ここだけ命の答えに辿り着いた少年に脳を焼かれたゲヘナ生がいる世界線   作:伝説の超三毛猫

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雨塚ネネの誕生日ボイス
「え……誕生日?……ありがとう、ございます。先生に祝っていただけるなら………これまでの私の悲しみも、少しだけ、癒える気がします。今日は……一緒にいても、いいですか…?」

ヒント:この世界線の先生はめっちゃキタローに似てる。青髪メカクレでCVは石○彰。ただし月光館学園出身ではない。


思い出の味

 海色の髪の少女が原稿用紙を数枚、手に持って委員長席へと赴く。

 淀みなくそれをそこに座っている小さな少女―――空崎ヒナに提出すると、ヒナは、提出した主―――雨塚ネネを、複雑そうな顔で見上げた。

 

「…………本当に良かったの? あなたは書かなくていいって言ったのに」

 

「いいえ。私にもあの出来事の責任はあったんです」

 

 原稿用紙を流すように目で追うヒナ。

 

「『止められなかった自分にも責任はある』……そうかもしれないけど、平委員のあなたじゃアコに意見は出来ないでしょう。不可抗力だと思うのだけれど」

 

 ネネが原稿用紙―――反省文を書いたのは、ネネ自身が希望してのことだった。

 本来、ヒナは勝手な作戦を実行したアコと柴関ラーメンを砲撃したイオリを中心に反省文を書かせるつもりだったが、ネネには何も罰を与えるつもりはなかった。

 だが、ネネが「自分にも責任がある」と梃子でも動かなかった結果、ヒナが折れる形で反省文を受け入れたのだ。……こうなっても尚、ヒナはネネが反省文を書くこと自体に納得がいっていない様子だったが。

 

「それでもです」

 

 ネネは静かに答えた。

 

「私には、もっと別のやり方があったはずです」

 

「別のやり方って?」

 

「柴関ラーメンを爆破させない方法です」

 

 ヒナは小さく眉をひそめた。

 あの時のイオリは完全に暴走していたという。

 ならば、風紀委員の誰がいても止められなかっただろう。

 

 少なくとも、ヒナはそう考えている。

 だがネネは違うようだった。

 

「私は結果として、大将を助けることはできました」

 

「ええ」

 

「でも、それは爆発した後です」

 

 ネネは視線を落とした。

 

「最良の結果は、爆発そのものを起こさせないことでした」

 

 その言葉に。

 ヒナは妙な既視感を覚えた。

 どこかで聞いたような考え方。

 

 いや。

 聞いたことはない。

 ただ―――知っている。

 それは、自分を責め続ける人間の思考だ。

 

「……ネネ」

 

「はい」

 

「あなた、自分を責めすぎてない?」

 

 一瞬だけ。

 本当に一瞬だけ。

 ネネの表情が固まった。

 その反応を見て、ヒナは確信する。

 

 やっぱりだ。

 

 この子は何かを抱えている。

 私たちが知らない場所で。

 私たちが知らない時間で。

 私たちが知らない喪失を。

 

 今もずっと。

 

「委員長」

 

 やがてネネは静かに笑った。

 

「私は大丈夫です」

 

「そういう人ほど大丈夫じゃないのよ」

 

「……」

 

「それに」

 

 ヒナは反省文を机に置いた。それから、眠たげな瞳で、しっかりとネネを見た。

 

「あなた、最近よくシャーレへ行くでしょう?」

 

「!」

 

「私はさっき初めて会ったから、まだよく分からないけど……あなたにとって、先生はどんな人に見えたの?」

 

 ネネは目を見開いた。

 まるで予想外のことを言われたみたいに。

 ヒナから問われたことに、なにか目を揺るがせながら、迷うように、答えを口にした。

 

「先生は…その。えぇっと……信頼できる人、だと思います」

 

「微妙に歯切れが悪いのが気になるけど……まぁ、チナツの報告とも一致しているわね」

 

 ヒナは椅子にもたれた。

 

「私も彼と話をしたけれど……悪い大人には見えなかった。

 ……だから、これは委員長としての命令」

 

 ヒナは小さな手で、ネネの背中を軽く押し出すように手を振った。

 

「あなた、アビドスから戻ってきてからずっと張り詰めっぱなしよ。

 今日はもう書類仕事はいいから、帰って明日はどこかで息抜きをしてきなさい。……今のあなたの顔、見ていて少し息苦しいわ」

 

