アルカンフェル転生   作:ぶーく・ぶくぶく

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いつの間にか

 

/*/ クロノス極東統治拠点《クラウド・ゲート》 /*/

 

 

 

 開発局深層医療区画。

 

 クロノスが世界を統一し、25年が過ぎた。

 

 原発を全廃し、核融合炉を実用化した。

 

 宇宙開発を開始し、三重軌道リングを建設した。

 

 宇宙怪獣と戦い、これを紙一重で退けた。

 

 クロノスの統治は、戦後という言葉を少しずつ過去にしている。

 

 その中で、ヴァルキュリア・フォーシュバリ・リスカーは、鏡の前で眉を寄せていた。

 

 おかしい。

 

 いや、前から薄々感じてはいた。

 

 だが、忙しさに紛れて見ないふりをしていた。

 

 火星学術前線。

 

 人造コントロールメタル監察。

 

 作業用強殖装甲の試験。

 

 バルカス博士の危険研究抑制。

 

 仕事はいくらでもあった。

 

 だから、気にしていなかった。

 

 だが、25年である。

 

 25年経っている。

 

 自分は24歳でアルカンフェルの側に置かれた。

 

 今は49歳のはずだった。

 

 なのに、鏡の中の自分は変わっていない。

 

 いや、むしろ艶が増している。

 

 金髪は滑らかに流れ、肌は張りを失わず、目元にも疲労の痕跡はほとんど残らない。

 

 職務上、美容には気を使ってきた。

 

 睡眠、栄養、肌管理、調整後代謝、ホルモンバランス、紫外線防御、ストレス制御。

 

 やれることはやってきた。

 

 だが。

 

「おかしい」

 

 ヴァルキュリアは、鏡の中の自分を見つめて呟いた。

 

「美容に気を使っているとはいえ、25年経ってこれはない」

 

 まるで十代のような肌だった。

 

 ぴんと張り、潤い、疲れの影を受け付けない。

 

 人魚めいた艶。

 

 自分で言うのは癪だが、肌だけなら25歳の頃より若く見える。

 

 そこへ、背後の自動扉が開いた。

 

 ハミルカル・バルカスが入ってくる。

 

 いつもの老博士の姿。

 

 手には医療用端末と、小さな封印ケースを持っていた。

 

「何を難しい顔をしておる」

 

 ヴァルキュリアは振り返った。

 

「バルカス博士」

 

「うむ」

 

「確認したいことがあります」

 

「何じゃ」

 

「私の身体調整記録を見せてください」

 

 バルカスは、少しだけ目を瞬かせた。

 

 それから、あっさりと言った。

 

「なんじゃ。今頃気が付いたのか」

 

「……今頃?」

 

「疾患予防や母体調整を施した時に、不老化の調整も加えておいたのでな」

 

 ヴァルキュリアは黙った。

 

 その沈黙は、監察官の沈黙だった。

 

 バルカスは構わず続ける。

 

「お主の肌は、ずっと十代後半から二十代前半の最良域を維持するよう設計してある。代謝、再生、コラーゲン構造、内分泌、細胞老化抑制、神経系疲労回復。まあ、細かいところは色々じゃ」

 

 ヴァルキュリアは、ゆっくりと言った。

 

「では、私の今までの努力は……?」

 

「無駄とは言わん」

 

 バルカスは、少しだけ考えた。

 

「じゃが、余計なお世話だったかもしれんな」

 

 ヴァルキュリアの眉が、ぴくりと動いた。

 

「余計なお世話」

 

「うむ。手入れすれば、なお良い状態にはなる。じゃが、しなくても大きく崩れはせん」

 

「……なぜ」

 

 声は静かだった。

 

 だが、室温が少し下がったような気がした。

 

 バルカスは、悪びれずに答えた。

 

「アルカンフェルが気に入られたからじゃ」

 

 ヴァルキュリアは、言葉を失った。

 

「閣下が?」

 

「うむ」

 

 バルカスは端末を操作しながら言う。

 

「お主はリスカー家から差し出された側女であったが、閣下はただの慰みものとして扱われなかった。監察補佐として働き、側近として残り、25年を経てなお閣下の近くにいる」

 

「それと、不老化調整がどう関係するのです」

 

「閣下の側に長く置く者が、十年二十年で老いて衰えては困るじゃろう」

 

「今、劣化と言いかけませんでしたか」

 

「言っておらん」

 

「目が泳ぎました」

 

「老化と言い直そう」

 

「それも十分に悪いです」

 

 バルカスは、少しだけ笑った。

 

