ここだけ命の答えに辿り着いた少年に脳を焼かれたゲヘナ生がいる世界線 作:伝説の超三毛猫
……なので、あっちではわざわざ新しく買ってもらったってことにしようと思います。
今回は、エデン条約編からしばらく経った時期を想定して書いています。
―――夢を見る。
また、巖戸台の夢だ。
今度は、私がガラケーを持って、泣いている夢だ。
周りの順平もゆかりも理も、どうすればいいか分からず困っている。
『あー……ネネッチ?』
そんな中で口を開いたのは順平だった。
このやりとりは、よく覚えている。
だって、この場面は。
『ケータイ、変えたんだな? あの、平べったいのじゃなくて、フツーの形のに…』
『……切れた』
『はい?』
『充電が切れたんだよぉ!!? とうとうスマホの充電が!!』
私がキヴォトスで使っていたスマホの充電が、切れてしまったタイミングの話だったからだ。
それを知った美鶴先輩は、新しい携帯を用意してくれたんだけれど。
私にとっては、それは死活問題だった。
『…そんなに重要?』
『重要だよ!!むしろ、なんでこの世界にはモモトークもモモッターも、そもそもスマホすらないわけ!?』
そうなのだ。
新しい携帯は……歴史の博物館でしか見たことないレベルの、ガラケーだった。
機能は劣り、画質は悪く、メールの入力も時間がかかる。
スマホに縋ろうにも……この世界のケーブルは、私のスマホと形が合わなかった。
つまり詰んだのだ。私のスマホは、ただのガラクタに成り下がった。
『アンタねぇ、そんな我儘言える立場なわけ?』
『違う! 分かってるんだよゆかり……これが我儘だって…せっかく美鶴先輩が用意してくれたんだもん、ちゃんと使いたいよ!でも……』
体に染みついた動作と求められる動作が全然違う。
その事実に、私は膝をついて、こう嘆いたんだ。
『私は知らなかったんだよ………私は…贅沢を知り過ぎてたって!!!』
『そんな崩れ落ちる程……??』
『うぅぅ………助けて、理…』
絶望する私に、薄く笑った彼は、私に手を差し伸べながらこう言った。
『―――少しずつ慣れていこう』
…もちろん、スマホはそのまま、というだけではない。
美鶴先輩も、「ネネの世界の手がかりがあるかもしれない」と、充電できるように技術班に解析に回しているらしい。
だがそれも一朝一夕とはいかないので、その間の連絡手段として、ガラケーに慣れるしかなかったのだ。
印象的だったのは―――いや、違う。
今思い出してみて、印象に残ったのは……理の笑顔。
分かりづらいけれど……感情の乗った笑み。
もう二度と……どこの世界を探しても見ることが叶わなくなった、彼の笑顔。
理のその表情が、愛おしくて。彼の顔を見れるのが嬉しくて。でも思い出すたび胸が締め付けられて、苦しくって。
そんな、名前も分からない感情に溺れそうになって―――
―――目が覚めた。
「―――あ」
時計を見れば、もう6時半。
ゆっくり体を起こし、手を伸ばす。
手に取ったのは……ガラケーだ。
あの時に、強制的に送り返された時。偶然、私のポケットの中に、スマホと一緒に入っていたものだ。
今となっては、このガラケーも電波が通じない。
ガラケーを開くと、待ち受けにS.E.E.S.のみんなと映った写真と目があった。
画質は少し荒いが、眩しいほどの思い出。そこには、もう会えない二人も、確かに笑っていた。
そこから、メール画面へ飛び、アドレスを選択。
美鶴先輩のメールアドレスに向けて、メールの文面を考えて………
「…やめよ」
小さく呟いて、静かに携帯を閉じる。
届くはずのないメールを打つなんて、そんなこと、考えちゃダメだ。ダメなのに。
「……会いたいな」
思わず、独り言が声に出た。
言葉は無意味に、私の部屋に霧散する。
そうして膝をかかえ、しばらくしてから……今日、私はシャーレの当番として働く日だったことを思い出した。
◆◆◆◆◆
慌てて支度を整え、シャーレへと向かう。
オフィスに着いてしまえば、いつも通りの「風紀委員の雨塚ネネ」だ。
先生から依頼された書類を整理し、雑務をこなし、テキパキと仕事を進めていく。
“うぅぅ……全然仕事が終わらない!”
