アプトム!」

 

 カールレオンが怒鳴る。

 

 だが、アプトムは笑っていた。

 

 死にに行く者の笑みではない。

 

 勝手に壊れた失敗作の笑みでもない。

 

 自分の役目を見つけた者の笑みだった。

 

「宇宙怪獣を捕食して再生するさ」

 

「何を言っている」

 

「あれだけデカいんだ。食いでがあるぜ」

 

 カールレオンは言葉を失った。

 

 冗談に聞こえた。

 

 だが、アプトムは本気だった。

 

 他者の形質を取り込み、適応し、変化し続けるロストナンバーズ。

 

 それが宇宙怪獣という、外宇宙の生体兵器を食えるのか。

 

 分からない。

 

 危険すぎる。

 

 だが、アプトムなら、可能性はある。

 

 ほんのわずかでも。

 

「司令」

 

 アプトムは、カールレオンを見た。

 

「俺は行く。止めても行く」

 

「命令違反だ」

 

「じゃあ命令しろ。行けってな」

 

 数秒の沈黙。

 

 カールレオンは、拳を握った。

 

 地球防衛司令としての判断。

 

 ゾアロードとして前線へ出たい衝動。

 

 そして、アプトムをここで使わなければ北極天頂防衛線が間に合わないという現実。

 

 その三つが胸の中でぶつかった。

 

 だが、時間がない。

 

 赤い光点はもう、地球圏上層防衛網の射程へ入りつつある。

 

 カールレオンは、低く言った。

 

「アプトム」

 

「ああ」

 

「北極天頂方向へ出ろ。ファイナル・ブラスター・テンペストで敵進軍速度を落とせ」

 

「了解」

 

「ただし、生き残れ」

 

「努力する」

 

「努力ではない。命令だ」

 

 アプトムは、少しだけ目を丸くした。

 

 そして、笑った。

 

「了解。できるだけ食って帰る」

 

 彼は踵を返した。

 

 次の瞬間、司令部からアプトムの反応が消えた。

 

 転送ではない。

 

 肉体を変形させ、射出管へ走り、宇宙へ出るための形へ変わりながら飛び出していったのだ。

 

 カールレオンは、すぐに戦況図へ向き直る。

 

「虚数空間干渉防壁を北極軌道上に展開する。私が出るまでの穴を埋めろ」

 

 副官が息を呑んだ。

 

「司令自ら前線へ?」

 

「当然だ。だが今ではない」

 

 カールレオンは天頂から落ちてくる赤い群れを睨んだ。

 

「私の能力は個を殺すには向く。だが、あの数の質量を止める盾にはならん。先に部隊を動かす」

 

 攻撃を無効化できる身体。

 

 相手を一方的に攻撃できる能力。

 

 通常なら敵無しの力。

 

 だが今は、数百万の怪物が地球へ落ちてくる。

 

 どれだけ自分が無敵でも、背後の地球は無敵ではない。

 

 それが、カールレオンを司令席へ縛りつけていた。

 

 その時、火星方面の通信窓が開いた。

 

「司令! 火星圏後方より高重力航跡!」

 

「敵か!」

 

「違います! クロノス識別信号、箱舟三番艦!」

 

 管制室の空気が変わった。

 

 巨大スクリーンの端に、青い巨大反応が現れる。

 

 火星圏後方で待機していた箱舟三番艦。

 

 地球圏後退戦に備える予備戦力だったはずの艦が、予定より早く地球防衛圏へ滑り込んできていた。

 

「三番艦より入電!」

 

 通信士が叫ぶ。

 

 

 

 こちら箱舟三番艦。

 火星圏待機任務を切り上げ、地球圏北極天頂防衛線へ転進。

 搭載人造コントロールメタル殖装部隊、百万。

 全隊、殖装準備完了。

 司令部の指揮下に入る。

 

 

 

 カールレオンは、ほんの一瞬だけ目を閉じた。

 

 助かったわけではない。

 

 勝ったわけでもない。

 

 だが、防衛線が組める。

 

 地上だけで受けるしかなかった北極天頂防衛線に、軌道上の刃が間に合った。

 

「三番艦へ返信!」

 

 カールレオンは即座に叫んだ。

 

「北極天頂方向へ全力展開。百万の殖装兵を三層に分けろ。第一層は軌道上迎撃。第二層は成層圏外縁。第三層は降下個体の追撃と地上防衛線支援!」

 

「了解!」

 

