ここだけ命の答えに辿り着いた少年に脳を焼かれたゲヘナ生がいる世界線 作:伝説の超三毛猫
出来てるかはわからんけど。
――先生は、生きていた。
アリウスの凶弾に倒れ、生死の境を彷徨っていたシャーレの先生が、今、自分の目の前で息をして、自分を必要としてくれている。
その事実だけで、空崎ヒナの心を満たしていた漆黒の絶望は、跡形もなく霧散していた。
「……うん。分かった、先生。私、行くよ。まだ、終わらせるわけにはいかないから」
ボロボロになった身体に、再び風紀委員長としての苛烈な闘志が宿る。
少しでも投げ出そうとしていた自分を切り替えるかのように、委員長の服に袖を通した空崎ヒナ。
元の調子を取り戻したヒナの前に、再編を終えた風紀委員会の面々が集結しつつあった。
銀色のツインテールを揺らすイオリ。
自分の帰りを待っていた様子で、安堵の息をつくアコ。
そして救護活動を終えたチナツ。
―――だが、その中に、いつもイオリの暴走を一歩引いた目で見守っている、海色の髪の少女の姿だけがなかった。
「……アコ。ネネはどうしたの?」
「え? ネネさん、ですか……?」
ヒナの問いに、アコは怪訝そうに周囲を見回した。
「最初の巡行ミサイルが着弾した直後、現場の混乱に紛れてはぐれてしまって……。イオリ、チナツ、あなたたちは何か知りませんか?」
「いや、何も。私もあの時は自分の身を守るので手一杯だったし……」
「私もです。救護テントにも、先輩の姿はありませんでした」
嫌な予感が、ヒナの胸を過る。
ネネは一週間の行方不明期間があって以降、人物が大きく変わっていた。それは間違いない。
だがその実、風紀委員としての職務や仲間への配慮を怠るような生徒ではない。
何より、あの調印式場には先生がいたのだ。
先生の危機とあれば、誰よりも早く動くはずの彼女が、未だに合流していないのは明らかに異常だった。
そこで異変に気付いたのは………いつでも出撃できるよう、タブレットでデータ管理をしていたアコだった。
「待ってください、委員長!」
「アコ?」
「ネネさんの端末……通信機のGPSが生きています! 位置は……調印式場の外縁、アリウススクワッドと交戦があったと思われる瓦礫地帯です!」
その言葉が示す意味を、ヒナたちは一瞬で理解した。
まだそこにネネがおり……いまだ、帰還できる状態ではないという事。
それが示すこと。それは―――
「アコ、イオリ、チナツ。あなたたちはここで先生の護衛と戦線の維持を。――ネネは、私が連れて戻る」
「お願い、委員長!」
「ネネ先輩を頼みます!」
「任せて」
三人同様、ネネも大切な風紀委員会の仲間だ。
このまま置いていくつもりなど毛頭ない。
その決意を明らかにするかのように言うが早いか、ヒナは愛銃を手に、黒い翼を羽ばたかせるかのように戦場を駆けだした。
◆◆◆◆◆
立ち込める黒煙と、焦げ付いた硝煙の臭い。
GPSの示す場所に降り立ったヒナの目に飛び込んできたのは、異様な光景だった。
「あぁぁぁあああッ! クソ、クソッ、何でだ、何でアイツらが……!!」
その声は、瓦礫の山の中から聞こえた。
雨塚ネネが、自身のアサルトライフルを地面に何度も叩きつけ、狂ったように吠えていた。
髪は乱れ、瞳は血走り、その華奢な身体からは、真っ黒の呪いのようなオーラが、制御を失って暴走するように吹き荒れている。
その姿は、怒り狂っているようでもあり……………同時に、底知れない恐怖に怯える子供のようでもあった。
「ネネ……!?」
「ヒナ、委員長……? 何で、何でここに……いや、違う、私は、私はアイツを殺さなきゃいけなかったのに……なのに、あの背中が、荒垣先輩が……ッ!!」
(…荒垣?)
