ゲームでお金稼ぎができると聞いて始めたら、タスクバーに小さな英雄たちが住み着いた   作:きのこ大三元

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第4話「レベルアップとスキル振り」

 レンジャーの頭上に、小さな光が弾けた。

 

 レベルアップ。

 

 画面の端に表示されたその文字を見て、俺は思わず手を止めた。

 

 レベル2。

 

 まだ始めたばかりの序盤も序盤だ。けれど、最初のレベルアップというのは、それだけで少し嬉しい。宝箱を開けて装備欄を埋めるのとは違う、確かな成長の実感があった。

 

 敵を倒せば経験値が入る。

 

 経験値が貯まればレベルが上がる。

 

 当たり前の仕組みだ。

 

 けれど、タスクバーの片隅で走っている小さな金髪エルフが、数字として成長したのを見ると、なんとなくこちらまで満足感が湧いてくる。

 

 画面の下では、レンジャーが相変わらず草原を走っていた。

 

 スライムを撃つ。

 

 ゴブリンを撃つ。

 

 少し硬い敵が出てきても、距離を取りながら矢を放つ。

 

 レベルが上がったからといって、見た目が急に変わるわけではない。弓が光るわけでも、派手なエフェクトが出るわけでもない。けれど、さっきより少しだけ頼もしく見える。

 

 たぶん気のせいだ。

 

 でも、その気のせいが楽しい。

 

 俺は画面の下を眺めながら、ふとキャラのアイコンに目を向けた。

 

 アイコンの右上に、小さな赤い丸がついている。

 

 赤い丸。

 

 いかにも「何かありますよ」と主張している通知だった。

 

 スマホアプリでもPCソフトでも、こういう赤丸はだいたい押せという意味である。押さないと落ち着かないし、むしろ押すまでこちらを見続けている気さえする。

 

 俺はレンジャーのアイコンをクリックした。

 

 ステータス画面が開く。

 

 そこには、レンジャーの現在の能力値と、いくつかの項目が並んでいた。

 

 攻撃力。

 

 体力。

 

 防御。

 

 命中。

 

 速度。

 

 まだどの数字がどれほど重要なのかは分からない。装備の時もそうだったが、序盤はとにかく分からないものが多い。分からないまま、とりあえず増えていれば強いのだろうという雑な理解で進めている。

 

 その下に、キャラスキルらしき項目が表示されていた。

 

 攻撃力+1。

 

 攻撃速度4%増加。

 

 さらに、灰色になっているスキルが下の方へ続いている。

 

 どうやらポイントを振っていくことで、下位のスキルも順番に開放されていく仕組みらしい。

 

 なるほど。

 

 スキルツリー的なやつか。

 

 俺は画面を眺めながら少し考えた。

 

 とはいえ、まだレベル2である。

 

 選択肢も多くない。

 

 深く考えたところで、最適解など分かるはずもない。

 

 攻撃力+1。

 

 攻撃速度4%増加。

 

 この2つが並んでいたら、まず目が行くのは攻撃力の方だった。

 

 敵を早く倒せれば、その分だけ安全になる。遠距離職のレンジャーなら、火力が高いに越したことはない。スライムもゴブリンも、近づかれる前に倒せるならそれが1番だ。

 

 攻撃力が上がる。

 

 つまり強い。

 

 この時の理解は、そのくらいだった。

 

 俺は攻撃力+1に1ポイントを振った。

 

 ぽちり。

 

 画面の表示が変わる。

 

 ポイントが消費され、攻撃力+1の項目が明るくなった。

 

 よし。

 

 強くなった。

 

 たぶん。

 

 俺は満足してステータス画面を閉じた。

 

 タスクバーの中では、レンジャーがまた矢を放っている。

 

 スライムが消える。

 

 ゴブリンが倒れる。

 

 ゴールドが増える。

 

 経験値が増える。

 

 うん。

 

 強くなった気がする。

 

 実際にどれくらい変わったのかは分からない。攻撃力+1がどれほどの効果なのかも分からない。けれど、ポイントを振った以上、何かしら強くなっているはずだ。

 

 この「はずだ」が、序盤の俺を支えていた。

 

 ただ、この時の俺はまだ気づいていなかった。

 

 キャラには、最初からスキル枠が1つある。

 

 そして、取得したキャラスキルは、その枠にセットして初めて使えるものだった。

 

 つまり、ただポイントを振っただけで全てが終わるわけではない。

 

 スキルを覚える。

 

 スキル枠に入れる。

 

 そこで初めて、戦闘中に使えるようになる。

 

 そんな基本的な操作に、俺はまだ気づいていなかった。

 

 チュートリアルがあったのかもしれない。

 

 説明文のどこかに書いてあったのかもしれない。

 

 けれど、初めての宝箱、初めての装備、初めてのレベルアップと、見る場所が多すぎて、俺はそこまでちゃんと読んでいなかった。

 

 無料で始めた放置ゲーム。

 