「人造コントロールメタルの稼働限界を厳守させろ。木星圏の事故記録を全隊へ共有。思念波は殖装体には届かん。恐怖反応を前提に隊列を組ませろ!」

 

「三番艦、展開開始!」

 

 戦況図に、青い光点が増えた。

 

 一つ、十、百、千。

 

 やがてそれは、雲のように広がった。

 

 百万の強殖装甲をまとった獣化兵。

 

 木星圏ではなく、地球の頭上に。

 

 北極天頂防衛線へ。

 

 アプトムが稼ごうとしている時間。

 

 その時間が、三番艦を間に合わせた。

 

 

/*/ 北極上空 成層圏外縁 /*/

 

 

 

 北極の空が裂けた。

 

 地上から見上げる人々には、それはオーロラのようにも見えた。

 

 だが、緑や紫の光ではない。

 

 白金色の光が、地球の上に広がっていく。

 

 アプトムは獣化していた。

 

 いや、獣化という言葉では足りない。

 

 ゾアノイド形態を超え、巨大な半透明の羽根を広げていた。

 

 昆虫の翅のようであり、太陽帆のようでもあり、生体レンズの集合体のようでもある。

 

 それらが、地球の影から顔を出した太陽光を受ける。

 

 羽根が震える。

 

 太陽光が折り曲げられる。

 

 収束する。

 

 アプトムの全身が発光した。

 

 筋肉が裂ける。

 

 外皮が焼ける。

 

 細胞が変質し、再生し、また焼ける。

 

 太陽光を無理やり生体エネルギーへ変換し、さらに攻撃へ変える。

 

 そんなものは、生物の身体が耐える行為ではない。

 

 だが、アプトムは歯を剥いて笑った。

 

『来いよ』

 

 通信ではなく、生体波動に近い声が広がった。

 

『地球は食わせねぇ』

 

 北極天頂方向から、宇宙怪獣の別働隊が落ちてくる。

 

 バボラーの群れが先頭にいた。

 

 その後ろに上陸艇型。

 

 高速型。

 

 赤い光点が、肉眼でも流星群のように見え始めている。

 

 だが、それは流星ではない。

 

 生命を食う怪物の雨だ。

 

 アプトムの羽根が、最大まで開いた。

 

 半透明の膜が何層にも重なり、巨大な花のように北極上空へ広がる。

 

 太陽光が一点へ集まる。

 

 アプトムの胸部が開いた。

 

 五つの超獣化兵の形質。

 

 アルカンフェルのマトリクス。

 

 自分自身の異常適応性。

 

 それらをまとめて燃やす。

 

「ファイナル・ブラスター」

 

 彼の身体が崩れ始める。

 

 羽根の縁が焼け落ちる。

 

 腕が光に溶ける。

 

 それでも、収束は止まらない。

 

「テンペスト!」

 

 北極方面から天頂へ、白金色の嵐が放たれた。

 

 それは光線ではなかった。

 

 光の暴風だった。

 

 太陽光を生体レンズで束ね、熱と荷電粒子と生体波動を混ぜ、巨大な竜巻のように天頂へ叩き上げる。

 

 バボラーの先頭群が蒸発した。

 

 上陸艇型の外殻が焼け、姿勢を崩す。

 

 高速型が進路を失い、互いに衝突する。

 

 群れの落下速度が、明らかに鈍った。

 

 その背後で、火星方向から到着した箱舟三番艦が、地球の影をかすめるように進入した。

 

 巨大な外殻が開く。

 

 射出甲板が展開する。

 

 格納区画の中で、百万の人造コントロールメタルが同時に光った。

 

 青白い強殖装甲が、獣化兵たちを包む。

 

 真空を遮断し、肉体を宇宙戦闘形態へ変え、背部推進器官を開く。

 

 思念波は届かない。

 

 命令波による恐怖抑制は効かない。

 

 だが、彼らには通信があった。

 

 作戦データがあった。

 

 木星圏で死んだ第一波の記録があった。

 

 そして、地球が足元にあった。

 

『三番艦殖装部隊、第一層、発進!』

 

 百万のうち、まず三十万が軌道上へ放たれた。

 

 青白い光点が、北極上空へ扇状に広がる。

 

『第二層、成層圏外縁へ降下!』

 

 さらに三十万。

 

 大気の縁をなぞるように散開し、落下してくる高速型へ向かう。

 

『第三層、地上防衛支援へ移行!』

 

 残る部隊が、降下個体を追って低軌道から地表へ向かう。

 

 アプトムの白金色の嵐が敵の先頭を押し潰し、その乱れた群れへ、百万の殖装兵が横から食い込んだ。

 

