薬屋のひとりごと〜南方将は西国の血を引く男〜 作:花札こいこい
あの時さる貴人の馬車だろうと容易に想像がつくそれを人攫いが狙っていたことに気づいた少年は後に朱雀と名乗る人物で関わらない方が後々面倒にならないと判断した、だが自分と同じくらいの年頃の少女が
「誰か助けて!」
「このお嬢ちゃんで一儲けするか!」
「やめて!誰か!」
「梨花様!」
梨花についていた年配の侍女はその身を挺して護るが人攫いはその侍女を馬車から放り出す
「やめて!なんてことをするの!」
「黙れ!身代金を要求して妓楼にうっぱらうぞ!」
面倒だが仕方ないと少年は
「この大通りでそんなことをすれば武官が来ますよ。」
丁寧にだがはっきりと警告する
「なんだぁ?餓鬼?」
「餓鬼がしゃしゃり出るな!」
「その人に何かあればきっとお前達はただでは済まないだろうから命が惜しいなら来た道を帰れ。」
「んだと?このくそ餓鬼!」
人攫いは少年に殴りかかるがその少年は怯えることなく自分の倍以上の巨漢の男の腕をいなして腹に一撃を喰らわせる巨漢の男が崩れ落ちれば仲間達も皆散り散りに逃げる
「大丈夫ですか?」
これが朱雀と梨花の出会いであった
「・・・ふぇ。」
恐怖から解放され泣き出す梨花に少年は
「もう大丈夫ですよ。」
と声をかけるそのほかに大通りにいた人々が年配の侍女にも声をかけ無事を確認する
「すごいなぁ、小僧。」
「格好よかったよ。」
人々は彼を称賛する
「あ…ありがとうございます。」
忌み嫌う目ではないまるで勇者のように人々は口々に自分のことを褒めたたえる。初めてのことにどうすればいいのかも分からない彼はありがとうと口にするその時自分が助けた少女はまだ泣きじゃくっていた貴人のお姫様にこんな状況は怖すぎたのだろうと思い再び
「大丈夫ですよ。追い払いましたので。」
すると少女は小さな声で
「うん。」
と応え
「貴方はなんというの?」
「なにがですか?」
「名前。」
「名はありません、父も母も居ませんから。」
「じゃあ、私といっ…」
「侍女の方も無事ですし早くお帰りになった方がいいです、失礼します。」
少年は何か居心地悪くなったのか踵を返しその場を去ろうとする
「待って!」
そんな少年の手を少女はぎゅっと握り
「お礼をさせて!」
「そんなものは要らない。大したこともしていない。」
「助けてくれたのに?」
「…。」
「お礼をさせてくれるまで離さないわ。」
掴んだ少年の手はあんな巨漢を倒したのに華奢な手をしていたから
「どこにあんな力があるの?何か欲しいものはある?」
少女は少し興奮気味に次々に質問をする
「本当に要らないから帰った方がいい。」
「私邪魔なの?」
「帰る家も帰りを待つ家族も居るお姫様なら早く帰って安心させた方がいいと言っているんだ。」
と言われ梨花は
「…。」
俯いてしまう。少年は強く言いすぎたと後悔してその場を去ろうとする自分らしくないお姫様なんて関わるものじゃない誰がどうなろうと知ったことか、今自らが生きることだけで精一杯なのに他人のことなんて世話できる訳が無い
「助けていただきありがとうございました。」
「!」
年配の侍女かいつの間にか少年の前に来て頭を下げる
「怪我がなくて良かったです。失礼します。」
「少年。」
「…はい。」
内心なんだよと思うがそれは顔に出さずその侍女の言葉を待つ
「梨花様を助けていただいたのです、お礼はさせて下さいませ。」
「必要ないです。」
きっぱり言い足早に去る少年
「待って!」
地の利がある少年はあっという間に見えなくなり梨花はきょろきょろと探す
「あの人を探すの!お礼をしなきゃ!」
「…梨花様。今日は帰りましょう。」
「どうして?見つけなきゃお礼が出来ないわ!」
「旦那様には報告致しますから、今日は帰りますよ。」
「……分かったわ。でも必ず探してね?」
「はい。」
屋敷に戻り年配の侍女は一族の当主である梨花の父に一連の一部始終を伝え最後に命の恩人である少年を探す許しを乞う
「そのような少年がいるのか...。」
「はい。梨花様はその少年を探してと仰られ、私としても彼にきちんとしたお礼をしたいのですが…」
「ですが?何か問題があるのか?」
「その少年は異国の相貌でした。父も母も居なければ名もないと。」
「ふむ、とりあえずその少年を探せ、梨花を助けてくれたなら父として礼をするのは道理だ。皇族の外戚としてならば尚のこと。」
「かしこまりました。」
その頃自室で梨花はあの少年へのお礼を何にしようかと悩む
「どんなものなら受け取ってくれるのかしら?」
初めての贈り物だ、だから彼がとびきり喜んでくれるものにしなければ
「形に残った方がいいのかな?男の子って何を貰えたら嬉しいのかしら?」
