尚、宇宙怪獣の母艦級全長が数千km……(´°ᗜ°)ハハッ..
/*/ クロノス・アリゾナ基地 遺跡宇宙船中枢区画 /*/
クロノス・アリゾナ基地は、砂漠の地下にあった。
地上から見れば、ただの軍事研究施設にしか見えない。
乾いた大地。
灼けた岩盤。
空を裂くような監視塔。
だが、その地下深くには、死んだ遺跡宇宙船が眠っている。
いや、眠っているという表現は正しくない。
死んでいる。
みなかみのレリックスポイントにあった船とは違う。こちらの船はすでに航行能力を失い、生体組織の多くが石化し、自己修復も止まり、外殻も内壁も灰白色の硬質な残骸へ変じていた。
ただし、すべてが無価値になったわけではない。
死んだ船にも、まだ使えるものは残っている。
航行制御球。
ナビゲーション・メタル。
重力制御器官。
慣性緩衝系。
空間航行用の補助演算器。
外部装甲材。
船としては死んでいても、装備としてはまだ生きている部分がある。
クロノスはその死骸を囲むように基地を築いた。
解体するのではない。
埋葬するのでもない。
死んだ神の骨を、神殿の地下に祀るように、研究施設で包み込んでいる。
その中心部に、私はいた。
広い部屋だった。
遺跡宇宙船の中枢制御室。
天井は高く、壁は滑らかな曲面で構成されている。生体組織の色は失われ、灰白色の硬質な殻へ変質していた。ところどころに黒ずんだ管が走っているが、そこに脈動はない。
船は死んでいる。
だが、部屋の中央には、まだ役目を終えていないものが残っていた。
二つの球体。
金属質の球体が、向かい合わせに設えられている。
表面には細かな紋様が走り、ただの金属ではなく、何かの神経系を凝縮したような気配があった。
航行制御球。
ナビゲーション・メタル。
遺跡宇宙船の頭脳であり、航路を読み、空間を測り、星間航行を成立させるための中枢。
みなかみの遺跡宇宙船から得た情報と照合すれば、これが何なのかは明らかだった。
ギガンティックを作るために必要なもの。
正確に言えば、ギガンティックとは巨大な鎧ではない。
ユニット・ガイバーが、遺跡宇宙船の航行制御系と装備群を取り込み、装着者個人に対応した小型宇宙船として再構成された姿。
個人用の船。
個人用の航行中枢。
個人用の重力制御装備。
それを人型の殖装体に落とし込んだもの。
だからこそ、ナビゲーション・メタルが要る。
だからこそ、死んだ遺跡宇宙船でも構わない。
船体そのものを蘇らせる必要はない。
使える中枢と装備を、ガイバー・ユニットが私用に再構成すればいい。
私は、二つのナビゲーション・メタルを見つめた。
長かった。
みなかみでユニットとリムーバーを確保し、遺跡宇宙船の情報を抜き、バルカスを寝かせ、シンにギュオーを監視させ、村上征樹への接触を進め、その上で北米へ飛んだ。
本音を言えば、もっと早く来たかった。
原作知識持ちとしては、ここは絶対に押さえなければならない場所だ。
ウラヌスの聖櫃。
死んだ遺跡宇宙船。
そして、ギガンティックの素材。
これをギュオーに触らせるなど論外。
ハイヤーンに先行解析だけ任せるのも危険。
バルカスには見せる。
シンにも報告する。
だが、最初に取り込むのは私だ。
これは譲れない。
「閣下」
背後で、バルカスが声を発した。
もちろん、連れてきている。
この老人を置いてくるという選択肢はなかった。
本人はみなかみでの解析作業も続けたがっていたが、ナビゲーション・メタルの現物を前にして留守番などさせたら、後で何を言われるか分からない。
いや、違う。
正直に言えば、私が見せたかったのだ。
この老人が長年追い求めてきた降臨者の中枢技術。
その本丸の一つを。
「本当に、これを閣下御自ら取り込まれるのでございますか」
「ああ」
「理論上は、可能でございます。みなかみの船より取得した演算結果とも一致しております。ユニットを介し、殖装状態の閣下がナビゲーション・メタルと同期すれば、死んだ船に残された航行制御系と装備群を、閣下専用の強化殖装として再構成できるはずでございます」
「なら、やる」
