ここだけ命の答えに辿り着いた少年に脳を焼かれたゲヘナ生がいる世界線 作:伝説の超三毛猫
コロマルと耐性やらなんやらがかぶっていたので……
こんなんだから見切り発車なんだよぉ!!!
アイアコス
外見:ギリシャ神話における冥府の裁判官。天秤と一体化したかのような鎧と巨大なバスタードソードが特徴。
耐性:呪怨・火炎軽減、祝福・氷結弱点→【修正】呪怨・念動軽減、祝福・核熱弱点
覚える技:エイハ、アギ→【修正】サイ、スラッシュ…etc.
備考:キタローとのコミュによって進化していたが、彼がおらず封印されている現在は、その力「???」に変化させることができない。
私は、私が嫌いだ。
こんなことを言うと、誰もがぎょっとするから、絶対に言わないけれど。
私は、私が嫌いだ。
キヴォトスにいた頃は、こんなこと考えてなかった。
いつもの暴動。いつもの任務。いつもの銃撃戦。いつもの事後処理。
にぎやかで、面倒くさくて、めちゃくちゃ忙しいけれど……それでもお気楽な日常。
それに埋もれていたから。
タルタロスに来てからは、そんなお気楽気分は吹き飛んだ。
たとえば、月命館学園に来たばかりの頃に、これまでのキヴォトスでの戦闘感覚で戦って、シャドウの反撃を受けて、傷を負って、怖くて、動けなくなったこともあった。
相手を侮っていたのは、私が悪かったから。
倒す必要の或る敵を拘束して、反撃を背中に受けたのも、私が悪かったから。
キヴォトスでは味わわなかった激痛に負けたのも、私のせい。
そのあと、恐怖に負けて、生きるための思考を放棄してしまったのも、私が悪い。
だけど―――あの時。彼は……理は、そんな私を守ってくれた。
私の前に立って。
己の頭に銃を突き付けて。
私に襲ってくるはずだった攻撃を受けて。
私のために、命をかけて戦ってくれた。
嬉しかった。自分が受けた傷を魔法で直しながら、「大丈夫?」と優しそうに聞いてくれた彼が。
それなのに。
その笑顔を受けて―――「私のためにごめん」よりも先に、「助かった」と安心した自分が。
私は、嫌いだ。
10月のあの日。
私は、私にとっても、皆にとっても大切な人を失った。
彼は、最初は怖い人に見えたけど……実はとっても優しい人で、私に料理を教えてくれた。
そんな彼が亡くなった時は、天田くんの次くらいに泣いていたと思うし、殺されたと知った時は、許せなかった。
けれど……その数か月後、最後の戦いでその仇だったタカヤを倒した時に、真っ先に彼を痛めつけながら殺すことを考えてしまった私が。
『動けない私に、できることなどない。さぁ…殺しなさい。』
『そう簡単に死ねると思うなよ…まずその目を―――』
『待ってください、ネネさん』
『! アイギス…?』
私は、嫌いだ。
3月の約束の日。
私は、仲間たちと一緒に約束の屋上へ急いだ。
だけど……辿り着いたその時には。
もう―――理は息を引き取っていた。
アイギスの膝の上に頭を乗せて。
桜の雨が降りしきる中。
まるでお昼寝でもしているかのように。
私の愛した人は、私を残して逝ってしまった。
その事実を受け入れられなくて、悲しくって、胸が張り裂けそうで。涙が止まらなくって。
そうして、繰り返し袖で止まらない涙を拭っていると。
ようやく見えた視界で、皆が驚いたような顔をして。
「おい雨塚、お前それは―――」
真田先輩が何かを言う前に、私の視界は、月命館の屋上から、薄汚い路地裏に変わっていた。
久しぶりで………でも、もう二度と見ることはないかもと覚悟しかけていた場所。
ゲヘナ学園のいち路地裏であると気付いたのは、かつて私がよく来ていた制服の後輩たちと、久しぶりに見た、知り合いの顔―――イオリの、安心したような顔だった。
けれど。
それを見たことで、信じたくない疑惑は、確信に変わった。
『何だよそれ……ふざけるなっ!まだ…まだ誰にも、何も言えてないのにっ!なんで…なんでっ!!!』
もう帰るのをあきらめていたのに。
それくらい、温かい仲間たちだったのに。
まだ、理を失ったことを受け止められないのに。
彼に「大好きでした」とも言えていないのに。
彼に別れを告げられていないのに。
仲間たちにだって、さよならの一言も言えていないのに。
理不尽にも、故郷へ戻されたことへの怒りが、真っ先に出てきた。
それより先に、口から出るべき感情があるはずなのに。
―――故郷へ帰ってきた安堵はどうした。