梨花の口から次々に出てくる少年に対する言葉はまるで恋人への贈り物で悩んでいるようで実際梨花は恋焦がれていると思われるぐらい頬が緩んでいる
「梨花様、お勉強の時間ですよ。」
「はい。」
幸福な時間に水をさされむすっとしてしまう梨花だが従姉妹である杏と共に講義を受ける為に部屋を出る
「何か良いことがありましたか?梨花様。」
「なんで分かるの!」
「お顔がいつもと違いますよ?」
「…とっても強くて優しい
そう言う梨花に杏は
「主上以外の寵愛なんて一族に必要ないわ、知らない男にそんな顔をするなら妃にならない方が一族の為だわ。」
「杏様。」
侍女が杏を窘めるが杏はなおも
「家柄がないような男に価値は無いのよ。」
「杏は知らないからそんな風に言えるのよ、すごく厳つい男の人達があんな風に逃げ出したの、男の子って皆あんなに強いものなのかしら?」
「その人が好きになったの?なら、ここに居るよりその人のところに行けば?何も無いでしょうけど。」
杏はくだらないと一蹴するが梨花は
「好き…これが好きなのかしら?」
初めて知るこの感情が恋というものなのか分からなかった梨花だがある意味杏は梨花の欲しい正解を教えてしまうことになった
「…講義を始めますよ?」
講師は姫君の恋を知りえてしまうがそれはそれこれはこれだと割り切るように講義をし始めるだが梨花は終始その少年のことを考えているのか講義にも関わらず上の空で
「梨花様。聞いていますか?」
「…はい。」
こんなやり取りを何回も繰り返していた
その頃都のはずれの今にも壊れそうなあばら家で少年は囲炉裏に火を起こし先程湖で釣った魚の下処理をして焼き食べる
(あの貴人のお姫様、お礼とか言っていたが護られることが当たり前だろうに口だけは一端なんだろうな。まぁでも関わりたくないし、しばらく街には行かないようにしない)
そうは思うが腹が空くそれには抗えない
(こんなところには来るはずが無い。ああ、どこかに住み込みで働けるような場所がないか探さないとさすがに魚1匹じゃ…)
子供が働ける場所はほとんどなくて当たり前、妓楼の男衆と言われる力仕事なら衣食住に困らないだろうけど人の好奇の目が嫌だ。そんな事を言えば明日死んでもおかしくないのは分かってる、生きる為にと思うと何故自分は産まれたのかどうせ育てないなら産まないでほしかったどうにもならない感情が自らのなかに巣食い心臓を抉られるような痛みがする
(もういっそ生きたいなんて思わなければいいのか、そうだ、こんな所だ子供一人が死んでも誰も気にかけない。)
そう結論づけて少年は空腹を誤魔化す為に横になるとそのまま眠る
朝方あばら家の戸をがたがたと動かされ少年はいやでも起こされた
(なんだよ。)
ここ何日かまともな食事を摂っていない少年は苛立ちながら戸を開き
「壊れるのでやめてもらえますか?」
相手を見ずに言うと
「梨花様とそのお父様があなたを探せと命じられましたので探しましたよ。」
「なにか勘違いしておられてるのでは?」
「しらを切るおつもりですか?」
「俺以外の人もいたんだ誰でも助けれた。なのにわざわざ乞食の子供がすることか?」
「梨花様が貴方を大層気に入り是非もう一度会いたいと仰っられまして。」
「俺の髪と目が珍しいからだろ?そんな見え透いた話を分からないとでも思ったか。」
(そう易々と懐柔はできないか、だが梨花様はこの少年を連れてきてくれると思われているだろう。)
少年と従者の均衡は崩れず平行線のままでいたが不意に
「ぐ〜。」
「?」
「!」
少年の腹の虫は盛大な音を出す
「少年?付いてきてくださるならお好きなものをご用意いたしますよ?」
「好きなものなんてない。そんな余裕があるわけが無い。」
「では、食べたいものをご用意します。」
「品のある食事は舌に合わないし、食べたいとも思わない。もう帰ってくれ。」
「どうか一度だけ梨花様と当主様のお礼を受けてください。受けてくださると言われるまで此処を動きませんよ?」
「大の大人がそんなことをするのか?ならなおさら帰ってくれ。」
だから関わらない方が良かったんだと後悔する少年だが
「来てくださらないと梨花様がここに来ますよ?」
「どちらかのお嬢様をこんな見窄らしい場所に来させるのか?教育に悪いと思わないのか?」
「・・・。」
「理解してくれたなら、お引き取りを。」
「貴方はここに一生いるつもりなので?」
「ほかに行く当てがないので。こんな場所なので子供一人死んでも誰も何も言わない。」
そうはっきりと少年は口にする、従者は何も言えなくなるがそこに
「見つけたわ!」
「なっ?梨花様!」
従者は驚き
「なぜこちらに!」
「あの男の子を探してくれていると聞いたから追いかけてきたの。」