「ただし、船体の残存装備には劣化したものも多くございます。取り込むべきものと、切り捨てるべきものの選別が必要です」
「そのためにお前を連れてきた」
バルカスの目が細くなる。
心配ではなく、研究者の目になった。
「光栄でございます」
「ただし、選別の主導権は私とユニットに置く。お前は観測と記録だ」
「承知しております」
「本当にか?」
「もちろんでございます」
信用できない。
研究者としてのバルカスは、まったく信用できない。
目の前に降臨者の航行中枢と有効装備群があるのだ。隙を見せれば、徹夜どころか食事も睡眠も捨てて解析に没頭するに決まっている。
「それに、これは他の者には渡せん」
私はナビゲーション・メタルへ視線を戻した。
「ギュオーに触らせれば、間違いなく余計な夢を見る。ハイヤーンに先行解析させれば、絶対に隠しデータを抜こうとする。シンは信用できるが、彼に負担を負わせるものでもない」
「では、閣下が」
「そうだ」
私は軽く息を吐いた。
「私がやる。まず私専用の形にしてしまえば、他の者が勝手に扱うことも難しくなる」
ギガンティック。
名前だけなら、胸が躍る。
オタクとしては、正直に言ってかなり興奮している。
だが、現実にやるとなると話は別だ。
ユニット・ガイバーを殖装したアルカンフェルが、死んだ遺跡宇宙船のナビゲーション・メタルと残存装備を取り込む。
生体兵器の王。
降臨者の正式装備。
星間航行生体宇宙船の中枢。
それらを、個人用の強化殖装として再構成する。
まともではない。
だが、無茶ではない。
これは本来、ユニットが持つ拡張性の延長にある。
船を蘇らせるのではない。
船の部品を、私の装備に変える。
「始める」
私はそう言った。
バルカスが一歩下がる。
周囲の研究員たちはすでに退避済みだ。中枢区画に残っているのは、私とバルカス、そして最低限の観測装置だけ。
私はユニットを起動した。
殖装。
空間が歪む。
全身を生体装甲が包み込む。
アルカンフェルの肉体が、ユニット・ガイバーと接続される。
人類でもなく、獣化兵でもなく、獣神将でもなく、降臨者の制御下にもない存在。
殖装したアルカンフェル。
その状態で、私は二つのナビゲーション・メタルの間へ歩いた。
二つの球体が、淡く発光する。
拒絶はない。
当然だ。
私はすでにガイバーである。
ユニットを殖装した以上、ナビゲーション・メタルは私を異物としては扱わない。死んだ船の中枢は、残された機能を接続先へ引き渡すように、静かに反応している。
これは戦いではない。
回収だ。
死んだ宇宙船から、まだ使える装備を取り出し、私のユニットへ組み込む。
ただそれだけだ。
私は両手を伸ばした。
右手を一つ目の球体へ。
左手を二つ目の球体へ。
触れた。
瞬間、二つのナビゲーション・メタルに走る紋様が輝いた。
中枢区画の壁面が、次々と淡い光を帯びる。
死んだ船の各部に残っていた装備群が、最後の点検を受けるように反応していく。
重力制御器官。
慣性緩衝系。
外部装甲材。
推進補助系。
姿勢制御器。
空間航行用演算補助器。
使えるもの。
使えないもの。
残すもの。
捨てるもの。
ナビゲーション・メタルがそれらを識別し、ユニットが私に適合する形へ翻訳していく。
視界の内側に、船体構造が展開された。
だが、それは記憶の逆流ではない。
設計図だ。
死んだ船が持っていた装備の配置図。
利用可能な部品の一覧。
それらをどう組み替えれば、私個人に対応した航行殖装へ再構成できるかという演算結果。
「なるほど」
私は思わず呟いた。
分かる。
使い方が分かる。
これは巨大な鎧であると同時に、極小化された宇宙船だ。
通常の殖装体を中心に、航行制御中枢を背骨として置く。
重力制御器官を胸部と肩部へ。
慣性緩衝系を全身の外部装甲へ。
推進補助系を背部へ。
外部装甲材を、通常殖装体を包む強化外殻として再構成する。
ナビゲーション・メタルは、私とユニットを中心に、すべてを個人対応へ変換していく。
球体だったものが、静かにほどけた。
液体金属のように形を失い、光の筋となって私の殖装体へ流れ込む。
同時に、周囲の壁や床から、使える装備が剥がれていく。
