薬屋のひとりごと〜南方将は西国の血を引く男〜   作:花札こいこい

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触れる

食事を食べると朱雀は

「先に風呂に入るか?」

 と梨花に訊ねる

「そうね、少し疲れちゃったから、私が先に入っても良いの?」

 今度は梨花が訊ねると

「俺は少しだけ汗を流すから先に入っていて構わない。」

「剣術の鍛錬?お屋敷でもするの?」

「鍛錬を場所がないなんて理由でしないようなやつは覚悟のない証拠だからな。風呂は寝室のとなりにあるから、風呂上がりに涼めるところもあるから好きに使って構わない。」

「ええ、使うわね。」

 そう言うと

 朱雀は中庭に向かい剣をとる以前梨花の前で見せた鍛錬ではなく剣を無心で振るう、武官の中で最も優雅な剣術を誇る朱雀が剣を振ればそれだけで既に演舞だ

(本当に鍛錬が好きなのね。)

 幼少の頃から朱雀は時間があれば鍛錬をしていた。常に向上心を持ち日々己の限界を高めた彼だからこそ茘国が誇る最強の武人になれたのだ。そのたゆまない努力を梨花は知っている。

 風呂にて

「ふう・・。。」

 水晶宮の浴槽より広々とした朱雀の屋敷の浴槽に浸かるとため息が漏れる、それは気の緩んだことによるもので梨花は浴槽で伸びをする

「気持ちいい。」

 温泉を引いているのか湯の色は乳白色で心なしか肌が少しだけしっとりしている気がする。そんな梨花はゆっくり湯船に浸かる長湯派だが、今日は疲れもあるので早めに上がる脱衣所で浴衣を着ると、脱衣所の隣には外から中は見えないが風を通す一室がある。そこにある棚には手拭いが他にはグラスと水の入った瓶が、その隣には鏡台があるきっと朱雀が自分のために用意したのだと分かる小さくても高価な玻璃でできた大きな鏡がある

「朱雀・・・。」

 こんなに愛されていると思えるのはきっと彼が自分のためによいものを用意してくれているからなのだろう、鏡台を使い髪を乾かして寝室に向かう

ヒュンヒュン

 まだ剣を振るっているのか空気を裂くような音がする

(夢中になると時間を忘れるのは変わらないわね。)

 そんな夫に

「朱雀!お風呂上がったわ。」

「!速いな。」

朱雀はカチリと剣を鞘に収める

「まだ入っていると思っていたのに。」

「今日は疲れたから早めに上がったの。」

「そうか。」

「朱雀も早く入ってきたら?」

「嗚呼、そうする。」

剣をしまい風呂に向かう彼の背を見て

「広い背中だわ。あの背で多くのものを背負って護っているのね。」

目を細めて見る梨花の視線に

「どうかしたか?」

 視線に気づいた朱雀が聞くと

「朱雀のこともっと好きになってしまうわ。」

「俺が何かしたか?」

「素敵すぎるの。」

「はい?」

「私以外の女性に優しくなんてしないでね。」

「俺は梨花以外の女性に優しくしたつもりはないが・・・。」

「元々優しいから優しくしたつもりがないのね。」

「?」

 どういうことなのか理解していないような夫に

「私が牽制しないと駄目ね。」

「何に牽制するんだ?」

「朱雀の周りの女性に。」

「そこまでするのか?」

「朱雀は私に近づく男性に牽制しないの?」

「する、叩きのめす。」

「それと一緒。」

「なるほど、そういう事か。」

意味を理解した朱雀は妻の髪に触れて

「梨花のその身に触れるなら二度と立ち上がれないようにしてやる。」

「それは牽制しすぎじゃないかしら?」

「牽制にしすぎはない。」

 そう言い切るそんな夫にふふっと微笑む梨花に朱雀も表情が和らぐ、自分の傍に居ることが梨花にとって安心出来るならばこんなに嬉しいことはない

「じゃあ行ってくる。」

 今度こそ朱雀は風呂に入りに行く、朱雀の入浴中。梨花は寝台の隣に置かれた灯りと書物に

 目を落とす。それは軍略に長けた将が残した古い自叙伝のようで、梨花は思わずそれを手にしてパラパラとめくる。余り見ることのない種類(タイプ)の書物に興味が湧くが如何せん軍略とはなにか分からない梨花にはそれらの指す意味を理解するのは難しく

