ここだけ命の答えに辿り着いた少年に脳を焼かれたゲヘナ生がいる世界線 作:伝説の超三毛猫
―――夢を見た。
便利屋を追って、アビドスに風紀委員会が侵入し、柴関ラーメンを爆破して、ヒナ委員長にお弁当を届けたあの日から数日後。
久しぶりに見た夢は…本当に泣きたくなるくらい、私が望んでいた夢そのままだった。
最初に見たのは、不安になるようなビルの内部みたいな場所を、異形―――シャドウから逃げる夢だった。
このシーンは……死んでも忘れられるわけがない。
わけも分からないまま、別の世界………タルタロスに放り込まれて、途方に暮れたまま、銃弾の効かない化け物に追い掛け回されたのだから。
シャドウに追いつかれた私が、背中を引っかかれ、ずきずきという痛みと、大事なものが流れ出る感覚に絶望しきったその瞬間だった。
『はあああああぁぁぁーーーーっ!』
『■■■■ーッ!?』
『! あ、あなたは…』
『大丈夫。すぐ終わる。………動かないで』
助けてくれたのは、剣を握った男の子だった。
初めて見た、ヘイローのない人間。
しかし、安心したのも束の間、次に彼が取った行動に、生きた心地がしなかった。
懐から取り出した銃を、何の躊躇いもなく、自らのこめかみに直角に突き付けたのだから。
『な、なにをして―――止めてっ!!』
目の前で、見ず知らずの少年が自殺する。
その恐怖に、思わず悲鳴を上げたとたん、彼は無表情に引き金を引いた。
『ペルソナ!!』
瞬間、放たれたのは弾丸ではなく、どこか神秘的な、青い光だった。
光が、竪琴を持った男の機械の姿を形作ったかと思うと、その手から放った炎で、シャドウを一瞬で焼き尽くした。
『…ケガはない?』
『え………あ………はい……』
『そう』
そして、先程頭を撃ち抜いたことなどなんともないかのように、こちらに手を伸ばして、薄く微笑んだ彼を………理の、長い前髪の間から見えた目を見た。
普通の、どこかで見たことのあるかのような表情だった。まるで、誰かを助けたことを、特別なことだと思っていないかのように。
―――これが、私と理の……月光館の仲間たちの、最初の記憶。
次に流れてきたのは、日常の記憶。
タルタロスで保護されたものの……キヴォトスに帰る方法も分からず、やむを得ず月光館学園と美鶴先輩にお世話になりだした頃のそれ。
それは呆れるほどに穏やかで、当時の私にとっては天変地異の連続だった。
『ちょっと待って、ネネちゃん。それ、本物の銃じゃないわよね……?』
ある朝、ラウンジで愛銃のメンテナンスをしていた時のこと。
私を見て、ゆかりが文字通り顔を真っ青にして飛びのいた。
『え、そうですよ? ゲヘナで標準的に使用されているアサルトライフルのモデルでして……こんな場所に来たんです、不調があったら大変ですから』
『不調とかそういう問題じゃねーって!!』
話を聞いていた順平も、目玉が飛び出んばかりに驚いて立ち上がる。
『あのね、ねねッチ! この国には「銃刀法」ってのがあって、警察官でもない一般人が銃を持ち歩くのは国家レベルの違法行為なの! 捕まるの! 分かる!?』
『違、法…? でも、これがないと、登校中に絡んできた不良を制圧できませんよ?』
『どんな修羅の国から来たのよあんたは!? 登校中は歩くだけ! 不良なんていないし見つけても逃げるか先生を呼ぶの! だいたい、そんなの不良に撃ったら死んじゃうじゃない!!!』
『へ?………な、なにを、言ってるの? 撃たれても、死なないんじゃあ…?』
『いやいやいや、普通死ぬが!?』
『……そう、普通は死ぬよ』
今まで黙っていた理が口を開いた。
『痛いし、怖いし……だからみんな避ける』
『……』
『だから、銃を持たなくて済むなら、その方がいいと思う』
理が口を開いたことで、妙に静かになったのを覚えてる。
