ここだけ命の答えに辿り着いた少年に脳を焼かれたゲヘナ生がいる世界線   作:伝説の超三毛猫

18 / 19
キタローの「どうでもいい」からのネネの「どうでもよくあるかー!」が褒められて嬉しかった。
多分ですが、ネネの台詞で一番有名になるのって多分「どうでもよくない!」だと思います。
キタローの「どうでもいい」のツッコミとして流行ってほしいなぁって…どうだろう?



今回は続けるか分からんけど伏線回です。


新しい■■■

 目が覚めたら、そこはゲヘナ風紀委員会にありそうな、殺風景な作戦室だった。

 四方はコンクリートと鉄フレームで囲まれており、窓から見える光景は静まり返った夜だ。

 どうにも、違和感がぬぐえない。

 

 一番最初に前に見えたのは、壁に取り付けられたようなモニター。そして、その周りを、無数の監視カメラ映像が囲っている。

 モニターには様々なものが映っている。戦況マップに、ゲヘナ学園やキヴォトス各地のリアルタイムと思われる映像。それに……

 

「これは……バイタル?」

 

 画面の端に羅列された波形には、『HINA』『AKO』『CHINATSU』『IORI』をはじめとした、聞き馴染みのある名前がずらりと並び、その全てが一定の心脈を刻んで正常に起動している。……よくよく見れば、風紀委員会の仲間たちであったり、一度でも関わったことのある人々の名前だ。ただ、先生のは『SENSEI』って書いてあったけど。先生はTEACHERじゃないの?

 

 更に目の前のデスクには、ホログラムで地図が展開されていた。地名からして、キヴォトスの地図だろう。

 

 それに加えておかしい事に、戦況マップにも、ホログラムの地図にも、モニターにも誰も映らないことだ。

 普通、誰かしら映っているはずだ。賑わうお店に集まる生徒、たむろう不良、風紀委員会の仲間、一般市民のロボットや犬、猫………それらが一切途絶え、まるで世界から自分以外の命が消え失せてしまったかのような静寂が画面の向こうに広がっている。

 

 そして――極めつけは、空間の隅で見つけた一枚の「青い扉」だった。

重厚なスチール壁の毛色とは明らかに異なる、どこか気品すら感じさせる青色の木製扉。だがそのドアノブには極太の鋼鉄の鎖が幾重にも巻き付けられ、厳重な南京錠で固く閉ざされている。

 鍵穴すらないその扉は、どれだけ力を込めようと絶対に開かないだろう。

 

「…………何この部屋」

 

 言葉が静かな作戦室にぽつりと落ちる。

 その時だった。

 

「――ほう。ようやくお着きになったようだ。この、前線作戦司令部へ」

 

 不意に聞こえた奇妙に甲高い声に、肩が跳ね上がった。

 咄嗟に腰の銃へ手を伸ばしながら振り返ると――デスクの奥、暗がりに置かれた車椅子のような革張りの椅子に、一人の老人が腰掛けていた。

 

 その見た目は……モニター達の光の陰と、窓から差し込んでくる夜の闇に隠れて、よく見えない。

 かろうじてシルエットは少しだけ見える。なんか……鳥のくちばしみたいにとんがっている部分が見える。

 老人と判断したのも、聞こえてきた声が、もっともそれに近いと直感的に感じたからだ。

 

「誰ですか!?」

 

「驚かせてしまい申し訳ございません。どうかその銃から手を放していただけますか」

 

 老人の声は、宥めるようにそう言ってくる。

 少し不気味だ。なぜここにいるのかも、何が目的かもわからない。けれど、少なくとも人を食っているような態度ではないと本能的に察した。

 ゆっくりと、ホルスターから手を遠ざけていく。

 

「………失礼しました。私は雨塚ネネといいます」

 

「存じております。あ(・)る(・)方(・)から、貴女のことをお聞きしましたもので………ですが、あのお客様が去った後、貴女も消えてしまわれたために、こうしてお招きするのに時間がかかってしまった」

 

 老人らしきシルエットが少し動いた。

 それはなんとなく、謝罪のために頭を下げたように見えた。

 

「そもそも、ここはどこなんです?」

 

