幻想郷を駆ける、銀緑の疾風   作:W297

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1話 限界到達、そして永遠亭へ

 

 静かに俺は新たな分岐から続く道を走っていた。

 

「…やっぱり、初めての道はいいな…」

 

 そう呟きながら、俺は走り続けていく。

 

 …走っていれば、誰かが見てくれる。

 

 …走っていれば、俺の答えが見つかる。

 

 そう一心に思っている俺は、先輩からでさえ「これ以上走るな」と言われたことも忘れていた。

 

 …先輩の言葉ですら今の自分を止めることは出来なかった。

 

 ただひたすら前に進み、道にあった2本のレールとバラスト敷きの地面はいつの間にかなくなり、道は土の地面となっていた。

 

「…え?」

 

 しばらく走ったのち、レールが無くなったことに気付いた俺は足を止める。

 

 俺が周囲を見渡すとそこにあったのは知らない竹藪の中。

 

 

 

 

 

「…ここ、どこだよ?」

 

 

 

 

 

 そう呟いた俺は、その場に座り込む。

 

「なんで、こんなところにいるんだよ俺…。

 

 苗穂の訓練線ってこんなところにはつながってないはずだぞ…?」

 

 …俺が今まで走ってきた道を振り返っても、そこには生い茂る竹藪しかない。

 

「…やらかした、か」

 

 俺はそう呟いて、竹藪に背中を預けて空を見上げる。

 

 そこにあるのは夜空に光る、月と星のみ。

 

 …再び立ち上がろうとするが、俺にはそんな気力は残っていなかった。

 

「…姉さん、先輩…。

 

 …ごめん、俺これ以上走れねえわ…」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 俺の中にあるエンジン、体の方はもちろん、心の方も回らなくなっていた。

 

「…もうすぐ終わってた命なんだ。

 

 廃車の手間無くなったって喜んでくれるだろ、北海道さんも…」

 

 俺は今までの自分を正当化するようにそう呟いていく。

 

「…一回くらい、誰かのために走りたかったな…」

 

 …ただ、今までの俺は漠然とした「自分の役割を見つける」ということを思いながら走ってきた。

 

 必ず俺たち鉄道車両は「誰かのために走る」ために生まれてきた。

 

 姉さんや先輩はもちろん、「人を乗せて運ぶ」ために生まれその業務を全うしている。

 

 …俺も、「人を乗せて運ぶ」ために生まれてきたが…、それは出来なかった。

 

 俺はここまで「自分の居場所を見つける」ことだけに走ることしか、出来なかった。

 

「…もう、いいか」

 

 俺はそのまま気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 竹林の中、白い服と髪を着た少女が歩いて来ていた。

 

「…ったく、輝夜のやろー。

 

 派手にぶっ飛ばしやがって…」

 

 ボロボロになった服を身にまとい自分の家へと変える途中のこの少女は藤原妹紅。

 

 終生のライバルである蓬莱山輝夜と共に今日もドンパチしてきた。

 

「…見てろ、明日こそはもっとボロボロに…」

 

 そう呟きながら歩いていると、ある姿が見えた。

 

「なんだあれ、人か?」

 

 妹紅はそう呟きながらその姿に近づいていく。

 

 この迷いの竹林の奥には凄腕の医者である八意永琳がいる。

 

 その治療を求めて、この迷いの竹林の中へやってくるものたちを永琳のもとへと連れていくことも多い。

 

 …ただ、今回はそれより状況がひどかった。

 

 銀色の服を纏った少年は全く動く素振りが無く、一本の竹の根元に座り込んでいた。

 

「お、おい!お前大丈夫か!?」

 

 妹紅が肩を揺らすが、その少年からの返答はない。

 

「脈はあるが…、このままだとまずいな…」

 

 幻想郷は妖怪が多い土地だ。人を食うものも多く存在する。

 

 …幻想郷内の取り決めとして、人里の中では人間を襲うことが禁じられている。

 

 つまり、それ以外の場所では襲われても文句は言えない。

 

 死んではいないが、弱り切り体を動かせない状態になっている彼は妖怪の格好の餌だ。

 

「…なんでこんなとこにいるか分からねえけど、永琳のところ連れていくか…!」

 

 そう話して背中に背負おうとしたときに妹紅にある負担がかかった。

 

「…お、重…!?」

 

 傍から見れば、妹紅とほぼ同じような背格好・年齢の少年。

 

 人里の協力者から人の搬送を頼まれ、病人などを運んだことは何度もある、のだが。

 

 明らかに普通の人間と比べると、彼には重さがあった。

 

「まあ、ギリギリ動けるぐらいだし、行くか…!」

 

 腕を首元に回して、完全に背中に彼を背負った彼女は、今まで殺し合いをしていた場所へと戻るために走り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …普通の人間なら迷ってしまい、辿り着くことすらできない永遠亭。

 

 だが、その場所を知り尽くしている妹紅は少年を背負ってからまっすぐにやってきた。

 

 そんな妹紅を見て関の前で掃除をしていた、一対の兎耳を持つ少女が見つけた。

 

「あれ、妹紅さんじゃないですか?

 

 さっきの喧嘩で何か忘れ物でもされたんですか?」

 

 鈴仙・優曇華院・イナバ。この永遠亭の屋敷の薬師の助手である月の兎である。

 

 妹紅はそう話す鈴仙に「…いや、急患だ」と答える。

 

「…竹林の中で倒れてた。

 

 脈と息はギリギリあるみたいだけど、不規則だし目を覚ましてねえし返答もねえ。

 

 永琳に診て貰いたいんだが、今行けるか?」

 

「はい、分かりました!

 

 すぐ呼んできます!妹紅さん、その人を治療室へ!」

 

「ああ」

 

 そう言って妹紅は永遠亭の中へと入っていき、鈴仙はパタパタと音を立てて「師匠ー!」と永琳を呼びに行く。

 

 少年をベッドに寝かすと、奥から先ほどまで喧嘩していた永遠亭の主、蓬莱山輝夜が妹紅に声をかける。

 

「あれ、妹紅じゃない?また殺り合いにきたの?

 

 別に私はいいけど」

 

「…今回は休戦。

 

 急患連れてきたんだよ」

 

 そう答えると、輝夜は「へえー…」と少年をマジマジと見る。

 

「外から来た子かしら?

 

 人里とか月では見ない服してるけど」

 

「多分そうだろうな…」

 

 連れてきた以上、私としては助かってほしいけど」

 

「まあ、永琳なら心配しなくても大丈夫よ。

 

 ただの人間や妖怪なら…、ね」

 

 輝夜はそう含みを求める持たせるように話した。

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