アルカンフェル転生   作:ぶーく・ぶくぶく

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外すための鍵

/*/ リムーバー複製進捗 /*/

 

 

 

 私は、会議卓の表示を切り替えた。

 

 人造コントロールメタル改良型の立体図が消え、次に現れたのは、別の装置だった。

 

 リムーバー。

 

 戦後五年にわたり、三百万人の戦時殖装者から人造コントロールメタルを解除し続けた装置。

 

 強殖装甲を強制的に呼び戻し、宿主との接続を切断し、制御球を初期化してユニット化する。

 

 それは、戦後処理における最重要装置だった。

 

 だが、数が少なすぎた。

 

 そして、純正技術に依存しすぎていた。

 

「次だ」

 

 私は言った。

 

「リムーバーの複製進捗を報告しろ」

 

 ヘッカリングが、投影の向こうで頷いた。

 

「はい、閣下。結論から申し上げます。オリジナルのガイバー・ユニット、あるいは純正コントロールメタルを初期化可能な完全複製リムーバーは、現段階では製造不能です」

 

 会議室の空気が、わずかに重くなった。

 

 バルカスは黙っている。

 

 予想していた顔だった。

 

 ヴァルキュリアが問う。

 

「理由は、精神感応金属オリハルコンですか」

 

「その通りです」

 

 ヘッカリングは、リムーバーの断面図を表示した。

 

 内部には、複数の結晶核が描かれている。

 

「コントロールメタルを初期化するには、精神感応金属同士でのリンクが不可欠です。単純な電磁パルスや思念波照射では足りません。制御金属の記録層へ干渉し、宿主との神経接続、強殖生物との命令階層、亜空間格納情報を同時に解きほぐす必要がある」

 

 村上征樹が眉を寄せた。

 

「鍵穴に対して、同じ材質の鍵が要る」

 

「近いです。ただし鍵というより、同じ言語で命令を書き直す装置です」

 

 ヘッカリングは淡々と続ける。

 

「純正コントロールメタルは、高純度オリハルコンを中枢に持っています。これを初期化するには、リムーバー側にも同等純度、同等反応性の精神感応金属が必要です。地球上の降臨者遺物から回収できる量では、とても足りません」

 

 ヴァルキュリアが端末を見た。

 

「現在保有する高純度オリハルコンは、既存装置の維持と研究用サンプルでほぼ固定されています。複製用に回せる量はありません」

 

 カールレオンが低く言った。

 

「では、純正ガイバーに対する新造リムーバーは作れない」

 

「現段階では、不可能です」

 

 バルカスが、そこでようやく口を開いた。

 

「ウラヌスの記録によれば、水星をオリハルコン生産の炉にしていたとあります」

 

 会議卓に、水星の立体図が浮かんだ。

 

 太陽に近い灼熱の惑星。

 

 巨大な金属核。

 

 苛烈な太陽風。

 

 地下深部に埋め込まれた、降臨者の場制御装置。

 

「水星そのものを、精神感応金属オリハルコンの結晶を育てる炉として使っていたのですじゃ」

 

 バルカスの声には、研究者としての熱があった。

 

「太陽風、高熱、金属核、磁場、そしてウラヌスの場制御装置。それらを組み合わせ、長大な時間をかけてオリハルコン結晶を成長させる。水星は鉱山ではなく、惑星規模の培養炉だった」

 

 ヘッカリングが頷く。

 

「将来的に水星開発が進み、同じ条件を再現できれば、高純度オリハルコンを得られる可能性があります。その場合、純正リムーバーの複製も理論上は視野に入ります」

 

「将来的には、か」

 

 私が言うと、ヘッカリングは表情を変えずに答えた。

 

「はい。現時点では、水星鉱床への本格到達、採掘、結晶誘導、精製、すべてが未整備です。金星改造や木星資源輸送と並行して進めるとしても、すぐには無理です」

 

 会議室に沈黙が落ちた。

 

 純正リムーバーの量産は、まだ遠い。

 

 だが、ヘッカリングはそこで資料を切り替えた。

 

「ただし、代替案があります」

 

 表示されたのは、純正リムーバーではなかった。

 

 人造コントロールメタル解除用リムーバー。

 

 戦時殖装者三百万人を解除した装置の簡易量産型。

 

「人造コントロールメタルは、そもそも純正オリハルコンだけで作られていません。地球上で確保できる微量オリハルコン、代替精神感応合金、調整済み強殖組織、人工制御球で構成されています」

 

 バルカスが補足した。

 

「言うなれば、純正品ではなく、代用品を寄せ集めて作った王冠ですじゃ。危険ではあったが、戦時にはそれで三百万人を宇宙へ送り出した」

 

「その代用品で作った人造コントロールメタルなら、同じ材料体系で初期化装置を作れます」

 

 ヘッカリングは言った。

 

「つまり、純正コントロールメタルは初期化できない。しかし、人造コントロールメタルなら解除できる。技術的には可能です」

 

 ヴァルキュリアが確認する。

 

「対象を限定することで、必要な精神感応金属の純度を下げる」

 

