ここだけ命の答えに辿り着いた少年に脳を焼かれたゲヘナ生がいる世界線 作:伝説の超三毛猫
―――全身が痛む。
普段なら思い通り動いている体が、鉛のように重い。
骨が悲鳴をあげ、筋肉が思い通りに動かず、全身の皮膚が張り裂けそうだ。
膝も、両手も、床に縫い付けられたかのように言う事を聞いてくれなかった。
だが、かろうじてあげた視界に、彼は立っていた。
「……」
寡黙で、不思議で、優しかった、あの少年だけが、両足で立ち、月へと向かって歩いていく。
「あなた…どうして動けるの!?」
女子生徒の声がする。
時にぶつかり、時に等身大の学生の話をした親友だ。
「お前…一人で行こうってのか…!」
男子学生の声がする。
どんなにつらくても、戦う事の大切さを教えてくれた…頼もしい先輩だ。
「行かないで!」
機械の女性の、悲痛な声が聞こえた。
“異物”同士で、人間というものを分かろうと、何度も話し合ったっけ。
だが、そんなに仲間に声をかけられても、彼は歩みを止めなかった。
これから彼が、何をしにいくのかはわかっている。
どれだけ離れていても、自分たちは一緒だ。
しかし。この時に限っては。
彼と同じように立ち上がり、隣で戦えないことが。
悔しくて。情けなくて。不甲斐なかった。
その中には…ある少女もいた。
海のような髪の一部を団子にしながらもなびかせた少女。
その頭上には、奇妙な輪が浮いていた。そんな存在など、誰もいないにも関わらず。
その少女もまた、立ち上がった少年を引き留めた。
「待って……お願い、待って!!」
しかし―――必死な懇願もむなしく、彼は月へと飛んで行って―――
「―――
…ぱちり、と目が覚めた。
一瞬、ここがどこだか分からなくなって……すぐに、ゲヘナ学園の寮室であることに気付いた。
―――嗚呼、またあの夢だ。
正直、あまりいい目覚めではなかった。だが……今や私には、学校に行く必要があるから。
学園に向かうには早すぎる時刻。けれど、二度寝をするという気分にもなれなくて。
クローゼットを開き、そこにかけてあった、青い制服に手を伸ばして―――そして、すぐ隣の黒い制服を取り直す。
(今の私は………ゲヘナ学園の、風紀委員会だから。)
そう言い聞かせるようにして……海色の髪の少女――――――
◆◆◆◆◆
ゲヘナ学園の治安維持組織……『風紀委員会』は、今日も変わらず忙しない。
数々の事務作業のほか、暴動が起きた際の治安維持も、一手に担っている。
鳴り響く銃声と、火薬の焦げた匂い。それが―――この学園の日常だ。
ゲヘナ学園本校舎から少し離れた未開発区域。
そこは今―――違法な闇スクラップ業者を名乗る不良生徒たちと、私たち風紀委員会による、いつもの小競り合いの舞台と化していた。
「あーもう!次から次へと!
風紀委員会に共有される、作戦連絡用のモニター越しにキーキーと声を張り上げているのは、風紀委員会副委員長・天雨アコ先輩だ。
怒り心頭ながらに、的確な彼女の指示のもと、風紀委員の一般生徒たちが一斉に遮蔽物から銃撃を加える。
対する不良たちも、手製の改造アサルトライフルやグレネードを乱射し、辺りには無数の銃弾が飛び交っていた。
キヴォトスにおいては、日常茶飯事。ましてや……ここはゲヘナ。治安は最悪だから猶更だ。
今日は特に酷い。ヒナ委員長が、別の場所で温泉開発部の鎮圧に向かっている最中の出来事だから、不良どももイケイケだ。
弾が当たれば痛いし、制服が破れれば最悪。これまでは、私もその日常に従って、それなりに恐怖し、それなりに真面目に、安全な遮蔽物を探して立ち回っていたはずだった。
―――けれど。
「……リロード」
パキィン、と乾いた音を立てて、空の弾倉が地面に転がる。
私は遮蔽物から身を乗り出し、一切の躊躇なく、弾雨が吹き荒れる中央のキャットウォークへと躍り出た。
「なっ――ちょっと、ネネ!? 何を考えているんですか、戻りなさい!」
背後でアコ先輩の狼狽する声が聞こえる。
けれど、大丈夫だ。
戻らない。戻る必要がない。
正面から放たれた数発の銃弾が、私の体に何発か直撃する。
衝撃は走る。けれど、ただそれだけだ。
(……痛くない。血も、出ない)
あの夜、アルカナの化け物たちに穿たれた痛みに比べれば。
銃弾一発で死んでしまう……そんな身一つで、命を懸けて駆け抜けた日々に比べれば。
あの雨の夜、あの先輩の体から溢れ出た、あの生々しい赤色の熱量に比べれば。
あの夜、どうしようもない“死の概念”から放たれたプレッシャーが与えてきた痛みに比べれば。
こんな銃撃戦など、ただの、ぬるいおままごと以下だ。
今なら分かる。
遮蔽の配置。
敵の配置。
銃の使い分け。
射線の通り。
エイムの精度。
……雑だ。すべてが、雑過ぎる。
「ひぃぃぃ!」
「な、何なんだよあいつ……」
「目が、目がマジすぎる!頭がおかしいぜ……ッ!」