ヒナが小首をかしげた。
だが、その疑問をのみ込む。
明らかに今はそれどころではない。
(ネネまで、失うわけにはいかない。何とかしなきゃ…)
その間も、ネネは支離滅裂な言葉を叫ぶ。
そして、銀色の召喚器を自身の頭へと向けようとした。
それを見た瞬間の、ヒナの行動は早かった。
「――しまっ、」
ヒナは最短距離で肉薄すると、ネネの意識の外から、その首筋へと正確に鋭い当身を打ち込んだ。
「ごめん」
「うっ……」
短い呼気と共に、ネネの身体から力が抜ける。
どす黒いオーラが霧散し、海色の髪の少女は、糸が切れた人形のようにヒナの腕の中へと崩れ落ちた。
「……信じられない。あのネネが、ここまで取り乱すなんて。一体、何があったの……」
ヒナはネネを近くの綺麗な瓦礫にそっと寝かせようとした。だが、気絶させたのも束の間、ネネのヘイローが激しく明滅し、彼女はすぐにうわ言を漏らしながら目を覚ました。
「う、あ……ひ、ヒナ、委員長……?」
「無理に動かないで、ネネ。あなた、さっきまでのこと……覚えてる?」
「………………はい」
「明らかにおかしかったわよ。一体何と戦っていたの」
ヒナが硬く問いかける。
はっきりとした、だが確かな拒絶のない声音。
しばらく沈黙が流れていたが………やがて、ネネの瞳からボロボロと涙が溢れ出した。
「……分からなくなっちゃったんです、委員長」
「分からなくなった……?」
「アリウスの女を……リーダー格の、マスクの女を追い詰めました」
ヒナは、まずその報告に驚いた。
ゲリラ的に攻めてきたアリウスの生徒たち。
風紀委員会も正義実現委員会も負傷者が多かった中で、ネネはアリウスのリーダー格を追い詰めたと言ったのだ。
しかも、見た限り生身の怪我がない。それはつまり―――大したケガもせずそれを成し遂げたということ。
先程まで錯乱していたから分からないが、そんなものは些事だ。
「私の大切な人を奪った、あのイカレ野郎と同じように、手段を選ばないアイツが許せなくて……徹底的に、すり潰してやろうと思った。でも―――」
ネネは自身の両手を見つめ、激しく震わせた。
「トドメを刺そうとした瞬間、別の…仮面の女の子が飛び込んできて……アイツを庇うように、私の銃口の前に背中を晒したんです」
「……!」
「その背中が……似てた…! 先輩と、荒垣先輩に似てた……! やってる事は、正反対なのに!!」
ネネの口から、血を吐くような独白が続く。
「アイツらも、誰かを守るために戦ってた。
必死に、命を懸けて……。
なのに私は、その庇った背中を狙って、命を奪おうとして……じゃあ、私は何?
復讐に走って、誰かの大切な人を奪おうとしている私は、あの榊貴隆也と、一体何が違うっていうのよ……!!」
誰かを守るために戦うことへの忌避感。
自分自身が「悪」になってしまったのではないかという恐怖。
過去のトラウマが現在の戦場と結びつき、ネネの戦う動機そのものを根底からへし折っていた。
静かにネネの吐露を聞いていたヒナは、ふっと、小さく息を吐いた。
気になる言葉は、いくつか出てきた。
荒垣先輩。榊貴隆也………ヒナには、何のことだかわからない。
それでも――。
ネネの震える声。
涙で歪んだ瞳。
自分の手を見つめながら、まるで血でもこびりついているかのように震えている指先。
それだけで十分だった。
ヒナはようやく理解する。
この子は、さっきまでアリウスと戦っていたんじゃない。
もっと昔から。
ずっと、たった一人で。
過去に置いてきた誰かと、戦い続けていたのだと。
そして、その長い戦いが……今日、この場所で。
とうとう限界を迎えてしまったのだと。
胸の奥が、小さく痛んだ。
思えば、ネネが一週間姿を消して帰ってきてから……どこか達観したような目をすることがあった。
自分自身の後輩とは思えないほど、戦いに迷いがなく。
時折、自分よりずっと遠くを見ているような目をしていた。
その理由が、今なら少しだけ分かる。
「……そんなことが、あったのね」
ヒナは静かに呟いた。
(あなた、本当に……ボロボロになるまで戦ってきたのね)
やがて、ネネの震える肩に、そっと手を置いた。
「……確かに。相手にも、やむにやまれぬ事情があったのかもね」
「ヒナ委員長……?」
「あなたが見たこと……もしそれが事実なら、そのアリウスの生徒たちにも、ほんの少し同情するかもしれない」
誰かを守るために、必死に泥をすすって、手段を選ばずに戦う。
その行動自体に、善悪はない。大義もなかった。
けれど、ヒナの瞳は、どこまでも冷静だった。その奥には、先程先生に救われたばかりの、温かい光が灯っている。
「だって、ネネ。私は…正義というものは、人の数だけあるものだと思っているから」
「…………そうですか」
ネネは力なく視線を落とした。
――じゃあ、やっぱり、自分たちのしていることは、ただの醜い奪い合いでしかないのだろうか。
そんなネネの諦念を見透かすように、ヒナはふっと、夜風のような静かな声で言葉を継いだ。
「ええ。彼女たちには彼女たちの地獄があって、それを覆すための正義があるんでしょう。……だけどね、ネネ。それは彼女たちの都合よ」
「え……?」
ヒナはゆっくりとネネの肩から手を離す。
そして、自らの愛銃であるマシンガンの冷たい鉄の感触を確かめるように強く握りしめた。
「彼女たちにどんな悲しい過去があろうと、どんなに正しい理由があろうと…………それを見過ごしていい理由にはならない」
「え……」