「はい。人造制御球の記録層は純正より浅い。精神感応リンクも劣化複製です。ならば、同系統の代替材料で干渉できます」

 

 村上が言う。

 

「戦時殖装者の解除に使った機能を、量産可能な形に落とすわけですね」

 

「その通りです。ただし、重要な制限があります」

 

 ヘッカリングは、はっきりと言った。

 

「この代替材料型リムーバーでは、オリジナルのコントロールメタルを初期化することはできません。純正ガイバーには無効です。無理に干渉すれば、反応しないか、最悪の場合、コントロールメタル側の防御反応を誘発します」

 

 カールレオンが腕を組んだ。

 

「治安用には、それで十分か」

 

「人造コントロールメタルの管理には十分です。むしろ、純正ガイバーへ干渉できないことは、安全上の線引きにもなります」

 

 ヴァルキュリアが記録する。

 

「代替材料型リムーバー。対象、人造コントロールメタル。用途、戦後解除、事故対応、作業用ガイバー暴走時の強制分離。非対応、純正コントロールメタル、オリジナルガイバー・ユニット」

 

 バルカスが髭を撫でた。

 

「純正を外せぬなら、兵器としては片手落ち。しかし、管理装置としてはそれでよい」

 

「はい」

 

 ヘッカリングが頷く。

 

「今後、作業用ガイバー構想を進めるなら、解除装置の量産は必須です。装備を作るなら、外す手段も同時に配備しなければなりません」

 

 その言葉で、解除区画の五年間が会議室に戻ってきた。

 

 三百万人。

 

 五年。

 

 戦争が終わっても終わらなかった戦場。

 

 あれを、もう一度繰り返すことは許されない。

 

 私は表示された代替材料型リムーバーを見た。

 

 純正品ではない。

 

 オリジナルには届かない。

 

 だが、人造のものを人造の手で外せる。

 

 それは十分に意味があった。

 

「良い」

 

 私は言った。

 

「代替材料での開発を進めろ」

 

 ヘッカリングが頭を下げる。

 

「承知しました」

 

「条件を付ける」

 

 ヴァルキュリアが即座に記録姿勢に入った。

 

「人造コントロールメタルを配備する施設には、必ず解除用リムーバーを置く。作業用であっても例外はない。解除装置のない現場に、人造コントロールメタルを出すことを禁じる」

 

「妥当です」

 

 ヴァルキュリアが頷いた。

 

「第二条件」

 

 私は続けた。

 

「代替材料型リムーバーは、監察部門の管理下に置く。開発局単独で保管するな」

 

 バルカスが少しだけ肩をすくめた。

 

「信用がありませんな」

 

「信用しているから言っている。人造コントロールメタルを作る者と、それを外す者は分ける」

 

 バルカスは、少し笑った。

 

「良い判断ですじゃ」

 

「第三条件」

 

 私はヘッカリングを見た。

 

「水星開発計画に、オリハルコン炉の復旧調査を加える。純正リムーバー複製は長期目標とする。ただし、優先は人造品の安全管理だ」

 

「了解しました。水星鉱床調査、オリハルコン結晶成長条件の再現、純正リムーバー用精神感応金属の確保を長期研究項目に加えます」

 

 ヴァルキュリアが記録する。

 

 

 

 リムーバー複製方針。

 

 一、純正コントロールメタル対応リムーバーは、高純度オリハルコン不足により現時点では複製不能。

 

 二、水星はウラヌス時代のオリハルコン生産炉であり、将来的な開発対象とする。

 

 三、代替材料型リムーバーは、人造コントロールメタル解除用として開発を進める。

 

 四、代替材料型は純正ガイバー・ユニットを初期化できない。

 

 五、人造コントロールメタル配備施設には、解除装置の併設を義務付ける。

 

 六、リムーバー管理は監察部門を含む複数部門管理とする。

 

 

 

 村上征樹が静かに言った。

 

「作るなら、外せるようにしてから作る。ようやく、そこへ来たわけですね」

 

「ああ」

 

 私は答えた。

 

「戦争中は、外す手段より先に着せた」

 

 誰も否定しなかった。

 

 あの時は、そうするしかなかった。

 

 宇宙怪獣が来ていた。

 

 地球が背後にあった。

 

 三百万人に、未完成の王冠をかぶせた。

 

 そして五年かけて外した。

 

「もう同じことはしない」

 

 私は言った。

 

「装備とは、着せる技術ではない。戻す技術まで含めて装備だ」

 

 ヘッカリングが、初めて少しだけ表情を動かした。

 

「肝に銘じます」

 

「進めろ」

 

「はい。人造コントロールメタル用リムーバー、代替材料型の開発を開始します」

 

 会議卓に、作業用ガイバー構想と代替材料型リムーバーの図が並んだ。

 

 一つは、太陽系へ出るための身体。

 

 もう一つは、その身体から人間を帰すための鍵。

 

 どちらか片方では足りない。

 

 それを、戦争は教えた。

 

 私は、二つの図を見ながら言った。

 

「次は、帰れる装備を作る」

 

 誰も異論を挟まなかった。

 

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