 画面の端で勝手に戦う小さな英雄。

 

 宝箱を開ける。

 

 装備をつける。

 

 レベルが上がる。

 

 スキルを振る。

 

 ひとつひとつは単純なのに、最初は全部が初めてで、どこを押せば何が起きるのかも手探りだった。

 

 俺は攻撃力+1にポイントを振っただけで、すっかり育成した気になっていた。

 

 レンジャーは何も文句を言わずに草原を走り続けている。

 

 ドット絵の金髪エルフは、相変わらず弓を引き、矢を放ち、敵を倒す。

 

 もし彼女に意思があったなら、こう思っていたかもしれない。

 

 マスター。

 

 スキル枠、空いてます。

 

 もちろん、この時の俺にはそんな声は聞こえない。

 

 俺に見えているのは、ただタスクバーの中で動く小さなゲームキャラだけだ。

 

 だから俺は、何も気づかないまま次のステージへ進めた。

 

 宝箱が落ちる。

 

 白い装備が出る。

 

 装備できるものはつける。

 

 装備できないものは、どうしようかと悩む。

 

 レベルが上がれば、攻撃力+1のような分かりやすいものにポイントを振る。

 

 それだけで、ちゃんと前に進んでいる気がした。

 

 実際、序盤のステージはそれでも進めた。

 

 1-1。

 

 1-2。

 

 1-3。

 

 敵は少しずつ変わっていくが、レンジャーの矢はまだ十分に通用する。

 

 たまにステージボスが出てきても、画面の端で体力バーが削れていき、やがて倒れる。派手さはないが、確実に先へ進んでいく。

 

 放置ゲームは、進んでいる実感を作るのがうまい。

 

 少し数字が増える。

 

 少し装備欄が埋まる。

 

 少し敵を倒すのが早くなる。

 

 少しだけ先のステージへ行ける。

 

 大きな変化ではない。

 

 けれど、その小さな変化が積み重なると、つい見てしまう。

 

 気づけば、俺は作業の手を止めてまたタスクバーを見ていた。

 

 レンジャーが走っている。

 

 敵を撃っている。

 

 宝箱が落ちている。

 

 赤丸通知が消えている。

 

 それだけで、なぜか少し満足する。

 

 ただし、分からないことはまだ多い。

 

 キャラスキルの下には、まだ灰色のままの項目が並んでいる。条件を満たせば開放されるのだろう。攻撃力+1以外にも、もっと派手なスキルがあるのかもしれない。

 

 その頃の俺は、まだスキルの名前を1つ1つ確認するほど真面目ではなかった。

 

 強そうなら取る。

 

 分かりやすければ取る。

 

 攻撃力が上がるなら取る。

 

 それくらいの雑さである。

 

 けれど、その雑さも含めて最初のプレイだった。

 

 攻略情報を見れば、きっともっと効率のいい振り方があったのだと思う。

 

 どのスキルを優先するべきか。

 

 どのルートで下のスキルを開放するべきか。

 

 レンジャーに何をさせるべきか。

 

 そういう答えは、探せばどこかにあったのかもしれない。

 

 でも、この時はまだそこまで考えていなかった。

 

 レベルが上がった。

 

 ポイントがある。

 

 攻撃力+1がある。

 

 なら振る。

 

 実に単純だった。

 

 それで進めるうちは、単純でよかった。

 

 やがて、またステージボスが倒れる。

 

 宝箱が落ちる。

 

 中身は、やはり白い装備。

 

 俺は少し笑って装備欄を確認した。

 

 白い装備ばかりでも、レンジャーは少しずつ強くなっている。

 

 スキルの使い方を半分も理解していなくても、レベルは上がっている。

 

 このあたりの緩さが、放置ゲームの良いところなのかもしれない。

 

 完璧に理解していなくても、とりあえず進む。

 

 失敗しても、すぐに詰むわけではない。

 

 むしろ後から気づいて、ああそういうことだったのかと思う時間も含めて遊びになる。

 

 俺はその時、まだスキル枠の存在に気づいていなかった。

 

 けれど、画面のどこかには確かに空いた枠があった。

 

 使われるのを待っている最初のスキル枠。

 

 それに気づくのは、もう少し後のことになる。

 

 ひとまず今は、攻撃力+1。

 

 それだけで満足していた。

 

 しばらく進めているうちに、画面の上のゴールドも少しずつ増えていった。

 

 敵を倒すたびに増える小さな数字。

 

 宝箱ほど派手ではない。レベルアップほど目立つわけでもない。けれど、確実に貯まっていく。

 

 このゴールドは何に使うのだろう。

 

 俺は画面の別の項目に目を向ける。

 

 そこには、ルーンと書かれた項目があった。

 

 装備。

 

 スキル。

 

 そして、ルーン。

 

 どうやらこのゲームは、タスクバーの中で小さなレンジャーが走っているだけに見えて、触る場所が思ったより多いらしい。

 

 次は、この貯まったゴールドを使う番だった。

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