「頑張ってください、先生。私ではどうにもならない書類もありますけど、私もお手伝いします!」
“ありがとね、ネネ………”
2時間くらいデスクと向き合っていると、先生がそんな弱音を吐き始めた。
だが、シャーレの先生でしか出来ない仕事があるのも事実。それなりに励ましながら、ネネも頑張ったと思う。
けれど、ふとした瞬間にカバンの中のガラケーを確かめてしまう自分や、書類を受け取る先生の静かな手元、その横顔を盗み見てしまう自分を隠しきれなかった。
(似てる……本当に、びっくりするくらい)
夢の中で見た理の笑顔が、目の前の先生の姿と重なっては消える。
胸の奥がぎゅっと締め付けられ、息が苦しくなる。
“……ネネ?”
「っ、はい! なんでしょうか、先生!」
名前を呼ばれ、弾かれたように背筋を伸ばす。
先生は手にしていたペンを置くと、すべてを見透かすような優しく穏やかな瞳でネネを見つめていた。
“今日の業務はこれで終わりにしよう。……もしよかったら、少し屋上で風でも当たっていかない?”
「屋上……ですか?」
“うん。……ちょっと、二人で話したいことがあってね”
断る理由はなかった。
先生の後について階段を上り、重い扉を押して屋上へ出る。
そこには、オレンジ色から徐々に深い群青へと移り変わるグラデーションの空が広がっていた。夕暮れの涼しい風が、ふたりの髪をふわりと揺らす。
手すりに寄りかかり、遠くの街並みを見つめていたネネは、ポケットの中のガラケーをきゅっと握りしめた。
風紀委員会室では、みんなを心配させたくなくて話せなかったこと。
今朝の夢からずっと、胸を支配している愛おしくて切ない感情。
そして、理のこと―――。
「先生、話って……」
“…今日、ずっと何か言いたげだったね?”
「!」
隣に立つ先生の静かな声に、ネネは肩を揺らした。
見抜かれていた。
やはり、この人に隠し事は出来そうにない。
どうせ見抜かれるなら、いっそ。
(先生になら……この人になら、話してもいいのかな)
ネネは、意を決した。
夕暮れ時のシャーレ。
オレンジ色から徐々に深い群青へと移り変わるグラデーションの空が、屋上に立つ二人の影を長く伸ばしていた。
風紀委員会室での騒動から数日。
先生は、あの時ネネがみんなの前で見せた「何かを隠しているような目」がずっと気になっていた。
だからこそ、こうして二人きりで話す時間を作ったのだ。
手すりに寄りかかり、遠くの街並みを見つめていたネネが、静かに口を開く。
「……先生。あの日、みんなの前では話せなかった『続き』……聞いてくれますか?」
“もちろん”
先生は首を縦に振り、ネネの隣に並んだ。
「私の……あっちの世界での話です。本当に大切な、一番好きだった人の話」
ネネは目を細め、どこか遠い記憶を手繰り寄せるように語り始める。
「彼の名前は、
そこまで言って、ネネはふっと柔らかく笑い、先生の顔を覗き込んだ。
「初めて先生を見た時、すごく驚いたんですよ。……びっくりするくらい、理に似ていて。髪の色も、瞳の静かさも、背格好も、声も……一瞬、彼が戻ってきたのかと思うくらい」
“似ている……?そんなに?”
