ゲームでお金稼ぎができると聞いて始めたら、タスクバーに小さな英雄たちが住み着いた   作:きのこ大三元

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第5話「ルーンと仲間の解放」

 ゴールドは、気づけば少しずつ貯まっていた。

 

 敵を倒すたびに増える、小さな数字。

 

 宝箱ほど派手ではない。レベルアップほど分かりやすく嬉しいわけでもない。けれど、画面のどこかで確実に増えている。

 

 最初のうちは、それが何に使えるのかもよく分かっていなかった。

 

 装備を拾う。

 

 スキルを振る。

 

 宝箱を開ける。

 

 そのあたりに気を取られていた俺は、ゴールドという数字をただの所持金として眺めていた。

 

 けれど、画面の別の項目に目を向けると、そこにはルーンと書かれていた。

 

 ルーン。

 

 ファンタジーではよく見る言葉だ。

 

 古代文字だったり、魔法の刻印だったり、能力を強化する何かだったりする。

 

 つまり、たぶん強くなるやつだ。

 

 俺はそう雑に理解して、ルーンのメニューを開いた。

 

 表示された画面は、ステータスやスキル画面に少し似ていた。

 

 いくつかの項目があり、その先にまだ暗くなっている項目が続いている。

 

 ゴールドを使って1つずつ解放していくタイプらしい。

 

 こういう画面を見ると、少しだけわくわくする。

 

 まだ開いていない場所がある。

 

 そこに何があるのか分からない。

 

 分からないから、先に進めたくなる。

 

 ゲームは、未開放の灰色を見せるのがうまい。

 

 ただ、何も考えずに開放するのは少し怖い。

 

 俺は、前に見たレンジャーおすすめの記事を思い出した。

 

 そこには、スキルや装備の話だけでなく、ルーンについても少し書かれていた気がする。

 

 細かい内容までは覚えていない。

 

 けれど、1つだけ印象に残っていた言葉がある。

 

 まずは仲間を増やすことが最優先。

 

 仲間。

 

 つまり、2人目の英雄だ。

 

 今のタスクバーには、レンジャーが1人で走っている。

 

 弓を構え、敵を撃ち、宝箱を拾い、レベルを上げる。

 

 それはそれで頑張っている。

 

 かなり頑張っている。

 

 だが、1人は1人だ。

 

 敵が増えれば手数が足りない。

 

 硬い相手が出れば削るのに時間がかかる。

 

 もし前で耐えてくれる仲間がいたら。

 

 もし回復してくれる仲間がいたら。

 

 もし横から一緒に攻撃してくれる仲間がいたら。

 

 それだけで、ずいぶん楽になる気がする。

 

 やはり数は正義。

 

 ゲームでも現実でも、だいたい数は強い。

 

 俺はルーン画面を眺める。

 

 項目は下へ続いていた。

 

 どうやら、いくつか解放していくと、その先に仲間の開放があるらしい。

 

 なるほど。

 

 まずはここを目指せばいいのか。

 

 目標ができると、急に分かりやすくなる。

 

 俺は手元のゴールドを確認した。

 

 最初の開放に必要なのは、100ゴールド。

 

 まだ優しい。

 

 敵を倒しているうちに、自然と貯まっていた額だ。

 

 俺は迷わずクリックした。

 

 ぽちり。

 

 ルーンの1つが明るくなる。

 

 何かが強くなったらしい。

 

 たぶん。

 

 細かい効果はよく分からない。

 

 けれど、灰色だった場所が明るくなるだけで、進んだ気分になる。

 

 次の項目を見る。

 

 300ゴールド。

 

 さっきよりは高い。

 

 けれど、まだ払えない額ではない。

 

 俺は少しだけ迷ってから、もう1つ解放した。

 

 ぽちり。

 

 また1つ、ルーンが明るくなる。

 

 画面の下の方へ、道が伸びる。

 

 その先に、仲間の解放らしき項目が見えた。

 

 お。

 

 もうすぐじゃないか。

 

 俺は少し前のめりになった。

 

 レンジャー1人で進めていたタスクバーに、2人目が加わる。

 

 それは、かなり大きな変化のはずだった。

 

 今までは、金髪エルフが1人で草原を駆けていた。

 

 だが、そこにもう1人加われば、画面の下は一気に賑やかになる。

 

 1人で撃つより、2人で戦った方が強い。

 

 1人で倒すより、2人で倒した方が早い。

 

 当たり前だ。

 

 数は正義である。

 

 俺は勢いのまま、仲間解放の手前にある項目を確認した。

 

 必要ゴールド。

 

 1,000。

 

 ……1,000。

 

 さっきまで100とか300だっただろう。

 

 俺は画面を見つめた。

 

 急に要求量が上がった。

 

 もちろん、ゲームとしては自然なのだと思う。

 

 仲間が増えるのだから、簡単に解放できすぎても困るのだろう。少し周回させて、ゴールドを貯めさせて、ようやく届くくらいの位置に置いてある。

 

 分かる。

 

 理屈は分かる。

 

 けれど、始めたばかりの俺には、その1,000ゴールドが妙に遠く見えた。

 

 さっきまで100で喜んでいた初心者に、いきなり1,000を要求する。

 

 なかなか容赦がない。

 

 俺はタスクバーのレンジャーを見る。

 

 彼女は相変わらず、1人で敵を撃っている。

 

 スライムを撃つ。

 

 ゴブリンを撃つ。

 

 ステージボスを撃つ。

 

 ゴールドが少しずつ増える。

 

 少しずつ。

 