「そうですね……説明するならば、『貴女自身が築き上げた場所』とでも申し上げるべきでしょうか」

 

「……私が?」

 

 思わず、室内を見回す。

 無機質なコンクリート。

 無数のモニター。

 戦況を映し出す地図。

 仲間たちの生体情報。

 そして、固く閉ざされた青い扉。

 

 どれもこれも、私の趣味とは到底思えない。

 

「私、こんな部屋を作った覚えなんてありませんけど」

 

「ええ。『作った』という自覚はないでしょうとも」

 

 老人は、くすりと笑った―――気がした。

 

「ここは貴女の記憶、経験、願望、恐怖……そういったものが複雑に絡み合い、ひとつの形となった場所。言い換えれば――貴女の心の一部、とでも考えていただければよろしいかと」

 

 その言葉を聞いた瞬間。

 私は、もう一度だけ部屋を見回した。

 不思議と、先ほどまで感じていた違和感が少しずつ消えていく。

 ここにあるものには、どこか見覚えがある。

 

 戦況マップ。

 監視カメラ。

 仲間のバイタル。

 いつ、どこで敵が現れても対応できるようにするための情報。

 それは、戦場に立つ人間が必要とするものだ。

 

 いや。

 もっと正確に言えば。

 ――命のやり取りから離れることができなくなった人間が、必要とするもの。

 

「じゃあ、この部屋は……」

 

 もう一度周囲を見回す。

 誰もいない世界。

 

 けれど、モニターの中には確かに仲間たちがいる。

 

 ヒナ委員長。

 イオリ。

 アコ先輩。

 チナツ。

 チアキ。

 イブキ。

 私が出会い、名前を知った多くの生徒。

 そして―――先生。

 

 その全員が、今も生きている。

 

「……私が、みんなを守ろうとしてるってことですか?」

 

「それも、ひとつの解釈でしょう」

 

「ひとつ?」

 

「心というものは、地図のように単純なものではございませんので」

 

 老人はそう言うと、その影が正面の巨大なモニターを指さした。

 何かの合図であるかのように、映像が切り替わった。皆のバイタルだ。

 

「貴女はここで、皆様の状態を確認している」

 

 画面に映る無数の名前。

 

「誰かが傷つけば、すぐに駆けつける」

 

 戦況マップの赤い警告表示。

 

「危険が迫れば、銃を取る」

 

 そして。

 

「誰かが死なないように――常に備えている」

 

「…………」

 

 何も、答えなかった。

 答えられなかった。

 代わりに、視線を落とす。

 それは―――否定できない。

 キヴォトスに来てからも、自分はずっとそうだった。

 

 風紀委員として。仲間として。そして、あの世界で戦った者として。

 何かが起きた時、自分が動かなければならない。

 自分が気付かなければならない。

 自分が守らなければならない。

 

 だって……シャドウと戦える人間は………キヴォトス全土を探し回っても、私ひとりしかいないだろうから。

 

 そう思っていた。

 

「―――でも……ここ、変じゃないですか?」

 

「ほう?」

 

「こんなにモニターがあるのに……誰も映ってない」

 

 画面を指差す。

 ここに来てから、私が気になったことだ。

 

「キヴォトスなら、どこを映したって誰かしらいるはずです。学校だって、街だって、お店だって……」

 

 それなのに。

 この世界には、自分以外の人間が存在していない。

 静かだった。――静かすぎる。異様なほどに。

 一生懸命、言葉を探した。

 

「まるで……」

 

 私以外の人間が消えた、異様な世界。

 何かも分からない、ほんの少しの恐怖と、不気味さがせめぎ合う中、出した言葉は。

 

 

 

「……私が、『誰もいないところで戦ってる』みたいじゃないですか」

 

「…………」

 

 老人は答えなかった。

 ただ、ほんの少し。

 ほんの少しだけ……だけ口元を緩めたように見えた。

 

「その感覚は、覚えておかれるとよいでしょう」

 

「え?」

 

「この場所にいるものは、貴女が必要としているものです。そして同時に――貴女が恐れているものでもある。貴女は以前とは異なる場所におりますからな……そこには、以前とは異なる形で“影”が現れることもあるでしょう」

 

 私が必要としているもの。それでいて、私が恐れているもの?

