ゲームでお金稼ぎができると聞いて始めたら、タスクバーに小さな英雄たちが住み着いた 作:きのこ大三元
ハマったので投稿です、皆さんはもう3-9でひたすら周回をしているのでしょうか…?
ゲームでお金稼ぎができるらしい。
そんな話を聞いた時、正直なところ、少しだけ興味が湧いた。
放置ゲームは好きだ。
自分が別の作業をしている間にも、画面のどこかでキャラクターが勝手に戦い、勝手に経験値を稼ぎ、勝手にゴールドを拾ってくる。時々それを確認して、装備を変えたり、スキルを振ったり、貯まった何かを消費したりする。
手軽で、気楽で、少しずつ積み上がっていく。
その「少しずつ」が、なぜか嫌いではなかった。
けれど、そのゲームは少し変わっていた。
名前は『タスクバーヒーロー』。
その名の通り、画面の下にあるタスクバーの中で、小さな英雄たちが冒険する放置RPGだ。
作業をしている横で、彼らは勝手に走る。敵を倒す。宝箱を拾う。マスターであるこちらは、時々それを確認して、装備を整理し、スキルを振り、また作業へ戻る。
タスクバーの片隅に、もう1つの小さな世界がある。
それだけでも少し面白い。
だが、このゲームが一気に話題になった理由は、それだけではなかった。
拾った装備を、Steamマーケットに出せる。
つまり、ゲーム内で拾った剣や鎧に値段がつく。誰かがそれを買えば、Steamウォレット上の残高になる。もちろん、それは銀行口座にそのまま振り込まれる現金ではない。それでも、ゲームで拾った装備が外界の通貨に変わるという仕組みは、十分すぎるほど人を引き寄せる力を持っていた。
無料で始められる。
放置できる。
装備が売れる。
この3つが揃った結果、タスクバーの小さな世界には、想定を超える数のマスターたちが押し寄せた。
同時接続者数は、数十万人規模に膨れ上がったらしい。SNSでは40万人を超えた、という話まで流れていた。正確な数字は知らない。けれど、少なくともこの小さな放置RPGが、普通の規模ではなくなっていることだけは分かった。
そして、たぶん一番大変なのは開発元だ。
聞いた話では、開発はかなり少人数らしい。
少人数で作ったタスクバーの小さな世界に、世界中からマスターが押し寄せる。
宝箱が開かない。
キューブが重い。
マーケットが混み合う。
トレードシップが止まる。
ボットが湧く。
サーバーが悲鳴を上げる。
もし自分がその立場だったら、たぶん胃が痛いどころでは済まない。
小さなゲームなのに、背負っているものは、ちっとも小さくなかった。
マーケットで取引できるということは、ただゲーム内で数字が増えるだけでは済まない。
装備が落ちるたびに、箱が開くたびに、売るか、使うか、出品するか、取り消すか。そうした処理が、外側のサーバーにも積み重なっていく。プレイヤーが増えれば増えるほど、タスクバーの片隅で拾われた小さな剣や兜が、現実のどこかに負荷をかけていく。
考えてみると、不思議な話だ。
画面の下で拾った白い剣が、現実のサーバーを重くする。
タスクバーの中で開いた宝箱が、どこかの開発者の睡眠時間を削る。
小さな英雄たちの冒険は、思ったよりもずっと外の世界と繋がっていた。
そして現在。
俺はこのゲームで、まだ1円も稼げていない。
課金額、1,200円。
売上、0円。
つまり、普通に赤字である。
ゲームでお金稼ぎができるらしい。
そう聞いて始めたはずなのに、結果だけ見れば、今のところは見事な赤字だ。
ただ、今はもう最優先で稼ごうと思っているわけではない。
作業中、デスクの端で動かしておく。文章を書いたり、調べ物をしたり、別のゲームの情報を眺めたりしながら、たまに画面下のタスクバーを見る。すると、小さな3人が今日も敵を倒し、宝箱を待ち、少しずつ経験値を積んでいる。
完全に放置しているつもりでも、ふと気になって見てしまう。
宝箱が落ちていないか。
レベルが上がっていないか。
今より少しでも良い装備が出ていないか。
ヘル2-4を越えるための何かが、どこかに落ちていないか。
稼げてはいない。
むしろ赤字だ。
それでも、タスクバーの片隅で戦う小さな英雄たちから、なぜか目が離せなくなっていた。
画面の下では、今日も3人が戦っている。
プリースト。
レンジャー。
ハンター。
始めた頃から強いと言われていた編成で、ずっと使い続けている3人だ。
もちろん、今はそこまで熱心に攻略情報を追っているわけではない。けれど、始めたばかりの頃は違った。どの職業が強いのか、どの編成が安定するのか、どのスキルを取ればいいのか。分からないことだらけだったので、攻略サイトや感想、ちょっとした噂をよく眺めていた。
その頃は、ナイトは弱い、みたいな話も見かけた気がする。
けれど今では、ナイトが強いらしいとか、ソーサラーが強いらしいとか、そんな話も目に入る。環境が変わったのか、研究が進んだのか、それとも単に自分が見ていた情報が古かったのかは分からない。