 本当に少しずつ。

 

 仲間を増やすためには、まずこの1,000ゴールドを貯めなければならない。

 

 つまり、周回だ。

 

 放置ゲームらしくなってきた。

 

 俺は少しだけ作業に戻った。

 

 文章を書きながら、時々タスクバーを見る。

 

 レンジャーが走っている。

 

 敵を倒している。

 

 ゴールドが増えている。

 

 宝箱が落ちている。

 

 開ける。

 

 白い装備。

 

 装備できるなら装備する。

 

 できないなら、あとで考える。

 

 また作業に戻る。

 

 そして、またタスクバーを見る。

 

 この繰り返しだった。

 

 ただ、目標があると、同じ周回でも少し違う。

 

 今までは、なんとなく敵を倒し、なんとなく宝箱を開けていた。

 

 だが今は、1,000ゴールドという分かりやすい数字がある。

 

 あと少し。

 

 まだ足りない。

 

 もう少し。

 

 また足りない。

 

 そうやって数字を眺めていると、レンジャーの戦いにも妙な意味が生まれてくる。

 

 1体倒せば、仲間に近づく。

 

 宝箱を開ければ、何かの足しになるかもしれない。

 

 ステージを進めれば、ゴールドの入りも少し良くなるかもしれない。

 

 レンジャーは何も知らない顔で矢を放ち続けている。

 

 もし彼女に意思があったなら、こう思っていたかもしれない。

 

 マスター。

 

 仲間が欲しいなら、もう少しちゃんと見てください。

 

 もちろん、この時の俺にはそんな声は聞こえない。

 

 ただ、画面下の小さな金髪エルフが、今日も真面目に働いているのが見えるだけだ。

 

 しばらく周回した。

 

 1-1。

 

 1-2。

 

 1-3。

 

 進めるところまで進め、時々戻り、また敵を倒す。

 

 気づけば、ゴールドの数字が目標に近づいていた。

 

 900を超える。

 

 あと少し。

 

 950。

 

 もう少し。

 

 980。

 

 宝箱が落ちる。

 

 中身を見る。

 

 白い。

 

 今はそれよりゴールドだ。

 

 そして、ついに数字が届いた。

 

 1,000ゴールド。

 

 俺は少しだけ達成感を覚えた。

 

 たかがゲーム内通貨である。

 

 しかも序盤の1,000ゴールドだ。

 

 後から考えれば、きっと大した額ではないのだろう。

 

 けれど、この時の俺には大きな節目だった。

 

 ようやく仲間に手が届く。

 

 俺はルーン画面を開き、1,000ゴールドの項目を選択した。

 

 ぽちり。

 

 ゴールドが消える。

 

 ルーンが明るくなる。

 

 道が開く。

 

 そして、仲間の解放に関する案内が表示された。

 

 編成タブから選択できます。

 

 おお。

 

 ついに来たか。

 

 俺はすぐに編成タブを開いた。

 

 そこには、今使っているレンジャーの枠と、追加できるらしい仲間の枠が表示されていた。

 

 2人目。

 

 ついに、レンジャーの隣に誰かを並べられる。

 

 ナイトか。

 

 プリーストか。

 

 ソーサラーか。

 

 誰を選ぶべきか。

 

 この時の俺は、少しだけわくわくしていた。

 

 1人で戦っていたタスクバーに、ようやく仲間が増える。

 

 ここから本当の冒険が始まる。

 

 そんな気さえしていた。

 

 だが、画面はそこで終わらなかった。

 

 仲間を選ぼうとした俺の前に、もう1つの表示が現れる。

 

 必要ゴールド。

 

 500。

 

 ……500。

 

 俺はしばらく画面を見つめた。

 

 今、1,000ゴールド払ったばかりなのだが。

 

 やっと貯めた。

 

 やっと解放した。

 

 これで仲間が増えると思った。

 

 だが、実際には違った。

 

 ルーンで開いたのは、仲間を増やすための権利だった。

 

 そして本当に仲間を迎えるには、さらに500ゴールドが必要らしい。

 

 なるほど。

 

 なるほど?

 

 俺は小さく息を吐いた。

 

 ゲームは、こういうところがうまい。

 

 あと少しで届くと思わせて、もう1段階置いてくる。

 

 扉を開けたら、その先に受付がある。

 

 受付に行ったら、今度は手数料が必要になる。

 

 ファンタジーの世界なのに、妙に現実的だ。

 

 タスクバーの中では、レンジャーがまた矢を放っていた。

 

 彼女はまだ1人だ。

 

 仲間はまだいない。

 

 だが、もう遠くはない。

 

 あと500ゴールド。

 

 そう思えば、さっきの1,000ゴールドよりは軽く感じる。

 

 いや、軽く感じるだけで、今はほとんど残っていない。

 

 また周回である。

 

 俺は編成タブを閉じ、タスクバーのレンジャーを見た。

 

 金髪エルフは、何も知らない顔で草原を走っている。

 

 マスターが1,000ゴールドを払って、さらに500ゴールドを要求され、少しだけ遠い目をしていることなど、たぶん知らない。

 

 それでも彼女は矢を放つ。

 

 敵を倒す。

 

 ゴールドを拾う。

 

 2人目の仲間のために。

 

 まだ見ぬ誰かのために。

 

 俺は少しだけ笑って、もう一度ステージを進めた。

 

 やはり数は正義。

 

 だが、正義にはゴールドがかかる。

 

 タスクバーの小さな英雄たちが3人になるには、まだ少しだけ時間が必要だった。

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