 その老人の言葉を受けて、それを咀嚼しようとした。

 それでも、私の中からこれ、といったものが出てくる感覚は一切なかった。

 

「……よく分かりません」

 

「今は、それでよろしいでしょう」

 

 老人はそう言った。

 そして、その影が再び室内を見渡すかのように動いた。

 

「しかし……以前に比べれば、ずいぶんと片付いておりますな」

 

「……以前?」

 

「ええ」

 

 まるで、前からこの部屋があったかのような言い方。

 だけどそれは、私には納得ができなかった。

 以前より、というも何も……

 

「私がここに来るの、初めてなんですけど」

 

「貴女にとっては、そうでしょう」

 

 淡々と答える老人の声がする。

 

「ですが、この場所そのものは……貴女が長い時間をかけて築き上げてきたもの。以前はもっと混沌としておりました」

 

「…………」

 

「足の踏み場もないほど散らかり、いくつもの資料や作戦書が無秩序に積み上げられ、どこを見ても過(・)去(・)ばかりが映し出されていた」

 

 少しずつ頬がこわばり、心が冷えていく感覚がした。

 

「……過去」

 

「ええ」

 

「それって……」

 

 

 過去。

 そう言われて思い当たるものなんて、ひとつしかない。

 右も左も分からないまま、月光館に来たこと。

 恐怖と戦いながら、タルタロスでシャドウと戦ってきたこと。

 そして……荒垣先輩を、理を……看取ってきたこと。

 

 

「今の貴女は、少しずつ整理できるようになっているのでしょう」

 

 老人の声は穏やかだった。

 

「新しい仲間を得た。新しい居場所を得た。そして……自分自身の過去と向き合い始めた」

 

「…………そう、でしょうか……?」

 

「だからこそ、この場所もまた、以前よりは静かになった」

 

 そう言われてからは何も言わず、モニターを見つめた。

 

 ―――確かに。

 ここは不気味な場所だ。

 けれど、どこか以前よりも整っているような気がする。

 少なくとも、自分が今まで胸の奥に押し込めてきたものが、身勝手に暴れ回っているような感覚はない。

 

「……じゃあ」

 

 私は、部屋の隅にある青い扉を見る。

 

 がんじがらめになった鎖。

 トドメと言わんばかりに閉ざされた南京錠。

 鍵穴すらなく、どう見ても絶対に開かない扉。

 

「……あれは?」

 

「…………」

 

 影はしばらく沈黙した。

 

「貴女が、まだ触れるべきではないと判断しているものです」

 

「まだ…触れるべきじゃない?」

 

「はい」

 

「……あの先には何があるんですか?」

 

「それを知るのは、貴女自身でしょう」

 

「いや、私が知らないから聞いてるんですけど……」

 

 思わずツッコむと、影は楽しそうに笑った。

 

「ふふ……なるほど。そういうところは以前から変わっておられないようですな」

 

「以前って……」

 

 知ったような口を利く。

 さっき会ったばっかりじゃないのか?

 だけど、再び扉へ目を向けると。

 

 なぜか胸の奥がざわついた。

 

 開けたい。

 そう思った。

 けれど同時に。

 

 ――開けてはいけない。

 

 そんな感覚もあった。

 

「……まぁ、今は、いいです」

 

「ほう」

 

「なんとなく……まだ、開けない方がいい気がするので」

 

「それでよろしいでしょう」

 

 影は満足そうに頷いた。

 

「ここは貴女の心です。扉を開けるのも、閉じておくのも、決めるのは貴女自身」

 

「…………心」

 

 その言葉を、小さく反芻した。

 自分の心…………そう言われても、まだ全然実感は湧かない。

 ただ…………この部屋にあるものを一つ一つ眺めていると、自分でも気付かなかった何かが、少しだけ見えてくるような気がした。それが、何て言うのか…なんて表せばいいのかは、分からないけど。

 

「……それで」

 

 ネネは老人へ向き直る。

 

「私は、どうしてここに呼ばれたんですか?」

 

「それをお尋ねになるということは――」

 

 老人は椅子からゆっくりと立ち上がった。

 

「貴女もまた、これから何かを選ばなければならない時が来た、ということでしょう」

 

「選ぶ……?」

 

「ええ」

 

 老人の背後で、モニターの光が明滅する。

 そこに映し出されているのは、キヴォトスの街。

 風紀委員会。シャーレ。そして――私がこれまで関わってきた、数多くの人々。

 

「貴女はこれまで、戦うことで多くのものを守ってきた」

 

「…………」

 

「しかし、これから先も同じ方法で守り続けられるとは限りません」

 

「…………」

 

「そして何より――」

 

 影の動きは、やはり大体しかわからない。

 けれど、静かに見つめてきているのが分かった。

 

「貴女自身が、何を望んでいるのか。それを考える必要がある」

 

 何を、望んでいる……?