 メガスマッシャーが走る。

 

 重力制御器官が火を噴く。

 

 獣化兵の爪が、宇宙怪獣の外殻へ食い込む。

 

 強殖装甲に包まれたゾアノイドたちが、宇宙怪獣の雨に向かって逆流していく。

 

 地球防衛司令部で、管制官が叫ぶ。

 

「敵別働隊、進軍速度低下!」

 

「先頭群、消滅!」

 

「上陸艇型、多数が進路逸脱!」

 

「三番艦殖装部隊、北極天頂防衛線へ展開完了!」

 

「第一層、敵先頭群と交戦開始!」

 

「アプトム反応、急速低下!」

 

 カールレオンが歯を食いしばる。

 

「回収班を出せ!」

 

「無理です! 放射と熱量が強すぎます!」

 

「三番艦の第三層から回収班を割け!」

 

「了解! ただし接近限界があります!」

 

「限界まで寄せろ!」

 

 スクリーン上のアプトム反応が、崩れていく。

 

 巨大な羽根は焼け落ちた。

 

 身体は半分以上が光に溶け、残った部分も形を保てていない。

 

 だが、最後まで彼は照射を止めなかった。

 

 ファイナル・ブラスター・テンペストは、宇宙怪獣の別働隊先頭を押し返し、地球への到達時間をわずかに引き延ばした。

 

 数分。

 

 あるいは十数分。

 

 それだけかもしれない。

 

 だが、その数分で、箱舟三番艦が間に合った。

 

 百万の殖装兵が防衛線へ入った。

 

 地球の軌道砲台が再照準を終えた。

 

 月面砲台が射角を合わせた。

 

 北半球の防衛部隊が獣化した。

 

 地下避難扉が閉まった。

 

 都市が戦闘態勢へ移った。

 

 アプトムは、自分の身体を燃やして、その時間を買った。

 

 やがて、光の嵐が細くなる。

 

 途切れる。

 

 北極上空に、崩れたアプトムの肉片が漂った。

 

 それはすぐに、宇宙怪獣の群れへ飲み込まれていった。

 

 バボラーの脚が絡む。

 

 上陸艇型の外殻が迫る。

 

 無数の生体兵器の群れが、アプトムだったものを呑み込む。

 

 だが、その周囲へ三番艦の殖装兵が突入した。

 

『回収班、突入!』

 

『敵密度が高すぎる!』

 

『構わん、反応の残っている肉片を拾え! アプトムなら一片でも戻る可能性がある!』

 

 カールレオンは、画面から目を逸らさなかった。

 

「アプトム……」

 

 通信はない。

 

 反応もほぼ消えている。

 

 だが、最後の瞬間、ノイズの中にかすかな声が混じった。

 

『食いでが……あるって……言ったろ……』

 

 それきり、通信は途絶した。

 

 

 

/*/ 地球各地 防衛戦開始 /*/

 

 

 

 アプトムの一撃と箱舟三番艦の参戦で、宇宙怪獣別働隊の勢いは鈍った。

 

 だが、止まったわけではない。

 

 焼け残った群れが、地球へ降ってくる。

 

 北極圏上空。

 

 シベリア。

 

 カナダ北部。

 

 グリーンランド。

 

 北欧。

 

 アラスカ。

 

 軌道防衛網と三番艦殖装部隊の迎撃を抜けた兵隊怪獣が、大気圏へ突入した。

 

 燃えながら、落ちてくる。

 

 隕石ではない。

 

 怪物だ。

 

 地上の防衛線で、ゾアノイドたちが獣化した。

 

 全身が膨張する。

 

 骨格が変わる。

 

 爪が伸びる。

 

 外皮が硬化する。

 

 牙が剥き出しになる。

 

 人間だった兵士たちが、地球を守る獣へ変わっていく。

 

 その頭上では、三番艦から降下した殖装兵が、燃える空を横切っていた。

 

 強殖装甲の背部から青白い推進光が伸びる。

 

 降下するバボラーの背に取りつき、外殻を裂き、地上へ到達する前に軌道を逸らす。

 

 それでも抜けた敵を、地上ゾアノイド軍団が受け止める。

 

「第一防衛線、撃て!」

 

 シベリアの雪原で、砲撃が始まった。

 

 氷結兵器が空を走る。

 

 電撃塔が青白い雷を放つ。

 

 地上配備殖装体のメガスマッシャーが、落下してくるバボラーを焼く。

 