「はい。だから……連邦生徒会で初めてお会いした時、言葉を失っちゃって。……でも、違いました。先生は先生です。理は、あんなふうに叱ったりしませんから」
ネネの視線が、再び夕焼け空へと戻る。
その横顔には、風紀委員会室で見せていた凛とした表情はなく、ただ傷ついた一人の少女の顔があった。
「あっちの世界で……私たちは『ニュクス』という、人類を滅ぼす存在と戦っていました。誰も勝てない、絶望そのものが形を持ったみたいな存在でした」
ネネの手が、きゅっと手すりを握りしめる。
「でも……理は、諦めなかった。自分のすべての命を……魂を賭けて『大いなる封印』になって、世界を守ったんです。……みんなを、私を守ってくれた」
“命を……封印に……”
「……春になって、桜が咲く『約束の日』。
学校の屋上で……みんなで集まる約束をした日に……私は…私たちは、彼の最期を看取りました」
ネネの声が、かすかに震え始める。
「顔は……すごく穏やかで。眠っているみたいで。……どれだけ呼びかけても、もう二度と目を開けてくれなかった」
ぽつり、ぽつりと、夕闇に落ちていく言葉。
ネネの瞳から、溜め込まれていた涙が零れ落ち、夕日を浴びてキラリと光った。
「……どうして、私じゃなかったんだろう」
その問いは、風にさらわれて消えてしまいそうなくらい、儚かった。
「私が……私が代わりになればよかったのに。私なんかが生き残って……なんで、あんなに優しくて、みんなに愛されていた理が死ななきゃいけなかったの……っ」
ネネは溢れ出る感情に耐えかねたように、胸を押し抱くようにして、身体を小さく丸めた。
「世界なんてどうでもよかった……! 英雄になんてならなくてよかった……! 私はただ……理に、生きていて欲しかっただけなのに……っ!!」
溢れ出したのは、ずっと心の奥底に鍵をかけて閉じ込めていた、身勝手で、けれどあまりにも純粋な本音。
そんな、小さな姿を見て、先生は悟った。
自分を犠牲にすることに抵抗がないのも、痛みに鈍感になろうとしていたのも、すべては……生き残ってしまった絶望と罪悪感の裏返しだったのだと。
屋上に、静かな波の音のような風が吹き抜ける。
先生は、溢れ出る涙を拭おうともせず震えるネネの肩に、そっと手を置いた。
そして、包み込むような眼差しでネネを見つめ、静かに、語りかける。
“……きっと、彼もそう思っていたんじゃないかな”
「え……?」
ネネが涙で濡れた瞳を上げ、呆然と先生を見る。
“君が、彼に生きていて欲しかったように……彼も、君に、生きていて欲しかったんだよ”
その声はどこまでも優しく、温かかった。
“誰かを守るために命を懸ける人はね、自分の代わりに誰かが死んでしまうことなんて、絶対に望まない。”
“……彼は世界を守ったんじゃない。君たちが生きる、未来を守りたかったんだ”
先生はネネの頭に優しく手を乗せ、語りかけるように撫でた。
“だからね、ネネ。君が生きていることは、罪なんかじゃない。彼が命を賭けて遺してくれた、一番大切な『答え』なんだよ”
「あ……あぁ……っ……」
胸の奥にずっと引っかかっていた、トゲのような罪悪感が解けていく。
先生の言葉が、理の面影と重なり合い、ネネの心に深く沁み込んでいく。
「……っ……うぁ……ぁ……っ」
先生の温もりに包まれた瞬間、ネネは先生の服の胸元をぎゅっと掴み、子供のように声を上げて泣きじゃくった。
理によく似た面影を持つ大人の腕の中で、彼女は初めて、旅立ちのあの日流せなかった涙を、心ゆくまで流していく。
「先生……わたしっ……忘れられないよ…」
“忘れる必要なんてないよ”
「ちがうんですっ……わたしは…っ!」
ネネは先生の胸に顔をうずめたまま、しゃくりあげる声で叫んだ。
「理の死を受け入れたつもりだった……前を向いて生きなきゃって、自分に言い聞かせてた……!」
結城理は、ニュクスを封印するために、その命を使い果たした。
仲間との約束を守るために生き、本来なら終わるはずの命を長らえてまで、約束を果たした。
本来なら、その尊い魂を胸に、前を向いて生きるべきだと思っていた。
だけど、本当は。
「でも、本当は……ずっと立ち止まったままなんですっ! あの日から……桜の舞うあの屋上から、私は一歩も動けてない……っ!!」
どんなに笑って過ごしていても。
どれだけ新しい仲間ができて日常を送っていても。
ふとした瞬間に思い出すのは、腕の中で冷たくなっていった「彼」の温もり。
前を向いて歩いているふりをしていただけで、心はずっとあの春に取り残されたままだったのだ。
