薬屋のひとりごと〜南方将は西国の血を引く男〜 作:花札こいこい
水晶宮 梨花妃の寝室
明け方の底冷えで目覚める梨花妃は両手をこすり簡易的な寒風摩擦で体を温めようとするが今朝の寒さは今期一番のようで
「寒い。」
思わずその寒さに声が出てしまう。だが、その寒さは孤独ではない。下賜さえされれば最愛の朱雀の隣で同じ季節を過ごせる、一人で過ごす最後の寒さならば我慢など容易いものだ
「私は下賜されるのだからお片付けをしないと。」
と気合いを入れて起き上がる
「「おはようございます、梨花様。」」
「おはよう。」
「梨花様。お食事をお持ちしました。」
「ありがとう。」
「梨花様、壬氏様から後ほど伺うとのことです。」
「ええ。分かりました。」
朝食を食べて部屋の片付けをしていると壬氏が来訪する
「おはようございます、梨花妃。」
「おはようございます壬氏殿。」
「梨花妃。貴女の下賜が一週間後に決まりました。」
「朱雀が高官を説得させたのですね?」
「説得というよりは脅しでしょうか。」
「まあ、朱雀がその気になれば高官でも怖いのかしら?でもそうさせたのは宮廷ですよ?」
「肝に銘じておきます、なのでもうなさって居おられますが後宮を出る支度をお願いいたします。」
「承知しました。では「賢妃」の冠もお返ししますね。」
「それらは後宮を出る際で構いません。」
「はい。お世話になりました。」
「では、失礼いたします。」
水晶宮を出る壬氏を見た中級妃達は「賢妃」の下賜の日取りが決まったと認識し、その話はあっと言う間に後宮内に広まりそれは妃とその侍女達を果てには下女達にも知られたが、以前噂が広がった時とは異なるのは水晶宮の侍女達も下女達もその下賜に納得しているという点だ。
翡翠宮の厨房にて
休憩していた翡翠宮の侍女達はお茶をしながらある話題を話していた
「「賢妃」の下賜決まったんですってね。」
桜花が身を乗り出して話すと貴園と愛藍そして猫猫は
「誰に下賜されるのかは分からないのは不思議だけど相手は位のある官なのかしら?」
「そうじゃない?だって四夫人の一人を下賜されるんだから。」
「ねえ?猫猫。柘榴宮で「四方将」といたんでしょう?それらしい話は聞かなかった?」
「多分ですよ?梨花妃の下賜のお相手は「南方将」朱雀様だと思います。」
「あの「南方将」様に下賜されるの!」
「桜花様、声が大きいですよ。」
「あ、ごめん。」
「そっか「賢妃」が「南方将」様の妻になるのね。」
貴園は桜花ほどではないが茘国最強の男の妻になる「賢妃」に憧れを抱いたようだが愛藍は
「でもお二人に接点があったなんて知らなかったわね。」
と呟く。他の宮の侍女より妄想力が強めの翡翠宮の侍女三人は
「きっと、「南方将」様は「賢妃」に一目惚れしたのよ、でも武官が妃に求愛なんて許されないわ、だから平民でも知り得るほどの武勲を立て下賜が許されたんだわ!」
「あれほど完璧な「南方将」様なら「賢妃」も嫌ではなかったのね。」
(変に盛り上がってしまったからお二人が顔見知りだとは言えなくなってしまった。)
猫猫は盛り上がってしまう三人にこの情報を伝えるとさらに盛り上がって収拾がつかなくなると思いあえて知らない振りをした
「「ああ、「賢妃」が羨ましい〜。」」
三人は同時に声を揃えると
「羨ましいんですか?」
「当たり前じゃない!だってあの「南方将」様の妻なのよ!」
「あんなにかっこいい「南方将」様に愛されるなんてすごいことだものね。」
「そうよ!」
桜花は絶賛「南方将」推しのようで
「上級妃なら「南方将」様に相応しいでしょうけど、他の宮の侍女だってお話くらいしたかった〜。」
半分泣いているような声で話す桜花に
「桜花、仕方ないわよ。」
