「…着いたぜ、ここだ」
俺は妹紅さんにそう伝えられ、慧音さんの家の門の前に立つ。
「ここが…」
「慧音から許可はもらってる。行くぞ」
そう言って妹紅さんは戸を叩く。
「慧音ー、いるかー?」
そう聞くと、中から「入っていいですよ」という大人の女性の声が返される。
「じゃあ入るぞー」
「…お邪魔します」
妹紅さんに続けて、俺も家の中に入っていく。
奥の部屋まで行くと、銀髪に青髪のメッシュが入った女性がいた。
「…慧音、こいつが話してた北見北翔だ。
特徴はもう言ったよな」
「ええ、聞いてますよ妹紅。
…初めまして、北見北翔。
私は人里の寺子屋で教師をしている上白沢慧音。
これからよろしく頼むよ」
「あ、はい!
北見北翔です、これからよろしくお願いします」
俺はそう頭を下げる。
慧音先生は「礼儀はちゃんとしているな」と呟いて、改めて続けてくる。
「君のこれからについてだが、家に関してはここの近くに空き家がある。
そこを使わせてもらうよう話は着いている。好きに使ってくれ」
…家まで用意してくれたのか。如何しようか悩んでたからうれしいなコレ。
「…そして、大事なのが君の仕事だよな」
「どうだ、慧音。
なんかこいつに合う仕事知らないか?」
そう妹紅さんが話すと、慧音さんは「そうだな…」と続ける。
「北翔、君は『走ることしかできない』って自分で言っていたそうだね」
慧音さんの言葉に俺は「はい」と頷く。
「俺は、向こうの世界で誰かを乗せて走るために生まれてきました。
…だけど、色々な都合があってそれはできなかった。
自分の居場所を見つけるために走ることしかできなかったんです。
幻想郷に来たのも、無我夢中で走っていたらここに来ていた…、それだけなんです」
俺は自分の体を見ながらそのまま続けていく。
「俺は向こうの世界では人間に認識されることがない精霊みたいなものでした。
ただ、今こうやってあなた方は俺を人の姿を認識できている。
…人を乗せることは正直難しい、できて1人を背中に乗せて運ぶぐらいです」
…俺は「でも」と続けていく。
「俺は、誰かのために走りたい。
俺が生まれたのは『自分のため』に走るためじゃない、『誰かのため』に走るために生まれたんです。
俺が走ることで誰かに喜んでもらいたい。
…それが俺の根本です」
俺がそう話すと、慧音さんは「なるほどな」と返してくる。
「…つまりだ。
自分が走ることに、『誰かの役に立つ』という理由が欲しいんだな?」
慧音さんの言葉に俺は「その通りです」と返す。
「…今の俺の燃料である水さえあれば、俺はどこまででも走れます。とりあえず金はいりません」
俺は改めて慧音さんに申し入れる。
「…俺に、この幻想郷を走らせてください」
俺はそう頭を下げる。
「…分かった。
君のことを妹紅から聞いて、考えた仕事を教えよう」
慧音さんはそう言って、「君の速さが良きる仕事だ」と続けていく。
「…君は、『届け屋』をするべきだ」
◇ ◇ ◇
「…届け屋、ですか?」
俺がそう返すと、「そうだ」と慧音さんは答えてくれる。
「…外の世界では宅急便とも呼ばれているものだ。
人間の速さより早く、誰かに頼まれた荷物を代わりに頼まれた場所に届ける。
君の脚の速さを最大限に生かせるはずだ」
そう話す慧音さんは、俺に続けてくる。
「…北見北翔君。
君が良ければ、『届け屋』をやってみないか?
…無論、私もサポートはしていくつもりだよ」
…慧音さんの言葉に対して、俺の頭に断るという選択肢はなかった。
「…はい、分かりました。
俺の足が活かせる仕事なら、俺は断ることはないですよ。
…その仕事、やらせてください」
俺は慧音さんにそう頭を下げた。
「…了解した。
では、さっそくだがこの荷物を届けてほしいんだが…」
…慧音さんから渡されたものは、いくつかの書類…というか巻物のようなもの。
「…寺子屋での授業のために、阿求殿から借りているものだ。
ひとまず使わないものは返却しようと思っていてな。
これらを阿求殿の屋敷へ届けてほしいんだ。
…頼めるか、北翔?」
「お任せください。
…と、言いたいところですけど」
…俺はそう口を止める。
「ん、どうしたよ北翔。
なんか問題でもあったか?」
妹紅さんがそう声をかけてくれるが、俺は「あの…」と続ける。
「…ここの地図、教えてもらっでもいいですか?」
そう話した俺に慧音さんは笑いながら返してくる。
「…ふふっ、確かにお前は幻想郷に来たばかりだったな。
教えるのを忘れていたよ」
慧音さんは地図を開いて、場所を示してくれる。
「…ひとまず、これは人里の地図だ。
それ以外の場所はこれから勉強していってくれ」
「…届けるのは、この大きな屋敷ですか?」
俺が地図の中にある屋敷を示すと、慧音さんは「その通りだ」と返してくれる。
「その場所に着いたら、屋敷の方に私の名前を伝えてくれ。
『書物を返しに来た』と言えば、分かってくれるはずだ」
「承知しました」
俺はそう言って地図から目を離して立ち上がる。
「…ん、地図持って行かなくていいのか?」
妹紅さんがそう話してくるが、俺は「場所が分かったんで大丈夫です」と返して続けた。
「…もう、ここの地図データは全て、頭に入力されましたから」