「うーん。」

 と唸る。そんな梨花のうなり声に

「何かあったか?」

 朱雀は手ぬぐいで髪の水分をとりながら梨花の隣に来る

「これはなんて言う意味なの?」

 隣の彼にも見えるように灯りで照らした一節を指すと

「嗚呼。それはな。」

 梨花が分かるように軍略を説明する朱雀に

「なんだか朱雀が嬉しそう。」

 説明を聞いた梨花は頷きながら思ったことを言うその言葉に

「まさか梨花に軍略を説明する日が来るとは思ってなかったからな。自分の好きなことを言えるのは存外嬉しいものだな。」

 穏やかな翡翠の瞳がいつもより優しく梨花を見ている。その事実が梨花の心を甘くくすぐる、分かっていたことなのに朱雀は自分に甘いのだ。

 (ずるいわ。こんなに。)

 何に納得できないのか自分でも分からない梨花は書物を戻して濡れた朱雀の髪に触れる

「なんだ?」

 驚いた朱雀だが嫌とはい言わないそこで梨花は

「髪は乾かさなきゃ。」

「はい?」

 朱雀の手にあった手ぬぐいを持ち朱雀の背後に陣取り髪の水分をとる。武官には背後に誰かがいることを嫌う者もいる。昔、まだ「四方将」が構成される前に朱雀が梨花に話したことのあるもので梨花は

「朱雀も背後に誰かがいるのは嫌なの?」

と聞いた。それに対して朱雀は

「気を許せる相手なら嫌ではないですよ、私も完璧ではないので誰かに補われることはあるはずですから。」

内心梨花は

(貴方は完璧な部類にはいるのに。)

 武官として誇りはあるがそれをひけらかさないところが彼が同僚や帝に信頼される一因である。そのことを朱雀は当然のことだというのだがそれが実行できる者は多くは居ないのだ。茘国では家柄があればなおのこと謙虚さを知らない者がいるなかで、謙虚と誠実を武器にできるのは朱雀くらいだろうと思う。だから民にも「南方将」は好かれるのだ。

そんな風に思いながら朱雀の髪に触れる梨花。紅い髪は櫛でとくたびにさらりとしていて思わず

「手入れをしているの?」

 と聞いてしまうほどで

「手入れとはなんだ?」

「知らないのね。」

 呆れたような梨花の言葉に

「していた方がいいのか?」

 朱雀は真面目に聞いてくるから

「朱雀はしないで。」

「今していないのかと聞いたのは梨花だぞ?」

「朱雀の髪の手入れをするのは私だけなの。他の、特に女性になんて絶対に触らせないで。」

「・・・。そうだな。俺の髪に触れるのは梨花だけで良いな。」

 朱雀が屈託無く笑うので梨花も嬉しそうに目を細める

「梨花は髪の手入れが得意なのか?」

「好きなことなの、髪の手入れは。」

「へえ。よく髪を触るのは知っていたがそこまでとは知らなかったな。」

「女の子はわりと好きなことだと思うわよ?」

「ん?そういえば今日は疲れているんだったな?なら明日でも俺は構わないぞ?」

「駄目。今するの。」

 こうなった梨花は気が済まなくなるまでやらせないと翌日が怖いことを知る朱雀は

「では、任せる。」

 と一言口にするそれを聞いた梨花は

「はい。任されました。」

 初めて触れる最愛の男性の髪にこの上ないほど幸福感を抱く梨花の微笑みをこの時の朱雀はまだ知らなかった

 

薬屋のひとりごと~南方将は西国のを血を引く男~今後の話でこちらの中で読みたいと思うお話の需要を知りたいのでご協力お願いいたします。

  • 朱雀と梨花妃の恋
  • 猫猫の謎解きを「四方将」が手伝う
  • 「四方将」がメインにとなる
  • 「四方将」やその周りがメインの短編小説
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