「ですが、委員長。まだアコ先輩の始末書の整理が――」

 

「それは私がやる。いいから行きなさい、ネネ」

 

 有無を言わせぬ風紀委員長の声音。

 ネネはそれ以上食い下がることができなかった。「……失礼します」と深く一礼して、風紀委員会室を後にした。

 声がやや震えていることには、ヒナは気付かないふりをした。

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 外に出ると、心地よい風が海色の髪を揺らした。

 言われるがままに風紀委員会本部を飛び出したものの、ネネはどこに行けばいいか分からなかった。

 反省文だけでなく、他の仕事も並行して進めていたら、もうすっかり日は沈んでいた。どの店も閉まっていることだろう。

 いまさらシャーレの先生を夜遅くに訪ねるのも気が引ける。そもそも、現在彼はアビドスにいるはずだ。時間的にも立場的にも心情的にも、彼の元へは行きづらい。

 

「……そういえば、お昼から何も食べてなかったな」

 

 緊張が解けたせいか、不意に酷い空腹感が襲ってきた。

 ネネは、まだ明かりのついている学園の食堂――今は給食部が夜間の居残り生徒のために開放しているスペースへと足を向けた。

 

 ガラガラ、と引き戸を開けると、香ばしい出汁と醤油の匂いが漂ってくる。厨房の中では、小柄な角のある少女がエプロン姿で忙しそうに調理器具を片付けていた。

 

「あら、いらっしゃい! 風紀委員会の人? こんな夜遅くまでお疲れ様。今ちょうど片付けをしていたところだけど、簡単なものならすぐ作れるわよ」

 

 少女は汗を拭いながら、ひまわりのような温かい笑顔をネネに向けた。

 

「ありがとうございます。では、何かお腹に溜まるものを……」

 

「はーい、任せて! 私は給食部の愛清フウカ。あなたは?」

 

「――え」

 

 フウカ。

 その響きが鼓膜に触れた瞬間、ネネの身体がまるで雷に打たれたかのように硬直した。

 

「……フ、ウカ……?」

 

「ん? どうしたの?そんな固まって」

 

 愛清フウカは不思議そうに小首を傾げた。

 だが、ネネの脳裏には、いま猛烈な勢いでかつての記憶がフラッシュバックしていた。

 

(フウカ……風花。山岸、風花……ッ!?)

 

 それは、かつて共に世界の終わりと戦った、心優しい少女の名前。

 そして――その優しさとは裏腹に、調理室を地獄の釜に変え、己や仲間たちを悶絶させてきた「あの料理」の記憶。

 風花が笑顔で料理を出した際、理や順平、ゆかりに押し付けた記憶。

 そして、仲間と共に、彼女に料理を手取り足取り教えた記憶。

 それでも死の料理を食わされ―――アイアコスのペルソナで耐性を持っているはずなのに、呪い殺されるかのような凄まじい味を文字通り味わった記憶。

 それらが、一気にネネの警鐘を鳴らしていた。

 

 ネネの額から、滝のような冷や汗が流れる。

 まさか、キヴォトスにまであの『ムドオン料理』の概念が追ってきたというのだろうか。

 目の前の少女が持っているおたまが、まるで死神の鎌のように見えてくる……。

 

 そこまで考えて、幻影を振り払うようにかぶりを振った。

 

(い……いやいやいやいやっ!! 偶然だ!ただの偶然に決まっている! そもそも、『フウカ』ってそんな、珍しい名前でもないし……たぶん!!)

 

 それでも、風花の料理が刻んだ傷を誤魔化すかのように、ついうっかり、こんな質問をしてしまった。

 

「あ、あの……愛清、さん。大変不躾な質問なのですが」

 

「な、なぁに? 改まって」

 

「その…えっと………お米を洗う時には、洗剤とか使ったりしませんよね?」

 

「するわけないでしょ!?」

 

 よかった、これならきっとまともだ。

 少なくとも、あの地獄のような呪殺料理よりは絶対マシだ。

 そう思うネネの内心とは裏腹に、フウカは心外だとばかりに頬を膨らませた。

 

「そんな初歩的すぎるミスなんかするわけないでしょ、これでも給食部の看板を背負ってるんだから!ほら、座って待ってて、すぐに持ってくるから!」

 