「閣下は長く生きておられる。お主のような者が側にいるなら、短い寿命で消えていくより、長く仕える方が良い。そう判断したまでじゃ」

 

 ヴァルキュリアは、しばらく黙っていた。

 

 自分が望んだのか。

 

 望まなかったのか。

 

 その線は曖昧だった。

 

 クロノス統治下で、健康長寿調整は珍しくない。

 

 女性用の母体調整も確立されている。

 

 自分もそれを受けた。

 

 だが、その中にここまで強い不老化調整が含まれていたとは知らなかった。

 

「同意説明は?」

 

「疾患予防、健康長寿、青年期延長、出産可能年齢延長、身体記録保存。全て説明済みじゃ」

 

「程度を伏せましたね」

 

「お主が細かく聞かなかった」

 

「監察官相手によく言えますね」

 

「若かったからの」

 

「25年前でも24歳です」

 

「わしから見れば皆若い」

 

 ヴァルキュリアは額を押さえた。

 

 怒るべきか。

 

 呆れるべきか。

 

 あるいは、安堵すべきか。

 

 自分が老いないこと。

 

 アルカンフェルの側に長くいられること。

 

 それを嬉しいと思う気持ちが、確かにある。

 

 だからこそ、腹が立った。

 

「……後で監察報告書を書きます」

 

「穏当な表現で頼む」

 

「努力します」

 

「それは怖いな」

 

 バルカスは、そこでようやく手にした封印ケースを掲げた。

 

「それと、これじゃ」

 

 ヴァルキュリアの視線が、ケースへ移る。

 

 ただの医療品ではない。

 

 封印等級が違う。

 

 開発局上位機密。

 

 さらに総帥府の閲覧制限がかかっている。

 

「何ですか」

 

「研究中の人造コントロールメタルじゃ」

 

 その言葉に、ヴァルキュリアの表情が消えた。

 

「研究中?」

 

「うむ」

 

 バルカスは封印を解除した。

 

 ケースの中に、小さな制御球が収められている。

 

 人造コントロールメタル。

 

 戦時に用いられた急造品とは違う。

 

 表面を走る光は、はるかに安定している。

 

 制御球内部の情報層も整理され、神経接続の揺らぎは抑えられていた。

 

 だが、純正品ではない。

 

 完成品でもない。

 

 人格記録層、亜空間格納情報、強殖生物との命令階層。

 

 それらはまだ完全ではない。

 

 ヴァルキュリアは、封印ケース越しにそれを見て、すぐ理解した。

 

 試験段階の実戦用装備。

 

 未完成だが、使い物にならないものではない。

 

 むしろ、使えるところまで来ているからこそ、監察対象として厄介な品だった。

 

「仕様を」

 

「戦闘用じゃ」

 

 バルカスは簡潔に言った。

 

 ヴァルキュリアの視線が鋭くなる。

 

「戦闘用」

 

「うむ。メガスマッシャーも高周波ブレードも封印しておらん。ヘッドビーム、重力制御、ソニック系兵装、全て基本構成に含む」

 

「作業用ではないのですね」

 

「作業用ではない」

 

「では、これは戦闘用人造コントロールメタル」

 

「そうじゃ」

 

 ヴァルキュリアは端末を引き寄せ、仕様書を開いた。

 

 そこには、兵装一覧、出力制限、安定域、適合条件、解除手順、ミューオンスキャン後処理、人格連続性検査の項目が並んでいる。

 

 メガスマッシャー。

 

 高周波ブレード。

 

 重力制御飛行。

 

 防御フィールド。

 

 自己再生。

 

 真空適応。

 

 放射線遮蔽。

 

 高密度戦闘機動。

 

 戦闘力だけで見れば、通常の獣化兵など比較対象にならない。

 

 ヴァルキュリアは監察官だ。

 

 机上の官僚ではない。

 

 戦闘訓練も受けている。

 

 銃器、近接戦闘、対獣化兵戦術、制圧行動、非常時脱出、指揮官護衛、拠点内戦闘。

 

 実戦に出る役目ではないが、戦場を知らないわけではない。

 

 その彼女が殖装すれば、戦闘力は一気に跳ね上がる。

 

 超獣化兵を問題にしない水準へ。

 

 ヴァルキュリアは静かに言った。

 

「私に、これを?」

 

「そうじゃ」

 

「目的は」

 

「お主の生存性を高めるためじゃ」

 

「私の生存性?」

 

「そうじゃ」

 

 バルカスは椅子に腰を下ろした。

 

「万一の場合、閣下は無事でも、獣化兵でもないお主が死ぬ可能性が高い」

 