 さらに上空から、三番艦殖装兵のメガスマッシャーが重なる。

 

 空と地上からの交差砲火。

 

 それでも、敵は降ってくる。

 

 一体を焼けば、三体が抜ける。

 

 三体を落とせば、十体が燃えながら地上へ叩きつけられる。

 

 落ちたバボラーは、すぐに脚を広げた。

 

 燃えた外殻を砕きながら、三十メートル級の怪物として起き上がる。

 

 ゾアノイド部隊が突撃した。

 

 爪が甲殻を裂く。

 

 牙が肉を噛む。

 

 電撃が走る。

 

 凍結弾が爆ぜる。

 

 その横から、強殖装甲をまとった獣化兵が降下し、バボラーの頭部へ膝から突き刺さった。

 

 装甲の腕が開く。

 

 メガスマッシャーの光が、怪物の内側から爆ぜた。

 

 バボラーが崩れる。

 

 だが、次が落ちてくる。

 

「囲め!」

 

「脚を落とせ!」

 

「正面から行くな!」

 

「上空支援に座標を送れ!」

 

「三番艦部隊、北東へ流れている敵を押し戻せ!」

 

 地球各地で、同じ光景が始まっていた。

 

 獣化したゾアノイドたちが、必死に戦う。

 

 戦闘用調整体。

 

 治安部隊。

 

 旧軍から再編されたクロノス地上軍。

 

 志願兵。

 

 調整を受けたばかりの若い兵士。

 

 女性用非戦闘型調整を受けた医療班が、後方で負傷者を運ぶ。

 

 その上空で、百万の殖装兵が軌道と大気の境目を走り続ける。

 

 子供たちは地下避難施設で、地上の揺れを聞いている。

 

 空は赤く、白く、青く光り続けていた。

 

 北極方面では、アプトムのファイナル・ブラスター・テンペストの残光がまだ揺らめいている。

 

 その光の下で、宇宙怪獣はなおも降ってくる。

 

 無尽蔵に。

 

 終わりなく。

 

 地球防衛司令部で、カールレオンは叫び続けていた。

 

「北米第三線、後退を許可! ただし民間地下区画から離すな!」

 

「グリーンランド方面、氷結砲を集中!」

 

「北欧防衛線へ月面砲支援を回せ!」

 

「三番艦第一層、天頂方向の上陸艇型を潰せ! 兵隊を撒かせるな!」

 

「第三層は地上部隊の穴を塞げ! 降下支援ではない、地上防衛線の一部として動かせ!」

 

 管制官が悲鳴のように報告する。

 

「敵、減りません!」

 

「分かっている!」

 

「アプトムの照射と三番艦の投入で落下速度は落ちましたが、後続が続いています!」

 

「分かっていると言っている!」

 

 カールレオンはスクリーンを睨んだ。

 

 アプトムが稼いだ時間は、防衛線を間に合わせた。

 

 三番艦の百万の殖装兵は、地球の頭上に刃を作った。

 

 それでも、勝利には足りない。

 

 ゾアノイドたちは戦っている。

 

 殖装兵たちも戦っている。

 

 必死に。

 

 血を流し、獣の声で叫び、宇宙と大気の境目で燃えながら戦っている。

 

 だが、敵は降り続ける。

 

 無尽蔵に。

 

 天頂から落ちてくる赤い光点は、まだ尽きない。

 

 カールレオンは、葉脈状の装甲を明滅させながら、低く呟いた。

 

「私が出れば、局所は止められる。だが、局所だけだ」

 

 虚数空間に身を隠せば、攻撃は届かない。

 

 敵を一方的に刻むこともできる。

 

 だが、数百万の質量が地球へ降ってくる。

 

 その全てを、虚数空間の刃で受け止めることはできない。

 

 けれど、もう地上だけではない。

 

 火星から来た箱舟三番艦がいる。

 

 百万の殖装兵がいる。

 

 アプトムが燃やした時間が、確かに形になっている。

 

「総帥……早く戻ってください」

 

 だが、アルカンフェルは木星圏にいる。

 

 箱舟一番艦は間に合わない。

 

 今、地球を守るのは地球に残った者たちだ。

 

 アプトムが先陣を切った。

 

 三番艦が間に合った。

 

 百万の殖装兵が空を支えた。

 

 ゾアノイドたちが地上で続いた。

 

 人間たちは地下で祈った。

 

 そして地球の上では、獣たちが空から降る怪物と噛み合っていた。

 

 戦いは、始まったばかりだった。

 

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