引き金を引く不良どもの指が、恐怖に震えているのが分かる。
そんなに震えていては、どれだけ近くで撃っても当たらないよ。
中には目を閉じてしまっている不良もいる。論外だ。
私はその不良共の一人と間合いを詰め、相手の銃身を容赦なく叩き落とすと、その腹部へ正確に銃弾を叩き込んだ。
ドン、と鈍い音がして、不良生徒が悶絶しながら地面に転がる。
キヴォトス人の頑丈さなら、これで数日は入院するだろうが、死にはしない。
私は横から迫る別の生徒の銃撃を、首を僅かに傾けるだけでかわし、流れるような動作でその足元を撃ち抜いて無力化していく。
無駄のない、冷徹な、まるで呼吸をするかのような戦闘。
こんな動き、少し前の私では絶対にありえなかった。
恐怖しながら、手堅く、安全に立ち回る。
それが……普通の風紀委員の動きであるはずだった。
「……ふぅ」
ものの数分で、周囲の抵抗勢力は静まり返った。
私は愛用のアサルトライフルを肩にかけ、ふぅ、と小さく息を吐く。
パチ、パチ、パチ、と。
背後から、皮肉めいた、けれどどこか重い拍手の音が聞こえてきた。
「見事な手際ですね、ネネ。……いえ、見事すぎて、少し不気味なくらいですが」
振り返ると、映像越しのアコ先輩が冷ややかな、けれど明らかに動揺を隠しきれていない目で私を睨みつけていた。
現場の別方向からは、一緒に出撃していた突撃隊長―――銀鏡イオリも、得物を肩に担ぎながら信じられないといった様子でこちらを凝視している。
「あのさ、ネネ?急に行方不明になったと思ったら、戻ってきた途端にその戦闘スタイルって、一体どういう風の吹き回し?」
イオリの言葉は直球だった。
けれどそこに悪意はない。ただ純粋に、かつての同僚の変化―――いや、変貌ともいうべきそれに違和感と戸惑いを覚えているのだろう。
でも……なんてことはない。全部言う必要はないが…誤魔化す理由もない。
「ううん。ただ、少し効率的な戦い方を覚えただけなんだよ、イオリ」
本当にそれだけなんだ。
ただ…わけもわからず影時間のある世界に放り込まれて。
元の世界に戻る手がかりをつかむために戦うことを選んで。
頼もしい先輩たちや仲間と、切磋琢磨して、力をつけて。
そして―――影時間を駆け抜けた。
ただ、それだけなんだ。
私の答えに、アコ先輩の表情に怒気がこもる。
「だからってあの戦い方はないでしょう!? 一歩間違えれば大怪我ですよ! バカなんじゃないんですか!! そもそもあの戦い方は―――」
「アコ先輩」
私はアコの言葉を遮るように、一歩前に出た。
「みんなを次の任地へ移動させましょう。もたもたしていると、全部ヒナ委員長が片付けてしまいます」
「ネネさんっ!」
「私は不良たちの捕縛と護送をしますので、二手に分かれませんか?」
そうして言いくるめると、私は逃げるように、不良たちを護送用のトラックに詰め込んだ。
やがて、さきの戦いで捕らえた人を全員詰め込み、運転席に座る頃には、銃弾と爆弾が飛び交う騒音が嘘のように静かになった。
キーを刺して回すと、トラックの子気味いいエンジン音が社内に小さく響いた。
誰にも見られていないことを確認した私は……ふと、懐の中に手を入れる。
帰ってきた金属の感触は………あの世界で、私が手にしていたもの。
冷たいけれど……確かにあの世界の出来事が真実だと証明してくれた……銃型の召喚器だった。
誰も知らない。誰も覚えていない。
私が命の重さを知ったことも、誰かを失って泣いたことも、この世界の人にとっては「なかったこと」なのだ。
「―――ねえ、理」
ふと、そんな言葉が出てきた。
返答なんて期待していない。返ってくるわけがない。
それを承知の上で、トラックの屋根に投げかける。
「『命の答え』って、なんなのよ」
彼が行ってしまったあと、目も眩む光に包まれたあとで聞いた声。
曰く『彼が一足先に辿り着いた』という、その答えが。
「お願いだから、教えてよ…」
あの春の屋上で時間が止まっている私には……まだ分からない。
おまけ・主人公+ペルソナ案
雨塚ネネ
ごく一般的なゲヘナ生だったが、ペルソナ3の世界にぶっ込まれてSEESの一員として戦ってきた結果死生観がマトモ()になった。代わりに、戦闘力もちょっとバグってネームドに昇格した(メメタァ)
アイアコス
外見:ギリシャ神話における冥府の裁判官。天秤と一体化したかのような鎧と巨大なバスタードソードが特徴。
耐性:呪怨・火炎軽減、祝福・氷結弱点
覚える技:エイハ、アギ、スラッシュ…etc.
備考:キタローとのコミュによって進化していたが、彼がおらず封印されている現在は、その力「???」に変化させることができない。
―――うむ!あとはペルソナ3を完走しきった先生に任せた!!!
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