ダンジョンに元水神がいるのは間違っている   作:白黒ととか

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EP4

「バルスやセリアが言うには、推奨はLv.2以上が1名、Lv.1の上位が2名のパーティーって言ってたけど……正直、僕のペースについて来られるLv.1はおそらく居ない」

 

宿屋の自室。

安っぽい木製デスクの上に羊皮紙を広げ、私は羽ペンをくるくると回しながら独り言ちた。

ペン先でコツコツと机を叩きながら、自身の現状を冷静に分析する。

 

精神力(マインド)無限のこのチート魔法火力。威力だけなら中層の魔物も一撃で消し飛ばせる確信はある。今の私のスペック、控えめに言ってもLv.1の最上位、いや、下手すればLv.2の中位くらいはあるんじゃない?)

 

自分の能力を客観的に評価し、私はギシギシと鳴るベッドの上にゴロンと仰向けに寝転がった。

天井の木目をぼんやりと見つめながら、思考を巡らせる。

 

「ステイタスの更新は必須として……問題は、戦い方だね。今みたいに遠距離からぶっ放すだけより、魔法を起動して僕自身が殴るようにしないと、あの爆発の後の再起動のラグがこの先怖い気がする」

 

上層のゴブリンやキラーアントなら、魔法をぶっ放して一網打尽にすれば終わる。

だが、中層からは魔物のスピードも上がり、遠距離攻撃を仕掛けてくる奴らもいると聞く。

 

(アルミラージの突進とか、ヘルハウンドの炎とか、連射が間に合わなかった瞬間、防御力皆無の私は即座に消し炭だ。それは絶対避けなきゃ!)

 

「あとは、武器の準備と剣の練習か?」

 

私は手元にあった安物の短剣を抜き、空中で軽く振ってみた。

 

「片手剣、それもレイピアみたいな細身の片手直剣なら扱った事はあるけど……あれはサロンソリティア有きの戦い方だし。んんん? どうするべきか」

 

かつての記憶を引っ張り出す。

水元素の力で呼び出したサロンのメンバーたちが自動で攻撃してくれていたから、私は後方で優雅にステップを踏んでいるだけでよかった。基礎の基礎くらいしか、体に染み付いていない。

 

「いっその事バルスに剣の使い方を聞くか? いやでも他派閥だし、そもそも扱う剣が彼のような無骨な大剣と細身の片手剣じゃ、どうにもならんか??」

 

独り言のボリュームが自然と大きくなる。

 

(重たい大剣を『オラァッ!』とか叫びながら振り回す私の姿とか、解釈違いにも程がある! 私のスタイルはもっとこう、華麗でエレガントでなきゃ!)

 

ベッドから跳ね起き、私はマントを羽織った。

 

「よし、善は急げだ! まずは相棒となる武器の調達に行こうじゃないか!」

 

 

迷宮都市(オラリオ)の北西、冒険者通り。

様々な武具屋が軒を連ねる中、私は一軒の小綺麗な武器屋のショーケースに釘付けになっていた。

飾られていたのは、銀色に輝く刀身を持つ、細身の片手直剣――レイピアだ。

 

「いらっしゃい。お目が高いね、それはヘファイストス・ファミリア(そこ)の若手が打った業物だ。軽くて丈夫、芯材にミスリルの合金が使われてる分、魔力の伝導率もいい」

 

店主のドワーフが、誇らしげに腕を組んで言った。

 

(75万ヴァリス??? うっわ、高い! これ一本で高級ケーキが何十個買えるの!? でも、命には代えられない! スイーツを食べるためには生き残らなきゃいけないんだから!)

 

私は震える手を隠し、スッと優雅に顎を上げた。

 

「ふふっ、悪くない輝きだ。僕の相棒として相応しいね! これをいただこう!」

 

金貨の詰まった袋をカウンターに置き、私は真新しいレイピアを腰に提げた。

歩くたびに、チャキッ、と心地よい金属音が響く。

 

(ふふん、形から入るのは大事よね! なんだか強くなった気がするわ!)