心配してくれたヒナ委員長に、アコ先輩に、イオリに、チナツに、そして風紀委員の仲間たちに―――またこうして出会えたことへの純粋な喜びは、一体どこへ行った。
もとを正せば、私はこのキヴォトスで生まれ育ち、風紀委員として生きてきたはずなのに。
風紀委員会の仲間なんかよりも、S.E.E.S.のみんなに会いたいと、強く願ってしまった。
月命館学園に飛ばされてきたばかりの頃は違った。
風紀委員会のみんなに会いたいと願って泣いて、理や順平を困らせてきたし、ゆかりとは喧嘩もした。
それなのに、今となっては、風紀委員会での日常なんてどうでもいいから、月光館学園に………理のいた場所に、今すぐ戻りたいとさえ思っているのだ。
そんな、どこまでも都合がよくて、薄情な私が。
―――私は、嫌いだ。
◆◆◆◆◆
「1週間も行方不明だって聞いたから不安だったよ~!」
「う、うん。心配かけたわね」
元宮チアキ。
万魔殿の書記を務める彼女は、イオリと並んで、私と付き合いの深い人間の一人だ。
……というか、チアキについては、彼女の方から私に話しかけてきてできた関係なんだけどね。
「週刊万魔殿」を書いていて、いつでも新聞のネタを探し回っているからか、色んな人に話しかけては友達をたくさん作っているんだとか。
そんな、抜群のコミュニケーション能力の塊だからか、堅物揃いの風紀委員会の中にも、「チアキとは意外と気が合う」とか「この前チアキと新しいスイーツを食べに行った」という人が結構いる。かつての私もそうだった。
チアキはいつも通り、裏表のない明るい笑顔で、私の手を取ってぶんぶんと振った。
「ほんとだよー。風紀委員会の仕事が過酷すぎて、ついにネネちゃんが蒸発しちゃったんじゃないかって、万魔殿でも噂になってたんだから」
「蒸発って……」
「だってゲヘナだよ?」
チアキは当然のように言った。
「その治安維持組織のメンバーがいなくなったんだから、不良たちは好き放題言ってたよねー」
「は?…た、例えば?」
「美食研究会に拉致された説でしょー、温泉開発部の爆破事故に巻き込まれた説でしょー、ブラックマーケットに売られた説に……あ、あと実はヒナちゃんに秘密裏に処分された説!!」
「最後のやつはアコ先輩に聞かれたら本気で怒られるから絶対に紙面に載せちゃダメだからやめなさい」
「えへへ」
「はは…本当に、相変わらずなんだから」
困ったように苦笑いしてみせる。
そう、困ったような顔。
以前の私なら、きっと本気で冷や汗をかきながらチアキを止めていただろうな、と思う。けれど今の私は、自分のことがネタにされたら困る、ということを、どこか他人事のように冷静に考え、チアキに思いとどまるように頼むことができていた。
そんな私の内面の乖離など露知らず、チアキは「冗談冗談!」とケラケラ笑った。
チアキは何も変わっていなかった。
相変わらず明るくて。
相変わらず騒がしくて。
相変わらず人の懐へ飛び込むのが上手い。
…そりゃそうか。
一週間。キヴォトスではたったそれだけしか経っていない。
けれど私にとっては違った。
一年近く。
いや、それ以上にも感じられる時間を過ごした。
だからだろうか。
こうして目の前で笑っているチアキが―――どこか、何年も前に別れたきりの、遠い昔の懐かしい人のように見えてしまったのは。
この、どこまでも軽薄で、平和で、誰も本当の意味では傷つかないゲヘナの空気。
つい数ヶ月前まで、世界全体の命運を賭けて、死の象徴たる存在と命を削り合っていたことなんて、まるで悪い夢だったんじゃないかと思えてくる。
「でもさ」
「?」
チアキがふと笑うのをやめ、小首を傾げた。
「ネネちゃん、なんか雰囲気変わったよね」
不意に投げかけられた、鋭い一言。
「……そう、かな? 自分じゃよくわからないけれど」
「そうだよ、絶対変わった」
チアキは即答した。背筋が冷たくなった気がした。
「前はもっと、私の冗談一つでオロオロ、ビクビクして、小動物みたいで可愛かったもん」
「失礼ね。これでも風紀委員のはしくれよ」
「あはは、褒めてるんだってば。なんていうかさ……」
チアキは少しだけ真面目な、大人のような眼差しになって私をじっと見つめた。
「今のネネちゃんって………目が、ずっと遠くの、ここじゃないどこかを見てる感じがする」
ドクン、と心臓が大きく揺れた。
その動揺が……今、私の顔に出ていないだろうか。眉は跳ねていない? 瞳孔は開いていない?