「――それが、私たちの仲間を、学園を、そして何より『先生』を危機に陥れるものなら、私は絶対に、全力でそれを叩き潰す」
だが、それと戦う意味は別だと諭す。
戦いというものは、譲れないものがある者同士で起こる。
ヒナにも、そのことは分かっていた。何かを守るために武器を取るなど、普通のことだ。
それでも彼女は立ち上がり、ネネを毅然と見下ろした。その背中には、ゲヘナ最強と謳われる風紀委員長としての、揺るぎない覚悟があった。
「誰が正しくて、誰が悪いのかなんて、
「大切な、日常を、守る………」
「……あなたにも、いるでしょ? ここで、一緒に失敗して、一緒に笑って、あなたを心配して待っている仲間が」
「仲間……」
そこまで言われて……ようやく、ネネの思考の中に、あたたかなものが蘇る。
その脳裏には、多くの人が笑っている。
いつもうるさく突っかかってくるイオリの顔が。
胃を痛めながらも自分を気遣ってくれるアコの顔が。
また食べに来てくださいね、とほほ笑むフウカの顔が。
ちゃんとご飯食べてよと、また遊ぼうねと笑いかけるチアキとイブキの顔が。
自分のことを、何よりも心配してくれたチナツの顔が。
そして――。
『“ありがとう。頼りにしてるよ、ネネ”』
傷だらけのはずの自分を優しい目で見つめてくれた、シャーレの先生の笑顔が浮かんだ。
(ああ……そうだ。私は、置いてけぼりなんかじゃない)
(過去に置いてきた大切な人の背中は、もう取り戻せないけれど。私の隣には、今、一緒に歩いてくれる人たちがいる)
「先生は、生きてるわよ。ネネ」
「……! 先生、が……?」
「ええ。アリウスの銃撃から復活して、今、私たちの帰りを待ってる。……これでもまだ、戦えない?」
ヒナの言葉が、ネネの心に凍りついていた過去の呪縛を、木端微塵に砕き割った。
ガチガチと震えていた両手の震えが、ピタリと止まる。海色の瞳に、過去への憎悪ではない、現在を守るための、真っ直ぐな青い戦意が灯る。
「……いいえ。戦えます」
ネネは地面に落ちていたアサルトライフルを拾い上げ、しっかりと両手で握り直した。
その顔には、もう迷いも、恐怖もなかった。
「……ごめんなさい、ヒナ委員長。お手を煩わせてしまいました。…それに、ちょっと、カッコ悪いところも…」
「いいわよ。私もさっきまで、似たようなものだったから」
ヒナは小さく微笑むと、隣に並び立ったネネに視線を向けた。
そこで、通信の音と、映像がつながった。アコからだ。
『委員長!』
「…なに?アコ」
『アリウスの居場所が分かりました。データを送りますので、そちらで合流しようと先生が』
「分かった」
ヒナが武器を掲げ、ネネに示し合わせる。
ネネも、その意味を察して、慌てて銃の残り弾数を確認する必要がある。
「行くよ、ネネ。私たちの居場所を取り戻しに」
「了解です、委員長」
――今度は私の番だ。先生たちの隣を、意地でも歩き続けてみせる。
二人の少女は、硝煙の爆風が吹き荒れる戦場へと向かって、同時に地を蹴り出した。
あと思いついてるのは、
・「どうせ虚しいなら時間だけは無駄にするな」と返しつつ皆とサオリ達をボコるネネ(総攻撃)
・先生にキタローの事を話すネネ
・喪服を着て自分の事を「死神」と名乗る変なおじいさんと仲良くなるネネ
・ペルソナの事を説明するために何のためらいもなくこめかみ撃ち抜いて風紀委員と先生をビビらせるネネ
・セイアに第五の古則について答えるネネ
とか考えてます。
これを形にするのがツレェぜ…
ネネのこと、どう思ってる?
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セイア「敵わない人」
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ヒナ「頼れる後輩」
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アコ「理解できない人」
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イオリ「戦いたくない人」
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チナツ「放っておけない人」
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フウカ「一緒に料理したい人」
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アズサ「より戦場を知っている人」
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アツコ「泣けなくなった人」
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シロコ「ん、似てる人」
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ホシノ「無理して大人になった子」
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サクラコ「祈りを知る人」
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先生「戦う必要のない、傷ついた子」
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その他()