「侍女は!」
「みんな駄目だと言ってお屋敷を出してくれないからこっそり一人で追いかけてきたのよ?」
「昨日あんな目に合われたのですよ?危険です!」
「でもこの男の子がいれば大丈夫よ?とっても強いんだから。」
と従者に言い
「こんにちは。」
少年に挨拶をする
「・・・。」
少年が黙ると
「どうしたの?お身体の具合悪いの?」
自分より少し小さいその少年の顔をのぞき込む梨花
「何でもありません。」
そう言い顔を背ける少年
「もっとお顔を見せてはくれないの?」
「嫌だ。」
「・・・。」
ぷくりと頬を膨らませる梨花は少年の両方の頬に手を添えこちらを向かせる
「やめっ。」
拒否しようと逃げようとする少年に
「綺麗な瞳ね。宝石みたい。」
「!」
「梨花様。」
「ねぇ?此処が好きなの?」
「好きではないけど行く当てがない。ここにいるしかない。」
「じゃあ、私と一緒にお屋敷に来ない?そしたらここにいなくてよくなって一人じゃなくなるのいつも一緒にいれるの!」
「なんでそんなに。」
梨花がなぜここまで言うのかが理解できない少年は小声で聞く
「貴方が助けてくれたの、だから今度は私が助けてお礼をするの。それに・・・。」
「?」
「その・・・、もっと貴方と仲良しになりたい。」
「俺と?何のために?」
「何のためなんて、理由がなければいけないの?」
「多分、普通に。」
「理由なんてなくてもよいでしょう。貴方が見返りを求めず梨花様を助けてくださったように梨花様も見返りなく貴方と仲良くなりたい、ただそれだけなのでしょう?」
梨花に助け船を出した従者は少年を見据える
「屋敷には行かない。」
「・・・。どうして嫌なの?」
「俺ごときが行って良い場所じゃないから。」
「じゃあ毎日ここに来てもいい?」
「それは駄目だろ。あんたはお姫様なんだから。」
「来てくれないなら毎日ここに来て毎日貴方とお話しする。」
「そんなに俺がいいのか?」
「うん。貴方がいいの。」
「あんたも飽きたら興味なくなるんだろう?」
「飽きたら?私はそんなに信用がない?待って、あんたもって・・・。」
「顔も知らない親はまだへその緒がついていた俺をここに棄てたそうだ、興味本位で作って飽きたら棄てる。そんなのには慣れてるだから仲良くなりたいなんて言葉だけだ。」
「分かったわ。」
「・・・。」
「貴方が信じてくれるまで毎日来る、毎日来て貴方とお話しして私を知ってほしい。信じてくれたら今度は私に貴方を教えてほしいの。」
「許されるわけがない。」
「駄目と言われたらここに住む。迷惑にならないようにするから。」
「こんなところにお姫様が住むのか?そのほうが許されない。」
「だって一緒がいいんだもの。」
「・・・。」
どうしたものかと悩む少年に
「貴方がお屋敷に来れば済みますよ。」
従者はどこまでも彼女の味方だなと思う少年は
「はぁ。一度だけ、今日だけなら・・・。」
ついに少年は二人に渋々折れるその一言に梨花は
「うん!」
満面の笑みを浮かべ少年の両方の頬に添えていた両手を離して
「こっち!」
と案内をする。半日かかり王都の中でも名家の屋敷ばかりある区画で一番大きな屋敷がこの国の皇族の縁戚である梨花達一族の屋敷にたどり着く豪華なその屋敷にあんなあばら屋住みの俺が入って良いのかと来た道を戻りたくなる少年の心の中など梨花には分からないのだが
「なんだろう?慌ただしい。」
門の前で侍女や武官が何かを探すようにせわしなく走り回っている
「お姫様がいなくなったらああなると思うが。」
少年に突っ込まれて梨花は何も言わずに出てきたことを後悔する
「怒られちゃうかしら。」
しゅんとする梨花が視界に入った侍女は
「梨花様!」
と駆け寄り
「梨花様!お怪我は!ああ、ご無事で。」
心の底からの安堵なのだろう梨花を抱きしめて涙ぐむ侍女に
「勝手に出て行ってごめんなさい。」
梨花は謝ると
「どうしてもあの男の子に会いに行きたかったの。」
「昨日梨花様を助けてくださったという少年ですか?」
とそこで侍女は隣にいる少年と男性従者も視界に入ったのか
「こちらの少年が?」
「ええ、梨花様と侍女頭を助けてくれた少年です。」
従者がそう告げると
「その節は梨花様達を助けていただいて感謝申し上げます。」
「お気になさらず。」
少年はその一言だけを口にする
「旦那様からもお礼がしたいと仰られて、ちょうど今なら旦那様もおられますからどうぞ、梨花様と旦那様のお二人からのお礼を受けてください。」
と言い屋敷に少年を招く門扉を越え広い屋敷を歩きながら
(お父様より私が先にお礼をしたいのに。)
と心の中で梨花は思うそんな彼女に少年は
(なんだか不機嫌だ。俺は何かしたのか?)