ただ、結局俺は、最初に選んだこの3人を使い続けている。
前に立つプリースト。
矢を放つレンジャー。
15.5%のクリティカルを祈られるハンター。
レベルは全員66。
ノーマルを越え、ナイトメアを越え、今はヘルまで来た。
地獄。
名前だけなら、もう十分すぎるほど物騒だ。
けれど、このゲームはそれで終わらないらしい。
ヘルの先には、さらにトーメントという難易度がある。
地獄の先に、苦悶。
誰がそんな名前をつけたのかは知らないが、少なくとも今の俺には笑えなかった。
なにせ、その手前であるヘル2-4すら越えられていないのだから。
何度か挑んだ。
装備も見た。
スキルも考えた。
いけそうな気配がした瞬間もあった。
プリーストが前で耐え、レンジャーが敵を削り、ハンターがクロスボウを構える。いつも通りの形だ。ここまで来た形でもある。
けれど、最後のところで崩れる。
プリーストが耐えきれない。
レンジャーが削りきれない。
ハンターの15.5%のクリティカル攻撃が、欲しいところで出ない。
だから最後は、少しだけ祈ることになる。
頼む。
ここでクリティカルが出てくれ。
そんな都合のいい願いをタスクバーの片隅に投げながら、俺は今日も敗北する。
もちろん、画面の中の3人は文句を言わない。
プリーストはまた立ち上がる。
レンジャーはまた矢を番える。
ハンターはまた、何食わぬ顔で15.5%を抱えている。
失敗したのは、彼らではない。
装備が足りないのかもしれない。
スキルが悪いのかもしれない。
レベルが足りないのかもしれない。
そもそも編成を変えるべきなのかもしれない。
理由は分からない。
ただ、越えられないという事実だけが、タスクバーの下に残っている。
だから今は、ヘル2-2を周回している。
勝てる場所で経験値を稼ぐ。
宝箱を待つ。
装備を拾う。
不要なものは売るか、キューブに入れる。
良さそうなものが出たら、ステータスを見て少し悩む。
そしてまた、ヘル2-4に挑んで負ける。
実に分かりやすい停滞だ。
それでも、完全に止まっているわけではない。
ゴールドは増える。
経験値も増える。
キューブにも装備が吸い込まれていく。
少しずつ、ほんの少しずつではあるが、何かは積み上がっている。
ただ、キューブも万能ではない。
装備を入れれば何でも解決する、というほど甘くない。キューブにはキューブのレベルがあり、できることを増やすには、結局そこも育てなければならない。装備を集める。素材を用意する。使わないものを処理する。少しずつ機能を解放していく。
キューブのレベル上げも、一苦労だ。
放置ゲームらしいと言えば、放置ゲームらしい。
けれど、完全に放っておけるわけでもない。
宝箱が落ちたら見る。
装備が増えたら整理する。
レベルが上がればスキルを考える。
マーケットに出すか、使うか、売るか、キューブに入れるか。
結局、気になって何度もタスクバーを見てしまう。
それに、最近は思う。
宝箱、前より落ちづらくなった気がする。
正確な数字を取っているわけではない。検証と言えるほど真面目に記録しているわけでもない。ただ、体感で分かる。始めたばかりの頃は、もっと気軽に箱が落ちていた気がする。
少なくとも、宝箱の通知を見るたびに、こんなに待っただろうかと首を傾げることはなかった。
ヘルだからなのか。
仕様が変わったのか。
サーバーの問題なのか。
単に自分の運が悪いだけなのか。
答えは分からない。
けれど、ヘル2-2を周回し続ける3人を眺めていると、ふと最初の頃のことを思い出す。
タスクバーの片隅に、小さな英雄たちが現れた日のこと。
宝箱が落ちるたびに、いちいち中身を開けていたこと。
白い装備でも、空欄が埋まるだけで嬉しかったこと。
まだプリーストが、前に出て殴りながら回復する聖職者になるなんて思ってもいなかったこと。
まだハンターの15.5%に、ここまで祈ることになるとは思っていなかったこと。
5月28日にリリースされてから、2日目の頃。
俺がこのゲームを始めた時、タスクバーの世界は、今よりもずっと軽かった気がする。
少なくとも、俺はまだ知らなかった。
この小さな放置RPGが、宝箱と装備とマーケットを巻き込みながら、開発元も、サーバーも、そして俺の作業時間までも巻き込んでいくことを。
そして、ただのドット絵だと思っていた3人の英雄たちが、いつの間にか俺のデスクの端に住み着いてしまうことを。
ああ。
最初は、どんな感じだっただろうか。
リリース2日目の、5月30日。
俺はまだ、ゲームでお金稼ぎができるかもしれないと、少しだけ本気で思っていた。
マーケット閉鎖後も宝箱渋いですね…ある程度元のドロ率に戻るといいですね。
今後も不定期に更新予定です。