「でも〜。」
「桜花様も「南方将」様がお好きなんですね。」
「当たり前じゃない!あの美形を嫌いな女は居ないわよ!」
「「桜花。」」
「何よその可哀想な人を見る顔は!」
「まあ、美形は美形ですけどあの穏やかな雰囲気と優しさが「南方将」の強みですよ。」
「分かっているじゃない猫猫。それとすらりとした長身の「南方将」様は脱いだらすごいって噂だもの!」
(脱いだらすごい説も出回っているとは。)
「何でも良いからお話したい~。」
「「桜花の妄想が膨らみすぎて大変なことになる前になだめないと。」」
貴園と愛藍はどうどうと桜花をなだめるが
「一回くらいならいいじゃない!」
なおも桜花は話したいと駄々をこねる
「次の園遊会の時に話しかければいいじゃない、ね?」
「次の園遊会まで待ったら完全に妻の居る男になるじゃない!」
(それは嫌なのか。)
猫猫渾身の心の中での突っ込みに
「猫猫は何度も「南方将」様と話したんでしょう?ずるい~。」
「「南方将」様は後宮には入れない立場ですからね、後宮の女官では話すことも容易ではないですもんね。」
「「南方将」様~。」
桜花は厨房の台に突っ伏してうなだれる
その頃鍛錬場にて
「聞いたか?「南方将」についに「賢妃」が下賜されるらしいぞ。」
「随分待たさせたな、宮廷は。」
「心なしか「南方将」が浮かれているように見えるな。」
武官の休憩中の話題は「南方将」が「賢妃」を下賜される話で持ちきりだ
そこに「四方将」が鍛錬場に入ると
「「おはようございます。」」
その場にいた武官は全員で深く頭を下げて挨拶をする
「うむ。おはよう。」
「「おはよう。」」
玄武を筆頭に「四方将」も挨拶をする
「何の話をしていたのだ?」
「あっ、その「南方将」の下賜の話をしておりました。」
「おお、その話か。朱雀もあと一週間経てば妻帯者だ。この真面目ならば安心だが皆遊びに誘うなら今のうちだぞ。」
「遊びとは?」
「四方将」以外の武官は首をかしげる
「妓楼とかな。」
「行きませんよ。」
朱雀は即答で拒否する
その場にいた武官李白は悩んでいた
(「南方将」を「緑青館」に連れていかれたら白鈴が・・・。)
白鈴が自分よりも夢中になるもしれないと不安になる李白、朱雀本人は行く気は無いようだが連れて行かれれば数多の妓女を本気で惚れさせた朱雀だ。「緑青館」の妓女とて例外ではないと、惚れた女をかっさられるなんて腹立たしいが自分より高給取りの「南方将」ならば白鈴の身請け金くらい簡単に出せるだろうと恐れを抱くのは当然のことでそう考えたらどんどん不安が増していくそんな李白の胸中など知らない白虎が
「そう言えば翡翠宮の侍女に妓楼に誘われていたがどうするんだ?」
(翡翠宮の侍女・・・?あの嬢ちゃんか!)
「興味が無いと申し上げましたので行く必要はありません。」
「女の扱いは心居ておいて損はないぞ?」
「私に必要なのは梨花様に対してのものです。他の女性の扱いではありません、ですのでその懸念は不必要なものです。」
「男前な発言だな。」
玄武は自分には言えないのか感心したような言い方をして
「だから女はお前に惚れるんだ。」
白虎も玄武同様にこれで惚れないわけはないと同調する
「私にとって梨花様は代わりのある存在ではありませんので、玄武殿も白虎殿も奥方は代えのきく存在なのですか?」
「白虎よ、最近の朱雀の発言は身を抉るように鋭いのだ。」
「それが伴侶のできる男の覚悟というものだ。」
「四方将」同士の会話の最中李白は
(同性から見ても尊敬できる「南方将」だぞ?李白お前が勝てる相手か?)
心中で自問自答しているのだが李白は武官として朱雀に勝る物はないが
(勝てるかではない、戦わなければ白鈴を奪われる!)