人の好奇の目にさらされていた少年には相手の表情から感情を読み取ることは朝飯前なのだが自分で呼んでおきながら不機嫌になるのものなのかと考えるがどうにも理解ができない
(まぁ、今日のこの一日だけだ。)
今日が終わればもう会うこともない貴人のお姫様だと割り切るつもりの少年は
「何か不都合なことがありますか?」
「お礼は私が先なの!」
「はい?」
「あ・・・。」
思わず少年の言葉に反応してしまい彼はきょとんとして
「先とは?」
と聞いてくる
「ええっと。」
「梨花。」
「お父様。」
「勝手に出て行くとはなにごとか、何かあってでは遅いのだ。」
「はい。申し訳ありません。」
心配していたのか書斎ではではなく大広間に梨花の父はいたそして
「梨花を助けてくれたのは君かね?」
相手は皇族の縁戚である一族の当主だ。普通の子供なら尻込みするだろう相手だが少年は
「大事なお姫様ならもう少し護衛をつけた方が良いですよ?王都であろうとああいう輩は多いですので。」
尻込みもせず助けてやったとも言わない、ただ警告をするそんな少年に好感を持てる梨花の父は
「そうだな。これ以降はきちんと護衛をつけようだがもっと良い案がある。」
「良い案ですか?」
彼の側に控えていた側近が主人の案とやらを聞く
「君が娘の護衛をする。良い案ではないか?」
「へ?」
「本当ですか?お父様!」
予想の斜め上をいく彼女の父の案に少年は気の抜けた声が出てしまい、反対に梨花は歓喜しているような声が出た
「どうだ?この案なら優秀な人材を引き入れることができる。」
当主はふふんとこの上なく名案だったのか自慢げだ
「俺のような子供を引き入れて貴方方に何の得があるんですか?珍しい色の髪と目だから今は興味が出ているだけで飽きれば棄てるんでしょう?」
「飽きて棄てる?」
「旦那様。実は・・・。」
その言葉の意味することを従者はこの場で報告する
「そのようなことが・・・。ならば尚のこと当家に仕えよ、そして飽きて棄てるなど考えられない理由を持てば良い。例えば、武官として必要だと思わせればよいそれが君の価値となる。」
「価値・・・。」
少年は己の両手を見る今まで欲しいと思うことのない他人からの評価が今、この瞬間唐突に得ても良いのかと開かれた両手をぐっと握り
「俺は・・・。」
「駄目!」
「「・・・?」」
「貴方は私の護衛なるんでしょう?だったら貴方は私の・・・!」
「我が娘は大変に君を気に入っているな、ならば彼が離れないように楔を打たねばな。」
「お父様でも駄目!彼の特別は私!」
こんなに必死に少年をつなぎ止めようとする梨花を初めて見る父もその側近もただ驚く
「・・・。」
「なら。」
「「?」」
「俺に名前をくれ。そうしたら少しだけ自分に価値がある気がする。」
「名前?私が貴方に?」
「嫌なら別につけなくてもいい。」
「そんなことないわ!貴方の名前を決めるのは私!どんなものがいいのかしら?素敵な名前を用意するわね。」
「もうすっかり彼のことしか見えていないな。」
「梨花様には年の近しい相手は杏様くらいでしたし幼馴染みのような感覚なのでしょう。」
父と側近がそんな会話をしているとは思っていないのか有頂天な梨花は少年の手を引いて自室に向かおうとするが侍女に止められると
「どうして止めるの?彼は私の護衛だから良いのに!」
と梨花は主張するが駄目なものは駄目だと言われ少年が
「さすがに遠慮する。」
と侍女の味方をする
「どうして?」
「一応男だし、お姫様なら妃になるんだろう?俺が帝ならきちんとした護衛じゃないなら側付をさせたくはないと思う。」
「でも、お父様が言ったんだもの。」
「今は駄目かもしれないけど名のある武官になれば貴女が妃になるまでは護衛でいられる。」
「本当?」
「努力する。」