 

「お? フリーナじゃないか。お前が剣なんて珍しいな」

 

ギルドのロビーを歩いていると、巨大な雷の大剣を背負ったバルスが声をかけてきた。

その後ろには、豪奢な紫のローブを纏い、扇子で口元を隠したセリアの姿もある。

 

「これはこれは奇遇だね。ふん、魔法を撃つだけなら猿でもできる。中層の魔物のスピードに対処するためには、魔法を起動してから再起動するまでの隙を自ら埋めなきゃならない。その程度の戦術の切り替え、神である僕には造作もないことさ」

 

私が腰のレイピアを軽く叩いてみせると、セリアの瞳がスッと細められた。

 

「……へえ。アンタにしては、まともな分析じゃない。浅層で調子に乗って死ぬ馬鹿かと思っていたけれど」

「失礼な! 僕は賢いんだ! ……ただ、問題は剣術の師匠だね。誰か、この僕に優雅な剣技を教えられる者はいないか探していてね」

 

私がわざとらしくため息をついてみせると、バルスがニカッと笑った。

 

「なら、俺が教えてやろうか? 大剣の振り下ろし方なら完璧に叩き込んでやるぜ!」

「君の無骨な大剣術と僕のレイピアじゃ、根本的に動きが違うだろう。遠慮しておくよ」

私が即座に却下すると、横で聞いていたセリアが扇子をパチンと閉じた。

「……簡単になら、私が教えてあげてもいいわよ」

「え?」

私は目を丸くしてセリアを見た。

 

「君が? セリアは魔法使いだろう?」

ヘラ・ファミリア(うち)の魔法使いを舐めないことね。詠唱中に接近されたら終わりなんて、三流の言い訳よ。私たちは前衛顔負けの護身術と近接格闘を徹底的に叩き込まれるの」

 

セリアが冷ややかな笑みを浮かべた瞬間、バルスが顔を引きつらせて一歩後ずさった。

 

「あー……フリーナ、やめとけ。セリアの『護身術』ってのは、護身の域を超えて……」

「何か言ったかしら、バルス?」

「何でもねえです」

 

セリアの鋭い視線に射抜かれ、オラリオ最強派閥の男が直立不動になる。

 

(……なんかすごい地雷を踏もうとしている気がする。でも、背に腹は代えられない!)

 

「ふ、ふふっ……いいだろう! なら君に、この僕を指導する栄誉を与えようじゃないか!」

 

私がビシッと指を突きつけると、セリアは妖艶に唇を歪めた。

 

「ええ。せいぜい後悔しないことね」

 

 

翌日から、オラリオ郊外の荒野で、私の地獄の特訓が始まった。

 

「ほら、足が止まってるわよ! 踏み込みが甘い! 死にたいの!?」

 

バシィッ!!

 

「アウッ!?」

 

セリアの容赦ない木剣の打撃が、私の肩を強打する。

 

(痛い痛い痛い!! 骨が! 絶対骨にヒビ入った!! なんでこの人、細腕の魔法使いなのにこんなに馬鹿力なの!? ヘラ・ファミリアの常識どうなってんの!?)

 

「どうしたの? 衆水の主なんでしょう? 神の動きがその程度?」

 

セリアが扇子を弄びながら、冷たい声で見下ろしてくる。

 

「はははっ! な、なかなか良い準備運動じゃないか! 僕の体をほぐすにはちょうどいい!」

 

私は歯を食いしばりながら立ち上がり、泥だらけの服の埃を払って木剣を構え直した。

 

(外面! 外面だけは保て! ここで泣きを入れたら私の負けだ!)

 

「アンタの魔法は強力だけど、発動に頼りすぎているわ。魔法を剣に纏わせる感覚を覚えなさい」

「やってやるさ! 【幕開け(サージ)】!」

 

足元に青白い魔法陣を展開し、水流を呼び起こす。

それを弾けさせるのではなく、己の意思で木剣の刀身へと収束させていく。

 

「ハァッ!」

 

水を纏った木剣で、セリアに向かって鋭い突きを放つ。

 

「……チッ」

 

セリアは小さく舌打ちし、木剣に炎を纏わせて私の突きを弾き飛ばした。

ジュワァァッ、と水と炎が衝突し、白い水蒸気が弾ける。

 

「魔法の威力は認めるわ。でも、剣筋が単調すぎるのよ! 次に攻撃が来る場所を教えているようなものだわ!」

 

バキィッ!

 

「ギャッ!?」

 

水蒸気の奥から飛んできたセリアの蹴りが私の鳩尾にクリーンヒットし、私は荒野の土を派手に転がった。

 

 

特訓は五日目に入っても苛烈さを増すばかりだった。

 

「アンタの足捌きは綺麗だけど、実戦向きじゃない。舞台の上で踊ってるんじゃないのよ! 泥臭くても相手の死角に潜り込みなさい!」

「うるさいな! 僕の美学に泥臭さなんて文字はないんだよ!」

 

私は息を乱しながら、セリアの炎を纏った連撃を必死に躱す。

 

(ふかふかのベッド……美味しいスイーツ……18階層の雲菓子……!)