 すぐには答えが出ない。

 当たり前だ、話が漠然としていて、要領を得ない。

 けれど、だからこそ……思ったことがある。

 

 ――私は、本当は何を望んでいるんだろう。

 

 誰かを守ること?

 皆と一緒にいること?

 この世界で生きること?

 それとも――。

 

「……わかんないです。難しいですね」

 

「ええ。だからこそ、ここへお招きしたのです」

 

 影はそう言って、静かに頭を下げた。

 

「ここは、貴女が自らの心と向き合うための場所。迷った時、立ち止まった時、あるいは自分自身を見失いそうになった時――いつでも訪れることになるでしょう」

 

「……いつでも?」

 

「ええ」

 

 その声が響いた瞬間。

 モニターの光が一斉に消えた。

 

「―――っ!?」

 

 一寸の光もない、真っ暗な闇。

 次の瞬間、目の前にあったはずの作戦室が、ゆっくりと遠ざかっていく。

 思わず手を伸ばした。

 

「待って! まだ聞きたいことが――」

 

「また、お会いすることになるでしょう」

 

 老人の声だけが、暗闇の中に残った。

 

「この部屋が、本格的に動き出す時が来るでしょう。

 私どもの紹介は、またその時にさせてください。

 その時までに……どうか、ご自身の心を大切になさいますよう」

 

「…………」

 

 最後に見えたのは。

 暗闇の中に浮かぶ、あの青い扉だった。

 幾重にも巻かれた鎖。

 固く閉ざされた扉。

 そして、その向こうに何があるのかを――。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

「―――ふぁ?」

 

 目が覚めたら、そこは見慣れた自分の部屋だった。

 まだ温かい布団の中から、天井を見上げていた。

 

 ………なにか、不思議な夢を見た気がする。

 けれど……どんな夢か思い出せない。

 ただ、胸の奥に――なんだか、とても冷たいような、それなのに妙に温かいような、奇妙な名残だけがぽつんと残されていた。

 

「夢…か」

 

 誰もいない静かな部屋で呟く。

 けれど、それはただの悪夢ではなかったような気もするのだ。

 

「……ふう」

 

 大きく息を吐き出すと、パジャマから制服へと着替えるためにベッドから足を下ろした。

 窓の外を見上げれば、すっかり朝日が昇り、キヴォトスの空はどこまでも青く、穏やかに広がっている。

 

 柴関ラーメンの温かいスープ。

 ホシノ先輩にもらった優しい言葉。

 そして、先生が教えてくれた「立ち止まってもいい」という許し。

 

 もう、一人で何もかもを背負い込む必要なんてない。

 そう思えたからだろうか。……不思議と、今の足取りが、あの日々よりもずっと軽くなった気がした。

 

「……行かなきゃ。今日も仕事だ」

 

 銃を背負い、制服のボタンをしっかりと留める。

 いつかまた、あの謎の夢を見る時が来るだろうか。

 もしまたあの夢を見る日が来たなら、その時はもっと夢の内容を覚えるようにしよう。

 

 ガチャン、と自室のドアを開け、私は光の差す外へと踏み出した。

 




はい。
もう察しがついたかな。
とはいえ、本格的な始動は最終章後に開放される『ペルソナ編』からになるけども(存在しない記憶)

ネネのCV(願望)

  • 羊宮妃那
  • ブリドカットセーラ恵美
  • 水野朔
  • 悠木碧
  • 竹達彩奈
  • 下地紫野
  • 洲崎綾
  • 泊明日菜
  • 小岩井ことり
  • 小山内怜央
  • その他(感想にて…)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。