 部屋の空気が変わった。

 

 美容の話ではなくなった。

 

 不老化の冗談でもない。

 

 それは、アルカンフェルの側にいるということの現実だった。

 

 宇宙怪獣戦。

 

 降臨者の遺物。

 

 ブラックホール実験。

 

 火星中心核改造。

 

 アプトム母艦級研究。

 

 人造コントロールメタル試験。

 

 クロノス総帥の周囲には、常に世界規模、惑星規模、生命圏規模の危機が集まる。

 

 アルカンフェルは耐える。

 

 村上も耐える。

 

 獣神将たちも、多くの場合は耐える。

 

 だが、ヴァルキュリアは違う。

 

 調整を受け、不老化され、健康で、優秀で、25年間総帥の側にいたとしても。

 

 彼女は獣化兵ではない。

 

 ゾアロードでもない。

 

 ガイバーでもない。

 

 強い存在たちの近くにいる、強くない者だった。

 

 バルカスは言った。

 

「閣下の近くで何かが起きた時、閣下は無事でも、お主だけが死ぬことがあり得る」

 

「……」

 

「それは閣下が望まぬ」

 

 ヴァルキュリアは、息を止めた。

 

「悲しまれる」

 

 バルカスの声は、低かった。

 

「お主の死は、ただ一人の側近を失うだけでは済まん。閣下にとって、25年側に置いた者を失うということじゃ」

 

 ヴァルキュリアは、言葉を返せなかった。

 

 アルカンフェルは、たしかにそういう言い方をする。

 

 地球生命は私の管理物だ。

 

 人類は管理対象だ。

 

 事実だ。

 

 だが、それが冷淡さだけではないことを、彼女は二十年かけて知っていた。

 

 彼は、失ったものを忘れない。

 

 管理物と呼びながら、失われれば静かに傷つく。

 

 だから、バルカスはこれを持ってきたのだ。

 

「お主を、閣下の戦場に立たせるためではない」

 

 バルカスは続けた。

 

「だが、閣下の近くにいる以上、戦場が向こうから来ることはある。その時、お主が死なぬようにする」

 

「生存のために、戦闘力を持たせる」

 

「そうじゃ」

 

「敵を倒して脱出するため」

 

「必要ならな」

 

「護衛装備ではなく、生還装備」

 

「そう考えればよい」

 

 ヴァルキュリアは仕様書を見つめる。

 

 メガスマッシャーも高周波ブレードも封印されていない。

 

 兵装は本物だ。

 

 戦闘力も本物だ。

 

 だが、目的は前線投入ではない。

 

 アルカンフェルを守るためでもない。

 

 彼女が死なずに戻るため。

 

 ただし、戻るために敵を殺す必要があるなら、殺せるだけの力を持たせる。

 

 いかにもクロノスらしい判断だった。

 

「博士」

 

「何じゃ」

 

「人格初期化リスクは」

 

「低減しておる。だが、長時間殖装時の記憶連続性にはまだ監察が必要じゃ」

 

「装着時間制限は」

 

「ある。戦時型よりは長いが、無制限ではない」

 

「解除手段は」

 

「代替材料型リムーバーで解除可能」

 

「使用後検査」

 

「ミューオンスキャナ、ニューロンマップ照合、人格連続性検査。ここまでは必須じゃ」

 

「暴走時停止手段」

 

「外部停止信号と、総帥府認証による強制解除。もっとも、お主用に登録すれば、通常個体より制御は安定する見込みじゃ」

 

「見込み」

 

「試験装備じゃからな」

 

 ヴァルキュリアは頷いた。

 

 バルカスもヴァルキュリアも、ここで大げさに騒ぎはしない。

 

 これは軍事組織の装備だ。

 

 高い戦闘力がある。

 

 リスクもある。

 

 だから記録し、制限し、訓練し、解除手段を用意し、運用規定を作る。

 

 ただそれだけだ。

 

「閣下の命令ですか」

 

「命令ではない」

 

「許可は」

 

「ある」

 

「閣下は何と」

 

「お主が受け取るなら許可する、と」

 

 いつものアルカンフェルらしい。

 

 命令ではない。

 

 強制ではない。

 

 だが、選択肢は置かれている。

 

 そして、選ぶのは自分だった。

 

「私は、戦士ではありません」

 

「知っておる」

 

「ですが、監察官です」

 

「うむ」

 

「戦闘訓練も受けています」

 

「知っておる」

 

「殖装した場合の戦闘力は、通常業務の延長では済みません」

 