 料理人としてのプライドを全否定されたかのような質問にプンプンと怒りながらも、フウカの手際は鮮やかだった。

 あっという間に、温かい湯気を立てる肉じゃが定食と炊き立てのご飯、味噌汁が目の前に並べられる。

 

 見た目は、至って普通の、美味しそうな和食だ。

 だがネネは知っている。

 山岸風花の料理も、見た目だけは普通…………あるいはそれ以上だったりするのだ。

 一口食べてからが本当の地獄なのだ。

 

(落ち着きなさい、雨塚ネネ。私はこれまで、何度風花の料理を食べてきた?………多少、まずくたって構うものか!…こちとら、最底辺の地獄を知っているんだ!!)

 

 ナチュラルに仲間に失礼なことを考えながらゴクリ、と唾を飲み込む。

 そして、ネネは謎の悲壮感を漂わせながら箸を持つ。

 まるで決戦前のような面持ちで、意を決し、肉じゃがを一口―――口に運ぶ。

 

「――っ」

 

 咀嚼した瞬間、ネネの動きがピタリと止まった。

 

「どう? 口に合わなかった……?」

 

 心配そうに覗き込んでくるフウカ。

 ネネは、信じられないものを見るかのように、自分の手元と料理を見つめていた。

 

 歯で軽くつぶすだけでほろほろ崩れていくじゃがいも。

 そこからじゅわっと流れてくる、醤油の香ばしさと、砂糖とみりんの甘味。

 ジューシーな肉。その肉の脂と、野菜の味をよく吸収した糸こんにゃくの食感。

 それらが、調和のとれたハーモニーとなって、ネネの口内を奏でる。

 その味を、一言で言うならば。

 

 

「美味しい……」

 

「え?」

 

「美味しいです……! 舌が痺れない……! 視界もクリアなままだし、何より、お腹が痛くならない……!」

 

 じわ、と目から涙が溢れ出た。

 

 美味しい。

 こんなに美味しいなんて。

 ちゃんと味がする。それも、嬉しい味だ。

 もう………アレを仲間内で譲り合うこともないんだ。

 感動と、かつてのトラウマから解放された安堵、そして――

 

「……あたたかい。本当に、普通の、美味しいご飯だ……」

 

 かつて、巌戸台分寮のキッチンで。

 ぶっきらぼうながらも本当に美味しい料理を作ってくれて。

 私にも、料理を教えてくれた―――あの先輩の面影が、フウカの作った温かい肉じゃがの味の向こう側に、淡く重なった気がした。

 

 涙と、箸を動かす手が止まらない。ポロポロと涙を流しながら、猛烈な勢いでご飯をかきこみ始めるネネ。

 

「ちょっと!? なんで泣いてるの!? え、そんなに美味しかった!? 嬉しいけど、普段ゲヘナの風紀委員会ってどんな酷いもの食べさせてるの!?」

 

 フウカは本気で狼狽しながら、おろおろとネネにティッシュを差し出した。

 

「すみません、取り乱しました……。ただ、本当に、救われたような気がして」

 

 涙を拭い、愛清さんにお礼を言った。

 それで、ふと思い出したのだ。

 まだあの薄暗い部屋で一人、書類と格闘しているであろう小さな委員長の姿を。

 自分を気遣って、外へと追い出してくれた優しい先輩を。

 

「愛清さん。……不躾ついでに、もう一つお願いがあるのですが」

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 風紀委員会室のドアの隙間は、まだ微かに明かりが漏れていた。

 ノックをして静かに扉を開けると、そこには先ほどと変わらず、自分の体高ほどもある書類の山に埋もれながらペンを走らせるヒナ委員長の姿があった。

 

「……ネネ? どうして戻ってきたの。今日は帰って休みなさいって言ったはずだけど」

 

 委員長はペンを止め、少し呆れたような、だけどどこか嬉しそうな瞳でネネを見上げた。

 

「委員長の命令通り、しっかり息抜きをして、美味しいご飯を食べてきました」

 

 彼女に歩み寄り、机の上の書類を少し脇に退けて、持ってきたお弁当の包みを広げた。ふわりと、出汁と焼き立ての卵の香りが部屋に広がる。

 

「これは……?」

 

「給食部の愛清さんに作っていただいた、委員長への夜食です。これだけは、どうしても今夜中に届けたくて」

 