白鈴への愛情ならば勝てると言う結論に達したのか李白は拳を握り締め
「「南方将」!私と勝負してください!勝者には「緑青館」の妓女の身請けを!」
「おい!李白お前何言ってんだ!」
同僚は李白が血迷っているため止めるが
「何故に妓女の身請けをする話になるのですか?私には婚姻を結ぶ女性がいるのですが?」
「貴方ほどになれば妾がいてもおかしくないでしょう!」
「李白!「南方将」は妓楼には行かないって言ってるんだぞ?それにお前じゃあ「南方将」に勝てるわけがない。無謀なことはするな!」
威勢の良い李白を見た玄武と白虎は
「ほう?「南方将」たる朱雀と決闘か?」
「面白そうだ、朱雀相手をしてやれ。」
と女をかけた戦いをさせようとするが
「私の意見は無視ですか?そもそも何故私は会ったこともない妓女の身請け話を決闘の条件にされて戦わなければならないのです?」
朱雀は理解ができないようだが玄武は
「男は常に戦いの中で生きるものだ。」
と言うだから朱雀は
「戦いたいなら青龍殿がいますよ。」
渾身の迎撃弾を放つ
「あやつはあれだ、自分以外の為には生きれないだろう?」
「玄武殿の中で青龍殿はどう捉えられているのですか?」
「最近武器を持って闘うを覚えた手のかかる子供だな。」
「やんちゃということか?」
白虎がそう聞くと
「そんなもんだ。」
「おい、俺を子供扱いするな。」
青龍は不服なのか抗議するが玄武は朱雀の決闘の方が興味があるのかしれっと無視して
「ただの決闘ではつまらんだろうから一風変わった決闘でどうだ?」
「例えば何でしょうか?」
「そうだな・・・、筋肉自慢はどうだ?」
玄武の中では名案なようで李白の同僚も
(それなら李白にも
と見たくはない「南方将」の敗北を見れるかもと内心見それを見たいと思う複雑な心境を抱く
「誰が勝敗を決めるのですか?」
李白の同僚の一人が玄武に訊ねると
「ふむ、こういうのは異性の方が反応が面白いのだが・・・、如何せん女がいない。」
「その反応見たさで言い出したんじゃないよな?」
勝手に進める玄武と李白の同僚に対してじゃっかん苛立っているような朱雀の声音に
「見ていて面白い方が良いだろう?」
(見世物にする気か。)
温厚な朱雀でもこの状況は怒りたくもなるもので
「そうだな・・・。そうだ!その「緑青館」の妓女に勝敗を決めさせるのはどうだ?」
(何に迷ってその方針になる?)
既に言葉にすることを諦めた朱雀だが懸念が一つ、この話が梨花様の耳に入りでもしたらこの上なく梨花様の機嫌が悪くなるのは目に見えている。況してや彼女を娶ることは揺るがないと言った後だご機嫌伺いは一日で済むはずがない。梨花様に尽くすことは苦痛ではないし彼女を甘やかすことはむしろしてやりたいことだが、その起点がこの騒動というのが嫌な朱雀の気持ちなどつゆ知らずな周囲に
「よし。では「緑青館」に向かうぞ皆の者!」
何故か音頭をとりその場に居合わせた武官を「緑青館」に向かわせる玄武に
(黙って従うのは癪だからな。)
朱雀は密かに迎撃の準備をしようとしていた
「緑青館」への道中で
「そいうえば身請けしたい「緑青館」の妓女は一体誰だ?」
李白に玄武が訊ねる
「三姫の一人白鈴です。」
この国最強の武官である「四方将」に話しかけられて李白は緊張した面持ちで返答する
「ほう?三姫かそれはまた大きく出たな。」
「負けるつもりはありません。」
「ははっ、あの朱雀相手に言い切るとは、だが相手は茘国の中で最強の男だ。最初から全力で挑め。」
「はい!」
「朱雀!お前は逃げるなよ?」
一行の列から少しだけ朱雀が離れると玄武は直ぐさま声をかけて先手を打つ逃がすつもりなど一ミリもなく朱雀の周囲を
「・・・。」
既に逃げることを諦めた朱雀は大人しく従うがその瞳には反抗の色が見える
「緑青館」にて
この面子の中では「緑青館」の禿となじみの李白が門をくぐると
「こんにちは。」
と禿は挨拶すると
「おう、やり手婆さんは居るか?」
「何かご用ですか?」
「「四方将」が来たと言えばすぐ来るか?」
「「四方将」様が!すぐに呼びます。」
玄武の言葉に禿は踵を返してやり手婆を呼びに行くとすぐにやり手婆は店前にくる
「何でしょうか?「四方将」の皆様。」
「済まんが、三姫の白鈴殿は居るか?是非に彼女に大役を任せたいのだが。」
「白鈴を?」
「嗚呼、この武官、名はええと。」
「李白です。」
「李白と朱雀の筋肉自慢対決の審判をしてほしいのだ。できれば勝者に見請け・・・。」
「・・・。」
朱雀の勝っても身請けはしないという無言の圧に玄武は言葉を濁して
「茶を用意してくれないか?」
「そんなことでよろしいなら喜んで、白鈴を呼んできな。」
「はい。」
(白鈴に会うのは久々だな。)
愛しの白鈴に会えることが嬉しく頬が緩んでいる李白にはこの先の展開はまさに青天の霹靂だったのだ
薬屋のひとりごと~南方将は西国のを血を引く男~今後の話でこちらの中で読みたいと思うお話の需要を知りたいのでご協力お願いいたします。
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