「超獣化兵程度なら問題にならんじゃろうな」

 

「その力を私に預ける理由は、私を守るため」

 

「そうじゃ」

 

「閣下を守るためではない」

 

「違う」

 

「私が死ねば、閣下が悲しまれるから」

 

「そうじゃ」

 

 ヴァルキュリアは目を伏せた。

 

 重い理由だった。

 

 そして、逃げづらい理由でもあった。

 

「閣下は、そうは言わないでしょうね」

 

「言わんじゃろうな」

 

「管理上の損失、とでも言いそうです」

 

「言うじゃろうな」

 

「事実だ、と」

 

「言うじゃろうな」

 

 ヴァルキュリアは、小さく息を吐いた。

 

「本当に、外で言ってはいけないことばかり言う方です」

 

「そこを止めるのも、お主の役目じゃ」

 

「そのために死ぬな、ということですか」

 

「うむ」

 

 バルカスは頷いた。

 

「お主がいなくなると、儂の研究を止める者も減る」

 

「それが本音では?」

 

「それも本音じゃ」

 

「最低ですね」

 

「正直じゃろう」

 

「報告書に書きます」

 

「穏当な表現で頼む」

 

「努力します」

 

「それは信用できぬ」

 

# /*/

 

 ヴァルキュリアは、ケースに手を伸ばした。

 

 人造コントロールメタルが、淡く光る。

 

 掌に収まると、制御球は微かに脈打った。

 

 拒絶はない。

 

 完全な沈黙もない。

 

 これは未完成の装備だ。

 

 だが、未完成だから弱いわけではない。

 

 むしろ、その戦闘力は明確に過剰だった。

 

 殖装すれば、彼女は今までの自分ではなくなる。

 

 超獣化兵を相手にしても後れを取らず、通常の兵士では触れることもできない存在になる。

 

 だが、力を得ることと、力を使いたがることは違う。

 

 ヴァルキュリアは監察官だった。

 

 記録し、制御し、必要な時だけ使う。

 

 それが自分の役目だ。

 

 彼女は、鏡の中の自分をもう一度見た。

 

 25年前と変わらない顔。

 

 十代のような肌。

 

 美容努力が余計なお世話だったと知った自分。

 

 だが、その内側には25年分の監察記録と、25年分の判断と、25年分の距離感がある。

 

 若いままではない。

 

 老いなかっただけだ。

 

「万一の時は」

 

 彼女は静かに言った。

 

「私は生き残ります」

 

 バルカスは深く頷いた。

 

「それでよい」

 

「必要なら戦います」

 

「うむ」

 

「ですが、閣下を守るためとは言いません」

 

「それでよい」

 

「閣下が無事でも、私が死ぬ可能性を減らすために使います」

 

「そうじゃ」

 

 ヴァルキュリアは、制御球を封印ケースへ戻した。

 

 今すぐ使うものではない。

 

 使わずに済むなら、その方が良い。

 

 だが、持っておく必要はある。

 

 アルカンフェルの側に立つということは、そういう場所にいるということだった。

 

 クロノスの25年。

 

 その陰で、アルカンフェルの側にいる一人の女にも、戦闘用の未完成装備が預けられた。

 

 それは、彼女を前線へ送るための力ではない。

 

 世界を征服するための力でもない。

 

 地球生命の責任者を守るための力ですらない。

 

 ただ、万一の時。

 

 アルカンフェルが無事である一方で、彼女だけが死ぬという結末を避けるための力だった。

 

 必要なら、敵を斬る。

 

 必要なら、胸部装甲を開く。

 

 必要なら、超獣化兵を排除してでも戻る。

 

 それは戦闘用だった。

 

 だが、目的は戦闘ではない。

 

 生き残ること。

 

 そのために、クロノスは十分すぎる力を彼女に預けた。

 





うちでは
クロノス世界統一1990年頃
核融合炉商用稼働2001年頃
宇宙怪獣襲来  2011年頃
リムーバーで解除2016年頃終了。戦後処理継続中
くらいのイメージで見ています。

だから主人公組は今は42歳くらいかな。巻島顎人くんの息子は竜樹(タツキ)ですがオリキャラなので登場はないでしょう。アギトの次だからリュウキ(龍騎)ですw

村上さんは獣神将なので不老です。アプトムもそんなもんでしょう。
ドクター・アルフレッド・ヘッカリングと神将メンバーも年取りません。
時間経過で登場人を入れ替え出来るほど登場人物がいないからです。と説明すると興ざめかもしれませんが、説明しないと色々と気にする人もいるので説明しておきます。
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