 

脳裏に浮かぶのは、極上の甘味と至福の休息。

その欲望だけを支えに、私はセリアの攻撃を流し、レイピア特有の鋭い突きを押し込んでいく。

 

「【蓋開け(アビス)】!」

 

剣先から高圧の水を小さな刃として発射し、セリアの顔面を狙う。

 

「甘い!」

 

セリアは首を微かに傾けてそれを避け、そのまま私の懐に踏み込んできた。

 

(やばっ!)

 

咄嗟に剣の柄でセリアの攻撃を受け止めるが、凄まじい衝撃に腕が痺れる。

 

「防御の反応は良くなってきたわね。でも、まだ遅い!」

 

毎日毎日、全身に青痣を作りながら、私は必死に彼女の動きに食らいついていった。

サロンソリティアありきだった私の剣術が、私自身の足で踏み込み、魔法の威力を剣先に集中させる『魔法剣士』の動きへと少しずつ昇華していくのを感じていた。

 

 

そして、約束の十日目。

 

「……はぁ、はぁっ、はぁっ……」

 

私は肩で荒い息を吐きながら、真新しいレイピアの切っ先をセリアの喉元に突きつけていた。

セリアの扇子に仕込まれた短い刃は、私の首筋スレスレでピタリと止まっている。

相打ち。

夕暮れの荒野に、二人の乱れた息遣いだけが響いていた。

 

「……まあ、十日にしては上出来ね」

 

セリアは扇子をパチンと閉じ、ふう、と息をついた。

 

「少なくとも、アルミラージの突進くらいなら躱して反撃できる程度の足捌きにはなったわ。魔法との連携も、ギリギリ及第点ってところかしら」

「ふ、ふふっ……当然さ! 僕の才能にかかれば、この程度……!」

 

私は震える膝を必死に堪えながら、華麗にレイピアを鞘に収めた。

 

(死ぬかと思ったああぁぁ!! もう二度とこの女と特訓なんてしたくない!! 寿命が縮むわ!)

「感謝してあげるわ、セリア。君の指導のおかげで、僕のパフォーマンスはさらに完成に近づいたよ」

「ふん。死にたくなければ、油断しないことね。中層はアンタが思っている以上に悪意に満ちているわ」

 

セリアは冷たく言い放つと、紫色のローブを翻してオラリオの街へと歩き出した。

 

 

その夜。

私たちが拠点にしている宿屋の一室で、私はベッドにうつ伏せになりながらロキに背中を預けていた。

 

「……嬢ちゃん。あんた、この十日何しとったん?」

 

私の背中に神血を垂らし、ステイタスの更新を行っていたロキが、素っ頓狂な声を上げた。

 

「ふふっ、少しばかりステップの練習をね。僕の圧倒的な成長に驚いたかい?」

 

顔を枕に押し付けたまま、得意げに答える。

ロキは羊皮紙に数値を書き写しながら、信じられないというように呟いた。

 

「……敏捷(びんしょう)の伸びが異常や。それに『力』や『器用』もゴリッと上がっとる。これ、もうそろそろ……」

「そろそろ?」

「いや、なんでもないわ。しかし、Lv.1でここまでステイタスが急成長するとはな。やっぱりあんた、何か持っとるで」

 

ロキから渡された羊皮紙を受け取る。

そこには、十日前とは比べ物にならないほど上昇した能力値が刻まれていた。

 

フリーナ・ドゥ・フォンテーヌ Lv.1

【力 :E 412】

【耐久:F 380】

【器用:D 505】

【敏捷:C 620】

【魔力:S 999】

 

(うおぉぉ……! めっちゃ上がってる! 魔力なんてカンストしてるじゃない! これなら、中層の魔物とも十分に渡り合えるはず!)

 

私は羊皮紙を強く握りしめ、目を輝かせた。

マインド無限のチート魔法と、セリアに叩き込まれた近接戦闘の技術。

そして、このステイタス。

 

「中層……行けるかもしれんな」

 

ロキが腕を組みながら、真剣な顔で呟く。

 

「ふふっ、行くさ! 僕を待つ大舞台がそこにあるのだからね!」

 

私はベッドから飛び起き、マントをバサァッと翻した。

 

(待っていろ、18階層! 幻の雲菓子、水晶飴! この私の全てを懸けて、必ず味わい尽くしてやるんだから!)

 

地獄の特訓による全身の筋肉痛も忘れ、私の心はすでに、ダンジョンの奥深くにあるという甘美なるリゾートへと飛んでいっていた。




魔力がカンストしてる原因ですが付与魔法の連打とスキルのシナジーで使用頻度がバカだからです。
通常の冒険者の何十倍の数を撃っているからです。
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