実力隠し系TS転生者、目ざといやつにはだいたいバレてる 作:しるふっふ
私、シフルは目立たずチヤホヤされたかった。
だって、目立つと厄介事に巻き込まれる頻度が大幅に増える。
かといって、全くチヤホヤされないっていうのももったいない。
せっかくチートをもって美少女に転生したのに、その特典を活かさず生きていくのは自分のボディに失礼だ。
結果として、私は隠れた実力者ムーブを好むようになった。
周囲からは普通の冒険者と思われつつ、その裏でこっそり魔物を倒したりするのだ。
これがまぁ、なかなかどうして楽しかった。
多くの冒険者や旅人を困らせていた魔物が、ある日突如として討伐されていたり。
悪さを働く野盗どもが、突然捕縛されて兵士に突き出されたり。
そんなことをしていると、当然噂にもなる。
が、このことはあっさり国のお偉いさんや、つよつよ冒険者にバレた。
あっれぇ、ちゃんと正体隠してたはずなんだけどなあ?
とはいえ、別に悪いことをしているわけではない。
私は目立つことを好まないのです……とか言っておけば、彼らも普通に納得してくれる。
なにより、彼らが称賛してくれるのは、普通に気持ちいい!
なにせ相手は、私みたいな適当人間でも知っているような有名人ばかりなのだ。
ときには英雄譚の中にしか登場しないような、すごすご人物に褒められることもある。
まるで自分が、そんな有名人の一員になったみたいだぁ。
というわけで、私は今日も今日とて実力隠し生活を満喫しながら、冒険者生活を送るのだった。
――ところでここ最近、私に対する皆様の評価がえらーく
■
森の中、一人の少女がかける。
その体は漆黒のマントに覆われ、覗けるのは美しい白髪の髪だけ。
しかし、覗ける顔の一端だけでも少女が美しいことは明らかだ。
背丈は小柄ながらも、木々の上を飛びながら駆ける姿には、どこか強者の雰囲気が漂っていた。
なんてかっこよく説明しているけれど、要するにこれは私のことだ。
夜闇に紛れて正体を隠しつつ、木の枝をぴょんぴょん跳ねる強者ムーブ、くぅー、たまらん。
目的地ははっきりしていた。
ぶっちゃけあんまり方向感覚がよろしくない私なので、普通に迷ったりするが、そこはスピードでカバー。
あらゆる場所を踏破し切ってしまえば、いずれは目的地につくんです。
同じ場所をぐるぐる回ってる?
しらんなぁ。
まぁ、今回に関しては相手の居場所がはっきりしているので、迷うことはない。
ビンビンに感じますぜぇ、濃厚な魔物の魔力だぁ。
「――見つけました」
脳内はこんな感じで常に適当極まりない感じだけど、口調はできる限り丁寧敬語を心がけている私だ。
知的に、クールに、冷静に。
仕事人っぽいロリを目指して頑張っている。
こういうのは、キャラ付けも大事ですからね。
実力隠し少女なら、忍んでる感じがベストである。
んで、私が何を見つけたかといえば――
「
まぁ、一言で言えばでけぇ狼だ。
私が今いる、
おかげで見つけてさえしまえば、迷う心配がなくて助かる。
これまで何度、こっそり魔物を討伐する際に現地に向かった際に迷子になったことか。
違うんですよ、私は迷子の子どもじゃなくて成人した冒険者なんですよ、ちょっと実力を隠してるだけの。
こほん。
「――参ります」
とにかく、今はこの月牙狼を倒すことが先決だ。
こいつはかれこれ一ヶ月ほど前から、このあたりの街道を荒らしている厄介な魔物である。
なんで一ヶ月も放置してたのかといえば、私の耳に届いたのが出現してから1ヶ月後だったから。
こっちだって身体が無限にあるわけではないので、耳に届かなきゃこういう魔物の討伐には行けないんです。
というわけで、話を聞いてこりゃいかんと判断した私は、さっそくこれの討伐に赴いたわけ。
