永琳がベッドに横たわった彼を見て、「ふうっ」と溜息を吐く。
「…私には、この子の治療は無理ね」
「はあ!?」
その声を聴いて、妹紅はそう声を上げる。
「師匠、なんでできないんですか?」
そう鈴仙が聞くと、永琳は「だって…」と続ける。
「この子、人間の体でも妖怪の体でもないんだもの。
…私は人間や妖怪、妖精を治療することは出来るわよ。
ただ、私にはこの子を『修理する』ことは出来ないわ」
「え、修理…?」
輝夜がそう聞くと、永琳が「心音聞いて見なさい」と告げた。
鈴仙は永琳から言われた通り、彼の胸に耳を当てる。
「…え、心臓の音が、…ない!?」
「そう、脈があれば、少しでも心臓は動いているはずなのよ。
血液を全身に送るためには、心臓の働きがあるはずなんだから」
「でも、この人の心音、聞こえなかったです。
だから、師匠は「無理」って言ったんですね…」
そう話す鈴仙に妹紅は「ちょっと待て!」と続けていく。
「脈はあっただろ!?
じゃあこいつには心臓がないって言うのかよ!?」
「ないって訳じゃないけど…。
ウドンゲ、その子の体から何か変な音が聞こえてこないかしら?」
「…えーと、あ、確かに何かの機械が動いているような音が…ってこれがこの人の心音の代わりってことですか!?」
永琳は頷く。
「だから、この子には『治療』じゃなくて…、
…『修理』が必要なのよ」
◇ ◇ ◇
そういう訳で永遠亭に呼び寄せられたのは幻想郷の中でも最も機械に強い種族…、河童である河城にとり。
「…うん、これは弱ったエンジンがから回ってる音だね。
私の担当だわ」
そうにとりは永遠亭の面子に告げる。
「…だけど、修理できるかな…。
見たところほぼほぼ人間なんだよね、コイツの体。
現状留めないほどにしていいなら分解しまくってできるとは思うけど、それはアウトだろ?」
にとりの言葉に、妹紅は「もちろんだ」と告げる。
「…じゃあ、私も出来ることないかな」
そうにとりは話していく。
「音からして、エンジン・モーターの使い過ぎだね。
チューニングしてみたいけど、聞いたことない音してるからあまり触らない方が良いと思うし。
多分しばらくの間休んでたらその内うまく回るようになって、こいつも目を覚ますんじゃないかな」
「…分かったわ」
目を覚まさない少年を前に、永琳はそうにとりに返答した。
◇ ◇ ◇
「う…」
俺は知らない天井、ベッドの上で目を覚ました。
「ここは…?」
俺が目を覚まし、体を起こすと、腕には点滴が付けられている。
…誰かに運び込まれたことだけは分かった。
「…あら、ようやくお目覚め?」
そう話す赤と青の服を身にまとった女性が俺に声をかけてきた。
「ちょっと、心音聞かせてね」
そう言ってその人は俺の胸に耳を当てる。
「うん、うまく回っているようね。
もう大丈夫そうだわ」
そう言って俺に着いていた点滴を外していく。
「あの、あなたは…。それにここって…」
俺がそう聞くと、その女性は片付けながら話してくれる。
「私はここの薬師の八意永琳、そしてここは永遠亭。
あなた、この近くで倒れてたのよ」
「永遠亭…?」
…聞いたことがない場所だ。
「…やっぱり、その服装から分かってたけど『外』の人なのね。
にしてもあなた何者なの?
ただの人間じゃないみたいだけど」
そう聞いてくる永琳さんに、俺は答えていく。
「…俺、北見北翔って言います。
形式名はキハ285系っていうんですけど、わからないですよね…」
俺がそう話すと、「そうね」と永琳さんは話してくる。
「あなたの体の仕組みは分からないけど、少なくともあなたは過労で倒れたの。
今はゆっくり休むことが必要だわ。
ようやく心臓のエンジン?もうまく周り始めたみたいだけど、あの2日はここで休んでなさい」
「休む…か。
…姉さん、先輩。
心配してくれてるだろうな…」
姉さんが苗穂に来た時には何回も「休んで」って言われてたし、先輩も珍しく「休め」って言ってきてたな…。
…そうだ、俺は苗穂の訓練線からここに来たんだ。
「…永琳さん、ちょっとお聞きしたいんですけど」
「…ん、何かしら?」
「あの、苗穂って土地を知っていますか?
俺、そこから走ってきたんですけど…」
永琳さんは俺の言葉を聞いて「聞いたことないわね」と続ける。
「どこなの、それ?
外の世界であなたがいた地名かしら?」
「そうですけど…」
…やっぱり、ここは今まで俺が住んでいた土地とは違うんだ。
「…言っとくけど、もう外の世界には帰れないと思った方が良いわよ。
これからこの幻想郷で生きていくうえで、それだけは覚悟しておきなさい」
「…分かり、ました」
…やっぱり、もう帰れないのか…。
姉さんと先輩に「今までありがとう」ぐらい言っとけばよかった。
「…考えても仕方ないか」
俺はそうベッドの上でそう思うしかなかった。