少年は自身の指を出し
「したことないけど約束事をするのは指切りって言うんだろう?」
と梨花に差し出す
「約束ね。一番強い武官になってね。」
互いの小指をだして絡める
「ああ。」
「そろそろ夕食だわ。貴方も行くのよ。」
「行かないは駄目なのか?」
「駄目!」
渋々食堂に向かうとすると
「貴方が梨花を助けた少年?」
「どちら様で?」
「杏。私の従姉妹なの。」
「一族に見合わないようなことはしないでちょうだい、我が一族は皇族の縁戚なのだから。」
「貴女も妃になるのか?」
「同然でしょう。作法も勉強も私の方が優れているのだから。」
「教養のないやつは不要か。」
「理解しているじゃない。」
「迷惑はかけないようにする。」
「ふん。」
「ごめんね。杏は
「皇族の縁戚なんてみんなあんなもんだろう誇り高いのだから。」
「私もそう見える?」
「貴女は少し違うな。何というのか・・・、お転婆娘?」
「お転婆な子は嫌い?」
「俺の好みなんて聞いてどうするんだ?妃は帝の好みになれば良いだけだろ。」
「・・・。私が妃になってもいいのね。」
不満げな顔で少年を見る梨花に
「それが役目だろ。」
首をかしげて聞き返される
「それにさっき言った、貴女が妃になるまでは護衛の役目がある。」
そう言う少年に梨花の父は
「少年、好きな席に着けば良い。」
「私の隣空いてるからね!」
「・・・一緒なのか?」
「いや?」
梨花がしゅんとしてしまうから少年は
「分かった。」
渋々、梨花の隣に座ればそれだけで梨花はご機嫌で
「やはりお転婆だ。」
少年の小さな呟きは聞こえない
食卓に並べられる料理の数々は豪華なものばかりで少年は初めて見るものばかりで
「食べれるのか?これ。」
思わず本音が出てしまうと
「食べれるよ?私はこの蟹が好きなの。貴方も好きになるかしら?」
ふふっと梨花は笑う
「こんなに大きい蟹は初めて見る。」
「いつも見る蟹は小さいの?」
「ああ、半分嫌、半分以下だな。」
「可愛い蟹なのね。」
「見た目はな、小さいのに気が強そうだけど捕まえるのは意外に簡単だったりする。」
「何で捕まえるの?」
「食べるために。」
「「・・・。」」
「少年。今日よりはこの屋敷に住まわぬか?君が最強の武官となるためにはまず、食生活も変えた方が良いだろう?それに武官としての教育も必要になるだろう此処でならあらゆる教育を受けせることができる。」
「いいんですか?」
「貴方は私の護衛だからいいのよ。それとね、貴方の名前「朱雀」は駄目かしら?」
「「朱雀?」」
「幸運を招く霊獣で赤い鳥なの、貴方の紅い綺麗な髪と宝石のような翡翠の瞳にはぴったりだから。嫌?」
「それは構わないけど。幸運なんて招いてないけど?」
「幸運は貴方がいることよ、貴方自身がそれだけの存在なのよ。」
「そうなのか?」
「そうなの!」
といい梨花は
「だからちゃんと此処に帰ってくることそれは絶対だからね?私の朱雀。」
「御意。梨花様。」
食事が終わり朱雀は梨花に
「良い夢を。」
といい彼にあてがわれた東屋に向かうそこにはいくつもの武器と書物が大量にあった
「これをたたき込めば最強の武官になることができるかもしれない。」
朱雀は初めて見るそれらを夢中で使い方の書物を開く
チュンチュン
「はっ!」
夢中になりすぎて夜更かししてしまい気付けば朝
「やってしまった。」
「朱雀~。」
「はい!ただいま!」
梨花の声に朱雀は答えとりあえず行かなければと母屋に向かうと
「どうだったかね?私からの贈りものは?」
「ありがとうございます。楽しくてつい夜更かししてしまいました。」
「肩の力を抜いままで朱雀。君にならできるだろう。」
「はい。精進します。」
これが私が梨花様に名と生きてよい理由をいただけた昔の話だ。