この時ばかりは、自分の表情を客観的に確認できる鏡が欲しかった。ポーカーフェイスを完璧に維持できている確証を持てない自分が、ひどく恨めしい。
「ネネちゃんってさ。…行方不明の間って何してたの?」
ネネは初めて、全身が固まるという感覚を味わった。
一週間でまとめるには壮大で、複雑で……しかも、尊い旅だったから。
タルタロスのこと。
午前零時に訪れる、隠された世界…影時間のこと。
特別課外活動部(S.E.E.S.)の仲間たちと過ごした、かけがえのない日々のこと。
理との出会いから、静かに積み重ねていった確かな軌跡。
世界の終焉であるニュクスとの、絶望的な闘い。
人を知るため、約束を交わすための、アイギスとの穏やかな語らい。
不器用な荒垣先輩が、私のために作って、教えてくれた料理の味。
順平やゆかりとぶつかり合いながら育んだ、本物の友情。
チアキの質問を引き金にして、思いつく限りの眩しい出来事が、走馬灯のように脳裏を駆け巡る。胸が締め付けられるように痛い。
だけど、それをこの世界の住人に伝える術なんて、どこにもなかった。
だから―――
「……内緒」
―――そう答えるしかない。
だって、あの出来事は、誰かに話すには、現実性が無さすぎる。…たとえ、私自身が真実だと確信していても、他人にしてみればただの頭の狂った少女の妄想に過ぎないのだから。
私の予想に反して、チアキは「そっか」と答えて以降、なにも聞かなかった。
それからは、しばらく沈黙が続いた。一度チアキがジュースを買いに席を立ったが、それ以外は静かなものだった。
チアキが買ってきた紙パックとお金を交換し、二人がジュースを吸う音だけが流れる、静かな時間がやや続いた。
――その平穏を破ったのは、唐突だった。
「ふはははは! 何だチアキ、そんなところで風紀委員会の小娘と油を売っているのか!」
廊下の向こうから、やたらと耳につく高笑いと、仰々しい足音が近づいてきた。
長い銀髪をなびかせ、いかにも「偉い人」然とした大柄な態度で歩いてくる少女。その後ろには、大きなペロロ様のぬいぐるみを大事そうに抱えた金髪の少女――丹花イブキが、ちょこちょことついて歩いている。
ゲヘナ学園生徒会、
羽沼マコト。
「あ、議長! お疲れ様でーす」
チアキが緊張感のない声で手を挙げると、マコトはふんぞり返りながら私たちの前で足を止めた。そして、ポケットに手を突っ込んだまま、私の方をジロリと見下ろしてくる。
「……ふん。お前が噂の、一週間も無断欠勤していたという風紀委員か。空崎ヒナの奴、部下の管理もまともにできないとは、やはりあいつは委員長の器ではないな! 議長であるこの私が、代わりにたっぷりとお説教をしてやってもいいのだぞ!」
マコトはいつものように、ヒナ委員長の名前を出して勝ち誇ったような顔をしている。
風紀委員を洗脳してスパイに仕立て上げるような狡猾な悪党――では、決してない。ただただ自分の欲望に忠実で、思いつきで行動する、いつものゲヘナの権力者。
ゲヘナのトップであり、ヒナ委員長を目の敵にしている張本人が、目の前でアホそうに胸を張っている。
その滑稽な姿を見つめながら、私の胸を焦がしたのは、アコ先輩への申し訳なさでも、マコトへの怒りでもなかった。
(……あぁ、違う)
喉の奥まで出かかった、血を吐くようなその叫びを、私は奥歯を噛み締めて必死に飲み込んだ。