「そんなの……っ、理にも、みんなにも……風紀委員会の仲間にも顔向けできないのに……っ! 前を向けない私が、生き残ってるなんて……っ!!」
自分を責め続けるネネ。
そんな彼女を、先生はさらに強く、けれど優しく抱きしめ直した。
“立ち止まっていたって、いいんだよ”
「え……?」
“無理に前なんて向かなくていい。急いで歩き出さなくたっていいんだ”
先生の手が、ネネの背中を静かにトントンと叩く。
“大切な人を失って、傷ついて、立ち止まってしまうのはね……それだけネネが、彼のことを深く愛していた証拠なんだから”
「先生……っ」
“前を向けない自分を責めないで。あの日から動けなくなっていたなら、ここからまた、ゆっくり始めればいい。私も一緒に立ち止まるから。ネネが歩き出せるようになるまで、何度だってここに付き合うよ”
「……っ……ぁ……」
誰も否定しなかった。
前を向けないことすらも、先生は優しく許してくれた。
泣いていい。立ち止まっていい。歩き出せなくてもいい。
大人にすべてを委ねることを許された瞬間、ネネの心に固くかけられていた鍵が、カタリと音を立てて外れた。
「うあああぁぁぁん……っ! 理……っ! 理ぉっ……!!」
あの日、約束の屋上で流せなかった叫び。
残された仲間たちに心配をかけちゃいけないから、と必死に堪え、蓋をしてきた幼い悲鳴。
ネネは先生の胸元にすがって、枯れるほどに彼の名前を呼び、子供のように声を限りに泣き続けた。
夕空はいつしか深い群青へと溶け込み、キヴォトスの夜空に星が瞬き始める。
どれほどの時間が過ぎただろう。
声を枯らし、涙を流し尽くしたネネは、先生の胸の中で静かに息を整えていた。
「……すいません。先生の服、台無しにしちゃいました……」
目元を真っ赤に腫らしたネネが、掠れた声でぽつりと言う。
“気にしないで。生徒の涙を受け止めるのも、先生の仕事だからね”
先生が微笑みながらポケットからハンカチを取り出し、ネネの目元を優しく拭う。
ネネはその温かさに目を細め、小さく「ありがとうございます」と呟いた。
夜風がふたりを吹き抜ける。
胸の奥の重荷が少しだけ軽くなったような気がした。
立ち止まったままでもいい。そう言ってもらえたことで、皮肉にもネネの足元には、ほんのわずかな「明日へ向かう力」が芽生え始めていた。
……そして、あの事を話す勇気も、ほんの少しだけ。
「……先生」
“ん?”
「私……やっぱり、あの約束は守れないかもしれません」
ネネは自分の胸元……制服の下に隠された召喚器の感触を確かめるように、そっと手を当てた。
「もしキヴォトスでシャドウが現れたら。誰かの命が危険に晒されたら……私は、きっとまた銃を執ります。命を懸けて、戦っちゃうと思います」
それは譲れない、雨塚ネネという少女の誓いだった。
だが、今のネネの瞳は、これまでとは違う。
ただ、理の陰を、あるいは巖戸台の仲間たちを追って、自暴自棄になっていた頃とは違う。
「でも……」
ネネは先生の顔を真っ直ぐに見つめる。
真っ赤な目をしながらも、小さな、だが憑き物が落ちたような柔らかな笑顔を浮かべた。
「……死ぬために戦うのは、もうやめます」
“……”
「生きて帰るために戦います。……理が私にくれた命を、今度は私が守るために。……先生や、ヒナ委員長たちが待っている場所に、ちゃんと帰ってくるために」
先生は、しばらくの間ネネの顔を見つめていたが、やがて満足そうに目を細めると、その頭をぽんぽんと乱暴になで回した。
“よし。満点だね、ネネ”
「ひゃいっ!? ちょっと先生、髪がぐちゃぐちゃに……!」
“風紀委員会に怒られたら、ちゃんと一緒に謝りに行ってあげるから。……いつでも頼ってね”
「ふふっ……はい!」
夜の帳が下りたシャーレの屋上。
遠くで見えるキヴォトスの街明かりが、まるで祝福するように輝いていた。
傷はすぐに消えないし、消す必要もない。
大切な人の記憶を抱えたまま、ネネは新たな一歩を踏み出そうとしていた。
帰ってきた世界で、今度こそ―――生きるために。
ちなみにネネが理に助けを求めたシーン、ゲームでは
ネネ「うぅ……理、助けてよぉ…」
理「 仕方ない
少しずつ慣れていこう
>どうでもいい」
みたいな感じで選択肢出ると思う。そんで、もし一番下を選んだら、
ネネ「どうでもよくあるかー!!!」
的な感じで、ぽがーって効果音出るくらいコミカルに怒ると思う。
ネネのCV(願望)
-
羊宮妃那
-
ブリドカットセーラ恵美
-
水野朔
-
悠木碧
-
竹達彩奈
-
下地紫野
-
洲崎綾
-
泊明日菜
-
小岩井ことり
-
小山内怜央
-
その他(感想にて…)