見つかりたいわけではないので、夜にこっそりと。
『ぐるるるぅ!』
狼が気づいた。
迫る私に視線を向けて、咆哮する。
こいつは非常に厄介な魔物と聞いていた。
なにせ、月牙狼の咆哮を聞くと、一瞬にして目眩や吐き気などのバッドステータスを付与されるという。
聞いてしまうだけでおしまいだというのが厄介だ。
なにせ相手は、夜闇に紛れてこっそり接近する私に気付ける探知能力持ち。
声を聞かずに戦うことなんてほぼ不可能。
耳を塞げばいいんじゃないかって話もあるが、どうやら身体に影響を与えるのは音ではなくそこに載せられた魔力らしい。
塞いでも貫通するのだ。
こりゃ詰んでるね。
とはいえ――
『――――」
首が宙を舞っていた。
狼に接近しているはずだった私は、すでに狼の後方へと駆け抜けていた。
もはや、何がなんだか、狼には理解することすら叶わなかっただろう。
ただ一撃、ただ一瞬にて戦いは決したのだ。
もはやここに、凶悪な魔物の姿など存在しない。
「お疲れ様でした」
――納刀。
逆手に持っていた忍者が使いそうな短い直刀を鞘に納める。
我ながら、完璧と言っていいムーブだった。
やはり実力を隠すなら、一撃必殺のシーフ系が一番である。
影、マント、そしてナイフ。
すべてが完璧に映えている。
このために、必死こいて故郷で練習した甲斐があったというものだ。
さて、この世界の魔物は倒したら素材になる。
スキルとか存在するし、どっかのゲーム世界に転生したりしたのだろうか。
ステータスは存在しないので、まぁそういう世界ってことなんだろう。
この素材に関して、私はきちんと回収することにしていた。
いやだって、実力を隠す関係で魔物を倒したと名乗り出ないのだ。
私の正体を知っている知り合いが謝礼をだしてくれることもあるけれど、活動初期は完全に無償でやっていた。
なので、こうして素材を回収しないとお金にならない。
まぁ、その素材を売り払ったことで脚がついてバレたケースも多々あるんだろうけど、表立ってバレない分には別に気にすることもないからなぁ。
「それに、狼の魔物ということは――お肉も手に入りますからね」
基本的にこの世界の魔物の肉は、美味しい。
これを手に入れるために、私は常日頃から正体を隠して頑張っているところがある。
さて、さっそく手に入れたお肉で”祭り”を開催するとしようかなぁ。
■
月牙狼討伐。
その報は、またたく間に国中に広がった。
なにせ、ここしばらく国を騒がせていた
近隣住民は安堵し、月牙狼を討伐し名を上げようと集まっていた冒険者は悔しがった。
とはいえ、疑問に残る点もある。
誰も討伐した瞬間を目撃していないのだ。
ある日突如として、住処としている森からその姿が消えたのである。
移動した痕跡もないことから、
そんな中、この魔物を討伐した者が昏風の妖精であると声高に叫ぶものがいた。
昏風の妖精。
今から
どこからともなく現れ、人々を困らせる存在を討伐して去っていくという。
その正体を知るものはなく、中には妖精の存在を知らないものもいた。
しかし、多くの有力者は知っている。
この謎の存在の正体が、一人の少女であるということを。
自身の正体が知られることを良しとしない、精霊の少女であることを。
精霊、この世界の根幹をなす”マナ”から時折生まれる人ならざる存在。
ときには、神として崇められる神聖な存在だ。
――シフルは、自分のことをちょっと人外転生しただけの普通の人間だと思っている。
しかし、違う。
この世界においてシフルは、本当に特別な存在なのだ。
故に、実力者は彼女の願いに応え、その正体を秘匿する。
しかし同時に、善をなす女神に重い期待を寄せるのだが――シフルは未だ、そのことに気付くことはないのであった。