違う。違うんだ。
私の心にこれほど深い思い出を刻みこんだのは。
今でも夜中に飛び起きるほど強く私を縛り付けている「マコト」は。
こんな、他人の悪口を言って、器の小さな優越感に浸って喜んでいるような薄っぺらな女なんかじゃない。
もっとぶっきらぼうで、不器用で。
いつもお気に入りのヘッドホンを首にかけて、気だるそうに、でもどこか愛おしそうに青い空を見上げていて。
だけど、誰よりも傷つきやすくて優しくて、最後の最期まで、世界を、みんなを守るために命を使い果たして微笑んだ――大切な
「おい、聞いてるのか風紀委員! 議長たる私が話しているのだぞ!」
「……っ、あ。すみません、羽沼議長。少々、考え事をしておりまして」
ハッと我に返り、私は慌てて頭を下げた。
マコトは「ふん、私の威厳に気圧されたか」と満足そうに鼻を鳴らしている。
「マコトせんぱい、お説教はだめだよー? この人、病み上がりなんだってチアキちゃんが言ってたもん」
後ろからマコトの服の裾を引っ張るのが見えた。
そこからひょっこりと顔を出したのは……万魔殿のマスコット・イブキ。
彼女の言葉にマコトは一瞬で顔を綻ばせ、「む、イブキがそう言うなら今回は不問にしてやろう!」などと言って態度を一変させた。本当に、分かりやすい人だ。
「チアキ、これから議会で緊急の予算会議がある。遅れるな、早く来い」
「おぉ、イブキちゃんとマコト議長が直々に迎えに来てくれるとは光栄です!」
そんなことを言いながら、チアキは席を立ちあがった。
「じゃあね、ネネちゃん!」
「うむ、空崎ヒナによろしく言っておけ!」
「またねー!今度は新聞のネタ提供よろしくー!」
チアキはいつも通りに手を振って、マコトたちの後ろを歩き出す。けれど、数歩進んだところで、チアキはふと足を止め、振り返った。
「……ネネちゃん」
「なに?」
私が不思議に思って小首を傾げると、チアキはいつものおちゃらけた雰囲気を完全に消し去り、真面目な記者としての目線で私を見つめていたが。
――それは本当に、瞬き一つの間の出来事で。
チアキは唇を動かしかけたが、その言葉を、喉の奥へとごくりと飲み込んだように見えた。そして、すぐにいつもの悪戯っぽい、愛され上手な笑顔に塗り替えた。
「ううん、何でもない! ちゃんとご飯食べるんだよー!」
今度こそ、チアキは万魔殿の賑やかで騒がしい喧騒の中へと戻っていった。
遠ざかっていく三人の背中を見送りながら、私は張り詰めていた肺の空気を、小さく、静かに吐き出す。
チアキのあの最後の視線――彼女は、確実に私の何かに気づき、そして、あえて踏み込まないでいてくれたのだ。
その気遣いがありがたいと思う反面、それについて深く思考を巡らせる気力さえ、今の私の摩耗した心には残されていなかった。
手元に残ったジュースのパックを見つめながら、私はただ、この世界で一生共有されることのない『マコト』という響きを、静かに胸の奥へ仕舞い込むことしかできなかった。
ネ ネ「キヴォトスのユカリやミツルさんに出会う度にこんな気持ちにならないといけないのか…さすがに、ジュンペイやアキヒコやコロマルはいないと思うけど」
ユカリ「み、身共はなにかしてしまいましたか!!?」
ネ ネ「え?」
ユカリ「え?」
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