それで、順平もゆかりも、冷静になれていたというか。私も、周りを見る余裕ができたというか。
『…………彼の言う通りよ、ネネちゃん。あなたのいたキヴォトスとは違って、ここはそういう世界だから。絶対に、その……物騒なものは街中に持っていかないようにね?』
『わ……分かった……!』
おろおろと私の手を取って諭してくれたゆかりと、頭を抱える順平。そして、一言だけ言ってから、二人の後ろで、私を見つめていた理。
ゲヘナなら挨拶代わりに弾丸が飛び交い、寝坊しそうだからと建物を爆破してショートカットする生徒がいるというのに、この世界ではパトカーのサイレン一つで大騒ぎになる。
場面は切り替わり……ある日の放課後、駅前のファストフード店。
持ってきたバーガーのセットを突きながら、私は覚えたての常識を確認するために、大真面目な顔で彼らに尋ねた。
『ねぇ、3人とも。この世界の人が銃を持ち歩かないってことは…ここに、温泉開発と称して道路を爆破したり建物を破壊したりする組織は……?』
『いねーよそんなもん!』
『じゃ、じゃあ、お昼ご飯のサービスが悪いだけでお店を爆破させる美食家集団は……?』
『いねぇってば!!なにその、飯にかける情熱が斜め上すぎるテロリスト集団!?』
『だったら……その、夜中にいきなり銃撃戦が起こったりは……』
『ねねッチの国、怖すぎんだろ!!? よく生きてこれたなそこで!!』
『え…えぇっと……撃たれても死ななかったもので?』
『だからって治安悪すぎだろ…』
『撃たれても死なないって、やっぱり想像できないわ…』
必死にツッコミを入れ続ける順平。務めて冷静になろうとするゆかり。
『ねねッチ』
『?』
『お前さ』
『はい』
『今は平和なんだからさ』
『……』
『だったらそれでいいじゃん』
『そういう…ものですかね?』
順平にこう言われても、当時の私じゃまだ分からなくって。
その隣で、理はただ、ポテトをつまみながらフフッと静かに笑っていた。
その穏やかな笑顔の温かさが、炭酸飲料の弾ける泡みたいに、胸の奥に心地よく広がっていく。
当時はあまりの常識のズレに戸惑ってばかりだったけれど。
今になって思えば、尊かったんだ。
誰もが銃を持たず。
誰もが明日の命を保障されて。
誰もが当たり前に「死」を遠いものとして笑い合える。
そんな不自由で、ひどく脆い優しさに満ちたあの世界が―――たまらなく愛おしかった。
あの青い空。
みんなの笑い声。
そして――最後に、世界を守るために、私の手を離していった、あの人の。
「…………ん」
パチリ、と視界が切り替わる。
夢の境界線が融け去り、目の前に現れたのは、見慣れたゲヘナ学園の、風紀委員会待機室の天井だった。
窓の外からは、遠くの方で何かが爆発する景気のいい音が聞こえてくる。
「……元気かな。順平も、ゆかりも……」
懐かしい……本当に懐かしい夢だった。
私はベッドの上でゆっくりと身体を起こし、こぼれ落ちそうになった涙をパジャマの袖でそっと拭った。
寂しさは、もちろんある。
けれど、胸の奥に残った熱は不思議と温かかった。
◆◆◆◆◆
あの夢を見た結果、眠れなかったかというとそんな事はない。
むしろ、久しぶりに会いたい仲間の顔を見れて、本当に嬉しかった。
願わくば面と向かって会いたいけれど、我儘を言っても仕方ない。
「~♪」
鼻歌を歌いつつ、少し遅めの出勤をしようとしたところで。
「―――」
「―――」
門の前で、イオリと先生を見かけた。
そこで、声をかけようとして。
先生は―――イオリの前に跪いて。
そして、片方の脚の靴を脱がせて。
そのまま、脚に向かって、舌を―――
「―――って何してるの!?!?!?」
明らかな奇行に走っている先生。とうとう気でも狂ったのか!?