古い管が外れる。
硬質化した装甲片が分離する。
重力制御器官の残骸が浮き上がる。
それらはばらばらの部品のまま、私の周囲へ集まってきた。
そして、ユニットがそれらを喰う。
いや、喰うというより、組み込む。
余分な部分を切り捨て、有効な構造だけを取り込み、私の殖装体に合わせて再構成していく。
背中に何かが生まれる。
肩が拡張される。
胸部の奥に重力制御の核が収まる。
腕部に外部装甲が重なる。
脚部に姿勢制御系が走る。
通常のガイバーを包み込む、さらに大きな生体外骨格。
ただ大きいだけではない。
これは船だ。
人型をした、個人対応の宇宙船。
ギガンティック。
中枢区画が震えた。
死んだ遺跡宇宙船の残骸が、使える装備を手放していく。
床が割れる。
壁が剥がれる。
天井から古い管が落ちる。
それは破壊ではなく、剥離だった。
役目を失った船から、必要な部品だけが抜き取られていく。
私は手を離さなかった。
離す必要もなかった。
接続は安定している。
ユニットは迷っていない。
ナビゲーション・メタルも拒まない。
死んだ船から、私に必要なものだけが移されていく。
「来い」
私は低く言った。
「私のものになれ」
二つのナビゲーション・メタルが完全にほどけた。
光が爆ぜる。
殖装体の外側に、巨大な影が展開する。
それは鎧だった。
船だった。
骨だった。
翼だった。
通常のガイバーを包み込む、巨大な生体装甲。
死んだ遺跡宇宙船から回収した航行制御系と装備群を核として再構成された、規格外の殖装体。
私は、その内側で目を開いた。
全身に力が満ちている。
ただの増幅ではない。
空間を読む。
重力を掴む。
姿勢を制御する。
外部装甲で身を守る。
そして必要なら、この身一つで宇宙へ出られる。
個人用宇宙船。
その言葉が、今は一番近かった。
「……成功、でございます」
遠くで、バルカスの声がした。
震えている。
歓喜か。
畏怖か。
たぶん両方だ。
「閣下……これは……」
私はゆっくりと手を握った。
外部装甲の巨大な指が、それに連動して動く。
中枢区画の空間が軋んだ。
危ない。
少し動いただけで、基地ごと壊しかねない。
私は出力を絞る。
呼吸を整える。
通常殖装体を中心に、外部装甲の輪郭を安定させる。
船を着ている。
そんな感覚だった。
巨大な鎧をまとっているのではない。
宇宙船を、個人用の身体として着込んでいる。
「バルカス」
「はっ!」
「記録は取れたな」
「すべて。すべて記録しております、閣下」
「よし」
私は巨大な装甲の内側で、小さく息を吐いた。
「では、まず出力安定を確認する。その後、解除手順を組む」
「解除、でございますか」
「当たり前だ。着られるだけの船など迷惑だ。脱げなければただの牢獄だろう」
「……御意」
「それと、ギュオーには知らせるな」
バルカスが一瞬だけ沈黙した。
「ギュオーめには」
「絶対に知らせるな」
私はきっぱりと言った。
「こんなものを見せたら、あいつは確実に夢を見る」
「承知いたしました」
「ハイヤーンにも、詳細は伏せろ。解析結果は私とお前とシンで管理する」
「御意」
私はもう一度、自分の身体を確かめた。
通常殖装体の上に重なる、巨大な拡張殖装。
死んだ船から生まれた、個人対応型の宇宙船。
原作で知っていた名を、私は心の中で呟いた。
ギガンティック。
だが今、ここにあるのは原作と同じものではない。
殖装したアルカンフェルが、ウラヌスの聖櫃からナビゲーション・メタルと使える装備を取り込み、自らのユニットに合わせて再構成したもの。
私専用のギガンティック。
その完成を確認して、私はようやく笑った。
「よし」
長かった。
ようやく、ここまで来た。
「これで、少しは盤面を動かせる」
バルカスが深く頭を垂れた。
私は内心で思う。
盤面どころではない。
これは、原作イベントを根底から壊す札だ。
だが、今さら遠慮する気はない。
私はアルカンフェルだ。
そして、原作知識持ちのオタクだ。
イベントは、踏むものではない。
潰せるものは、先に潰す。
私は巨大な殖装体の中で、静かに拳を握った。