 あの人はきっと、無理をするだろうから。

 あの人はきっと、私たち風紀委員の分も、頑張ってくれるだろうから。

 そのために差し入れるご飯を作ってもらうこと。

 私が愛清さんに頼んだのはそのことだった。

 

 ヒナ委員長は目を丸くした。

 それから、私の顔とお弁当を交互に見て…やがて観念したように小さく息を吐く。

 

「……ありがとう。ちょうど、少しお腹が空いていたところだったの」

 

 小さなおにぎりを口に運ぶ。

 その瞬間、張り詰めていた彼女の表情が、ふっと柔らかく綻んだ。

 

「美味しい……。なんだか、すごく安心する味」

 

「ええ。本当に、素晴らしい料理人だと思います」

 

 私は微笑みながら、自然な動作で机の上の書類の束をいくつか自分の手元へと引き寄せた。

 

「ネネ?」

 

「息抜きは十分に済ませました。これからは風紀委員として、そして――」

 

 自分の胸の内に眠る、S.E.E.S.の誇りを思い出す。

 たとえ一人になっても、たとえ仲間を失っても……私はS.E.E.S.の一員だ。

 自分を気遣ってくれる大切な先輩を、ただ一人で戦わせるわけにはいかない。

 

「……委員長の背中を守る遊撃隊員として、お供させてください」

 

 ヒナ委員長はしばらく何も言わなかった。

 ただ、おにぎりを持ったまま、私の顔をじっと見つめている。

 

「……委員長?」

「一つだけ聞くわ」

 

 静かな声だった。

 

「それは風紀委員として?」

 

「はい?」

 

「それとも、あなた自身として?」

 

 その問いに………私は、一瞬だけ答えに詰まった。

 

 風紀委員だから。遊撃隊だから。S.E.E.S.だから。

 そんな理由はいくらでも出てくる。

 

 けれど。

 

 なぜ今、自分はここにいるのか。

 なぜわざわざ夜食を届けに来たのか。

 なぜ帰宅せずに戻ってきたのか。

 その答えは―――きっと。

 

「……両方、です」

 

 自然と口から零れた。

 

「私は風紀委員です。委員長の部下です」

 

 そして。

 

「でも、それだけじゃありません。委員長は……私に休めと言ってくれましたから」

 

「…………」

 

「だから今度は、私が委員長に休んでほしいんです」

 

 部屋の中が静かになる。

 聞こえるのは時計の針の音だけ。

 やがて委員長は………小さく笑った。

 本当に小さく…だけど確かに。

 

「そう」

 

 それだけ言って。

 椅子から立ち上がり、そして。

 

「――え?」

 

 ぽん、と。

 おもむろに優しく髪を撫でられる。

 …なんで?

 私はただ、委員長に1人で戦ってほしくなくて。

 ただ、思いついたことをやっただけなのに

 

「い、委員長……?」

 

「ありがとう」

 

 ヒナ委員長は、静かに言った。

 

「でも、それならお互い様よ」

 

「え……?」

 

「あなたも休みなさい、ネネ」

 

 その言葉は。

 不思議なくらい真っ直ぐ胸に届いた。

 なぜかは、分からない。

 きっと、さっきの愛清さんとのやりとりで、風花と荒垣さんを思い出したからかな。

 それとも……目の前のヒナ委員長が、なにかしたの?

 

 わからない。

 わからないけど……思い出したことがある。

 ―――休んで、と言われたのが、久しぶりだった、ということだ。

 

「―――はい」

 

 その時は、それ以上言えなかった。

 言ったら、その声が、涙で滲んでしまいそうだったから。

 

 夜の静寂に包まれた風紀委員会室。二人のペンが走る音が、心地よいリズムとなって響き始める。

 窓の外に広がるキヴォトスの夜空はどこまでも深く、澄み渡っていて………それでいて、いつもより優しい気がした。

 




ネネに「Never more」を歌ってもらいたい。
……え、ネネの誕生日? 3月5日ですが?

ネネ(この後は誰と過ごそうか……)

  • ヒナ
  • アコ
  • イオリ
  • チナツ
  • 先生
  • 羽沼
  • イブキ
  • チアキ
  • フウカたん
  • キララ
  • エリカ
  • カヨコ
  • アカリ
  • その他
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