二人のもとに駆け付けていく最中も、先生が止まる気配はない。
「大人のプライドとか、ないわけ!!?」
「そんなものはない」
「何をやってるの!!?」
ツッコミどころ満載の場面に声を張ると、慌てたように先生は立ち上がり、イオリも靴を履きなおした。
先生、あなた、なんて事を…!何をどうしたら、朝っぱらから風紀委員の脚を舐める流れになるの!?
「見損ないました」
「ち、違うんだネネ!これには海より深い事情が……」
「あるはずないでしょう!!」
おかしいです!ヘンタイ!歪んでる!!
だけど、意外なことに…この私の言葉に、必死になって弁明した人がいた。
先程、先生に脚を舐められたイオリだった。顔を真っ赤にしながらも、こう言ったのだ。
「ち、ちがっ……! ネネ、違うの! 私はただ、こいつが委員長に取り次いでほしそうにしてたから、ちょっとからかって『脚でも舐めたら?』って言っただけで……!」
「え?」
……あれ。
もしかして、この人が『舐めろ』って言ったから舐めたの?
それって……
「イオリ、あなた…」
「な、なんだよ?」
「………先生をそんな、
「は!!? ち、違う!! そんなつもりじゃない!!」
「じゃあどんなつもりだったの? 冗談のつもりだった、とでも言うの? ゲヘナの風紀委員は、大人を跪かせて脚を舐めさせるのが『冗談』で済む組織にするつもりなの?」
「うっ……! そ、それは……」
「
「面目ない……」
足を舐めろとか平然と言ってくるヘンタイのイオリもそうだけど、それを堂々と真に受けて、足を舐めようとする大人もどうかと思いますよ!!
「でもね、ネネ。本当に困ったことがあって、ヒナに話したいことがあるんだ。
生徒が助けを求めているんだよ。そのためなら、私のプライドくらい……」
「そういうのはダメです」
「だ、ダメ、って……」
「貴方はもう少し、自分を大事にしてください!」
足を舐めろとかいう、イオリの性癖に付き合うだけだったからまだしも。
いくら生徒が困っているからって、自分を簡単に差し出されると…見ているこっちがヒヤヒヤするの。
そんなのは―――理みたいで。
自分を犠牲にして、満足した顔で、どこかに逝ってしまいそうだから。
本当に……本当に、理によく似ているよ、先生。
似すぎていて……本当に。
そういう顔をするところまで似ている。
誰かのためなら、自分なんてどうなってもいいとでも言うような顔。
だから私は――
「分かったらもうさっきみたいな真似はやめてよ、
「…リーダー?」
「あっ」
私の全身が固まる。
その場の空気が、凍った気がした。
「……なんでも、ありません。風紀委員としての癖です、先生」
つい口を突いて出たかつての『呼び名』を誤魔化すように、私はわざとらしく咳払いを一つ挟んだ。
先生は不思議そうに首を傾げていたけれど、私の一転して張り詰めた空気を察したのか、それ以上は追求してこなかった。
代わりに、神妙な顔つきで言葉を続ける。
「ごめんね、ネネ。でも、本当に一刻を争うんだ。ホシノが……アビドスの小鳥遊ホシノが、カイザーコーポレーションに連れ去られたんだ」
「――ッ!カイザーが!?」
驚愕で目を見開いたその瞬間。
背後から「それは本当なの、先生?」と、低く重い、だけど聞き慣れた声が響いた。
「「委員長!?」」
振り返ると、いつの間にかそこにヒナ委員長が立っていた。
いつも以上に深い隈を目の下に刻みながらも、その瞳は鋭く先生を射抜いている。
先生から手短に状況――カイザーとゲマトリアに騙された形で結ばれたホシノの退学届けと契約、そしてカイザーの陰謀――を聞かされたヒナ委員長は、深く、重いため息をついた。
「そんなことが………あの小鳥遊ホシノが、まさかとは思ったけど…」
ヒナ委員長は頭を悩ませるようにこめかみを押さえると、まっすぐに先生を見つめ返した。
「分かったわ。風紀委員会はこれより、シャーレの要請に基づき、全面的な協力を約束する。ゲヘナの権限で動かせる戦力はすべて投入して、カイザーの兵力を足止めするわ。……ネネ、イオリ。準備はいい?」
「はい、いつでも」
「もちろんだよ、委員長!」
イオリが愛銃を強く握りしめる。
私も、気が引き締まる。
小鳥遊ホシノを救うための戦い。
仲間を失う辛さは、私もよく知っている。
目の前の大人が命を懸けようとしている生徒の救出を、断る理由などどこにもなかった。
「よし、じゃあ作戦を組み立てましょう。先生、委員会室へ――」
ヒナ委員長がそう言って歩き出そうとした、その時。
彼女の鋭い視線が、私の隣で未だにガタガタと震えている少女を捉えた。
「……ところで。さっきからなんでイオリは、顔を茹でダコみたいに真っ赤にして、足のつま先を見ているの? 何かあった?」
「あ」
イオリの身体がビクッと跳ねる。
そうだった。あの事案のこと、忘れるところだった。
私と先生の視線が、一瞬だけ交わった。…………先生が、話して欲しくなさそうに必死にアイコンタクトをしてくる。
そんなに知られたくないことなら、最初からやらなければいいのに…。
まぁでも、ここで先生の奇行をバラせば、作戦前に先生の威信が崩壊して、ヒナ委員長への悪影響にもなるかもしれない。
だったら、ここは―――先生の名誉を守る方を選ぶだけ。
「気になさらないでください、委員長。
「ぶふぇっ!? ち、ちちち、違うって言ってるだろネネーーーッ!!」
「流石の私も、先生に対して『足を舐めろ』なんて言えませんよ……ねぇ、
「やめろ!!あと銀鏡さんって呼ぶな!! 委員長、信じて! 私はただちょっと調子に乗っただけで、こいつが本当に舐めようとしてくるなんて思わなくて、つまりその、ヘンタイなのはこっちの大人で――!」
「……もういいわ、イオリ」
ヒナ委員長は、これ以上ないほど冷ややかな、哀れみの目をイオリに向けた。
「そのことについては、小鳥遊ホシノを救出してからゆっくり話し合いましょ」
「委員長までーーー!?!?」
ゲヘナの校庭にイオリの悲痛な絶叫が木霊する。
その横で、先生はあはは、と冷や汗を流しながら苦笑いしていた。
まったく、と私は小さく息を吐く。
命懸けの戦いの直前だろうというのに、この世界の人間はどこまでも緊張感が足りない。
だけど――不思議と、悪くない光景だ。
「行きましょう、先生。……今度は、誰も置いていかせませんから」
私は胸の中の召喚器にそっと手を当て、頼りない、けれど誰よりも温かい『リーダー』の背中を追って、一歩を踏み出した。
そういえば、ネネも風紀を乱す風紀委員会の一員だったわ。
足を舐められた人。
臭いを吸われた人。
ペットプレイをした人。
混浴をした人。
さぁ…君達も、ネネとナニをしたいか言ってごらん?(ゲス顔)
ネネ(この後は誰と過ごそうか……)
-
ヒナ
-
アコ
-
イオリ
-
チナツ
-
先生
-
羽沼
-
イブキ
-
チアキ
-
フウカたん
-
キララ
-
エリカ
-
カヨコ
-
アカリ
-
その他